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食ラボ研究員が行ってみた!未来の兆し体験レポートNo.3

レストランは食べるための場所ではなくなる!? withコロナ時代のフードエンターテインメントとは?

2020/06/26

食生活ラボの未来食プロジェクト「食ラボ研究員が行ってみた!未来の兆し体験レポート」連載の第2回は、「レストラン・フードエンターテインメント」がテーマです。食ラボ研究員の渡辺がお届けします。

当初、3月を目標に、テクノロジーがレストランをどう進化させるのか?という視点で、都内レストランの体験レポートを書く予定でしたが、コロナウイルスの影響が大きくなり、このタイミングでの掲載となりました。

コロナの影響を受け、レストラン自体の存在が危機的な状況となっている中、レストラン・フードエンターテインメントの未来予測は大きく変わろうとしています。

今回は、体験レポートを振り返りながら、withコロナ時代におけるレストラン・フードエンターテインメントがどんな未来を迎えるのか先読みしたいと思います。

空間を拡張するテクノロジーの活用

レストランエンターテインメントの代表格といえばARやプロジェクションマッピングなどの技術を駆使し、空間を拡張させる演出で、私たちを楽しませてくれるというもの。

今では、プロジェクションマッピングはそう珍しいものではありませんが、「食」と一緒になった場合、いったいどんな感覚になるのか。食べるという行為にどんな変化や新しさをもたらしてくれるのか、実際に体験してきました。

プロジェクションマッピングを活用したレストラン
プロジェクションマッピングを活用したレストラン


頂くのは「食べ物」だけではなく、「ストーリー」

今回、都内にある二つのレストランを訪れましたが、プロジェクションマッピングで投影された空間は、まるで別世界にいるかのような感覚になります。どちらもコースメニューで提供しており、ウエルカムドリンクからデザートまで、食材の選び方、調理法や味付け、食べ方に至るまで緻密にストーリーがつくられています。

自分が空間の一部となり「ストーリーを食べる」という体験をすることができます。

ストーリーの切り口はそれぞれのお店で違うのですが、一方のお店では、食べる前から物語がスタート。案内人について暗闇の部屋に行くと、そこにはこれから始まる物語のプロローグが準備されており、世界観に没入する仕掛けを設けていました。

食事が始まるまでの導入として、別室で物語を読んだり演じたりする
食事が始まるまでの導入として、別室で物語を読んだり演じたりする

自分がストーリーの一部になった感覚で食べる料理は、まるで観劇をしているような楽しさがあります。

運ばれてくる一皿ごとに進むストーリーのおかげで、そこに込められた料理人の思いや構想が情報としてインプットされるので、より繊細に感じ取ることができました。

テクノロジーで「旬」を拡張

また、日本の四季の移り変わりを体験の軸としているお店では、お皿の料理だけではなく、テーブル、空間全体を使って味わうことになります。

風、鳥、虫の声と共に、空間いっぱいに投影される自然。
都内に居ながらにして、違う場所へと旅に出た感覚です。
インタラクティブな要素もあり、その空間との関わりに感覚が刺激されます。

お皿を置くと川の流れが変わったり、本当に水を触っているような感覚になる
お皿を置くと川の流れが変わったり、本当に水を触っているような感覚になる

食に「旬」は欠かせないものですが、環境全体を使って季節を感じることによって、自然の尊さや有難みを更に感じることができました。

このように、テクノロジーと共に進化するレストランエンターテイメントは、「おいしい!」だけではない、その先に「楽しい!」があることを実感しました。

そしてそれをつくり出すのは、お店を入った瞬間から出るまで完璧な体験設計です。空間拡張や演出もこの体験設計の上に成り立っています。

テクノロジーが可能にする近未来レストラン

体験設計に関しては、他にも事例があります。

中国では完全無人のロボットレストランが誕生しています。料理の注文から、会計、調理、配膳、サービスをロボットにより自動化し、サービス・品質を標準化した最新型レストラン。お客さんは自分のスマホアプリで、注文と同時に会計も完了できるという徹底ぶり。中国全土で着実に店舗数を増やしています。

