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もうひとつのラグビー世界大会。

知れば知るほど面白い!パラスポーツ観戦記No.3

2019/11/15

もうひとつのラグビー世界大会。

車いすラグビーワールドチャレンジ決勝
写真は、2019年10月20日に行われた、「車いすラグビーワールドチャレンジ」オーストラリア対アメリカの決勝戦。

ラグビーワールドカップに、日本中が沸いた今年の秋。同じ日本で、もうひとつのラグビー世界大会が行われていたのをご存じでしょうか。車いすラグビーワールドチャレンジ2019(以下WWRC2019)。車いすラグビーの世界ランキング上位8カ国が集まり、世界一を決める大会です。

入社4年目、プランナー/コピーライターの仲澤南です。WWRC2019観戦を通じて感じたことや驚いたことをもとに、車いすラグビーについてご紹介します。スポーツ観戦は好きですが、ラグビーは、ドラマ「ノーサイド・ゲーム」からのにわかファン、車いすラグビーはまったくの初心者。そんな目線からのWWRC2019をお伝えさせてください。

車いすラグビーワールドチャレンジボード

車いすラグビーって…ラグビー?

最初に思ったのは、

「これって、ラグビー?」

お恥ずかしい話、会場を聞いて「あ、体育館なんだ」と思ったくらいの初心者です。今回の観戦が決まり、慌てて車いすラグビーのルールを調べると、ひたすら驚きの連続でした。

ラグビーだけど、屋内。ラグビーだけど、円形のボール。ラグビーだけど、8分×4ピリオド。ラグビーだけど、前にパス。ラグビーだけど、コートには1チーム4人…。この前覚えたばかりのラグビーのルールとは、まったく違っていたのです。車いすラグビーとはいうけれど、もはやこれはラグビーと同じだと思って見ていると、大事なところを見落としてしまうかもしれない。

そして当日。会場に入って驚きました。

「めちゃくちゃ盛り上がってる!」

試合は、金曜日の午後7時。雨の東京体育館に、驚くほど多くの観客が詰めかけていたのです。しかもサポーターTシャツを着たり、選手の名前を書いたうちわを持っていたり、その姿は本気そのもの。試合開始前から、会場は一緒に観戦した同僚の声が聞こえないほど盛り上がっていました。

車いすラグビーワールドチャレンジ会場
そして遂に試合スタート、したのですが。

「どこで点差がつくんだろう…?」

私が見に行ったのは、予選リーグ最終戦の日本×イギリス戦。日本は世界ランク第2位の強豪国で、同じく第4位のイギリスとのレベルの高い試合が展開されていました。車いすラグビーではルール上、ボールを持った選手に直接触れることはできません。そのため、ラグビーのようにタックルで攻守を逆転するのには限界があります。

そしてレベルが高ければ高いほど、パスは回るしトライも決まる。ミスがない分、ペナルティで相手ボールになることもない。トライで攻守が入れ替わるたびに、両チーム1点ずつ順調に決まっていったのです。

そんな中で点差をつくったのは、車いすが傾くほどに身体を伸ばしたパスカットでした。驚くほど正確に回るパスの、その一瞬のチャンスを狙うパスカット。試合を大きく動かしたファインプレーに、会場は大盛り上がりです。ルールに追いつくのが精いっぱいだった私も、つい声に力が入りました。

ぶつかるための車いす。

試合を見ながらふと思い出したのは、以前、会社の同僚と車いすバスケを観戦したときのこと。選手たちの動きがあまりにもしなやかで、車いすが選手の身体の一部のようでした。

一方で車いすラグビーの車いすは、私の目には選手を守る盾であり、勇敢にタックルするための矛のように映りました。それもそのはず、一般的に車いすはぶつからないように作られているのに対し、車いすラグビー用の車いすは「ぶつかるために」作られているのです。

