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新型コロナがもたらす「リモコンライフ」No.8

新しいコミュニティがつなぐ、新しいビジネスパートナー

2020/09/15

お互いの距離は離れていても、テクノロジーを上手に使うことで、今までよりも近くに感じられる。ちょっとした発想の転換で、まったく新たなつながりが生まれる。新型コロナをきっかけにして始まりつつある新しいライフスタイルは「リモコンライフ」(Remote Connection Life)といえるものなのかもしれません。リモコンライフは、Remote Communication Lifeであり、Remote Comfortable Lifeも生み出していく。そうした離れながらつながっていくライフスタイルの「未来図」を、雑誌の編集長と電通のクリエイターが一緒に考えていく本連載。
8回目は「Forbes JAPAN」の編集長・藤吉雅春さんに伺いました。


<目次>
【リモコンライフストーリー#08 マイコミュニティ マイライフ】
コロナ禍の中で「人間関係」を見つめ直す
これからのリーダーに求められるもの
地域活性化は「役に立つ」がポイント
町おこしは、人おこしから。
スタートアップには「グレイヘア」(白髪のミドル社員)が必要!?
会えない時代の人脈は「コミュニティー」でつくる
「アブノーマル」から「ニューノーマル」へ

 

【リモコンライフストーリー#08 マイコミュニティ マイライフ】

(カワバタ メイ/IT系スタートアップ勤務/28歳の場合)

リモートワークが進んで、直接会うコミュニケーションがなくなってくると、新しい人脈を築くことがどんどん難しくなるかもしれません。そんな状況だからこそ、「人に会いにいくこと」がますます重要になると藤吉編集長は指摘します。「僕が若い頃とかは『1日3人会ってこい』とか『飛び込みで自分の人脈をつくってこい』というのが普通でした。簡単に人と会えない今、大事なのは『コミュニティー』に入ること。入るというか、寄り添うことが大事だと思います」

「リモコンライフ」で、人はどうやって「人とのつながり」をつくるのか?どんな人を師と仰ぎ、どんな組織・コミュニティーに身を置けばいいのか?
藤吉編集長の示唆をもとに、ちょっとしたストーリーにまとめてみました。 

野澤友宏(電通1CRP局)

リモコンライフ イラスト
イラストレーション: 瓜生 太郎


「コミュニティー・ビッグバン」。一部のメディアがそんな表現を使うほど、新型コロナをきっかけに「コミュニティー」の数が増加した。新型コロナの影響で、人との出会いが制限されたことがきっかけともいわれているし、在宅ワークなどで会社への帰属意識が薄れ、代わる何かを求めた結果ともいわれている。人気のコミュニティーでは入会に試験や面接があったりするなど、若者にとっては「就活」以上に「コミュニティー活動=コ活」が人生を左右する死活問題になっていた。

メイも、「20代女性起業家コミュニティー」や地元「中目黒の若手飲食店オーナーコミュニティー」の他に「カワイイ文房具好きが集まるコミュニティー」などを掛け持ちしていた。中でも、「カワイイ文房具コミュニティー」は性別も年齢も幅広く、月1回のイベントには100人を超える人が集まった。メイは、そのイベントでシマダさんというおじさんと知り合い「自作文房具」の魅力にハマっていた。

「こんなものつくってみたんですが、どうですか?」。イベントの席で、シマダさんが奇妙な“鉛筆”を取り出した。後ろ半分が樹脂製のゴムになっていて、カラフルな色付けをされている。「すごい、カワイイ!!」とメイが思わず声を出すと、シマダさんは顔をしわくちゃにして喜んだ。「鉛筆のお尻にある消しゴムって、全然消えませんよね。だから、よく消える樹脂を加工してつけてみたんです」

シマダさんは、もともとは文具メーカーの技術者だったが、引退して悠々自適な生活を送っているらしい。月に1度、静岡から上京してカワイイ文房具巡りをしたり、自作の消しゴムをつくるのが趣味なのだそうだ。「でも、シマダさん、これ、折れたらおしまいですね」。そう言ってメイが消しゴムの部分を折ろうとすると、シマダさんは顔のシワをさらに深くして笑った。

