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食ラボ研究員が行ってみた!未来の兆し体験レポートNo.1

「食」から見える、未来のビジネス

2020/05/15

コロナ禍で大きく変わった私たちの食生活

新型コロナウイルス感染拡大による「緊急事態宣言」が発出されてから1カ月以上、電通はリモートワーク/在宅勤務になって2カ月以上がたちます。私自身、この2カ月以上、一度も公共交通機関を使わずほぼ家で過ごしている中で、働き方はもちろん、食生活も大きく変わりました。

まず、子どもたちが休校になったことでお弁当を作る必要がなくなり、1日3食作るようになったこと。それなりの頻度で入っていた飲み会が一切なくなり、オンラインになったこと。家族で食卓を囲める機会がぐんと増えたこと。一回の買い物量が格段に増えたこと。自宅にあるリーフの紅茶の減りが早くなったこと…。挙げだすとキリがないくらい、その変化はいろいろと出てきます。

これを読んでくださっている皆さんも、多かれ少なかれ、そのような状況ではないでしょうか。

私も飲み会が一切なくなったように、おそらくほとんどの人の外食率はかなり減ったことと思います。そしてそれに伴い、今、外食産業に関わる多くの方たちが困っています。

私もささやかながら、できるだけお世話になっている近所の飲食店のテイクアウトを利用したり、困っている生産者や飲食事業者さんの支援サイトで購入・お取り寄せをするようにしているものの、残念ながら、わが家の冷蔵庫・冷凍庫のキャパ、個人の力には限界があることを感じずにはいられません。

ただ、一人一人の力は小さくても合わせれば大きな力になる、ということもまた事実。困っている生産者や事業者がSNSに投稿すると、全国で支援の輪が広がり、抱えた在庫の商品があっという間に完売している様子を見ていると、社会の課題はその社会に属する人たちで解決しようという気持ちの表れを感じます。

さて、これからスタートする電通「食生活ラボ」の連載記事のテーマは「未来の食」です。実はこの連載記事、今年の3月にスタートする予定で昨年から準備していたものですが、これまで掲載を見合わせてきました。

というのも、このコロナ禍で大きな打撃を受けて困っている多くの人や企業にとっては、目の前の「今の食」をなんとかすることが最優先であり、「未来の食」なんて想定できるものではないと思ったからです。

一方で、ここで取り上げている「未来の食」は、決してキラキラした夢物語のような未来の兆しを語っているものではなく、「社会課題の解決」が根っこにあります。なぜなら、「未来の食」は、今、そして、今後起こりうる社会課題を抜きにして考えることはできないからです。

世界中が未知なるウイルスと戦っている「今」の最大の社会課題は、まさにこのコロナによって起こっているさまざまな事象ですが、少し長い目で見ると、ちょっと先にも実にたくさんの社会課題があり、そしてそれらもまた深刻です。いったんはお蔵入りも考えたこの連載ですが、そう考えると、もしかするとこれからの皆さんにとって何かしらの一助になる可能性もあるのではと思い直し、スタートすることにしました。

本連載は、目の前に立ちはだかっている大きな「コロナ」という壁を越えた「その先」にイメージをはせていただきながらお読みいただけると幸いです。

「未来の食」は、ポジティブ?ネガティブ?

ところで、「未来の食」と聞いて、皆さんはどんなイメージを持ちますか?

食材はオートメーションの無人工場で栽培された野菜や細胞を培養して作られた肉や魚。毎日の献立はAIが考え、調理はロボットがしてくれる。遠く離れた家族ともVR(バーチャルリアリティー)で一緒に囲むことができる…。そんな食卓でしょうか。

いやいや、一粒で十分な栄養素が取れるような完全栄養食が主流になって、食卓なんてものはなくなっているよ、という声も聞こえてきそうです。

イラスト:大嶌美緒(電通「食生活ラボ」)
イラスト:大嶌美緒(電通「食生活ラボ」)

え?そんなのとっくに始まっていて、未来でもなんでもないよって?

