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「推し活」時代に進化するアイドルの価値No.2

2020/09/08

新しいアイドルとファンの応援の形~若者に広がる「推し活」とは何か

アイドルをテーマに、メディアやコミュニケーション、さらにはエンターテインメントの在り方を考えていく本連載。2回目は前回に引き続き、「世の中・生活者から見たアイドル(社会の視点)」について考察します。ここでは、現在のアイドルファンの視点について、若者を中心に広がっている「推し活」という現象を軸にひも解いていきます。

10年ほど前は一部のコアなアイドルファンの専門用語であった「推し」という概念がさまざまなコンテンツに拡大。今や多くの若者がそれぞれの「推し」を持ち、「推しを応援する活動=推し活」をする時代になっています。そこで、「推し活」の広がりと実態をまとめるとともに、それぞれの「推し活」カテゴリーの規模と熱量をTwitterの分析を基に可視化していきます。

「推し活」の登場と広がり

「推し活」の「推し」という概念が世の中に出始めたのは、2010、2011年の「AKB選抜総選挙」の頃です。このことは「推し」という単語がTwitter上でつぶやかれた数が2011年の「第3回AKB選抜総選挙」の開票日に跳ね上がっていることからも分かります。

推しツイートグラフ
調査使用ツール:Crimson Hexagon  抽出キーワード;推し 抽出期間:2010年1月1日~2020年4月19日


すなわち「推し」とは「選抜総選挙=ファンが好きなメンバーにお金をかけて投票を行い順位付けする&その結果でCDや歌番組で歌うメンバーが決する」という、ファンがアイドルの未来に主体的に関わるイベントとともに登場した新しい応援の概念なのです。

そんな「推し」という言葉ですが、2011年当時は一部の女性アイドルグループのファンが使う「グループの中での自分の一番お気に入りのメンバー」を指す専門用語でした。しかし、それが今や女性アイドルグループに限らず男性アイドル、YouTuber、スポーツ選手のファンにまで拡大し「同種のものの中で一番好きな人/もの」という意味合いで広く用いられるようになりつつあります(※1)。

さらには10、20代の女性の間ではエンタメ関連にとどまらず美容・ファッション・ライフスタイル全般にまで広がっており、例えば女性ファッション誌『non-no』では、「推し活女子」の特集が組まれるほど浸透しています(※2)。

また、ある調査で10代女子のお年玉の使い道の第2位に「推し活費」が挙げられるほど、10代女子の中では「推し」がいることは一般的であり、大切なお年玉を応援のために使うほど熱中しているのです(※3)。  

実際に筆者は昨年まで塾講師のアルバイトをしていましたが、生徒の中高生たちの多くが男女問わず、アイドルやバンド、YouTuber、インフルエンサー、プロゲーマー、マンガやアニメのキャラクターなど多種多様な「推し」を持ち、貴重なお小遣い・アルバイト代、そして時間を「推し」の応援に捧げていたことが印象に残っています。

次に定量的な視点から「推し活」の広がりを見てみましょう。図1からも「推し活」は、年々盛んになっていることが推測できます。さらに2019年11月4日は、Twitterユーザーそれぞれが自身の「推し」に感謝を述べ、自分のフォロワーに「推し」の良さを知ってもらう投稿をする日として、「いい(11)推し(04)の日」に制定されました。この日の「推しツイート数」は、過去最大の88万9894tweetを記録しました。


「推し活」の実態について

女性ファッション誌に取り上げられ、10代女子がお年玉を使い、「いい推しの日」なるものまで制定される、「推し活」とは一体どのようなものなのでしょうか。

ひと口に「推し活」といっても推すコンテンツによって、またファン一人一人で内容が異なることは当然です。しかし、すべての「推し活」に共通することは、「時には生活の中心になるほど、熱量が高いこと」です。そこで、「推し活」がファンの生活の中心で熱量がある様子を、「推し活」に必要な三つのリソース、そして「推し活」から得られる三つの承認に整理して紹介していきます(図2)。

推し活のリソースと承認

リソース①:お金
「推し活」にお金がかかることは想像に難くないでしょう。アイドルファンの場合だと、握手会などのイベント参加券付きCDの購入費用、コンサート代、グッズ代などその費用は多額になります。また近年はアニメやミュージックビデオのロケ地を巡る聖地巡礼などの小旅行も盛んに行われています。

リソース②:時間
「推し活」はコンサートや握手会などリアルなイベントに時間がかかるのはもちろんですが、テレビ番組や動画配信、メンバーのブログなど日々更新されるコンテンツ・情報をキャッチアップするのにも時間を費やします。しかし、それはネガティブな面だけでなく、「推し」と触れ合える時間が多く、関与度が高いというポジティブな面もあるのです。

