実際どうなの?未来のスーパーフード、昆虫食
2020/05/29
本連載は、当初3月スタート予定で昨年から準備していたものです。
目の前に立ちはだかっている大きなコロナという壁を越えた「その先」にイメージをはせていただきながらお読みいただけると幸いです。
食生活ラボの未来食プロジェクト、「食ラボ研究員が行ってみた!未来の兆し体験レポート」連載の第1回は、「昆虫食」がテーマです。食ラボ研究員のわたくし、加藤が体当たりで挑んできました!
まず、みなさんは昆虫食と聞いて、何を思いますか?
「おいしそう」「よだれが出る」という人はきっとまだまだいないと思います。多くの人が「気持ち悪い」「ゲテモノ」「無理」といった反応ではないでしょうか。
そういった反応の裏には、「そもそもなんで昆虫を食べなければいけないの?」といった疑問があるかと思います。
なんで昆虫食って注目を浴びているの?
昆虫食をはじめ、今出てきているフードテックのほとんどは、これから起こる社会課題を解決するために開発が進められているものです。昆虫食についても同様で、特に言われている課題としては「タンパク質危機」への対応です。
「タンパク質危機」とは、グローバルな人口増加/中間層の拡大により、世界的に肉や魚の消費量が拡大し続けており、2025〜30年には世界中でタンパク質の供給が需要に追いつかなくなる現象です。
昆虫は食用に飼育するのに環境負荷が非常に低い一方で、タンパク質をはじめ栄養価が非常に高いので、この問題の解決策として注目を浴びているのです。(下図参照)
さらに、昆虫食の歴史は長く、世界中のあらゆる国で実に2000種を超える昆虫が食べられています。食歴の長さというものが、食品としての安全性も担保しているのです。
このような理由で、昆虫は非常に優良な食材であることは何となく分かっていただけたとは思いますが、それでも、多くの人にとっては「食べる意義は分かったけど、絶対に食べたくない」というのが本音だと思います。
みなさんの「実際どうなの?昆虫食」にお応えして、昆虫食先進国のタイで実際に昆虫食を体験してみました。
昆虫嫌いな私が昆虫食を体験することに in タイ
まず、体験談を始める前にみなさんにお伝えしたいことは、
実は、私は「昆虫嫌い」ということです。
基本的に小学生以来ちゃんと昆虫を触ったことはないですし、昆虫を触りたいと思ったこともありません。もちろん、食べたことなんかありません。
そんな私が、「初めて昆虫を食べ、最終的には10種類を超える虫を食べられるようになるまでに何を感じたか。」にフォーカスを置いてタイでの話をします。
あまりに高すぎる最初の一口の壁
タイではレストラン、市販スナック、屋台、市場など、さまざまな形での昆虫食の視察・体験を予定していて、今回は仕事で来ているということもあり、その場に行けばサクッと食べられるのではないかと最初は思っていました。
しかし、最初に行った市場での昆虫卸のお店で、衝撃を受けてしまいました。
山積みにされた大量の昆虫、黒光りした見た目、想定以上の大きさ、完全にノックダウンです。正直、生きていく中で、食べることはおろか、一生関わりたくないと思いました。
完全に別世界の食べ物に見える昆虫を前に、これから私がこれを食べることに対して、強い絶望感を感じました。
この市場での視察を経て、完全にたじろいでしまった私は、夜の昆虫食レストランを楽しむ前に、まずは練習として昆虫屋台で実食する予定でしたが、それに対しても完全に弱気に。
タクシーなら10分かからない距離の屋台にも、30度を超える炎天下の中、わざわざ1時間以上もかけて歩き、その道中も、「どうにか食べないで帰ることはできないのか」「食べた風にしてレポートできないのか」など、食べなくて済むさまざまな方法を探し続けていました。そのくらい、私にとって「昆虫」という未知の食べ物を口にすることに対して、ただただ強く恐怖と嫌悪を感じました。
