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日本発!小さくても逆境に勝つ「小さな大企業」スモール・ジャイアンツNo.1

2020/03/23

日本の中小企業に必要な「バディの法則」って何だ?

2017年、世界のビジネスパーソンに愛読される雑誌の日本版「Forbes JAPAN」と電通は、全国各地の未来ある中小企業を発掘すべく、「スモール・ジャイアンツアワード」と名付けたプロジェクトを発足させました。

4年目を迎える同プロジェクトとタイアップした企画として、Forbes JAPAN編集長の藤吉雅春氏、スモール・ジャイアンツアワードの審査員も務めた電通ソリューション開発センターの笹川真氏によるコラムを連載します。第1回は、藤吉氏による寄稿をお届けします。

日本の未来をつくる中小企業、名付けてスモール・ジャイアンツ

「カネがない」「人手が足りない」は組織の大小にかかわらず、あちこちで耳にする悲痛な訴えである(上司への不満と愚痴にも発展するし)。おまけに最近では新型コロナ感染によって、「先行き不透明」という最悪な要素が加わり、世界が苦境にさらされている。

しかし、逆境だからこそお伝えしたいのが「スモール・ジャイアンツ」(日本語で「小さな大企業」)という考え方だ。

カネや人手が不足していても、どーんと飛躍して成功する人たちがいる。環境は最悪だけれど、世に影響を与える仕事を生み出すことはできる。

例えば、弱小と見られていた組織が大きな者に勝つ典型的なストーリーがある。古くは「ダビデとゴリアテの戦い」から、低予算で強豪MLBチームを築いた『マネー・ボール』まで。これらは奇跡ではなく、勝利に至る「理由とプロセス」がある。軍事の世界では、これを「戦理」という。

私は2004年に『マネー・ボール』を読んで以来、この「カネがなくても勝てるチーム」の企業版を描けないだろうかと思い続けてきた。いわば、企業の「戦理」だ。

その10年後、Forbes JAPANの創刊に関わり、3年前から同誌で「スモール・ジャイアンツ」というアワードイベントを始めた。これは電通ソリューション開発センター クリエーティブ・ディレクターの笹川真氏と、「宝の持ち腐れ問題」について話していたときに思いついたものだ。

日本には無名でメディアも注目しないものの、宝の持ち腐れのように世界で勝負できる会社がたくさんある。日本の底上げをやるには、こういう企業にこそスポットライトを当てるべきではないか。そんな会話を続けるうちに、Forbes JAPANと電通の共同プロジェクトが始まった。

その名もスモール・ジャイアンツ発掘構想

組織はスモールでも、価値はジャイアンツの企業。
未来をつくる仕事に取り組んでいる会社を探そうというものだ。条件は、「創業10年以上、売上高100億円未満」の中小企業。全国の目利きに呼びかけて、「未来企業」を推薦してもらい、選び抜くものだ。

3年目となる今年1月、全国決勝大会を丸ビルホールで行った。その模様も記事にしたのが3月25日に発売されるForbes JAPANスモール・ジャイアンツ特集である。校了中、ゲラ刷りを読みながらこう感じずにはいられなかった。

「日本は捨てたもんじゃないな」と。
新型コロナ感染で逆境の今だからこそ、スモール・ジャイアンツの出番だ。そう思えたのだ。

本連載では、これまでForbes JAPANで3年にわたり紹介してきたスモール・ジャイアンツがいかにしてグローバルに羽ばたいていったか、「スモール・ジャイアンツの戦理」を紹介したい。

誰もが「もうからない」と口を揃える業界を変えた男

東京・谷中。下町の古い住宅街を抜ける細い路地を歩くと、小さくて目立たない会社がある。それが従業員30人の高山医療機械製作所だ。同社は世界中のトップクラスの脳外科医が愛用する手術器具をつくる。ハサミなど刃類を得意とし、それ以外にもチタン製の脊髄インプラントなど約70種類の手術用器具を35カ国で販売している。

創業は1905年、社長の高山隆志氏は4代目に当たる。こう紹介すると、「どっこい頑張っている下町の職人技」という情緒的な話と思われるかもしれない。

しかし、ポイントはそこではない。高山氏の代で一気に会社をグローバル化させた同社の戦理は、「標準化」である。

高山氏が話す。
「僕がこの世界に入った30年前、この業界の人はみんな『もうからない』と言っていたんですよ。でも、本当かなと思いました」

30年前、同社は社員3人で年商3000万円。ちなみに高山氏の高校進学時、「姉が都立高校にいたから、都立より学費が安い国立の東工大の附属を選びました」と言うほど、当時は厳しい環境だったようだ。

「18歳の時、小さな鉗子を一本仕上げると、売上げが5000円になりました。月に150万円の売り上げにはなるから結構もうかるじゃないかと思ったんです。これを工作機械で量産化すれば、もっともうかるし、需要の問題は海外で展開すればいい。西洋医学は日本だけではないので、世界で闘えるはず。そう思いました」

高山医療機械製作所・高山隆志氏のポートレート
高山医療機械製作所・高山隆志氏

もうからないといわれていた原因は、「そこに市場があるという意識を誰も持っていなかった」からだ。材質や商品の差別化という発想がなく、錆びないものをつくるというくらいの考えしかなかった。つまり、顧客のニーズを取り入れる発想が欠けていた。