「私もチャレンジしてみたんですが」とメイも自作の“消しゴム”をシマダさんに見せた。「型を作るのがまだうまくいかなくて……」指輪やネックレスの宝石部分を消しゴムでつくった「消しゴムジュエリー」だ。まさか自宅で消しゴムがつくれるなんて、シマダさんに出会わなければ思いもしなかっただろう。シマダさんからオンラインで手ほどきを受けながら、なんとかそれなりのものができるようになってきた。

「これはカワイイ!!」とシマダさんがあまりにも大きな声を出したので、その場にいた会員がメイを取り囲むようにして集まった。「起業する前に、コミュニティーを立ち上げてみてはどうですか?」ある日、メイがシマダさんにふと「いつかは起業して文具メーカーをつくりたい」と思いをぶつけると、シマダさんはニコニコしながらそう答えた。いきなり起業するのではなく、まずコミュニティーを起ち上げて「仲間」を集めるというパターンが増えている。今の会社を辞めずに始めることもできるし、コミュニティーの運営自体が会社経営の練習にもなる。リスクを負わずに好きなことを始めた方がいいというのがシマダさんの話だった。メイはシマダさんとパートナーを組む形で、「自作文具コミュニティー」を立ち上げた。

「思ったよりも、自分で文房具をつくる人っているもんだなぁ……」メンバーの中には、カワイイ動物のペンケースをつくる人、オリジナルのノートをデザインする人、中にはシャーペンまで自作する人もいて、週を追うごとにその数は増えていった。主宰であるメイ自身も、小まめに「消しゴムジュエリー」をつくってはSNSでアップした。シマダさんに教わりながら、透明感を出すことも成功しつつある。最年長はシマダさんだが、メンバーの中でもいちばん発想が柔軟で、消しゴム素材の樹脂でつくった「消せる鉛筆削り」が話題になったりもしている。特許に関する知識も豊富で、ご意見番としてコミュニティーに欠かせない存在だ。

メイにとってシマダさんは技術の面では確かに「先生」だったが、カワイイ文房具にトキメく点ではただの「友達」であり、新しい文房具を発明することに意欲を燃やす「同志」でもあった。「ちょっと相談があるんですが……」自作文具ミュニティーの3回目のイベントを終えた時、メイはシマダさんから声をかけられた。「実は知り合いが、ゴム印やなんかをつくっている小さな文具メーカーを営んでいます」と優しい口調でメイに語りかけた。「知り合いには子どもがいないもんでねぇ。もういい年なんで、誰かに工場を継いでもらいたいと前々から相談されていたんですが、田舎の文具メーカーで働きたいなんて人は、なかなかいませんから」

たしかにイチから起業するよりは小さな会社であれ承継した方がありがたい。ましてや工場をつくるなんて、どれだけの設備投資が必要か……。メイにとっては渡りに船な話だった。「そこは、もともとモノづくりの盛んな町でね。今では、若い2代目たちがいろいろ新しいことをやっているみたいです」とシマダさんがのんびりした口調で言った。「その会社でも何度か新しいことにチャレンジしようとしてはきたんだけれど……。カワバタさんみたいな若い方の発想でいろいろやってもらえたら喜ぶと思いますよ、きっと」

メイにとって、今いる会社は十分に楽しいけれど、自分がいなくても仕事が回ることはハッキリしている。今まで「起業」をしようとビジネスモデルを考えてもきたが、どれも独りよがりな気がして自信が持てなかった。でも、今、シマダさんの話を聞きながら、そこでなら「自分がやりたいこと」と「誰かの役に立つこと」が両立できるような気がする……。

「お話は分かりました」とメイはシマダさんに笑顔で返した。「一度、現地に行っていろいろ聞かせてください」「それはよかった。ありがとうございます」とシマダさんは深々と頭を下げた。「私の方でも、事前に調べておきたいんですが、会社の名前はなんていうんですか?」「はい、静岡にある『シマダ製作所』という名前です」そう言って、シマダさんは顔をくしゃくしゃにして笑った。

(このストーリーはフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません)

 

