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新型コロナがもたらす「リモコンライフ」No.4

2020/09/01

「副業」から「複業」へ。そして、「福業」へ。

お互いの距離は離れていても、テクノロジーを上手に使うことで、今までよりも近くに感じられる。ちょっとした発想の転換で、まったく新たなつながりが生まれる。新型コロナをきっかけにして始まりつつある新しいライフスタイルは「リモコンライフ」(Remote Connection Life)といえるものなのかもしれません。リモコンライフは、Remote Communication Lifeであり、Remote Comfortable Lifeも生み出していく。そうした離れながらつながっていくライフスタイルの「未来図」を、雑誌の編集長と電通のクリエイターが一緒に考えていく本連載。
4回目は「SPA!」の編集長・犬飼孝司さんに伺いました。


<目次>
【リモコンライフストーリー#04 副業から福業へ】
会社に縛られないために、今、何が必要なのか?
リモートで露呈する、「デキる」「デキない人」
会社でもなく家でもない「第3の場」が人生を左右する
マネーはストック型へ、モノはフロー型へ

 


【リモコンライフストーリー#04 副業から福業へ】

(ノザワ トモキ/金融会社勤務/44歳の場合)

「ステイホーム期間はリタイヤ後のシミュレーション」という犬飼編集長にとって、仕事にも行けず飲みにも行けない状況はとても苦痛だったようです。「確かに気楽な面はあるんですけど、やっぱり『仕事はあった方がいいんじゃないかな』って心の底から思いましたね(笑)」

そんな犬飼編集長の示唆をもとに、人生100年時代を迎える私たちにとって、できるだけ長く楽しく仕事をしていくにはどうすればいいのか?新型コロナをきっかけにして進みつつある「新しい働き方」とは何か?ちょっとしたストーリーにまとめてみました。 

野澤友宏(電通1CRP局)

リモコンライフ イラスト
イラストレーション: 瓜生 太郎

 

1時間ほど続いたリモート会議が終わり、チームメンバーのほとんどが画面から消えかけた時、入社5年目のヤマダが「なんか……」とポツリとつぶやいた。「こっちの方が話しやすいっすね……」トモキは退出ボタンに合わせたカーソルをそのままにして、ヤマダの次の言葉を待った。「だって、リアルのノザワさんって」とヤマダが屈託のない笑顔で言った。「マジでしゃべっちゃいけないオーラ、バンバン出してましたから」

こんなことを平気で言えてしまうのも、リモートならではの効果なのだろう。トモキはメンバー全員が消えた画面を仏頂面で見つめて言った。「まったく好き勝手ばかり言いやがって」。ヤマダばかりではない、会議がリモートになってからはメンバーの発言が活発になった。会議室の時のような沈黙の時間がほとんどない。メンバー全員が「効率」を意識してのことだと思っていたが、どうやらトモキの勘違いだったようだ。

「さて」とわざと声を出しながらトモキはYouTubeを開いた。「コメントは来てるかなっと」外出自粛期間中で時間を持て余していたときに、沖縄に住む甥っ子から魚のさばき方を教えてほしいと言われて動画を送った。「すごく分かりやすい!」と喜ばれたことがきっかけとなり、いろんな魚をさばく動画を撮りYouTubeにアップするようになった。

チャンネル名は単純に「魚の美味しいさばき方」。幼少時から釣りが趣味だったが、魚を釣り上げることよりもむしろさばく方が得意だった。動画を撮る際、トモキは魚によって微妙に変わる包丁の入れ方をちゃんと言葉にして丁寧に解説した。対面で教える場合はチカラ加減などなんとなく教えられるが、映像では意外にその「なんとなく」が伝わらない。

