loading...

通販広告と心理学のタッグで見えてきた「現代人の購買心理」No.6

知らない人は必ず失敗する、通販で売るために不可欠なこと。

2020/06/23

通販広告と心理学、異色タッグのプロジェクトチームが、3年かけて通販広告のデータを解析。その成果をまとめた『売れる広告 7つの法則』(光文社新書)より、全7回シリーズでトピックスをご紹介します。

ここのところよく「新しくEコマースを始めたいんだけど、どんなこと気を付けたらいい?」という相談を頂きます。そんな時に私が必ず答えるのが、「遠慮なく○○を伝えた方がいいですよ」ということ。すると、たいていの方が、「えっ、そうなの?」とか「逆効果じゃないの?」といった反応を示します。

その○○とは何なのか。

気になる答えは、「価格」です。通販においては遠慮なく価格を伝えることが、とても大切なんです。

今回は、そんな「価格」にまつわる買い物行動の研究に長く取り組んできた電通九州の伊地知隼也が、価格と心理の不思議な関係について解説いたします。

価格と心理を貫く本質、それが「対価」という考え方

はじめまして。伊地知です。唐突ですが、先日、車を購入しました。

以前から欲しいと思っていたけど、金額的に買えなかった車。ですが最近、「新型が登場し旧型になったため価格が下がった」と、ディーラーさんから連絡が。ならば、と出かけた店頭で、見事に速攻でサインしてしまった、というわけです。

いきなり個人的な話から始めたのには理由があります。それは、この買い物体験の中に、価格と心理を貫く本質が隠されているからです。

実は、人はモノを気に入るだけでは、買うという行動を起こしません。気に入ったモノの価格を提示され、それが妥当だと判断する、つまり“「対価」が適切だと判断して初めて”、買うという行動を起こすのです。

それを如実に示すのが、通販の広告に必ず存在する「CTA」というパーツです。

「CTA」とは、直訳すると「Call To Action」すなわち「行動を呼びかける」という意味。

その言葉通り、価格を伝えてフリーダイヤルに誘引するブロックが、通販のCTAです。テレビショッピングなら番組の最後の方、折り込みチラシなら左下の方、ランディングページなら途中途中の複数個所に、まさに顧客に行動を呼びかけるべく、目立つ文字色、目立つデザインでCTAは設置されています。

なぜ通販広告に必ずこのCTAがあるのかというと、答えはシンプル。そう、CTAがあった方が圧倒的に売れるからに他なりません。実際にCTAに直面することで人がどのくらい買いたくなるのかというと、次の通りです。

CTA図
上図は、とあるテレビショッピング番組を200人に見てもらい、「いいね」「悪いね」「買いたいね」の三つのボタンをリアルタイムで押してもらった結果を集計したもの。

この中で「買いたいね」ボタンは、文字通り「買いたい」と思った時に押されるわけですが、図を見ると、この「買いたいね」ボタンがCTAの部分で急激に高まっているのが分かります。価格を強調し、特典をアピールし、フリーダイヤルの紹介へと矢継ぎ早に展開したCTA部分で、「買いたい」という感情が激しく揺さぶられているわけです。

買う=「価値」に対して「対価」が妥当だと判断すること

なぜ人はCTAに直面することで、買いたい気持ちが高まるのか。カギを握るのが、先ほども触れた「対価」という考え方です。

人の購買行動は大きく分けると、商品の「価値」を認識するステップと、商品を手に入れるために払う価格、つまり「対価」が妥当かを判断するステップに分けることができます。身近なところでいうと、洋服屋にディスプレーされたシャツを見て「気に入った」と思うのが「価値」の認識で、シャツについている値札を見て「しかも安い!買いだ」と思うのが「対価」の判断だ、ということです。

冒頭の車を購入した話も、最初に見て「カッコいいなこの車!」と思った時点では対価がまだまだ高過ぎたということですし、新型の登場により価格が下がったことで、対価が妥当なものになったため、迷わず買ってしまったのだ、と捉えることができます。