コロナ禍の中で「人間関係」を見つめ直す

上記の「リモコンライフストーリー」のヒントにさせていただいた「Forbes JAPAN」編集長・藤吉雅春さんのインタビュー内容を、ぜひご覧ください。

リモート取材に応じていただいたForbes JAPAN 藤吉編集長(下段は、電通の「リモコンライフ」チームメンバー)
リモート取材に応じていただいたForbes JAPAN 藤吉編集長(下段は、電通の「リモコンライフ」チームメンバー)

4月に「新しい師弟関係」という特集を組んだのですが、非常にたくさんの方から反響を頂きました。この時期は「自分のアイデンティティーは何か?」とか「この時代とは何か?」という根本的な問い直しの時期だったように思います。

会社における人間関係については、もう何年も前から予兆が起きていました。若い人たちが「師匠が欲しい」と本気で口にするのを聞いたことが何度かあります。最初は「恥ずかしげもなく、何を言いだすんだ」と意味が分かりませんでした。あるいは数年前から大企業の社長が、20代の社員とランチを定期的にとって意見交換し始めたことも、当の社長たちから聞くようになりました。組織の中の人間関係に何かが起き始めていると思いましたし、誰もが「変わらなければ」と意識し始めたのだと思います。

それが、コロナによって必然的に変えなきゃいけない状況になって、一気に高まった。人間を通して経済や時代を描くのがアメリカの「Forbes」の伝統ですから、人間を通してコロナ時代を読み解くという点で、予兆を感じていた私たちと読者の意識が一致したんだと思います。

これからのリーダーに求められるもの

社員の健康に配慮できるか、できないか。危機の時代だからこそ、リーダーの地金が出やすくなっていますね(笑)。リーダーには「プリンシプル」というか明確な「ルール」を定めて重きを置くことが求められると思います。直接のコミュニケーションがしにくい中で、企業カルチャーが明文化してあったり、リーダーが明確なルールに沿って判断してくれると、組織全体から迷いが減る。それがうまく回っている組織の共通点です。

あと、いくら組織のフラット化が進んだとしても、やはりヒエラルキーは必要です。社長自身が「リーダー像」をどう演出するかも重要になってきます。成功する人の共通点として挙げられるのがメタ認知です。自分を客観視しているので、危機でも余裕を持っている。常に「見られている」ということを意識しなきゃと思いますね。

地域活性化は「役に立つ」がポイント

今に始まったことではありませんが、リーダーが従業員たちに「活躍できる場」を与えられるかどうかも重要になってきます。いい給料、最新設備のオフィスといった要素で仕事を選んだ人は、目移りしてすぐに辞めます。それよりも、「役に立てる場」を実感させられるかどうかが大切なんです。例えば、地方創生がうまくいっている自治体と、うまくいかない自治体の違いは何かというと「活躍できる場」を与えているかどうかなんですね。新しい市長が出て改革を叫んだり、老舗企業の2代目が新しいことをやろうとすると、反発する人が出てきます。そういうときに、新しいリーダーが生き生きと仕事ができる場を与えてあげると、「自分にも活躍できる場がこんなにあるんだ」と実感し、協力的になる確率が高まるそうです。

仕事の意義としては「人に喜ばれる」というのがいちばん分かりやすくて、うれしいものです。企業の大小問わず、そこに重きを置く人が増えてきた実感はありますね。特に、スタートアップの人たちで「人の役に立ちたい」と口にする人が増えてきました。「Forbes JAPAN」では毎年「ビリオネア特集」を出しているんですが、読者の関心も「どれだけ稼いでいるか」「どれだけ資産を持っているか」ということより、その資産を「どう使うか」「どう社会に対して貢献しているか」に移ってきている。それは、読者だけでなく若い経営者にも共通しているところですね。

町おこしは、人おこしから

すごい産業がいっぱいあるわけじゃないのに、スタートアップが生まれやすい地域ってあるんですよ。人と人との交流が盛んで、地域の人や企業が一体となって支援するエコシステムができているところは、いい人材が集まってきます。たとえ鉄道路線が延伸されて町が栄えても、人が交わる気風がない土地では、どんなに優秀な人が出てきてもだいたい違う町へ行きます。

面白いアイデアが出てくるところというのは、いい企業のクラスターがあるというか、いいリーダーがいるんです。例えば、老舗企業の跡継ぎで、親の代の古い慣習をぶち破ってやろうっていう心意気のある人がいると、周りの若者たちが感化されて、いつの間にか町全体が活性化していく。町おこしって、やっぱり人なんですよね。面白い人がいるところには面白い人が集まってくるんです。

スタートアップには「グレイヘア」(白髪のミドル社員)が必要!?