リソース③:労力
「推し活」はお金や時間だけではなくファンが手間ひまをかけている側面もあります。コンサートや握手会などのイベントで少しでも「推し」から注目を集めるために、メンバーの名前が入ったうちわを手作りしたり、メンバーの名前が刺繍された特攻服のような奇抜なファッションでイベントに来るファンは昔から存在していました。加えて現在では、「推し」のSNS投稿やブログへ毎回コメントを寄せるファンや、図3のようにファンが自分の「推し」の握手会を宣伝する画像を作成し、SNSで拡散することも少なくありません。このようにお金や時間だけでなく手間ひまをかけて応援することこそやりがいがあり、「推し活」の醍醐味なのです。

       
図3:ラストアイドル長月翠さんのファン作成の握手会宣伝画像
長月さん

ではなぜこれらのリソースをかけてまでファンは「推し活」をするのでしょうか。それは「推し活」をすることによって三つの承認を得られるからです。

承認①:「推し」からファンへの承認
握手会イベントやSNSの登場で「推し」とファンが直接コミュニケーションできるようになったことにより、「推しから自分という存在を認識してほしい」という承認欲求が生まれました。それによりファンはたくさんの握手券を購入し、何度も「推し」と握手をしながら会話を重ね「〇〇さん、いつも握手会に来てくれてありがとう」と言われることをひとつの楽しみにしています。

またリアル対面での承認に限らず、デジタル上の承認にもファンは反応します。例えば、「推し」のSNS投稿に毎回コメントを寄せて、「推し」から「いいね」をもらった際にはその画面をスクリーンショットしてプロフィール画面設定するファンもいます。

承認②:世間から「推し」への承認
「推し」がスターへと成長していく過程を支援するというのも「推し活」の重要な要素です。例えば、「推し」が所属するグループや「推し」自身がテレビに出演し取り上げられるとファンはこの上なく喜びます。それは歌番組に出演した時はもちろん、情報番組で数分間取り上げられたりするだけでTwitterのトレンド入りするほどです。

また近年は地上波のメディアに限らず、パフォーマンスやルックスの良さがきっかけでSNSで拡散され多くの人々の目に留まることもあります。この現象を「〇〇ちゃんが(世間に)見つかる」と呼び、その最たる例が、当時福岡県のローカルアイドルであったが一枚の画像がきっかけで「かわいすぎる」とネット上で話題となった橋本環奈さんです。彼女はその美貌で、文字通り「世間に見つかり」、そしてファンの「推し活」のおかげもあって国民的女優へと成長していきました。

このようにファンは「『推し』が世間から認められスターになっていく=世間から『推し』が承認される」過程を楽しんでおり、その成長を支援したいという思いが「推し活」の原動力のひとつとなっています。

承認③:身近な他者からファンへの承認
「推し活」をしているファンは「推し」からの承認だけでなく、身近な他者から「最近人気の〇〇を推している流行に敏感な人」「今ブレーク中の〇〇を昔から推していた先見の明がある人」などの承認を得るためにも「推し活」をしています。2000年代前半まではアイドルやアニメのファンと聞くとネガティブなイメージを持つ人も多かったかもしれませんが、今や自らSNSのプロフィール欄に「推し」の名前を連ねて書く人がメジャーになっています。これも「推し」という言葉の広がりとともに、世間のオタクへの見方が変わってきた証拠です。

多くの人がそれぞれの「推し」を持つ時代になったからこそ、誰を推すかが重要になっており、身近な他者からセンスがいいと思われるために日々「推し活」をしているのです。

以上のように、SNSの登場と「推し」とファンが触れ合えるイベント、配信の増加により、三つの承認が生まれ、それを求めてファンたちは多くのリソースを割く「推し活」が生まれたことが分かりました。

最も熱量の高い「推し活」カテゴリーとは?

ここまで説明してきたように、「推し活」はファンの熱量が高いこと、そして「推し活」にはSNSが密接に関わっていることが分かりました。そこでアイドル以外にも広がっているさまざまな「推し活」のうち、どのコンテンツが一番多くの人から推されているのか、またどのコンテンツが一番熱量が高いのかをSNSの分析を基に定量的に可視化してみます。

表1は各「推し活」カテゴリーの代表的なコンテンツにおけるTwitterの1年間の投稿数とその投稿をしたユーザー数、そしてファンの1日当たりの「推し」に関する投稿数をまとめたものです。

