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SNS史、その20年のターニングポイントはどこか~『SNS変遷史』出版記念連載No.2

SNSで情報を探す時代へ:「ググる」から「タグる」へのシフト

2020/01/28

2019年10月の『SNS変遷史「いいね!」でつながる社会のゆくえ』(イースト新書)の出版を記念して、その一部内容をダイジェスト化してお届けする本連載。

第1回は、今ユーザーの支持を集める三大SNS「Facebook」「Twitter」「Instagram」の来歴と、その支持を集める理由についてご紹介しました。

今回は、SNSが人とつながる場から情報と出合う場にシフトしていった在り方に迫ります。同時に筆者の提唱する“「ググる」から「タグる」へ”というSNS時代のキーワードについても説明します。

SNSは人とつながる場から情報と出合う場へ:「ググる」から「タグる」へのシフト

スマホの普及とユーザー数の拡大によって、誰もが情報の発信者となっていった。メディア論的にも、生活者と向き合うマーケティング的にも、そのインパクトはとても大きなものといえる。SNSは、その過程の中でただ人とつながり合う場という意味合いを超えて、「情報と出合う場所」という機能性を帯び始めていった。

筆者が担当した「若年層のSNSを通じたビジュアルコミュニケーション調査」はリリースを2017年2月に公開したが、その中でも、若年の女性ほど情報を探す時に検索エンジンだけでなく、SNSに頼る傾向を指摘した。私たちは検索する(=ググる)ことだけに頼らない情報との出合い方を日々体験するようになっている。

SNSで情報を探すとき、鍵になるのはハッシュタグだ。ハッシュタグを使って、ユーザーは情報を広げたり、つなげたり、集めたりするようになっている。筆者は、そのようなSNSの利用法を指して「タグる」というコンセプトを提唱している。「タグる」とは「ハッシュタグ」と「手繰り寄せる」という二つの言葉を合わせた掛け言葉で、ユーザーが発信する情報をユーザー同士で集めたり役立てたりする情報行動を示している。

情報との出合いは「ググる」から「タグる」へ。それは、ユーザーへ主導権が移る時代における情報拡散のかたちを表している。

実際に、インスタグラムが公式に発表するデータによれば、日本のユーザーはハッシュタグ検索を世界平均の3倍使うという。またハッシュタグそのものはTwitterの中での利用によって市民権を得たといわれるが、日本のユーザーは大喜利のようなお題に対して、みんなの答えを募っていくような使い方はもちろん、あるテーマをハッシュタグに冠して意見を発信していくようなユニークな使い方も広く行っている。

すなわち、日本こそ、“タグる文化”の中心地なのだ。

なぜハッシュタグが大事なのか

このようなユーザー側の情報行動の普及と呼応するように、Instagramも2017年12月のアップデートによって、ハッシュタグをフォローすることが可能になった。それまではアカウントをフォローして、そのアカウントがシェアするものを見ていたのが、「#パンケーキ」など、テーマごとにシェアされたものをチェックするようになっていく。

つまり、人からハッシュタグへのシフトだ。これまでよりも、ハッシュタグを通じて自分のフィードに他のユーザーを誘引したい(=タグってもらいたい)というモチベーションを引き出すことになる。

例えばレストランに行ったときに実際にどんな空間に自分が身を置くことになるのか、お店のウェブサイトでは完全には分からない(それこそ「盛っている」こともある)し、Googleの画像検索でもいまいち分からないこともある。そんなとき、自分と同じユーザーの立場から写真がシェアされているInstagram内で「タグる」ことは、とても有益なのだ。

SNSgazou
イラスト:渡邊はるか(電通)

Twitterは拡散機能をリツイートによって担保しているが、Instagramにはそれがないため(専用アプリを使えば、他人がInstagramに投稿した写真を、InstagramやFacebook、Twitterに再投稿できるが)、ハッシュタグが他者のシェアへの動線を確保しているということになる。

現に、Twitterでは投稿にハッシュタグをつけるとしても一つか二つくらいだが、Instagramでは10個以上つけることも少なくない。多くつければつけるほど、その投稿にたどり着いてもらえる可能性が高まるからだ。

広告の世界でも、これまではテレビコマーシャルの最後に「○○○で検索(カチッ)」という検索画面とナレーションが入ることが多かったのが、ここ数年は、最後に「#○○○(作品名など)」といったハッシュタグ検索を促すタイプのものが増えている。多くの人がタグることで情報と出合うようになっていることを踏まえ、統合コミュニケーションの手法自体も即応的に変化している。