実は、先ほどご紹介した通販広告の反応データも改めて見直すと、価値の伝達と、対価の提示の双方がうまく機能していることが見て取れます。

CTA図2
前半部分の商品の特徴や効果を紹介する場面で、「いいね」が向上しているのは、まさに価値の伝達がうまくできたことを意味します。また、CTA部分での「買いたいね」の向上は、対価の提示がうまくでき、的確に「買おう」という気持ちをつくり出せたことを表しています。つまり、価値の伝達と対価の提示の両方がうまくいったからこそ、この広告は、「売れる」という結果を出すことができたのです。

「価値」の認識と「対価」の判断の流れをモデル化すると

人は商品の価値の認識をした後、「対価」が妥当かを判断してから買う決断をする、という流れをモデル化したのが、本シリーズを通して紹介している「A・I・D・E・A(×3)」モデルです。

AIDEA×3
前回までに紹介してきた、「A」「I」「D」「E」の各ステップで商品の価値を認識したのち、人は対価が妥当かを判断する第5ステップへと移ります。そして、この5ステップ目で対価に納得して初めて、「買う」という行動が発生するのです。

前半の4ステップ目まではあくまで、商品を気に入る、好きになる、欲しいと思う、という状態にすぎず、そこから一歩進んで買うという「実行動」を起こすには、対価を提示して判断してもらうというステップが欠かせないのです。

そう考えると、この第5ステップの略称は、「Action(行動)」よりも「Price(対価)」の方が分かりやすかったのでは、という気もしますが、先輩が考えたモデル名なので、そこは触れないでおきます…。

なぜ通販でのみ、「遠慮なく価格を伝えた方がいい」のか

ところで、そんなに対価の提示が大事なら、通販以外の広告にもCTAがあってしかるべきな気がします。ですが、現実的には通販以外の広告では、まずもってこのような価格の提示の仕方を目にすることはありません。これはいったいなぜなのでしょうか。

そこに潜むのが、「非対面である」という通販の特質です。

実は、人間の脳は、判断や決断、熟慮といったストレスのかかることを避けるようにできているといわれます。とにかく「楽」を志向するのが、われわれの脳みそなのです。

それに対し、対価を提示され、決断を迫られることは、本質的には重圧のかかる状況です。これが、逃げることのできない「対面」で行われた日には、そのストレスたるやかなりのモノ。楽をしたい脳からすると、このような場面に直面すると対価の判断どころじゃなくなるでしょうし、そもそも事前に危機を察知して、そのような場面に近づかないという予防策を講じるかもしれません。

つまり、「対面型」の商売においては、対価の提示は、できる限り脳にとってストレスがかからない形、脳が嫌がらずに対価を判断してくれるような工夫が欠かせないのです。車やバッグなどの高額商品の広告に、対価すら記載されないことが多いのは、まさにお客さまの脳に配慮した結果だといえるのです。

翻って通販の場合はどうでしょうか。「非対面型」だからこそ、ある程度強く価格を提示されたり、購入の判断を迫られたりしても、そこまで重圧に感じることはありません。むしろ決断を避けようとする脳みそに対して、今だけ、数量限定、といった「今決断すべき理由」を提示することで、逃げずに判断してもらうことができます。これこそが、「非対面型」の通販においてのみ、CTAが機能する理由です。

いかがでしたか。「通販では遠慮なく価格を伝えた方がいい」という話を聞いても、もう冒頭のように違和感を覚えることはなくなったのではないでしょうか。

急激な生活のリモート化により、今後、通信販売の導入を検討されている方も多いと思います。通販にはこのほかにも、「非対面」という特殊な状況に起因するさまざまなノウハウがあります。その詳細を余すところなく紹介したのが、『売れる広告 7つの法則』。私も、調査や仮説立てなどで深くかかわった本なので、ご興味のある方には、ぜひお読みいただけると幸いです。