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【グローバル】世界の潮流はニュー・ノーマルへNo.5

会わなくても生み出せる?オンラインでの信頼関係のつくり方

2020/08/19

電通では2月末から在宅勤務が始まった。私が所属するグローバル・ビジネス・センターは、新型コロナウイルス感染拡大以前から他部署よりテレワークを活用していた人が多く、週2は在宅という人が身近に複数いた環境だった。しかし、毎日となると話が違う。全ての会議がオンラインのみであることに、戸惑う人も多かったのではないだろうか。

誰にも会わないと、陸の孤島で仕事をしていても都内で仕事していても同じ状態。国境も会社という枠組みも、デジタルを通すとあいまいに少しずつ溶けていく。誰とでもどこでも仕事が自由にできるというメリットがある一方、共同体の一体感やカラーを形成しづらいというデメリットも存在する。

幸いにも私は、コロナ禍の前から海外拠点メンバーとオンラインに比重を置いて取り組む二つの社内研修に参加していたので、今回は、そこでの共同作業から得られたノウハウを共有したいと思う。

1対1で遠隔でパートナーと取り組むYIW

私が参加した社内研修の一つ目は「Young Innovators Workshop」である。これは、ソリューション・クリエイティブに関わる若手を中心とした、グローバル人材育成のためのワークショップ。課題および海外拠点のパートナーが発表されてから約2カ月間で、日本の参加者と海外の参加者がタッグを組み、企画・プレゼンに臨む。

初対面の2人が遠隔でオンラインツールを駆使しながらソリューションアイデアを立案し、プレゼンテーションを作成。2カ月後のワークショップ本番で、初めて日本で対面する。そして、来日している海外拠点のECD(エグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター)に英語でプレゼンを行い、コンペ形式で順位が決まるのだ。

私はオーストラリアにある海外電通グループのクリエイティブエージェンシー、BWMのアートディレクター、Ishaとパートナーを組むことになった。BWMは2015年に海外電通グループに参画した会社であり、オンラインツールも電通ジャパンネットワークと統一されていない。まず普段、何のツールを使っているか、から会話が始まった。

「Evernoteは使っている?」
「アカウントはあるけどあんまり使い慣れてないかも…」
「TeamsはBWMと上手く連携できていないみたいだからIT部門にメールしてみる。とりあえず今回はFacebookでコールしよう」

まず「お互い何者なの?」ということを知るため、LinkedInとFacebookの申請は素早く実施。しかし、同じグループ会社とは思えないくらいぎこちなさ満点でつながった私たち。

さらに、私たちのグループにアドバイスをくれることになった担当のECDはタイ拠点。オーストラリアと日本とタイのテレビ会議設定は、三つの国の時差を考えなければならないため混乱を極める。そして、時差があるが故に全員の業務時間内で有効な打ち合わせ時間自体が限られていく。この中でポイントだったのはなんといっても、初動のスケジュール管理である。

まずパートナーのIshaとプレゼン日までの週次ミーティングを設定。ポイントごとにECDのフィードバックを聞くために、企画がある程度詰められそうなタイミングでECDとのミーティングも設定し、最初に全部のスケジュール調整を済ませた。全体のミーティングを決めたことで、いつまでに企画全体のアイデアを決める、資料を仕上げていく、という流れを効率的に組むことができた。

無論、プレゼン前日まで、ぎりぎりまでアイデアをねばって考え、急いで資料を仕上げる、という戦い方もあると思う。しかし、直前にパートナーが日本に渡航するため、一緒にすり合わせができる時間が限られていた私たちには、この遠隔で完成させるためのスケジューリングは非常に有効だった。大枠を先に決めることができたので、プレゼンテーションの細かい修正や、英語でプレゼンすることに慣れていない私がプレゼン練習できる時間が生まれた。さらに、私たちの提案はTシャツの作製が絡んでいたのだが、パートナーに架空のロゴを作ってもらい、業者に発注してTシャツのプロトタイプを作ることまでできたのだ。

Googleドキュメント上で思考を可視化し、関係を構築

もう一つ、パートナーとの相互コミュニケーションを活性化させるのに役に立ったのが「Googleドキュメント」だ。まず、関連する消費者のデータを政府の統計資料などから探し出し、現状の市場認識を合わせるために使用した。Googleドキュメント上に引用元のリンクを貼りつつ、「このデータから何を考えているか」をコメントで入れていく。さらに、想定クライアントの既存の取り組み、競合のニュースなどを公知情報から探し、埋めていったのだ。

