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ジャンル別イノベーターの時代No.5

複数ジャンルで消費を動かすインフルエンサーの秘密に迫る

2019/04/17

インスタグラムやツイッターなどSNSで発信するインフルエンサーながら、バンドボーカル、美容系の動画を配信するユーチューバー、モデル、MCなどマルチに活躍する佐藤ノアさん。さまざまなジャンルで影響力を持てるのはなぜなのか。強烈な個性でファンを引き付ける、分野横断型のジャンル別イノベーター(※1)の代表として、SNSの戦略とPR投稿のルールについて伺いました。

※1:ある特定の分野においてオタク的知識を持ち、その分野において市場を動かす鍵を握っている影響力の高いインフルエンサーのこと。影響を与えるジャンルは一つとは限らない

 

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SNS戦略1

「佐藤ノア」という人間のファンにする

かわいい女の子もおしゃれな女の子もいっぱいいる中でファンを増やすためには、私じゃなきゃダメだと思われる必要があります。そのため、SNSでの発信も人間性が伝わるように工夫をしています。

インスタでは写真を投稿するだけでなく、ライブの感想や1カ月の振り返りなど長文を投稿して自分の考えや価値観をきちんと書きます。ユーチューブでは美容系の動画を発信していますが、メーク方法だけなら私である必要がないので、雑談込みにしてよくしゃべるようにしています。

「佐藤ノア」という人間に対してファンになってもらえると、服装も髪型もまねしてくれるようになります。実際、私のファンは私にそっくりなのでパッと見ですぐに分かるんです。なんでもまねしてくれるほど熱狂的に応援してくれるファンは、投稿内容に関わらず私が発信しているということで反応してくれます。その結果、ジャンルを問わず影響力を持つことができるようになったのではないでしょうか。

そもそも一つのジャンルに絞っていたら、ネタは切れます。でも「佐藤ノア」という人間に関するネタは尽きないので、それでより影響力を広げられるというのもあると思います。

SNS戦略2

カリスマ性を保てる距離感をキープする

DMでのメッセージに対しては「見たよ」という意味でハートを押しますが、メッセージは送らないことにしています。DMで言葉を交わすと、個人的なやりとりという意味ではLINEと変わらなくなり、距離が近過ぎて友達になってしまう。影響力を持ち続けるためには、「近いけどどこかカリスマ」そんな絶妙な距離感を保つのが大事ではないかと思います。

一方で、ファンのSNSに「いいね」を押したり、コメントをしたりはします。身近に感じてもらうためにやっているのですが、フォロワーを増やす効果もあります。

私はインスタのフォロワーが約40万人いますが(2019年4月現在)、その中から「自分一人にだけ返事が来るかも?」と思うと、私のことをちょっと好きという程度の人でもフォローをしてくれます。そこから投稿を見てもらい、ファンになってもらえたらと思います。

その時便利なのが、スマホの画面録画。「いいね」を押してるところを録画して、インスタのストーリーで発信すると、フォロワーが急激に増えます。実際、「いいね」やコメントがかなりつきますし、インプレッション数(※2)も高くなります。

※2:SNS投稿が表示される回数

SNS戦略3

一つの媒体にこだわらない

SNSは、それぞれの媒体でファンをつけて、他の媒体にも見にきてもらうのが大事だと思っています。今はインスタなどに力を入れているので、必然的にフォロワー数が伸びているのですが、ユーチューブの登録者数もだんだん増えてきました。これはインスタのファンがユーチューブも見てくれるよう、リンクを貼るなどして導線をつくっているからなんです。

ブログ、ユーチューブ、インスタ、ティックトックと、トレンドはどんどん変わっていくので、一つの媒体にこだわらず新しいことを取り入れていく必要があります。とはいえ、はやっているものがいいというわけではなく、用途を使い分けることが重要です。

私の場合、インスタライブとツイキャスの両方を使っているのですが、これは新規と古参ファンのどちらにも満足してもらうためです。インスタライブは新規の人向けなので視覚で楽しめるようにしていますが、一方でツイキャスはラジオなんです。音声だけなので、聴いてくれる人も本当に私のことを知りたいファンだけだといえます。しかもツイキャス以外では通知を出していないので、私が配信しているのを知っている昔からのファンのみが聴ける特典のようなものなんです。

私はユーチューバーと言われることもあるし、インスタグラマーと言われることもありますが、肩書は見ている人が決めるものなのでなんと言われても嫌じゃないです。

SNS戦略4

イベント化してファンを巻き込む

インスタグラムでは「#佐藤ノア布教運動」というハッシュタグをよく使っていました。去年は「年内フォロワー35万人」と目標を掲げていたのですが、達成できればファンの人たちも「私が布教したからだ、やった!」と喜んでくれるんです。