チャンネル登録数は大した数ではなかったが、釣り好きはもちろん、主婦や魚が大好きな小学生の男の子まで幅広い層のファンが視聴してくれている。直接教えてほしいという人もちらほら現れ、オンラインで教えるようにもなった。そして、先月からはLIVE配信で初心者にオススメの釣り具を解説するようなことまでしている。始めたばかりの頃に買った道具はすぐに使わなくなってしまう。だから、リセールバリューの高いものを紹介しているのだが、初心者だけでなくベテランのウケもいい。YouTubeからの収入や個人レッスン料など合わせると小遣いと呼ぶには多いほどの実入りになった。

「おお!」とトモキは昨日アップした動画のコメント数を見て思わず声を上げた。「200件!?」先週末に「魚の美味しいさばき方」のリアルイベントを開催し、その時の動画をアップしたのだが、まさかこんなにコメントが来るとは……。イベント自体は大成功で、都内のキッチンスタジオには20人ほどの参加者が集まった。90歳の「釣糸仙人」さんから小学生の「シュン」君まで、まさに老若男女。コメント欄の常連となっている面々がリアルに集うと、不思議とすぐに打ち解けた。

トモキが用意した魚を参加者全員でさばいた後は、当然、酒宴になる。「お、おいしいじゃん」とトモキはきれいに切りそろえられた白身を口に入れて言った、「今のうちからこれだけできたら、将来は日本一のお寿司屋さんになれるぞ」。シュン君が「ホント?」と目を丸くして言った。「ホントだよ、おじさんがさばいたのより、全然おいしい」「やったー!」はしゃぐシュン君を見ながら、トモキは涙があふれそうになるのをこらえた。会社でもなく家庭でもない、新しい居場所ができたことに深い安堵感を感じたのだ。

「いやいや、仕事しなくちゃ、仕事」とはやる気持ちを抑えてコメント欄を閉じようとした時、トモキの目がかわいらしい魚のイラストのアイコンを捉えた。シュン君のアイコンだ。「ま、これだけ読んでから仕事しよう」そうつぶやいてコメントを読み始めたトモキの目が、一気に涙でいっぱいになった。「ともさん、土曜日はありがとうございました。ユーチューブを見ているときはおっかない人かと思ってたけど、会ったらやさしかったのでうれしかったです」

(このストーリーはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません)

 

会社に縛られないために、今、何が必要なのか?

上記の「リモコンライフストーリー」のヒントにさせていただいた「SPA!」編集長・犬飼孝司さんのインタビュー内容を、ぜひご覧ください。

リモート取材に応じていただいたSPA! 犬飼編集長(下段は、電通の「リモコンライフ」チームメンバー)
リモート取材に応じていただいたSPA! 犬飼編集長(下段は、電通の「リモコンライフ」チームメンバー)

新型コロナでハッキリしたのは、結局、「会社と自分の距離感」だと思うんですよね。「SPA!」でもずっとテーマとして提案し続けてきていて、いよいよ進むなと思っているのが「フク業」です。「副業」ではなくて「複業」。複数の収入源を確保することです。

在宅ワークが進んで往復2時間分の通勤時間がなくなったりして、「その時間を使って稼ごう!」という人たちが確実に増えている。あと、「今のうちに仕事をもう一個持ってないと、リタイヤした後に地獄だな」ってことに気づいた人も多い(笑)。なので、会社員ではありながら、月に3万円くらい稼げる複数の仕事をコツコツつくっていくことが割と普通になってくると思います。

今は複業を後押しするようなサービス、いわゆる個人のスキルシェアやマッチングサイトがいっぱいあります。「魚のさばき方教えます」とかけっこういい稼ぎになったりするようですし、オンラインゲームの攻略なんかも需要があるみたいですよ。「複業」をやってて上手くいってる人は、「好きなこと」よりも「得意なこと」を選んだ人ですね。人よりちょっと優れてるものって絶対みんな何か持っているはずなんですよ。それを習熟していけばお金になる道は必ずあるはずなんです。