のちに高山医療機械製作所の製品が飛躍的に売れていく理由は、次の二つのプロセスを経ていたからだ。

一つは、機械化である。金属加工は複雑な手仕事の世界であり、機械化は不可能といわれていた。彼は23歳の時に「本場のドイツの工場を見て回って、雇ってくれるところがあったら働こう」という気持ちでスイスに隣接するドイツの町に出かけた。ここで、少人数でも機械化されているメーカーを見たことで「これなら日本でも、自分でできる」と思ったという。帰国後、パソコンと工作機械を購入。何百回と失敗しながら、自動工作するプログラムづくりを連夜行った。

こうして複雑な形状の素材を固定する治具を自作できるようになった。機械にできるものは機械に、職人の技は人間に、と分担をさせて量産化に成功したのである。

もう一つのプロセスが試作である。
1999年、高山氏が社長に就任した35歳の頃、彼は医師のこんな声を聞く機会があった。「すぐに切れなくなるハサミはダメだ」「もっと長く使えるようにしてほしい」。

「だったら、きちんと熱処理した製品を提供しましょう」と、高山氏は医師に提案した。

彼が振り返る。
「執刀医がもつ器具はドイツ製が多く、高い価格で売買されていました。では、執刀医に使ってもらえる器具をつくるにはどうしたらいいか。試作をやるしかないと思い、試作をやりますと広く呼びかけたのです」

当時、どのメーカーも試作をしていなかった。その理由はコストがかかるからだ。手術用器具は少量多品種の世界であり、一つ一つ医者の要望を聞いていたら、手間暇がかかって効率が悪いし、何より採算が合わなくなる。

高山氏が試作を募ると、予想以上に医師からの要望が集まった。そして、非効率という問題を彼は解決していく。

業界の常識を覆した3つの要因

一つは、機械化による生産スピードの高速化だ。ラインを止めずに試作開発と少量多品種の生産を行った。機械化により人間には覚えきれないことがコンピューターによって整理されていった。大量の生産を可能にしたのだ。

次に、常に試作開発を行っているため、毎年、新製品を出すことができる。医師の間で評判になり、展示会では常にブースに黒山の人だかりができた。すると、さらに医師の要望が集まった。医療が高度化してくと考えていた高山氏にとって、最先端の技術が常態的に入り、試作とともに自社の技術も常にトップレベルになる。

そして最大の要因は、最初に出会ったのがプロ中のプロである「匠の手」こと脳神経外科の上山博康氏だったことだ。上山氏と共同開発し、高山氏自身も医学書を読み、手術に立ち会い、試作を行った。こうして「医師の負担を減らして命を救う道具」を次々と開発。特に、なぎなた型の刃をもつ手術用ハサミ「上山式マイクロ剪刀ムラマサスペシャル」は代表作となり、国内のシェア9割を占めるようになった。

なぎなた型の刃をもつ手術用ハサミ「上山式マイクロ剪刀ムラマサスペシャル」

つまり、トップとともに開発を行うことで、それがモデルとなり、フォロワーたちに一気に広まる。「トップモデルによる標準化」を可能にしたのだ。

「世界で闘う方法として、私は量産化ができれば、次に臨床技術が優れたドクターが私を海外に連れて行ってくれると漠然と考えていました」と高山氏が言う。その人物が現れた。上山氏の弟子である脳神経外科医の谷川緑野氏である。

谷川氏がヘルシンキ大学に招聘されて手術を行った。その時に手にしていたのが高山氏の開発による器具である。すると、世界的権威である医師たちがそれを見て、彼の器具を使いたいと言いだしたのだ。こうして北米、南米、欧州、アジアと一気にシェアを広げていった。トップクラスの名医とパートナーとなることが、最高の標準化をつくり上げたのだ。 

「こうやってリクエストが来るんですよ」と、高山氏がスマホを見せてくれた。メッセンジャーで、チリ大学の権威が写真とメッセージを書いて送ってきている。ある時はパリ大学から、またある時はアメリカの著名な病院からスマホでリクエストが来る。「僕の方からも発信できるし、世界の名医からも連絡が来るし、便利になりましたよね」と笑う。このリクエストを図面化して工作機械で作業を始めていく。

「僕がやっていたことは、21世紀に間に合いました。工作機械による機械化をはじめ、ちょっとでも遅かったら、こうはなれなかったと思います」

実はこうしたトップクラスをパートナーにした標準化は、他のスモール・ジャイアンツにも存在する。八王子にあるエリオニクスは、微細加工装置や計測・分析装置の製造会社で、ハーバード大学や東大など世界中のトップクラスの大学やソニーの研究所などをパートナーにしている。最高水準の研究者と対等な関係を構築しているため、ともに進化を続け、フォロワーの大学や企業が同社の製品を使用する。

──誰と組むか。あらゆるヒットは組み合わせで決まる。バディ(相棒)は誰か。バディと生み出したものを標準化できるか。世界制覇のポイントはそんなところにある。

スモール・ジャイアンツ グローバル賞受賞の高山医療機械製作所記事はこちら

Forbes JAPAN 2020年5月号 書影