5Gネットワーク時代の音声ビジネスとは?
2019/05/15
「イノベーションは音声メディア・コンテンツから始まる」
これは、とあるラジオ番組で堀江貴文さんがおっしゃっていた一言です。
また昨今、近未来を語る場で必ず付いて回る5G、AI、IoTといった概念。
私はここ数年ラジオメディアに関わっていますが、こうしたテクノロジーの進化が、ラジオ業界や音声メディア・コンテンツにとってどういう意味を持つのか、考えてみたいと思います。
<目次>
▼1Gから4Gまで。世代ごとに変わってきた音声コンテンツ
▼5Gネットワークによってもたらされる環境変化とは?
▼5GとIoTの時代、ラジコはどんなイノベーションを起こすのか?
1Gから4Gまで。世代ごとに変わってきた音声コンテンツ
5G(5th Genarationの略、第5世代移動通信システム)について考える前に、1G~4Gという時代とはどういうものだったのかを、主に「音声コンテンツ」という観点から振り返ってみましょう。
■1G(1980年代~)……アナログ通信の時代
1980年代から90年代にかけて「音声通話が外でもできるようになった」段階の技術は、便宜上1Gと呼ばれています。まだアナログ技術の段階です。
■2G(1993年頃~)……eメール、着メロの時代
続いて1990年代に登場した2Gからはデジタル方式になり、「データ通信」が可能となりました。単に「電話を持ち歩ける」段階を脱し、「eメール」や「i-mode」という、(当時は)画期的なサービスを皆が使い始めました。
もうほとんどの人にとって記憶の彼方に去りつつあるかもしれませんが、2G時代に人気のあったサービスの一つが「着メロ」です。2Gネットワークにとっては、わずか数小節分の音源だけでもデータサイズが重過ぎたため、「オーディオデータではなく軽量な譜面データをガラケーに送り、端末側が内蔵した音源で演奏することで楽曲化する」という仕組みでした。
■3G(2001年頃~)……着うた、ダウンロードの時代
2000年代、3Gの時代になると、移動通信システムは国際規格化され、データローミングが可能になるとともに、数Mbpsの大容量データ通信が可能になります。
3G携帯電話でのエンタメコンテンツの主役となったのは、「着うた」「着うたフル」という音声コンテンツです。携帯端末に気軽に楽曲をダウンロードできる、というサービスは広く受け入れられました。ラジオのIPサイマル配信プラットフォーム「radiko」(以下、ラジコ)も、この3Gの時代に産声を上げています。
しかし一世を風靡した「着うた」は、その後スマートフォン「iPhone3G」の登場により劇的なゲームチェンジが起きたことで、衰退していくことになります。
ちなみに日本における有料音楽配信の市場規模は実はこの3G時代がピークです。現在はサブスクリプション型サービスが徐々に伸びていますが、まだ当時の約半分程度の市場規模しかありません。
■4G(2010年頃~現在)……スマートフォンの時代
スマートフォンという革新的なデバイスが普及し、AppleやGoogleといったプラットフォーマーによって描かれた新しいルールが市場を支配し始める中、2012年頃から4Gが普及を始めます。より大容量の通信が可能になり、着うたに替わって、サブスクリプション型のストリーミング音楽配信サービスが広まりました。
ここに至って、今皆さんが享受している「スマホのためのモバイルネットワーク」の時代に入り、誰もが至る所でスマホの画面とにらめっこし始めたというわけです。
5Gネットワークによってもたらされる環境変化とは?
5Gの商用サービスは今年2019年、早ければ9月からプレサービスが開始される見込み。もう目の前です。
広く一般に普及するにはまだ時間がかかるにせよ、どうやら4Gまでとは意味合いが違うイノベーションが生まれてきそうです。
「スマホのためのネットワーク技術」といわれる4Gの登場から10年たたずして実用化される5Gネットワークに対して、「脱スマホ時代の技術」と位置付ける考え方があります。
まず4Gの延長線上で普及が進むと思われるのが、動画コンテンツです。高精細で長尺の動画が、わずか数秒でダウンロードできるようになるといいます。
しかし、それよりも大きな変化は、あらゆる端末やアプリケーションが高速なネットワークにつながること。主に「多接続」や「低遅延」という技術要素が支える部分です。
いわゆるIoT(モノのインターネット)といわれるプロダクトやサービスは、ここに該当します。
4Gの現段階ですでに多くの人が見聞きし、体験しているIoT事例は、スマートスピーカーや、音声アシスタント機能でしょう。
わざわざスマホを手で触って起動しなくても、自動車の運転や家事をしながらでも、音楽を楽しんだり、音による情報を得たり、声で指示を出せます。小さいスマホの画面のキーボードを通じて操作をする必要がありません。
5G社会ではさらに、自動車や家電製品などあらゆるモノにIoTチップが埋め込まれ、インターネットにつながります。そこには、ロボットやAIといったものも頻繁に登場し、やはり音声での情報取得や操作が可能となるでしょう。
さて、そういう「状態」がやって来そうだということは分かってきました。その時、音声メディア・コンテンツの代表的な担い手である「ラジオ業界」が果たす役割がより大きくなるのではないでしょうか。
ラジオ業界は、新しい時代に対する備えを今から慌てて行うわけではありません。ここ10年くらいをかけて、すでに必要な布石を打つ努力をしてきている、と私は思います。
その中心にあったのは、ご存じradiko(ラジコ)です。
■5G時代に向けたラジオ業界の布石
- ラジコというラジオ業界統一プラットフォームをつくり、育ててきた
- 新時代の広告サービス「ラジコオーディオアド」を実現
- Amazon、Google、LINEのホームスピーカーにラジコも対応。Alexaスキルランキングで1位に
これらの布石については、本連載でもラジコの坂谷温氏と電通CDCの荒木俊哉氏、電通データ・テクノロジーセンターの永田大貴氏が紹介しています。
■radiko(ラジコ)って、ただのラジオアプリだと思ってない?