リモートで露呈する、「デキる」「デキない人」

リモートワークが進んで困っちゃう人も結構いると思っていて、例えば「威圧型の人」。リモート会議って、その人が持ってたオーラが消えるじゃないですか(笑)。対面したときにものすごい威圧感を出して言うことを聞かせていた「威圧型の人」たちは結構しんどいと思うんですよね。いわゆるノンバーバル・コミュニケーションみたいなものが通用しないので。同じように、「雰囲気イケメン」は減るかもしれませんね。オーラを全部消されてしまうから(笑)。

結局、仕事ができる人はどんどん生産性が上がっていくと思うんですけど、本来仕事ができない人はバレバレになっちゃうんで、ホントにキツいことになると思うんですよね。例えば、普通に会社に来ていて、相手の様子が見えるのであれば、ちょっと声を掛けて仕事も頼みやすいし、円滑に仕事を回していける。けれど、オンラインになると全く見えなくなるので、仕事をサボっている人にはほとんど仕事が来なくなる。そうなると、新しいノウハウも得られないでしょうし、生産性もどんどん下がる。オンラインで「デキる人」と「デキない人」の差がどんどん開くことになってしまうと思いますね。

会社でもなく家でもない「第3の場」が人生を左右する

年金の問題もあって、政府からは「定年を引き上げよう」という機運が高まっている。でも、企業はそんな余裕がないんで「無理だ」と思っているところが多い。会社員の側からしても、45歳ぐらいで出世から外れてしまうと、定年まで生涯平社員で過ごすことになり、“消化試合”になっちゃうんですよね(苦笑)。定年までの期間が長くなればなるほどツラくなる。そうなる可能性がある以上は何か次の手立てを考えておくべきじゃないかと、「SPA!」としてずっと提案してきたわけなんですけど、コロナによって、働く人・企業・政府の思惑が一致したんです、ついに!

働く人の中には基本的に「ステイホーム型」の人と「ステイカンパニー型」の人がいて、その間の道ってあんまりなかったんですよ。コロナをきっかけに「自分にとって何が大切か」を改めて考え直すことになった時、会社でもなく家でもない「第3の場」があることの意味が大きくなる気がしています。例えば、オンラインサロンでも、近所の飲み屋のコミュニティーでもなんでもいいんです。遊びながらスモールビジネスが始まることもありますし、同じ価値観を共にできる人たちとのコミュニティーがあるかないかで、人生の豊かさが大きく変わってくると思います。

マネーはストック型へ、モノはフロー型へ

コロナをきっかけにして、お金とモノの価値観が変わったことを実感しています。今までお金って基本的にキャッシュフローを回してナンボという「フロー型」だったと思うんですけど、これから貯蓄のような「ストック型」になっていく。逆に、買い物ははどんどんリセールを前提にした「フロー型」になっていく。

マンションやクルマのように、電化製品・日用品を買うときも、最安値を調べるよりメルカリでいくらで売っているかを見てから選ぶようになる。そんなふうに「フロー型」だったものが「ストック型」になり、「ストック型」だったものが「フロー型」になることが増えています。今まで自分の中に溜め込んできたスキルや知識をどうやって「フロー化」するか。今までなんとなく付き合って人や仲間たちをどうやって「ストック化」するか。「仲間と一緒に楽しく働く」ために、「自分にとって何が大切か」をどう見極めていくかがますます大事になってくるんだと思います。


【リモコンライフチームメンバーより】

犬飼編集長のお話の中から見えてきた、リモコンライフをより楽しむためのキーワードはこちらです。

◉ 副業から複業へ 
◉ 余暇から余稼へ 
◉ オンラインはオーラを消す
◉ スキルシェア 
◉ 第3の場(コミュニティ-の新しい価値)
◉ リセールバリュー

新型コロナウイルスで、私たちのライフスタイルはどう変わるのか──人々の暮らしの中にまぎれたささいな変化や日々の心の変化に目を向け、身近な “新常態”を未来予測し、新たな価値創造を目指したい。この連載では「リモコンライフ」という切り口で、その可能性を探っていきます。

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