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アイデア出しに慣れていなくても、アイデアを考え、育てる方法

電通インターンで伝えるアイデア脳No.3

2019/05/28

アイデア出しに慣れていなくても、アイデアを考え、育てる方法

2018年「電通インターンシップ」の講師を務めた電通社員が登場し、思考法や企画術、仕事への取り組み方などについて紹介する本連載。今回は、クリエーティブディレクターの鈴木契が、インターンでの講義や演習内容に触れながら、アイデアを思い付くための方法やアイデアの育て方についてお話しします。

「アイデアを出すための取りつく島」を使って、アイデアを考える

インターンに参加した学生たちに、アイデアを出す楽しみや育てる喜びを感じてほしいと思って講義を行いました。そのためにはまず、アイデア出しに慣れていない学生に、アイデアを出すときのとっかかりが必要だと考えました。

自分の経験上、アイデア出しで一番つらいのは、「自由に考えて」と言われること。そうすると、何から考えればいいのか分からなくなってしまうんです。そこでアイデアを考えるためのきっかけ=「アイデアを出すための取りつく島」を見つけてもらうために次の二つのフォーマットを用意しました。

■「アイデアを出すための取りつく島」フォーマット1:最初にアイデアを考える要素

今回のインターンにおいて、「アイデアとは、ある目的のために、ターゲットとなる人々の気持ちを変えて、行動を起こしてもらう“刺激”」と設定。どんな刺激を与えれば人の気持ちが変化し行動に移してもらえるか?を考えてもらいました。

最初のフォーマットには、アイデアを考える出発点となる要素をまとめました。全てのプロジェクトには、目的、リソース、期限があります。このフォーマットに当てはめると埋められる要素があるはずなので、埋められるところを埋めて、そこから考えていってもらいました。

良いアイデアを思い付くためには、「何のために」という目的と「人の気持ちや行動がどう変わればいいのか」を考えることが非常に大事です。普段の仕事でもこの部分の共通認識をクライアントの方々と持つべきだと考えています。

■「アイデアを出すための取りつく島」フォーマット2:アイデアを具体的に考えるために刺激を分解

2番目のフォーマットでは、アイデアを具体的に考えるための刺激を分解しました。

刺激にはいろいろな種類があって、例えば、「何をする?」という部分が面白いから刺激になる場合もあれば、「どんなふうに言う?」という表現が面白いから刺激になる場合もあります。

全ての要素を面白くしようとすると、プレッシャーも大きく、考えが浮かびにくいので、「全ての要素を面白くする必要はありません。この中のどれかが面白ければいいんです」と繰り返し伝えました。

アイデアは効率が良くなくてはいけないという話もします。お金をかければいいというものでもありませんので、今回は効率のいい刺激を考えてもらいました。どれかの要素が良ければ、効率よくテコが働いて、いい刺激になるんです。

また、このように刺激を分解しておけば、振り返った時に、どこが面白いから良いアイデアになったのかを把握できるメリットもあります。

アイデアを考えるときには、この二つのフォーマットのそれぞれの枠を埋めていく作業を行います。アイデアというのは、どこから思い付くか分からないので、フォーマットは最初から順番に埋めていく必要はなく、自分が思い付いたところから埋めていって構いません。

聞き分けの悪い人になりきって、アイデアを育てる

考えたアイデアが本当にいいアイデアかどうかを見分けるためには、アイデアを客観的に見つめ、検証することが非常に大事です。

自分の考えたアイデアというのはかわいいものですが、世間は残酷なもので、基本的に他人の話には無関心です。例えば、わが子のかわいい写真を見せても、見せられた方は「かわいいね、うん、分かった」で終わってしまいますよね。

頑張って考えたかわいいかわいいアイデアも、そのほとんどはスルーされてしまう。つまり、ターゲットの気持ちや行動を変えるには、世間の「知らんがな!」というかたくなな心を乗り越えないといけません。

そこで、自分の考えたアイデアに対し、それを受け取る側に立っていろいろな「知らんがな!」というツッコミを入れてみる。そのときは、物分かりのいい大人になるのではなく、聞き分けの悪い反抗期の子どもになりきってください。どの刺激なら、目的に合った反応をしてくれるかをとことん考えます。その中で、これなら“聞き分けの悪い自分”でも動くと思えたなら、それは本当にいいアイデアだと思います。

課題を通して、アイデア出しを体験! アイデアの骨を見付ける

では、学生の皆さんから具体的にどんなアイデアが出てきたのか、紹介しましょう。

●課題1:献血する学生を増やすアイデアを考えよう!

一つめの課題では、自分の大学の学生をターゲットに、献血に参加する人を増やすためのアイデアを考えてもらいました。

実は、「献血する人を増やす」というのはかなり難しいお題です。

献血は善い行いのはずなのに、人はなかなか行動に移さないんですね。道徳心だけを刺激しても行動を促すのは難しいということを感じてもらうことも、この課題の狙いでした。

◎アイデア:献血の痛みが小さいことを映像で伝える

このアイデアを提案した学生さんは、「針で刺されるのが痛そうだから、怖くて献血に踏み出せない人が多い」と考えました。そこで、世の中には痛みを数値化する機械というものがあるので、それを使って、骨折や殴られたとき、インフルエンザの痛みなど “身の回りの痛み”と、献血の痛みを数値で比較するアイデアを思い付きました。

