ビッグデータは、広告会社にとって敵なのか?味方なのか?No.3
広告会社とITベンダーの業務提携の潮流からみえてくること
2014/02/12
昨年、広告会社とITベンダーのビッグデータ領域における協業に関する記事が、経済紙の1面をかざることが多かったことにお気づきでしょうか。電通も富士通株式会社(以下、富士通)との業務提携を昨年5月に発表しています(※1)。
今回は、まるで両極に存在するかのような文化・慣習を持つ広告会社とITベンダーが、なぜ協業するのか、そして協業して何が起こっているのか、さらに今後の展望などを中心にお伝えしていきます。
広告会社とITベンダーの協業の目的
「2017年までにCIO(情報システム部門)よりもCMO(マーケティング部門)がITに投資する時代が来る」とガートナーが発表をしています。広告会社としては、マーケティング領域におけるクライアントのIT投資に対し、総合マーケティングソリューションを提供できる体制づくりが急務です。
企業の基幹システムとフロント系システム(eコマース、顧客管理、販売管理など)、そしてユーザーとのインターフェースとなる販売チャネル(ウェブサイト、SNS、アンケート、店舗など)などが連携し、社内外に存在する情報が統合されつつある中で、「マーケティング」の定義もこれまでは販売戦略やプロモーションを指していましたが、これからは企業のサプライチェーン全体のデザインと活動の最大化・効率化へと変化してきていると感じます。
企業のサプライチェーンにおいて、基幹・フロント系システムは情報システム部門、販売戦略やプロモーションはマーケティング部門が担当しているケースが多いです。マーケティング活動を一気通貫で機能させるには両部門の連携が必須ですが、うまく連携できないケースが多いようです。その中で、情報システム部門をサポートするITベンダーと、マーケティング部門をサポートする広告会社が、共同で企業をサポートする体制は、情報統合活用を推進する大きな一歩だと考えています。
協業してから何が起こっているか
当社と富士通の協業活動が開始してから半年以上がたち、流通、自動車、エンタテインメント業界を中心に、多数の取り組みを行っています。取り組みを通じ、主だって感じたことを紹介したいと思います。
【1】共通言語が必要
企業における営業管理基盤を構築するプロジェクトなどで、企業の情報システム部門の方々とご一緒することが多くなりました。
両者の慣習の違いとして、例えば、広告会社が日頃取り組んでいるキャンペーン型のシステムと、企業における永年型の基幹型システムでは、開発工程や納品物の考え方がまるで違うため、互いの共通言語をつくる必要があります。まだまだ時間がかかり課題も多いのですが、ITベンダーや企業のマーケティング部門の方々のご協力をいただきながら進めています。
【2】データの種類・量の違い
ITベンダーのビッグデータは、家電ログデータ、エネルギーデータ、自動車走行データ、ID-POSデータといったモノに関する全数ベースの膨大なもので、広告会社がこれまで向き合ってきたデータとは種類も量も違っていました。巨大なシステムリソースを所有するITベンダーでしかハンドリングできないようなデータをマーケティング改善や新事業開発のデータとして検討対象にできることで、広告会社としての活動の幅や視野が広がったように思います。
【3】センサー系技術によるマーケティング
ITベンダーが所有するセンサー系技術は、想像以上に様々な人の状態や動きを計測することができ、顧客の潜在的な意識や行動を浮き彫りにするための調査や観察に活用できます。また前回お伝えした、顧客経験価値(カスタマーエクスペリエンス)を最大化させるための顧客管理のソリューションとして活用が可能になるなど、ここでも活動の幅や視野が広がったと思います。
より顧客を動かすデータとして活用できる環境を創る
今後、広告会社とITベンダーの協業からどのようなことが生み出されてくるのでしょうか。
個人的には、情報統合範囲が企業外に飛び出し、外部データと連携する「(プライベート)DMP」(※2)構築の推進があげられると思います。企業が所有するリアルデータと外部のデジタルデータが統合し、さらには「DSP」(※3)など広告配信プラットフォームや「O2O」といったスマートデバイスへの情報配信の仕組みと連携することで、企業が所有するビッグデータを、より顧客を動かすデータとして活用できる環境を共に創り上げることが今後の展望です。
また「O2O」のその先には、流通業界が取り組む「オムニチャネル」(※4)化実現があります。広告会社によるリアルとデジタルのコンタクトポイントのつながりを設計する顧客視点の発想と、ITベンダーによる在庫や顧客や流通の管理システムを実現する力のシナジーで達成を目指していきます。(もちろんそこには課題が山積しておりますが)。
次回はこのO2O領域に関してお伝えしていきます。
(※1) 電通と富士通、ビッグデータを活用したマーケティング領域の事業で協業
(※2) Data Management Platform 企業が自社独自のマーケティングデータを集約する基盤
(※3) Demand-Side Platform ディスプレイ広告の効果最大化を支援するツール
(※4) オムニチャネル 実店舗やオンラインストアなど、あらゆる販売チャネルを統合すること