気持ちを後押ししてくれた二つの救世主、「市販化」と「口コミ」
昆虫屋台があると言われていた場所に着くと、屋台は夜からの営業であることが判明。
正直、食べなくてほっとした一方で、このままでは夜に行く予定の昆虫レストランでも手を付けられないのではないかと思い、悩んだあげく何とか最初に食べたのは、こちらの昆虫スナック。
タイではコンビニでも売られているスナック菓子で、蚕のさなぎとコオロギの2種類があります。昆虫を食べることに強い恐怖を感じていましたが、何とか食べることができたのは、「市販された商品への安心感」のおかげでした。
たとえ昆虫でも、パッケージされて、市販化されている食品は、私たちに強い安心感や信頼感をもたらしてくれます。
恐る恐る食べたスナックでしたが、BBQ風味だったこともあり、ちょっとクセのあるポップコーンくらいの感覚です。蚕のさなぎは、独特の風味が、「土臭さ」と表現される味であり、コオロギはエビなどの甲殻類のような味でした。
とはいえ、これは乾燥加工され、市販化された昆虫スナック。真の意味で昆虫を食べたとは言えません。この後行く昆虫食レストランへの不安感はまだぬぐい切れませんでしたが、そんな私の気持ちを大きく変えてくれたのが「口コミ」でした。
次に体験することにしていたのは、世界でも最先端の高級昆虫食レストラン。
お店への移動でタクシーに乗っている間に、お店の口コミを確認していると、世界中の人たちが「本当に素晴らしい料理」「食材の昆虫が料理に本当に合っている」などと絶賛していて、読んでいるうちに不安はなくなり、むしろ人気のラーメン店に並んでいるような、これから出合う新しいおいしさに対するワクワクと好奇心が生まれていました。
この「口コミ」の力は大きく、タイに駐在している日本人の友人を昆虫食のことは黙ってこのレストランに連れてきていたのですが、最初は昆虫食と知って大いに嫌がったものの、口コミを見せると意外にもすんなりとトライ。
「市販化された商品への安心感」と「口コミの効果」というものが、最初のハードルを越える大きな助けとなってくれました。
パッと広がる昆虫食の世界に、急速に気持ちが適応
レストランでは、昆虫をふんだんに使用したフルコースを注文。料理は全6品と口コミでオススメされていた「コオロギジェノベーゼパスタ」を追加で注文。さらには、昆虫を使ったお酒も2品注文。
最初のナチョスが到着した際には、「あ、本当にムシがきれいに皿にのっているんだ」と、昆虫食レストランでは当たり前のことに対して、新鮮な驚きを感じました。美しい盛り付けでかなり抵抗感が下がっており、最初の一口は抵抗なく受け入れられました。
料理を食べて最初に思ったのは、「え、昆虫とか抜きにしてめちゃくちゃうまい!」ということ。
・コオロギは甲殻類などの香ばしさのあるトッピング
・竹ムシは塩味のきいたフライドポテトのような味の添え物
・アリの卵は白子のような滑らかな味わいのソース
として、それぞれが料理を引き立てます。
どんどん来るおいしい料理を食べ進めながら、昆虫を食べることへの抵抗感がどんどんと下がっていくのを感じていました。昆虫食の中でも高級な食材で有名なタガメ(写真右上)が出てきた時も、どの昆虫よりも大きく迫力があり、少しゴキブリにも似ているように感じる見た目からは想像できないフルーティーな風味があり、とてもおいしかったです。
フルコースが終わるころには、もはやどんな昆虫が出てきても怖いものなしと本気で思えるほどに気持ちが順応していました。
緊張から解放され、昆虫食への純粋なる好奇心へ
レストランでの食事を終え、完全に昆虫食に抵抗がなくなった私は、より素材としての昆虫の味を試してみたいと思い、向かったのは、昼間にトライしようとした昆虫食の屋台。
