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SXSW2019 テクノロジー×クリエーティブで未来を変えるNo.4

テクノロジーと人の距離を縮める。広告の力で目指す最先端技術の普及

2019/07/16

毎年、春にアメリカで行われる「サウス・バイ・サウスウエスト」(SXSW)。世界から多くの企業やクリエーターが参加し、音楽、映画、インタラクティブの分野で未来を見据えた作品が展示される祭典です。中でも、新技術やビジネスアイデアが集まるインタラクティブ部門は、TwitterやAirbnbなど、のちに世界的にヒットするサービスが披露され、注目を集めたことでも有名。今年も、さまざまなビジネスの“種”が発表されました。

連載第1回でお伝えしましたが、電通からも、「Pointless Brings Progress.」(価値が定かでないモノが、未来を連れてくる)という出展コンセプトを掲げ計4作品を出展。この連載では、作品やプロデュースを担当したクリエーターにフォーカスし、一人一人の人物像に迫ります。

今回取り上げるのは、「RETHINKING TOBACCO」の出展に携わった電通の廣畑功志氏(電通 CDC Dentsu Lab Tokyo テクノロジー・プランナー)。SXSWでは珍しい“バイオテクノロジー”を扱う同プロジェクトについて、展示の工夫を聞きながら彼自身の考えに迫ります。

廣畑氏
廣畑功志氏(電通 CDC Dentsu Lab Tokyo テクノロジー・プランナー)

 

食糧危機を救う?植物としてのタバコの新たな価値とは

ー「RETHINKING TOBACCO」とは、どのような展示だったのでしょうか。

今回発表したのは、バイオテクノロジー分野のスタートアップ企業「GRA&GREEN」による“異科接木”の技術で、僕たちはその展示をプロデュースしました。

学生時代にディレクターを務めていたTodai To Texasというプロジェクトを通じて、GRA&GREENのメンバーと知り合いました。


接木とは、植物の枝などを切り、別の植物同士をつなぎ合わせることで、その植物の品質や耐久性などを向上させる伝統的な手法です。例えば野菜を栽培する際、根がしっかり張る生命力の強い幹と、品質の良い実がなる幹を接ぐことで、より良い品種を目指します。
 
これまで接木の組み合わせは、近い品種に限られていました。それに対し、あらゆる品種間の接木を可能にするのがGRA&GREENの技術です。面白いことに、その技術にはタバコの幹が使われています。人が吸う嗜好品のタバコではなく、原料である植物としてのタバコです。

つなぎ合わせたい植物の間に、タバコの幹を媒介させることで、異科間の接木が実現します。この手法を応用することで、さまざまな種類の実のなった木が生み出せるかもしれません。そして不毛な土地への耐性の強い植物に対して接木をすることで、例えば今まで砂漠で育たなかった野菜なども育つ可能性が出てきます。これは未来の食糧不足の解決にもつながります。

植物イメージ
異科接木により実現する、さまざまな実のなる木のイメージ

この接木の技術をSXSWの来場者へ伝える方法を一から考えました。例えば「RETHINKING TOBACCO」というタイトル。誰もが知っている“タバコ”の植物が持つ意外な一面をきっかけにこのプロジェクトに興味を持ってもらうべく、「タバコを再解釈する」というネーミングを用いました。

展示内容を考える中で意識したのは、テクノロジーと人の距離感です。「ユニークなテクノロジーがあります」とただ紹介するのではなく、多くの人にとって一見関係がなさそうなこの技術を、どう“自分ゴト化”してもらうか。それができれば、この技術や研究が注目され、支援の機会などへもつながります。この点を大事にしながら企画を進めました。

最初にビジョンを伝え、技術の“自分ゴト化”を狙う

ー具体的にはどんな工夫をしたのでしょうか。

まずプロモーション動画をチームで制作したのですが、技術の紹介に終始するのではなく、このプロジェクトで掲げているビジョンを強く打ち出しました。2050年には世界の人口が100億人に近づくともいわれ、食糧問題が深刻になると危惧されています。GRA&GREENの技術はその解決の糸口になるでしょう。