動画を出すときも、何日か前から「何日に誰々とコラボした動画出るよ」と発信しています。そうするとファンの人たちが、当日までをカウントダウンして楽しみにしながら待ってくれるので、動画に注目が集まり再生回数も伸びるんです。ファンを巻き込んでイベント感覚で盛り上げることは意識しています。

SNS戦略5

マメでいる、継続する

インフルエンサーの世界はどんどん新しい人が出てきます。そのなかで忘れられないようにするためには、マメに更新し続けるしかないと思います。というのも、SNSで見かける回数が多ければ多いほど考えてもらえる時間が長くなり、私に対する思い入れも深くなるのではないでしょうか。

インスタグラムの1カ月の振り返り投稿も、最後に「あなたの1カ月はどうでしたか?」と聞くようにしています。そうすると、メッセージやコメントで返信してくれるので、私に使ってくれる時間が長くなります。このように、どうすれば私に時間を使ってくれるか、それは考えるようにしています。

一つのSNSだけでなく、複数のSNSにおいて支持を集め影響力を発揮している佐藤ノアさん。彼女のSNS戦略から学ぶべきは、ジャンル別イノベーターの「フォロワー」に対する考え方です。ノアさんは、フォロワーを自分のSNSをのぞく「ファン」であると捉えています。この考えが、多ジャンルで支持を集めるSNSの根幹をなしているように思います。

さらに、ノアさんはファンを増やすために「時間」「ストーリー」「信頼関係」を意識しています。そこから見える、ファンを増やすポイントは以下の三つです。

①接触時間を増やして、ファンに忘れさせない

スマホ所持が当たり前となり、1日に若者が受け取る情報量は5年前と比べても膨大な量となっているといわれています。受け取る情報量が増えたことで、一つのコンテンツに対する閲覧時間はどんどん短くなっています。つまり、人々は「忘れやすく」なっているのです。

このことから、ファンとどれだけ長い時間を継続的に過ごすかが、人気を維持し、高める要因になるといえます。ノアさんはさまざまなSNSを使って接触回数を増やしたり、長文コメントを投稿して滞在時間を延ばしたり、それに返信を求めたりと、ファンが自分に使う「時間」を増やすことを意識してSNSを活用しています。

②自分のストーリーに巻き込むことでファンを引きつける

ノアさんが意識している「ファンに参加してもらうこと」。これは、ファンとの「ストーリー」をつくっているといえます。「#佐藤ノア布教運動」というハッシュタグを用いて一緒にファンの増加を目指すなど、ファンに参加感を抱いてもらうことで、「佐藤ノア」という一人の人物のストーリーに巻き込んでいるのではないでしょうか。

そのような、共に楽しむ機会をつくることで、ファンのモチベーションを上げ、関係をさらに濃いものとしているのです。

③本当の自分を見せることでファンとの信頼関係を築く

ノアさんは普段から自分の考えや価値観を積極的に投稿するなど、ファッション・メーク・音楽などの知識にとどまらない自身の「人間性」にこだわった発信をすることを大切にしています。このような発信によって生まれるのが、ファンとの信頼関係です。「人間性」の裏付けができることで、発信する情報も信頼できるものとしてフォロワーに受け取られるのです。

こうしたSNS戦略で生まれ維持される「信頼関係」がファンとの関係をより良いものにしています。

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PR投稿のルール1

フォロワーの反応がいいときこそ、自分の基準を持つ

服も、コスメ系やヘアケア剤も、見た目に関する投稿をするとフォロワーの反応がかなりいいんです。特に服はブランドに限らず、投稿したものを購入してくれる人が多いと聞きます。基本はオーガニック投稿(※3)ですが、買ったお店に行くと「あれめっちゃ売れました」と必ずといっていいほど声を掛けてもらえるんです。

私が着ていたから買う、私が行っている美容室だから行く、私が使っていたから使う。私自身にファンがついてくれているからジャンルに関係なく、投稿したものに反応してくれるんだと思います。

ただし、依頼された商品を何でもPR投稿してしまうと、ファンからの信用をなくしてしまいます。そのため自分の基準で、やる、やらないは選ぶようにしています。

※3:広告ではない投稿のこと

PR投稿のルール2

「映え」より「なじませ」を重視する

以前はハッシュタグを10個以上つけている投稿をよく見かけました。個人的な感想ですが、最近のPR投稿はタグが減った印象です。他にも商品とのニコパチ写真やインフルエンサーが二人で映る写真も減りました。