レストランでは丁寧に調理されていて、基本的には揚げたものが多かったのに対して、こちらは乱暴に焼いて塩をかけた程度で、よりリアルな昆虫の味を味わえるものです。
種類としてはレストランで食べた昆虫も多くありながら、追加でサソリやタランチュラなどを体験。よりリアルな昆虫を食べた感想としては、お肉でいうジビエのようにクセが強く、かなり土臭く、おいしいとは言いづらいものでした。
特に、サソリは臭みが強く吐き出しそうになりました。タランチュラに関しても、味以上に表面の毛がかなり気持ち悪く、こちらもおいしいとは思えなかったです。
リアルな昆虫の味には正直面くらった部分はありましたが、これを食べているときにはすでに私は抵抗感がなかったので、むしろ周囲のヨーロッパから来た観光客の人が物珍しそうにこちらをじろじろと見てくることで、なぜだか得意げな気分に。
わずか半日の間に、昆虫を食べることに対しての気持ちが
「恐怖/絶望⇒緊張/不安⇒解放/好奇心⇒楽しい」と大きく揺れ動きました。
食材を食べることだけでこんなに気持ちが動くという経験は今までになく、タイでの昆虫食経験は非常に新しい経験でした。
「昆虫食が今後ビジネスチャンスになるために」
現在、国内においても昆虫を使った商品開発を、ベンチャー企業のみならず大企業でも始めています。そして、今後こういった活動は拡大していくことが予想されています。
一方で、人々の現状としては、65%が昆虫食を「嫌だと感じる」と答えており、すぐにビジネスチャンスへとつなげるのは厳しいです。
昆虫食が今後国内でビジネスチャンスとなるためには、三つの重要なポイントがあります。
一つ目は、「見た目にとらわれず、原材料として活用すること」
というのも、昆虫食を嫌だと思う人の最大の理由が「見た目が気持ち悪い」という理由です。
確かに、私も「仕事として来ているから」という背景がなければ、見た目に臆してしまい食べられなかったと思います。
一方で、現在の昆虫食ベンチャーは、「コオロギブラウニー」「蚕バーガー」など、昆虫を成分や材料として活用した商品を販売しており、見た目に対する抵抗感をできるだけ取り除いています。今後はこのような用途が拡大していくことが予想されます。
二つ目は「ちゃんとおいしくすること」
そもそも、食品としてビジネスに定着するためには、やはりおいしいことが大前提です。昆虫という未体験の食材も、その食材ならではのおいしさを持っていると聞けば、興味を持つ人は多くいるはずです。
データを見てみても、現在、昆虫食に興味を持っている人のその理由として、「食文化として豊かになりそう」「食の楽しみ方が広がりそう」という声が多かったです。食への好奇心をくすぐるような、おいしい食材になれるかどうかが非常に重要になります。
実際に国内では、昆虫自体の品種改良を通じて、おいしい食材に作り上げていく動きがあります。
三つ目は「食材としてプラスアルファの効果があること」
美しい見た目、おいしい味、これだけでも十分に興味を持つ人がいると思いますが、それでもなお、昆虫の気持ち悪いイメージがぬぐい切れない人もいます。
そのような人でも試したくなるように、カラダへ良い効果がある、というのはどうでしょうか。昆虫には、多くの健康成分が含まれていることが分かっており、蚕には若返りやダイエットへの効果のある美容成分が入っているだけでなく、認知症や高血圧などに効く健康成分もあります。さらに、昆虫のエサを調整することで、さらなる健康成分を取り込むことも可能といわれています。
このような昆虫の健康効果を今後、より一層解明していくことで、昆虫の食材としてのチャンスは大きく拡大していくことになります。
昆虫食が、国内において「気持ちが悪いゲテモノ」のイメージを脱して、新たなビジネスチャンスとなる可能性は、大いにあると思っています。この記事を通じて、昆虫食が当たり前になる将来が少しでも近づけばうれしいです。