https://dentsu-ho.com/articles/6368
■radiko(ラジコ)はデータで“マーケティング装置”に変わる
https://dentsu-ho.com/articles/6533
そして今年、ラジコは以下のような試みも行っています。
・次世代車載モビリティーミドルウエア規格「SDL」への対応
クルマもIoT化され、あらゆるサービス利用やコンテンツ体験が実現していきますが、ラジコのような音声コンテンツは特にクルマと相性が良いといえるでしょう。
SDL(スマートデバイスリンク)とは、トヨタをはじめとする国内の自動車メーカーや車載機器メーカーによる、業界統一規格です。スマホなどのモバイルデバイスが車載機器と「リンク」し、運転中でもさまざまなアプリを快適に操作できるようになります。
スマホと車載ディスプレーをSDLでリンクすることで、ラジコのUI/UXが自動で車載ディスプレーに最適化された状態で使用可能になり、音声操作で好きな番組を聴取できます。
・IPG社と番組情報管理・配信システムで協業
IPG社は「minds」という番組情報管理システムを開発・運用している会社です。mindsでは、番組情報を共通のIDで管理し、出演するタレント情報をはじめとする追加情報も付加できます。
この協業は、ラジコに同システムを導入することで、番組情報を総合的に視聴者に届け、より良いコンテンツとの出合いを提供し、コンテンツ価値の可視化によるビジネス開発を目指す取り組みです。
・リスナーの動きをリアルタイムに可視化する「リスナーファインダー」
「リスナーファインダー」は、聴取者数の推移や番組累計聴取分数といった、ラジコリスナーの聴取動向をリアルタイムで可視化し、スタジオなどに表示できるデータダッシュボードです。
事後分析ではさらに詳細に、番組聴取者の流出・流入数の推移や、聴取者数の地域データなども1分単位で分析・検証可能となっており、ラジオ放送各局がデータドリブンなコンテンツ制作や、ビジネス活用を目指すためのツールです。すでにTBSラジオが採用し、実際に運用が始まっています。
ラジコの数々の布石は、「あらゆるデバイス、あらゆるアプリケーションがつながり合う」5G時代において、音声コンテンツと消費者の接点をつくるためのものです。また、基盤となるデータを取得・整備して、適切にアウトプットしていくための下地をつくってきたともいえるでしょう。
5GとIoTの時代、ラジコはどんなイノベーションを起こすのか?
5Gの時代、広告の分野では、どういう変化が考えられるでしょうか。
デジタル広告が普及する中で、広告業界で盛んに言われてきたのは、「枠から人へ」という考え方です。つまりデータに基づいて一人一人に広告を出し分けるということで、例えばターゲティング広告やOne to Oneマーケティングは、この考えを体現したものです。
確かに、技術的に「人」を選んで広告を出せるのは大きな進歩でした。しかし、ターゲティング広告を届ける上では、「誰に届けるのか」だけでなく、
- どんなコンテンツに接している時に?
- どんな状況や気分のときに?(=どんなモーメントに?)
など、考慮すべき要素は多々あります。そうなってくると、広告の考え方を「枠から人へ」からさらに一歩先に進めて、
- 枠から「人×コンテンツ」へ
- 枠から「人×コンテンツ×モーメント」へ
という考え方もあるのではないでしょうか。
音声メディアは、「モーメント」を捉える自由度が高いメディアです。生活者が料理をしているときも、ジョギングをしているときも、運転をしているときも、スマホの画面を見ているときでも、「聴覚」だけは占有してメッセージを届けることができます。
そしてどんなにデータを集めて「人」や「モーメント」を捉えられるようになっても、「コンテンツの力」が最重要であることに変わりはありません。さまざまな人、さまざまなモーメントに対して届ける音声コンテンツ制作においては、ラジオ業界が長年蓄積してきた、簡単にはマネができないノウハウがあります。
今後はおそらく、フォーマットが1日24時間の編成にとどまらない柔軟なものになったり、コンテンツの出し先や状況が多様化したりはするでしょうが、そんな環境の変化に合わせた、リスナーを引き付けるコンテンツが、ラジオ業界から生み出されていくはずです。
ラジコが掲げる事業ビジョンの中には、このような一節があります。
スマートフォンの小さな画面から人々を解放し、音によるコミュニケーションで、新しい人々の想像力を取り戻します。
これこそ、あらゆるモノがネットにつながる5G時代に求められる考え方ではないでしょうか。
1Gの時代から現在に至るまで、技術や社会の変革がスピード感を増して進んでいく中、音声コンテンツはその変わり目でイノベーションを起こしてきました。ラジコは2020年で設立から10年を迎え、すでに一定の役割を果たしていますが、今回見てきたように、5Gの時代に向けた新たなイノベーションの可能性をも示しています。
更に10年を経た時、何が起きているのか?ラジコがどんな役割を果たしているのか?正確な未来予想は誰もできませんが、ラジオに関わる人々が意志のある想像力を持ち続ける限り、新たなイノベーションが生み出されていくでしょう。