具体的には、ビンタされたり、殴られたりするシーンを映像で流しながらそれぞれの痛みの数値を紹介し、それらの痛みよりも献血の痛みの方が小さいことを伝えるという内容です。「献血は痛くありません」と言ってしまうと、うそっぽいけれど、このアイデアは、針の痛みに対する恐怖をうまく解消できていて、人の心が動くのではないかと感じました。

アイデアを考える上で一番大切なのは、ターゲットのどういう気持ちをどう変えたいかという部分です。紹介したアイデアのように、その部分がきちんと考えられていて、かつ「何を言うか」「どこで言うか」というところまで組み上がっていれば、それらを踏まえて、後は「どう言うか」という表現をブラッシュアップしていけばいい。刺激を分解して考えると、いろいろなアイデアが浮かぶことに気付いてもらえたのではないかと思います。

●課題2:オレオレ詐欺を減らすためのアイデアを考えよう!

最近は企業が社会課題と向き合うことが増えています。そこで二つ目の課題は、企業とコラボレーションをして、オレオレ詐欺を減らすためのアイデアを考えてもらいました。

この課題は、学生の皆さんが一度提出したものに僕がアドバイスを行い、それを踏まえて再考し、アイデアを完成させるというフローで行いました。

◎アイデア:牛乳メーカーとコラボして、子から親へ定期的に手紙を送るキャンペーンを行う

このアイデアを提案した学生は、「オレオレ詐欺をなくすためには、親子間の連絡を増やすことが大切」と考えました。そこから思い付いたのが、親と定期的なコミュニケーションが取れる「定期便」です。

最初に出てきたアイデアは、おもちゃメーカーと組んで、親におもちゃを定期的にプレゼントするという内容でした。それに対して僕は、おもちゃ以外の方法で実現できないかとアドバイスしました。

するとこの学生は、牛乳の宅配を行っているメーカーと組んで、牛乳と一緒に子どもからの手紙を親に届けるというアイデアを考え付きました。「定期便」と牛乳の宅配は親和性が高いし、手紙を通して親子間で心温まるやりとりができそうな素晴らしいアイデアです。

良いアイデアを生み出すためには、アイデアを思い付いたプロセスを自覚して、「アイデアの骨」を見つける力が必要です。この学生の場合は、親子間の連絡を増やす→「定期便」→おもちゃを贈るというのがプロセスで、「定期便」がアイデアの骨に当たります。なので、「定期便」という骨は生かし、その先の分岐を考え直してもらいました。

自分が思い付いたアイデアの骨が何かが分かっていないと、「おもちゃを贈るアイデアはちょっと違うんじゃないの?」と言われたときに、「定期便」というアイデアも捨ててしまい、またゼロから考え直すことになりかねません。

アイデアの骨をきちんと見つけられる目を持つことが、アイデアを育てるためには必要なのです。

いいアイデアは棒倒しの棒。最後まで倒れないものである

インターンを振り返って、学生の皆さんが出してくれたアイデアは、「誰のどんな気持ちや行動をどう変えたいのか」という部分からきちんと考えられている、足腰のしっかりしたものが多くて驚きました。それと同時に、「アイデアを出すための取りつく島」が、学生のアイデア出しに役立ったという手ごたえも感じています。

電通のクリエーターは、普段アイデア出しをするときに、このフォーマットに書いてあるようなことを自然と頭の中で考えていると思いますが、仕事をしたことがない学生の皆さんにもその内容を理解してもらえたのではないかと思います。

アイデアの骨を見付け、そこから先を分岐させ、育てていく方法が分かればアイデア出しが楽しくなっていくのではないでしょうか。

クライアントの方々とのお仕事でも骨と分岐という考え方が役に立っています。骨から派生する逆トーナメント表みたいなものを描いておくと、分岐点のここまでは納得いただいている、と確認しながらどこまで戻ればいいのかが分かります。

アイデアは棒倒しの棒のようなものだとも思っています。砂の上に棒を刺してお互いに砂を取り合って棒が倒れたら負けのアレです。クライアントのご担当者の依頼で要素を取ったり加えたりするときも、常にアイデアの棒は立っていなければなりません。アイデアが分かっていれば、「その要素を変えたら、棒が倒れます。本来の目的が達成できなくなります」という具体的な話ができると思うんです。

自分が見てみたいものを思い付くと、楽しい。

私は、アイデアを考えるときに、自分が見てみたいものを思い付くことが一番大事だと思っています。例えば人の気持ちが「この商品、好き!」に変わったところとか、こんなキャッチコピーのポスターが駅に貼り出されたら面白いなあ、とか。

それをクライアントの方々と共有できて実現できるのが理想です。僕はCMをつくっていて、見てみたいものが撮影現場で実際に見れたときが一番ワクワクします。「面白いもの」って結局、「みんなが見てみたいもの」ではないでしょうか。

学生の皆さんには、これからもアイデアを考えることにどんどんトライしてほしいです。自分のアイデアを、「これが面白いです」と人前で発表するのは、とても勇気のいること。でも、自分のアイデアを人前で発表して、みんなから「いいね!」と言われる経験をすれば、アイデアを出すことが怖くなくなります。

アイデアを考えて発表するという舞台に一度でも立てば、自信を持って人前で自分オリジナルの意見を述べることがきっとできるようになると思います。今後もインターンを通して、一人でも多くの学生の皆さんに、アイデアを考える楽しさやアイデアを育てる喜びを感じてほしいと考えています。