ちなみに、今後は無人スーパー、そしてスマート物流を組み合わせることで、消費、物流、飲食業のビッグデータを活用したスマートコミュニティーの構築とスマートシティーの実現を目指しているそうです。

「便利」というエンターテインメント

これらの無人レストランでの体験を想像すると、全行程をロボットのみで対応するという近未来感があるだけはなく、レストランでありがちな、

・店員さんを待つ時間
・混雑時、料理が届くまでの長い時間
・会計をする時間

などの無駄な時間がなくなるので、ストレスも減るに違いありません。

テクノロジーの力を借りて、徹底的に無駄な時間を減らし便利にする。
未来の食事をさらに楽しくする要素として、「スムーズ」かつ「便利」に体験できるということは、エンターテインメントの大事な要素になるのではないかと思います。

withコロナ時代にレストランの未来はどうなる?

これを書いている6月現在、コロナの影響はまだゼロにはなっておらず、都内のレストランは条件付きの中で試行錯誤の営業をしています。

外食業の事業継続のためのガイドライン」(発行:日本フードサービス協会、全国生活衛生同業組合中央会)には、飲食店事業継続のためのさまざまな事項が記載されています。

例えば、飛沫感染予防のための、パーテーションの設置。さらには現金でのやりとりを避けるため、可能であれば電子マネーなどの非接触型決済を導入するなど。

今後は、withコロナ時代にマッチした対策と配慮をしながら、レストランでの体験設計を模索する必要があります。

「場」の価値はどう変わるか?

レストランという「場」の価値が大きく変わっていくことを感じさせる、こんな事象もありました。

アメリカでは宅配専門「仮想レストラン」という業態があり、コロナの影響で宅配注文が増加。実はこの仮想レストラン、大手飲食店のキッチンで作られたものを別の名義で提供したり、シェアオフィスのように他の飲食店とキッチンをシェアするというもの。なので、地元のピザ店だと思って注文したところ、実は大手チェーン店で作られたものだったと判明するということが起きています。

地元のお店の支援をしたくて頼んだのに、その実態は大手チェーン店であったことから、利用者からの批判があるものの、コロナ禍の困難に立ち向かう飲食業界にとっては、場所や土地代、給仕するスタッフの必要ないためコストを圧縮でき、今後も増えると予想されています。

仮想レストランの可能性

生活者の認識と実態がかみ合わない部分を解消する必要はありますが、「仮想レストラン」という概念、何か新たな可能性を感じませんか?

オンライン飲み会などの経験を得て、「場」にとらわれない集い方に注目が集まる中、テクノロジーの進化と普及で、自宅に居ながらにフードエンターテインメントを楽しめる可能性は一段と広がるでしょう。

オンラインでの仲間との集まり方、さらには、同じ仮想空間に集まる人同士のつながり方。食事の提供の仕方と自宅での再現性の工夫。レストランからのおもてなし、ホスピタリティーに至るまで。

料理人だけではなく、テクノロジストや演出家とのコラボレーションで、新しい体験設計の可能性は広がりますし、自宅がレストランの役割を果たす、なんてこともあるかもしれません。

一方で、それによって、レストランの「場」の価値が下がるでしょうか?

私はそうは思いません。むしろ、今以上に意味を持つことになるのではないでしょうか。今後、人が集まるような場は神殿化され、リアルでしか体験することのできない食事の幸福度は増し、貴重に、そして尊いものになっていくでしょう。

未来のレストランのニューノーマル、そして新しい体験が今後どのようなものになるのか、とても楽しみです。

最後に

タイトルにある、「レストランは食べるための場所ではなくなる!?」という問い。当初は、主に、テクノロジーによる体験の拡張の可能性を込めていましたが、withコロナ時代においては、人との結びつきを強め、確かめる場所という意味が強くなるのではないか…と思っています。