では、質問を変えましょう。

「未来の食」は、あなたにとって明るくポジティブなものですか?
それとも、できればあまり考えたくないようなネガティブなものでしょうか。

「未来の食」、それは社会課題のソリューションであり、ビジネスチャンスである

前述の通り、「食の未来」は、今、そして、今後起こりうる社会課題を抜きにして考えることはできません。人口・世帯の減少、高齢化、働く女性の増加、単身世帯の増加などによって、私たちの食が大きく変化していくことは言うまでもないでしょう。世界に目を向けてみると、爆発的な人口増加や温暖化による食糧不足は必至です。食料の大半を輸入している日本にとっては、決して他人事ではありません。

社会課題なんていうと、なんだか小難しい感じがするかもしれません。でも、「食」は人間の三大欲求のひとつであり、生きるためだけでなく楽しみにもなり得るもの。日々の生活の中で食べることが一番の楽しみ!という食いしん坊な私にとっては、将来それが損なわれてしまうかもしれない…なんて、考えるだけで居ても立っても居られません。

だからこそ、来る社会の課題解決を目指し、より豊かなものにしていくことこそが、「未来の食」に求められていることだと私は考えます。そしてそこには、当然ビジネスチャンスもあるはずです。

もちろん、それは一筋縄ではいかないことも確かでしょう。これまでの延長線上で、従来通りのことをしているだけではおそらくうまくいきません。2015年に国連総会で採択された持続可能な開発目標(SDGs)や経団連のSociety 5.0でもうたわれている通り、そこには、これまでになかったアイデアやイノベーションが必要です。

そのために大事なのが、発想の転換、未知のものへのチャレンジ、テクノロジーを駆使すること。

食のイノベーションを起こすためのテクノロジー、いわゆるフードテックの市場はここ数年急成長しています。それもそのはず、これからの社会課題解決のためには、それが不可欠だからです。

例えば、担い手の減少・高齢化が進む農林水産業においては、作業負荷を下げるためのロボットや効率化を図るためのITの導入がますます求められるでしょう。共働きや一人暮らし世帯がメジャーになれば、調理の担い手が変わるだけでなく、調理そのものがテクノロジーに頼る方向へシフトすることは想像に難くありません。調理器具として一家に一台3Dフードプリンター、なんて時代もそう遠くない未来かもしれませんね。今注目されている代替肉も、CO2の削減、ひいては地球温暖化対策のソリューションのひとつです。

イラスト:大嶌美緒(電通「食生活ラボ」)

イラスト:大嶌美緒(電通「食生活ラボ」)

「未来の食」は「未知の食」。未来を明るいものにするためにも、まずは「知る」ことから。

では、そういった兆しが見え始めている「未来の食」に対して、世の中の人はどう感じているのでしょうか。

2018年11月に実施した「食生活ラボ調査※」によると、期待感よりもまだまだ抵抗感の方が強く、ネガティブに捉えている傾向がうかがえます。

食生活ラボ調査

例えば、3Dフードプリンターによる食事に対しては、半数近くの人が「食文化が壊れそう」「気持ちが上がらない」「倫理的によくなさそう」といった理由で抵抗感を感じています。人間は未知のものに恐怖心を覚えるので、ある意味では当たり前の結果といえるかもしれません。

「未来の食」を明るいものにしていくためには、行政も、企業も、生活者も、関わる全ての人が意識を持って取り組んでいくことが望ましいといえるでしょう。でも、その実態を知らないままでは前に進めません。

未知へのチャレンジは、まず「知る」ことから!
ということで、本連載では、電通「食生活ラボ」の未来食プロジェクトのメンバーが、今見え始めている食の未来の兆しを自らが体験し、レポートします。

次回、第1回のテーマは、「昆虫食」。
世界的な食糧難、特にたんぱく質不足が懸念される中で、貴重なたんぱく源食材として注目される昆虫ですが、本当に未来の食の救世主になり得るのか!?
食ラボの加藤研究員が体当たりでレポートします。お楽しみに。

第6回「食生活ラボ調査」
調査方法 インターネット調査
調査期間 2018年11月16日(金)~18日(日)
調査エリア 全国47都道府県
対象者 15~79歳
サンプルサイズ 1200人
調査期間 株式会社ビデオリサーチ