スタートアップ含めて、組織が活性化するには、国籍や世代の違う人たちと交わった方がいいです。日本でまだ「スタートアップ」という言葉が流通していない頃のシリコンバレーを経験した人たちから聞いた話ですが、投資家たちは必ず「君たちの企業にグレイヘアはいるか」と聞くんだそうです。それは、「白髪のベテランがいない会社はダメだぞ」という意味で、組織にグレイヘアを入れるのが勝利の法則になっていると。それ以来、グレイヘアの重要性を「Forbes JAPAN」でも言い続けてきたんですけれども、日本では世代の違う人たちと組むというのがなかなか根付かないですね。

ただ、自分とは別の組織の年上の人だとお互いコミュニケーションが取りやすいこともあります。いわゆる「斜め上の人間関係」です。自分の組織の直属の上司や役員ではなく、違う組織の目上の人と付き合うのが重要だというのは、CEOに出世した人に共通するところかなと思います。成功している人って、やっぱり社外の人にかわいがられてきたのだなと確信しました。

会えない時代の人脈は「コミュニティー」でつくる

今のように直接人に会うことが難しい時代には、「人脈」を増やすために「コミュニティー」に入ることが重要になります。スタートアップのコミュニティーとか、女性起業家のコミュニティーとか、世の中には「コミュニティー」や「サークル」が数え切れないほどある。興味があるコミュニティーの界隈をウロウロしてれば、何かしら刺激を受けるものです。

「Forbes JAPAN」という雑誌のあり方を考える上でも、「コミュニティー」を意識しています。雑誌が「こういう社会をつくりましょう」という設計図となって、世の中にプロジェクトを提案する役割を担っていくことができると思っています。雑誌だからこそのネットワークを使って、「この指とまれ!」といって、いろんな企業を巻き込んでいく。そのとき「Forbes JAPAN」という雑誌は「Forbes JAPAN」が提案する世界観に入るための「チケット」であって、そのチケットを買ってもらった人にリアルなイベントや体験を提供できたらいいなと思っています。

「アブノーマル」から「ニューノーマル」へ

自粛期間中、「なんで自分は何十年も原稿とか書いてきたのかな」と、ふと考えてしまいました。「なんでそんなに四苦八苦して原稿を書き続けてたんだろう」って。で、シンプルに「人に伝えたいことがあるから」という答えに行き着いた。じゃあその「伝えたいこと」って何だろうってことをずーっと考えていると、「人間がどう変わっていくのか」という成長のドラマが描きたいだけということが分かったんです。「ああ、なんて青くさいことを俺は考えるんだ」とか思いました(笑)。

もう一つ、よく「ニューノーマル」とか言いますけど、戦後70年が異常だったという考え方もできると思うんです。今まで自分たちが信じてたものが実は異常だったんじゃないか、「アブノーマル」だったものが「ノーマル」になっているだけなんじゃないかっていう気もするんですよ。コロナは、より人間らしい、極めて普通のプリミティブなものが大切だってことに気づいていくきっかけになるのかもしれません。世界中の人に青くさいことを思い出させようとしているんですよ、きっと。


【リモコンライフチームメンバーより】

藤吉編集長のお話の中から見えてきた、
リモコンライフをより楽しむためのキーワードはこちらです。

◉フラットな師弟関係 
◉バディの法則
◉コミュニティーでの人脈づくり 
◉グレイヘア人材 
◉コミュニティー起業

新型コロナウイルスで、私たちのライフスタイルはどう変わるのか──人々の暮らしの中にまぎれたささいな変化や日々の心の変化に目を向け、身近な “新常態”を未来予測し、新たな価値創造を目指したい。この連載では「リモコンライフ」という切り口で、その可能性を探っていきます。