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TANTEKI -新しすぎるアイデアが、伝わる。加速する-No.5

2019/12/19

経営者とことばを共創する。-STRIPE int'lの場合-

コピーライター/CMプランナーの諸橋秀明です。前回記事では、事業の価値を定義することで会社を一つにまとめる「ことば」についてひもといていきました。今回も本質的には同じ機能のことばのご紹介です。異なるのは、その策定プロセス。

経営者と濃密なディスカッションを経てつくり上げ、結果3000人を超える企業の経営に生かされたことばについて、ご紹介させてください。

<目次>
事業の相談相手にクリエーティブ・ディレクターが指名される時代
提案ではなく、雑談をしにいく
最高の雑談には、下準備がいる
雑談があぶり出す、事業の未来
ことばは、すでに生まれていた
共創ということばのつくり方

事業の相談相手にクリエーティブ・ディレクターが指名される時代

はじまりは、とある経営者から私の上司である樋口景一ECD(エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター)に入った相談でした。

“創立25周年を機に、事業のこれからを考えていきたい。相談にのってほしい”

相談の主は「ストライプインターナショナル/STRIPE int'l」(以下、ストライプ)の石川康晴社長。earth music&ecologyなど、日本国内外で30以上のブランドを展開するアパレルメーカーの経営者です。

アパレルメーカーはいま変革の時を迎えています。ECはもとより、D2Cブランドの台頭、在庫や物流管理へのテクノロジーの導入、労働力の確保、そして廃棄削減など自然環境への配慮。直面している課題は多岐にわたります。

さらにストライプはアパレルメーカー事業をドメインにしながらも、サブスクリプションサービス「メチャカリ」や、大人のためのECデパートメント「STRIPE DEPARTMENT」まで手がけています。

そんな数多の視点で思考を巡らせなくてはいけない経営者が、事業のこれからを考えるにあたり、広告会社のクリエーティブ・ディレクターを指名してきたのです。そして、樋口ECDからコピーライターとしてアサインされ、私もプロジェクトに参加することになりました。

提案ではなく、雑談をしにいく

このような壮大な相談が来た時に、広告会社がしがちなのは、肩に力が入った「事業提案」や「事業コンサルめいた提案」です。

「広告の枠からはみ出すべし」「いちばん上流から事業と関わるべし」という思考がもてはやされがちな業界にあって、今回のような相談は「ついに!きたか!案件」として輝いて見える。

私もご多分に漏れず、鼻息荒く本屋で「はじめての事業づくり」なんて本を立ち読みしていました。が、そんな折に樋口ECDから受けたクリエーティブディレクションはいまでも忘れられません。

「よし、石川さんの雑談相手になろう」

耳を疑いました。石川社長は何かしらの提案を求めているのでは、と。それを「雑談」なんて。というか、それじゃあすることないじゃん、と。

大きな間違いでした。社長の雑談相手になる、それは生半可なことではなかったのです。

最高の雑談には、下準備がいる

石川社長との雑談に向けて、樋口ECDがつくろうと言い出したのは「50の未来予想」という資料でした。世界のメガトレンドを5つに整理して、それぞれが引き起こす10個の具体的な未来像をまとめていきたいと。

未来予想は「アパレル」や「広告」にこだわらず、単純に人間が、社会が、どうなっていくかをチームで出し合ってリストにします。そこに「×(かける)ストライプ」を足していくと、50の具体的なストライプの未来像が出来上がります。

こう書くとシンプルですが、実際にやってみるとこれがなかなか大変です。リサーチはもちろんのこと、大きなスケールの企画力が必要になってきます。「単なる雑談」をするのにここまで準備するのか、と驚きながらも、作業を進めて行きました。下記が当時(2018年)のメガトレンドをまとめたものです。

「50の未来予想」のテーマ

  1. 人間:人生100年時代→10個の未来×ストライプ
  2. グローバル:移民とダイバーシティ→10個の未来×ストライプ
  3. 産業:シェアエコノミー発展→10個の未来×ストライプ
  4. デジタル:AI本格稼働→10個の未来×ストライプ
  5. 社会:ポストトゥルース時代、隣人不安→10個の未来×ストライプ