CMじゃないから、それが映えないということに気付いたのだと思います。今はインスタの複数投稿なら、1枚目は商品をおしゃれに置いた写真、2枚目に自撮り写真を載せるという方が反応もいい。「いかになじませるかが大事」という認識が、だんだん広がってきているように思います。

PR投稿のルール3

自分らしいいつもの投稿をする

インフルエンサーは日々自分で発信しているからこそ、うそをつくと信頼を簡単に失ってしまいます。

そのため、自分らしくない投稿を求められた場合ははっきり断ります。例えば自分が使わないような絵文字を入れて欲しいという注文があると「私の普段の投稿はこれなんです」と、スクリーンショットをつけてちゃんと伝えます。

影響力を持ち続けるためには、インフルエンサーとしての信用を損なわないということが大事です。企業に頼まれるまま投稿していると、インフルエンサーは信頼をなくし、結果的にすぐに消えてしまいます。

PR投稿のルール4

インフルエンサーの並びを見る

一緒にお仕事するインフルエンサーの影響力も大事だと思うので、何人かでPR投稿をする場合は、事前にその人たちのフォロワー数やインプレッション数を確認します。

例えば、フォロワーが15万人いても、インプレッション数が1000しかなければアクティブユーザーが少ないということなので、影響力が高いとはいえません。反対に、フォロワーが3000人でも自分と同じくらいのインプレッション数なら、影響力も同じくらいなので、その仕事を受けます。ファンの人も、あの子も紹介してたし、ノアちゃんも紹介してたから試してみようとなり、相乗効果を期待できると思います。

PR投稿のルール5

熱量のある企業の仕事を引き受ける

私は愛のある仕事がしたいと思っています。例えば、商品開発から携わるなど長期間にわたるプロジェクトは密接に関われるので、その商品のことを長く愛せますが、単発の仕事で商品だけ送られてくるようなお仕事だと、いかにも説明的な温度のない文面になってしまいます。時間は限られいてますが、インスタの1投稿だったとしても、できれば会って商品についてちゃんと聞いてから投稿したいです。

だから企業側からの熱量を感じるとすごくうれしいんです。イベントの後に駆け寄ってきてくれて感謝を伝えてもらえたりすると、ああ、またやりたいと思います。こんなふうに、企業とインフルエンサーのテンションが合っているというのは大事だと思います。

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企業のPR投稿においては、ノアさんが独自のルールで行なっていることが分かります。これらのルールから、企業側が確認すべきPR投稿におけるチェックポイントが見えてきます。

①商材とインフルエンサーが合っているかを確認する

そもそも依頼する商材とインフルエンサーがあっているのか、最も当たり前なポイントですが見逃してしまうことも多々あります。同じ20代女性でも、メークの趣味が違ったり、服装の傾向が違ったりするのにもかかわらず、「20代女性」とくくってオファーをしてしまうことも。

②インフルエンサーが自然体で投稿できるよう配慮する

PR投稿をお願いするに当たり、商材に関して言いたいことが多く、依頼事項が多くなってしまうこともあるのではないでしょうか。条件があまりに増えると、不自然な投稿になり、フォロワーから「インフルエンサー自身が本当に好きな商品ではないな」と見透かされてしまいます。

インフルエンサーにある程度裁量を持たせ、自然体で投稿できるようにすることが重要です。

③ポリシーを持つインフルエンサーを起用する

企業が自社にとって適切なインフルエンサーを見つけるために必要なのは、自分のポリシーを持っていて、フォロワーとの関係や自分らしさとの一致を考えて仕事に臨んでいるインフルエンサーであることがポイントになります。そのインフルエンサーの投稿ジャンルを見るだけでなく、彼ら、彼女らの信念やファンとの関係性を見極めることなのです。


佐藤ノアさんはなぜ、複数ジャンルの消費を動かせるのか。その秘密は、緻密なSNS戦略によってノアさんの人間性に対する「ファン」をつくり、独自のPR投稿へのルールをつくることによって、発信する情報への信頼度を高めていることにありました。

影響力を持つジャンル別イノベーターを起用すると、企業は自社の商品やサービスを、愛と熱量をこめて紹介してもらい広めてもらうことができます。フォロワー数で選んだインフルエンサーに情報発信してもらうよりも、商品の魅力が伝わりやすくなるのです。

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次回は「プロトラベラー」なる新ジャンルを生み出した羽石杏奈さんと、GENIC編集長の藤井利佳さんをお招きし、価値観の変化から読み解くジャンル別イノベーターの影響力について話を伺います。