接木の技術だけに触れてもピンときにくいですが、僕たちの未来が実は抱えている問題を取り上げて、そこにアプローチできることを伝えれば、この技術と人の距離感が縮まると考えました。

僕らが特に時間をかけたのは、GRA&GREENが大切にしている世の中や技術に対する考え方を噛み砕き、精緻化する作業です。何度もお話を伺いながら、二人三脚で進めました。込みいった技術を簡潔に表現できるよう、英語のコピーも必死に考えました。かなり苦戦しましたが(笑)。

もうひとつ、多くの方は接木そのものに馴染みがないと思います。そこで、接木を疑似体験し、直感的に理解できるインタラクティブなコンテンツを会場に設けました。こちらも、テクノロジーと人の距離を近づける施策です。

大きなディスプレーに、実のなっていない木を表示し、そこにタバコの幹をかざすと、1本の木からさまざまな種類の野菜や果物が育つ演出を用意しました。ここでも、最後にビジョンを伝えるメッセージを表示しています。

ディスプレー
ディスプレーにタバコの幹をかざすと、多種多様な野菜や果物が育つ

実は、僕は学生時代にもSXSWへ出展する機会がありました。そこから感じたのは、SXSWはただ技術を展示するのではなく、その技術を活用して近い未来に何を達成したいのか、そのためには何が必要なのか、を知ってもらう場だということです。だからこそ、ビジョンを明確に示した上で、技術を理解してもらう。そして、プロジェクトへの賛同者や協力者を増やすことを目指しました。

面白い技術が、どう世の中の役に立つかを伝えたい

ーSXSWを経験して、今後どのようなキャリアを積みたいと考えていますか。

僕が理想とするのは、人と技術の両方に寄り添ったプランニングです。こうした意味も込めて、テクノロジー・プランナーと名乗っています。名刺の肩書は自分のことを初めに知ってもらう広告の役割でもあるので、僕の得意や興味を一目で分かってもらえるといいなと。

学生時代から工学分野を学んできて、ものづくりの領域にも、広告業界が得意とするクリエーティブの力が必要だと感じていました。例えば、ものづくりを大きく「企画」「制作」「発信」のフェーズに分けたとき、“何を作るか”“どうして作るか”という企画の部分にクリエーティブのアイデア力は役立ちますし、ものを作った後、それをどう人に伝えるか、どう世の中に普及させるかにも活用できるはずです。

今回の展示もそうですが、どんなに面白い技術も、それがどう世の中の役に立つかを考えることは不可欠です。その技術に人がどう触れて、どう生活に浸透するのか。それを噛み砕いて発信するのも、僕らの仕事です。エンジニアやデザイナー、研究者などさまざまな“作り手”の考えや思いをきちんと理解した上で、“使い手”となる人や世の中に分かりやすく伝える。作り手と使い手の両方の視点を行き来できる人でありたいです。

学生時代の専攻も、ものを使う人が抱く心地よさなどの“感性”も含めた設計を目指す“感性工学”という分野でした。とても抽象的かつ感覚的なものを扱う領域ですが、感性に着目して作り手と使い手のコミュニケーションを考える研究は、今の仕事にもつながると思います。

それと、僕自身ゲームクリエーターやメカエンジニア、コミュニケーションデザイナーなど、異なる分野のものづくりが大好きなメンバーとシェアハウスで暮らしています。みんなの友達がうちに遊びにくると、さらにいろんな人の視点や感覚に気づくきっかけにもなります。お互いの興味関心の幅を少しずつ広げていける場になるといいな、と考えています。

漫画やアイドルといったコンテンツも実は大好きで、部屋に漫画が1000冊以上あったりします(笑)。こうしたコンテンツのファンでもあるので、この分野のお仕事も頑張りたいですね。「テクノロジー×コンテンツ」でまだ誰も体感したことのないアイデアを生み出してみたいです。色々な経験を経て、テクノロジーと人の距離を近づける存在になれればうれしいです。