車いすを使うパラ競技の中で、タックルなど他の選手との接触が認められているのは車いすラグビーただ一つ。車いす同士が火花を散らし、激しくぶつかり合います。衝突時の重力加速度は、瞬間最高30G。自動車の急ブレーキがおよそ0.5G程度なので、その60倍…もはや想像がつきません。

車いすラグビーの車いすは、衝撃に耐えるため、装甲車のような見た目でかなり丈夫。また、攻撃用と守備用の2種類があります。相手の守備に引っかからずに小回りできる、丸みを帯びた攻撃用に比べ、相手をブロックしたり相手の車いすに引っかけたりするためのバンパー(出っ張り)を持つ守備用は、まさに「ぶつかるための車いす」でした。

車いすラグビーでは障がいの程度によって各選手がクラス分けされていて、守備用の車いすは主に障がいが重い選手、攻撃用の車いすは主に障がいが軽い選手が使います。障がいの重い選手ががっちりと相手チームをブロックしてくれている間に、障がいの軽い選手がトライを狙うチームプレーが、車いすラグビーの得点源です。

日本代表チームで多くのトライを生んでいるのが、主将・池透暢選手とエース・池崎大輔選手の“池池コンビ”。まだ相手チームのトライライン近くにいる池選手がロングパスをしたかと思うと、その先には必ず池崎選手がいるのです。そのパスはコートの長さ28メートルに対して、世界最長クラスの20メートル。片方の手は障がいのために使えないというから、さらに驚きです。

ここまで投げてくれると信じて走り込む池崎選手と、追いついてくれると信じて投げる池選手の阿吽の呼吸が、日本の安定した得点につながっていました。

身体と同じくらい、頭も使う。

試合中は何度か、不思議なことが起きていました。

「どうして今、タイムアウト?」

選手が度々、タイムアウトを要求していたのです。いつも見るスポーツでは監督が要求するイメージがあったので、少し驚きました。さらにそのタイミングも少々特殊。一般的にタイムアウトは流れが悪い時や、作戦を練りたい時にとることが多いですが、車いすラグビーでは「え、ここで!?」というタイミングでよくとられていました。

実はタイムアウトさえも、作戦の一部なのです。

車いすラグビーでは特に攻撃側に対して、時間に関わるルールが設けられています。

・ボールを持つ選手は10秒に1回ドリブルかパスをする
・12秒以内にセンターラインを越える
・40秒以内にトライを決める
・トライライン前のキーエリアに入れるのは10秒まで

いずれかを破ると、反則として相手ボールになってしまいます。ボールを持つことが非常に重要な車いすラグビーで、相手にボールが渡るのは避けたいところ。そのため選手は時間制限を超えそうになると、自らタイムアウトを要求するのです。

あんなに激しいプレー中に時間を確認してタイムアウトを要求する…。身体だけでなく頭もフル回転させる、難しくもさらに面白みのある戦いに興奮しました。

車いすラグビーは、ラグビーだった。

その後確実なトライと不意をついたパスカット、緻密な作戦によって得点を稼いだ日本は、57-51でイギリスに勝利。翌日の準決勝に駒を進めるも世界ランク1位のオーストラリアに敗れ、最終的に3位で幕を閉じました。

試合の熱気と興奮で、いささかボーっとしながら会場を後にした帰り道、私は思っていました。

「やっぱり車いすラグビーはラグビーなんだなあ」

何をそんな、当たり前のことを。そう思われるかもしれませんが、あまりに違うルールに驚いていた私は改めて納得したのです。それは、激しいタックルはもちろん、互いの信頼から生まれる流れるようなパスワークと、トライラインを超えた瞬間に訪れる感動、会場をひとつに引き込んでしまうパワフルさからだと思います。

そしてもちろん、車いすラグビーにしかない見どころや魅力も数多くありました。

今年の世界大会は幕を閉じましたが、二つのラグビーのとりこになってしまった私はきっと、来年も再来年も、ラグビーや車いすラグビーを見ている気がします。日本選手の活躍を目の当たりにし、たくさんの方々と一緒に応援できる日が来るのが待ち遠しいです。