この「50の未来予想」を持ってようやく石川社長に会いに行きます。リストの中からいくつか興味あるテーマを選んでもらい、雑談を始めるのです。

リストをつくる過程を経たことで、電通チームにはどのテーマについてもすでに大量のインプットがあるので、社長のいかなる疑問にも臆することはなく、結果、雑談は盛り上がります。この雑談を、リストを修正しながら、半年にわたって、3~4回ほど繰り返していきました。

雑談があぶり出す、事業の未来

雑談は、もちろんそれ自体が目的なのではありません。さまざまなテーマの話をしながら、社長の描きたい事業の未来のコアをあぶり出す作業です。

雑談を繰り返していくと、会話が熱を帯びるポイントがあるのが分かってきます。石川社長の場合、それは「エシカル」(※)に話題が及ぶときでした。

※エシカル=倫理的という意味の形容詞。エシカル消費とは、製造過程に環境破壊や児童労働などが関係していない製品を購入したり、そうした製品を製造する企業を支援する考え方。
 

すでにストライプは、海外工場の労働環境改善や、アパレル業では考えられないほど低い廃棄率の実現など、エシカルな視点を事業に導入しています。そういった利他的なマインドを全国津々浦々の店舗スタッフまで行き届かせたいと、雑談の中で再確認しているようでした。

それは同時に、社全体の事業をエシカルという軸で再構築するという、未来構想でもあります。私たちの雑談の最終的な結論は、その思いを「ことば」にしようというところに行き着きついたのです。

ことばは、すでに生まれていた

こういった濃厚なステップを踏んでいると、ことばの最終形態は既に雑談の中に現れていたりします。最終的にコーポレートメッセージとして策定した「いいこと、しようぜ。」は、社長がある日の雑談の中でペロッとメモで出したことばです。そこまでの過程をずっと共有しているから、クライアント/エージェンシーの枠、社長/コピーライターの職種の枠を超えて、みんなで「それだ!」と決まっていきました。エシカル=いいことにするのがシンプルでわかりやすい。なにより、「ぜ。」がいい。やんちゃで前向きで、ストライプならではのことばです。

ことばが決まると同時に、私たち電通クリエイティブチームは「この言葉の届け方」を考え始めました。なにしろ届ける先は本社本部の社員だけではなく、全国の店舗スタッフを含めた関係者全員です。エシカルへの意識に差がある数千人を一つにするために、ことばはどんな世界観をもつべきか、どんな声色なのか、どんな色彩なのか。

そこで二人の外部スペシャリストに声をかけました。アートディレクターの石井原氏(NEANDERTAL)と、フィルムディレクターの林響太郎氏(DRAWING AND MANUAL)です。ビジュアルと映像で、この「いいこと、しようぜ。」ということばの世界観を一緒につくってほしいと依頼。そして生まれたのが、ストライプのファッション性と、強い志を一体にした以下のクリエイティブです。


いいこと、しようぜ。

この「いいこと、しようぜ。」は、ストライプのコーポレートメッセージとして社員総会で発表されました。もちろん、その発表の演出もふくめて、ことばです。

これは石川社長が本当にすごかった。淡々と丁寧に、しかし情熱的にことばの意味とその背景を説明していくと、総会に参加している数千人が一つになっていくのです。どんなに私たちが策を講じても、経営者が自ら発することばほど強いものはないと実感しました。いまストライプは全社一丸となって「いいこと、しようぜ。」と、邁進しています。

いいこと、しようぜ。
いいこと、しようぜ。

いいこと、しようぜ。

共創ということばのつくり方

樋口ECDがリードしたことばのつくり方は、いうなれば共創スタイルのコピー開発です。クライアントの中にあるコアな思いをエージェンシーが刺激することであぶり出して、ことばに収斂させる。つまり、ことばを一緒につくる、という過程で、クライアントの事業の未来を描くサポートをする。

これは、オリエンを元にいくつかの方向でコピーを書いて、クライアントはその中から選ぶ、というこれまでの一般的なコピー提案とは、一線を画するやり方です。オーセンティックな「コピーライティング」にとらわれているコピーライターにはなかなか発想できないことばのつくり方。

しかし、考えてみれば、ことばのつくり方なんていくつあってもいいのです。むしろその手法の多さは、生み出すことばの強さと正確性を増幅するかもしれない。多様化する企業の課題にことばで向き合うとき、そのつくり方から考えてみる、というスタイルが今後必要になってくるのではと思います。

この連載、もう少しつづきます。次回は、とある経営者の強い思いをことばで規定して経営に生かしたエピソードを紹介させてください。