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「日本の広告費」特別対談No.5

2020/03/16

「2019年 日本の広告費」特別対談
今、マスメディア広告の成長に必要なものは?

「2019年 日本の広告費」は、8年連続でプラス成長を遂げ、特に持続的な伸長を続けるインターネット広告費が、広告費全体をけん引しました。

日本アドバタイザーズ協会常務理事の小出誠氏に、電通メディアイノベーションラボの奥律哉氏が、マスメディアへの見解、マスコミ4媒体由来のデジタル広告の可能性、今後のテレビの展望などを伺いました。

<目次>
媒体の枠にとらわれない「メディアニュートラル」な視点が必要
「マスコミ4媒体由来のデジタル広告」拡大へ期待
テレビは「%」ではなく「人数」で測定できるようになってほしい
 
日本アドバタイザーズ協会常務理事 小出誠氏(左)と電通メディアイノベーションラボ 奥律哉氏
日本アドバタイザーズ協会常務理事 小出誠氏(左)と電通メディアイノベーションラボ 奥律哉氏

媒体の枠にとらわれない「メディアニュートラル」な視点が必要

奥:2019年の日本の総広告費は6兆9381億円で、2012年から8年連続で前年実績を上回りました。インターネット広告費は6年連続の2桁成長となり、ついにテレビの広告費を追い抜く結果となりました。

媒体別構成比

小出:インターネット広告費がテレビを上回ることは予想していたので、大きな驚きはありません。ただ、ここで私たち広告主が思慮すべきは、どちらが抜いたという広告統計の数字にとらわれ過ぎないことだと思います。

大切なことは、商品やサービスを訴求するために、最も適したメディアを活用する「メディアニュートラル」の視点に常に立ち返ることです。インターネット広告が最適な場合もあれば、テレビ広告や新聞の折り込み広告が一番効果を発揮する場合もあります。

奥:メディアそれぞれに役割というものがありますよね。小出さんがおっしゃるように、メディアニュートラルの立場でテレビ、ラジオ、新聞、雑誌、インターネットを上手に使い分けていくことが大切ということですね。

小出:どのメディアをどう活用するのが良いか、その最適解を広告主が見つけるためには、それぞれのメディアに対する深い知見が必要です。例えば、デジタル広告の長短所を理解し、どのようなリスクがあり、どのように使うべきなのかという知識がなければ、他のメディアと比較して選ぶことはできません。広告主がメディアニュートラルの視点に立ってプランニングするのは、実はまだまだ容易ではありません。

そして、広告主の各メディア担当者も今は、自分の担当メディアの知識や情報しか持たない“たこつぼ化”の状態にあるのではないかと思います。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌の担当者がデジタル広告に対する正しい知識を得るのは大切ですし、デジタル担当者ももちろん他メディアの知識を持たなければなりません。簡単ではありませんが、これからの広告主には、マス・デジタルを分けずに、メディア横断的に考えることができる能力が求められると感じています。

小出誠氏

「マスコミ4媒体由来のデジタル広告」拡大へ期待

奥:インターネット広告費が前年実績を大幅に上回った一方で、マスコミ4媒体(テレビ・ラジオ・新聞・雑誌)の広告費は前年を下回りました。

小出:インターネット広告へのシフトにより、そちらへ巨額の広告収入が取られてしまい、結果としてマスコミ4媒体の広告費が落ちていると推測しています。いくつか理由はありますが、広告主が広告を発注してから世の中に露出されるまでのスピード感の違いも一因ではないでしょうか。

奥:インターネット広告の場合、PDCAサイクルが速く、広告の依頼を受けてから打ち出すまでの期間も短いですよね。

小出:例えばテレビCMの場合、いつまでに広告発注をして、いつまでに広告素材を入れて…というような期限がかなり手前の時期で決められていました。しかしここ最近になって、テレビも柔軟な姿勢へアップデートされてきましたね。広告主側としては使いやすくなってきていると感じています。このようにスタンスを変えていくことは、マスコミ4媒体側への広告費を減らさないためにも必要なことだと思います。

しかし最も重要なことは、2019年も数字が伸びている「マスコミ4媒体由来のデジタル広告」(※)にさらに注力し、伸ばしていくことです。この10年で、マスコミ4媒体の広告費が数千億円下がった分、インターネット広告費が数千億円増えているわけですが、本来そこにはマスコミ4媒体がデジタルシフトすることでカバーできる余地があります。

※マスコミ4媒体由来のデジタル広告
マスコミ4媒体事業社などが主体となって提供するインターネットメディア・サービスにおける広告費
マスコミ4媒体由来のデジタル広告

奥:そうですね。しかし、マスコミ4媒体由来のデジタル広告費は、全体でも約700億円にとどまっています。

小出:そこを伸ばすには、各メディアがそれぞれの強みを生かすことが必要です。例えば今のインターネット広告には、アドフラウドと呼ばれる露出数やクリック数を水増しする詐欺、相応しくないコンテンツやフェイク広告と同載になるブランドリスクなどの課題があります。そこに対して、例えば新聞社のデジタル広告は「新聞というメディアの持つ信頼性」のベースに立った安心して広告を打ち出せる広告スペースの提供などを打ち出していくべきです。また、雑誌の場合であれば、長年培ってきたコンテンツ制作のノウハウがあり、それを生かしたデジタルメディアの展開ができるわけです。