対象マーケットが日本ではないので、日本人同士のようにあうんの呼吸で市場認識のすり合わせができない場合、データで現状認識を合わせるのは非常に重要な作業である。その際に、きれいに資料を作り込む必要はない。ファクトと「そこから何を考えているか」の思考の過程を、ミーティング前にドキュメントに入れ、お互いにコメントしておくことで、有意義な議論が可能になったと感じる。

実際に使用したGoogleドキュメント
実際に使用したGoogleドキュメント

その後、お互いが考えているキャンペーンのコンセプトを入れていく作業に進む。コピーライトやイメージを文字や写真・絵で入れていったのだが、特にアートディレクターとコミュニケーションする場合、イメージで伝えることがコミュニケーションをスムーズにする。使う言語が母国語でない場合、写真・絵などのイメージの伝達力にとても助けられた。

思考の過程まで含めてGoogleドキュメントでコミュニ―ションすることで、24時間体制の交換日記のように週1のミーティング外のコミュニケーションをうまく埋めていくことができた。お互いがそのツールに慣れていて常にアクセスしている場合、デジタルでの作業は加速度的に効率的になっていく。コミュニケーション量が担保できれば、対面でなくともクオリティーの高いアウトプットを生み出すことは可能だと感じている。

特に1対1の場合、打ち返すのは常に自分なので、相手が次に何を出すのか楽しみになるし、関係も深まる。私たちは、まさにパートナーだと感じられるようになっていった。Young Innovators Workshop で2カ月間コミュニケーションを続けた後、初対面で会ったとき「あ、身長はこのくらいだったんだ」というフィジカル面で感じたギャップはあったが、それ以外はすでに関係の深いパートナーの間柄が構築できていたのである。

パートナーのIshaと制作したTシャツを着て、記念撮影
パートナーのIshaと制作したTシャツを着て、記念撮影

グループで取り組むNextgen

Nextgen はGoogleが開発したオンラインのデジタル・マーケティングコース「Squared Online」を国内外の電通グループ向けにパワーアップさせた100%イングリッシュ、100%オンラインの半年の研修プログラムである。国内外の電通グループの社員が参加できるよう、もともとオンラインのみで完結されたプログラムであり、一般的なMOOC(大規模公開オンライン講義)のような業界専門家による授業コースを受講しつつ、与えられた課題に対して遠隔のグループワークで毎月一つのプレゼンテーションを作り、提出する。

実際のNextgenのカリキュラム画面
実際のNextgenのカリキュラム画面

パートナーと進めるYIWとは異なり、8人程度のメンバー共同で進めなければならない。こちらは悪戦苦闘しながらまだ進めている最中だが、国の特性以上に、お互いが持っている広告・マーケティングのバックグラウンドの差を感じている。

国内の電通本社はメディアバイイングも広告クリエイティブ制作も行っている総合代理店だが、海外の場合は別会社となっていることが多い。つまり同じ業界といえどもベースで考えることが異なるのだ。お互い何が得意なのかを見極めながら、きちんと言語化しながら役割分担をする。なんとなくではまったく進まないからこそ、最初の大枠の意識合わせが重要なのだと感じている。そんな中、お互いを褒め合う雰囲気には大いに助けられている。

信頼関係の本質とデジタルで関係構築を加速させるポイント

お互いの信頼関係を生むために、きちんと相手が出したものを見て返す、というキャッチボールのやりとりが必要となる。そこは言語もツールも関係ない。どれだけ真摯に受け止めて、それに返していくか。つまり通常の対面のコミュニケーションと本質的には変わらない。ただ、本質的には変わらないからこそ、

  • デジタル上だからと気を抜かず取り組むこと
  • できるだけタイムリーに打ち返しながら、手を動かし成果物を作ること
  • できるだけ可視化・言語化し、お互いに共有しながら進めていくこと

の三つが重要だと感じている。

国や会社を超えて関係が構築できれば、できることの幅も広がっていく。同じ箱だから生み出せていた関係より、同じ箱じゃなくても生み出せる関係性の方が、持続的であり、資産価値も高いのではないだろうか。