では、なぜ今「ググる」ことから「タグる」ことへのシフトが広まり始めているのか。ここではその理由として中心的なものを挙げてみよう。

①情報源としての信頼性
筆者の所属するチームが実施した調査でも、SNS上で最も信頼する情報発信者は「友人・知人」であるという結果が得られた。企業やブランド、インフルエンサーといった重要な発信者を差し置いてのこの結果は、情報洪水の現代において、身の回りの人々がシェアしているものを頼りにしようというユーザーの心理が強まりつつあることを指し示している。

②リアルタイム性
SNSは情報発信のハードルが低いため、ウェブサイトに比べて更新頻度が高く、常に新しい情報が湯水のように湧いて出てくる。リアルタイム性、即時性、速さ…それらは、鮮度を求める現代生活者のニーズにしっかり沿っている。

 ③スクリーンのサイズ最適性
スマホの普及により、情報の最適単位がウェブサイト(ページ)から、SNS上のポスト(投稿)へ移ったという仮説も立てられる。ずっとスクロールしていって、最後まで見なければ情報が完結しないというのは、今のユーザーにとっては「負担」になってしまう。これに関連して、いまInstagramユーザーがフィードをスクロールするのではなく、ストーリーズをタップすることでコンテンツを消費することに傾きつつあるのも、UX(ユーザーの体験の質)視点で非常に興味深い現象だ。

④感性への訴求力
Instagramにおける「タグる」は、感性的な探し方もできる。探し求めて到達するプロセスを踏むからこその価値が宿る。あるいは、そういったプロセスを踏むがゆえに価値を感じてしまう側面がある。

ハッシュタグはSNS時代のメッセージタグライン:プロモーションから社会運動まで

「タグる」は、生活者の情報発信や情報収集といった用途はもちろん、さらに社会的な意味合いや機能を持ち始めてもいる。

ハーバード大ロースクール教授でインターネット法を専門とするジョナサン・ジットレイン氏は、ウェブサービスにおける「Generativity」の重要性を説いている。日本語では「生成力」と訳されるが、その意味するところは、ユーザーが各プラットフォームにおいてコミュニケーションや表現をどんどん生み出す(Generate)ことができる“場の力”を指している。そうした力を生かせる設計になっているかが、競争力に直結するのだ。

SNSは特にそのような色彩の強い場である。みんなが投稿すること、そのUGC(User Generated Contents=ユーザーが作成したコンテンツ)こそが見るべきものに他ならないし、そこで鍵となるのが、ハッシュタグとそれをタグるユーザーたちの実践である。

その「タグる」ことの実践にもいくつかの種類がある。一つは、ここまで説明してきたような「情報を探す」こと。そこから派生して「ジャンルでつながる」という使い方もある。Instagramでは「#○○好きな人と繋がりたい」というハッシュタグが人気で、例えば「#写真好きな人と繋がりたい」は投稿数約3000万件。日本のハッシュタグとしてこのつながりたい系は特徴的で、関心のコミュニティーが生まれやすいといえる。「○○部」のような部系ハッシュタグも多い。

次に、近年では、「ハッシュタグを起点としたムーブメント」も数多い。日本でも流行した「#icebucketchallenge(アイスバケツチャレンジ)」はその好例で、著名人から一般人まで、数多くの人が参加していた。アメリカでは「#blacklivesmatter」によって、人種差別への異議申し立てが組織化され、ミュージシャンもこのハッシュタグに呼応するように楽曲を発表してファンを巻き込んでいくなど、ソーシャルな運動の核となるタグラインとして機能した。2017年に最もタグられたハッシュタグが、「#metoo」であることに異論はないだろう。

そう、ハッシュタグはいわばSNS時代のメッセージタグライン。そして、分散化メディア時代のユーザーの新しい参加の手段でもある。自身の体験や思いをハッシュタグにまとわせたメッセージ込みでシェアし、広げられる。ここまで挙げたのは、どれも「タグる」ことによって、ソーシャルな課題に対するみんなの声をまとめ上げていく動きで、「ハッシュタグアクティビティー」とも呼ばれている。

今や「タグる」ことは、モノやコトに関する意味付けや分類にとどまらず、その人自身の考えやアイデアを共鳴させていくつながりや連帯の符牒として機能している。ユーザーがよく使うハッシュタグを観察し、うまく活用すること、それによって同じ価値観や関心を有するユーザーをつなげて(インスタントな)コミュニティーを築いていくことがさらに重要になっていく。

一人一人の日々の情報発信や情報収集はもちろん、企業のマーケティングから、社会的な課題に関するソーシャルアクションまで「タグる」を活用する機会は広がっている。ユーザー自身の参加性を前面に出した巻き込みのかたちとして、「タグる」は今後もっと大きなポテンシャルを発揮するだろう。