奥:マスコミ4媒体の中では、電子出版市場の大きな伸びを背景に、雑誌のデジタル広告費が最も総額が大きくなっていますね。マスメディアの持つ強みを、デジタルの領域に生かしていく余地はまだまだありそうです。

小出:例えば雑誌社によっては、広告部門における収入割合でデジタル広告関連の方が紙の広告収入を上回ってきている会社も出てきました。もう一つ、私が注目したいのはラジオです。2010年から2019年までのデータを見ると、マスコミ4媒体の広告費は大幅に下がっているようですが、実はラジオだけは3%くらいしか下がっていないんですね。

奥:ラジオはマスコミ4媒体の中でも、いち早くデジタルトランスフォーメーションを推し進めてきました。インターネット経由で視聴が可能なradiko.jp(ラジコ)は開始からもう10年になります。

小出:ラジオはマスメディアでありながら、デジタル化で365日データを取れる仕組みをつくりましたね。タイムフリー視聴もできるし、まだあまり活用されていませんが、ターゲティングもできる。新しいマスメディアの在り方を先んじていると思います。

奥:テレビはデジタルへの取り組みではラジオより後発ですが、TVerやAbemaTVが伸びてきていますね。

小出:テレビはデジタルについては後発なので、ポテンシャルは一番大きいと思いますね。とにかくマスメディアは、毎年10%ずつでもいいので、新しい分野に人員や資金を確保し投資する必要があるのではないでしょうか。

併せて考えるべきなのは、デジタルは「1年単位」か、それ未満の短い単位で考えていかなければならないということ。プラットフォームや流行りのアプリが毎年どんどん変化していくのがデジタルの特徴で、これに対応できる組織になる必要があります。

奥律哉氏

テレビは「%」ではなく「人数」で測定できるようになってほしい

奥:変化が求められる昨今、テレビにはどのような期待をお持ちでしょうか。

小出:テレビには圧倒的な数の視聴者が存在しています。その莫大なボリュームを分かりやすく世間に伝えるため、テレビは「視聴率」という%だけでなく、「視聴者数・回数」という実数ベースに基づく規模感をアピールしていくべきだと考えています。

例えば、全国で世帯視聴率が1000GRP(※1)のテレビコマーシャルを流すと、15秒動画広告が約6億回再生されたと計算できます。インターネット動画広告の1再生単価を仮に1円だと想定すると、6億回再生してもらうには6億円もの広告費用が必要となってしまうわけです。

視聴率が6%のテレビ番組だとしても、日本の総世帯数は5千数百万世帯あるわけですから、番組中に放送されるコマーシャルは約300万人の目に触れているわけです。これはすごい数字ですよね。

※1 GRP:Gross Rating Point(延べ視聴率)
あるテレビCMを一定期間流した時の視聴率の合計。例えば、視聴率1%の番組にテレビCMを3回流した場合は3GRPになる。

 

奥:視聴率という割合で表すよりも、「広告を目にしている人は実際に何人なのか」と捉えた方が、テレビ広告の驚異的なボリュームをより実感しやすくなりますよね。

小出:人数で把握できるようになれば、これまで別々になっていた「テレビとネット」や「地上波とBS」がつながって、「足し算」ができるようになり、メディアプランを立てる時や流通に施策の規模感を伝える際に分かりやすくなると思います。

さらにもうひとつ、テレビ番組について広告主の立場からお願いしたいのが、視聴者セグメントを絞った番組を種類多く揃えていただきたいということです。若い女性が好きな番組、ご年配の男性が好む番組など、それぞれの世代、性別、異なるセグメントの人が求める番組をつくる。このように視聴者層が絞られ、クリアに見える番組があることでターゲットに効率よく広告を露出できます。

テレビはもう世帯視聴率ではなく、個人視聴率の時代です。広告商品によりますが、広告主が求める番組は、「さまざまな年代の人がまんべんなく見ている視聴者構成の番組」ではなくなってきています。この結果として番組や時間帯への広告主のリクエストが集中することもなくなり、それぞれの番組枠へバラバラに分かれますよね。

加えて先程の視聴者数が公表されていれば、ターゲットCPM(※)の計算もしやすくなりますし、ターゲティングされたデジタル広告と比較した効率議論が容易になり、チャンスが広がると思います。

※CPM:Cost Per Mille(1000人当たりコスト)
広告を訴求対象1000世帯(人)に到達させるために必要な金額。

奥:テレビ番組には全国区のものとローカルのものがありますが、ローカル局の番組で流す広告ならではの利点はありますか?

小出:ローカルテレビ局は、恐らくご自身のエリアのCPMがいかに安価か、ということをあまり認識していないと思います。総人口数で計算すると、関東よりも地方のCPMがかなり安い状況です。ローカルだと1000GRPを手ごろな金額感で出稿できる地域は数多く存在しています。

ですので、CPMが安いローカルエリアでまずはテストマーケティング的にコマーシャルを放送し、期待通りの結果が得られたら、次はその素材を全国区で流すなど工夫をしている企業も増えてきているようです。まず地方で試してから、人口の密集エリアへとだんだん広げていくという構図は面白いですよね。

奥:ある意味インターネット広告のABテストのような手法ですが、テレビ広告の発信手法として興味深いですね。視聴者数のカウントや視聴者層に合わせた多様な番組づくり、ローカルスタートのコマーシャル放送など、テレビ単独でも今の時代に合わせて工夫、進化する余地はまだまだありそうです。本日は貴重なご意見をありがとうございました。
小出氏と奥氏