この分析におけるファンの定義は、電通が開発した感情分析ツール「mindlook」で各コンテンツに関する投稿が「良い・好き」の感情に分類された投稿者です。例えば、「乃木坂46の白石麻衣ちゃんかわいい」「髭男のPretenderって曲好き」「ラストアイドル阿部菜々実ちゃんのダンスがよかった」などと投稿した人がファンと定義されています。このファンの1日当たりの投稿数は、そのコンテンツの推しているファンの熱量と比例しているといえるでしょう。

推し活のHOT度
使用ツール:sysomos  抽出キーワード:グループ名(作品名)+メンバー名 抽出期間:2019年4月1日~2020年4月1日


この表から分かるように、AKB48や乃木坂46、King & Princeのようなメディアでも多く取り上げられるアイドルグループが投稿数、投稿者数ともに高い数字を獲得しています。また昨年から話題になっている漫画「鬼滅の刃」も高い人気がうかがえます。

しかし、ファンの1日当たりの投稿数で見ると女性アイドルグループが総じて多く、ファンの熱量が高いことが分かります。テレビ朝日系列で放送されていたオーディション番組から誕生した秋元康プロデュースのアイドルグループで、2017年12月デビューしたラストアイドルのように、投稿数や投稿者数はそれほど多くない女性アイドルでも、ファンの1日の投稿数が3.58回と、高い熱量を持つファンが応援していることが分かります。次点で男性アイドルグループ、YouTuberがファンの1日当たりの投稿数が高くなっています。フィギアスケートの羽生結弦選手のように例外的に熱量の高いケースもありますが、ファンの熱量はカテゴリーごとに特徴があるといえるでしょう。

ではなぜ女性アイドルグループのファンの熱量はこれほどまでに高いのでしょうか。

理由のひとつは先述の「推し活」で得られる承認にあります。特に「世間から『推し』への承認」が女性アイドルグループの「推し活」では多く得られるからです。

「推し」のアイドルが世間に認められて成長していくことには、三つの段階があります。

第1段階は世間で「推し」が所属するグループが成長していくことです。「推し活」の初期では、「推し」のアイドルも「推し」が所属するアイドルグループ自体も無名であることが多いです。そのため「推し」が所属するアイドルグループが歌番組や情報番組で取り上げられることがまず成長の第一歩となります。

第2段階はグループの中で「推し」が成長していくことです。世間から承認されたアイドルグループの中で「推し」のアイドルが成長していき、グループ内でも目立つ存在となることでソロでの仕事が増え始めていきます。

第3段階は世間の中で「推し」のアイドルが成長していくことです。アイドルグループを卒業したり、アイドルグループ名で勝負せず、メンバー個人名で活動ができるアイドルになるまでを応援することができるのがアイドルの「推し活」なのです。

例えば、元AKB48/HKT48の指原莉乃さんはAKB48のメンバーとして歌番組の一番端っこで踊っていたところから、その独特のキャラクターとトークスキルを武器にAKB48グループ内で活躍し、グループ卒業後はバイネームでタレントとして活躍しています。このように、ただブレークして終わりではなく中長期的に「推し活」のできるコンテンツが女性アイドルグループなのです。

もう一つの理由が、SNSでファンの反応を引き出すアイドルのコミュニケーション技術にあります。通常、タレントのSNS投稿はイベントや出演メディアの告知がメインであり、それに加えてタレントのプライベートが垣間見えるような投稿がいくつかあるにとどまり、ファンとの双方向のコミュニケーションを目的とした投稿というのは多くありません。

しかし、女性アイドルの場合だと「おはよう!」や「おやすみなさい (*_ _)zzZ」や「〇〇がおいしかった」などファンが気軽にコメントできる他愛のない投稿や、「明日のイベントに着ていく服はどっちがいい?」などファンに直接意見を求める投稿が多く、双方向のコミュニケーションを図っています。さらに、ファン一人一人のコメントには返信はできないものの、「たくさんのお返事ありがとう✨ 明日のイベントは赤い衣装で出演します(o^-^o)」とファンからのコメントを一つ一つ読んでいることが伝わる投稿をしてファンとの関係性を深めています。このようにファンと双方向のコミュニケーションを絶えずとることによって、常にファンの熱量を高い状態に保っているのです。

「推し活」を課題解決のソリューションへとつなげる

ここまでの話で、一部のコアなアイドルファンの専門用語であった「推し」という概念がさまざまなコンテンツに拡大し、今や多くの若者がそれぞれの「推し」を持ち、「推し活」をする時代になっていることが分かりました。また「推し活」は生活者の中心に位置するものであり、「推し」への高い熱量を持つことも明らかとなっています。

そして、その「推し活」の高い熱量でブランドやメディアの課題を解決しようとする動きがすでに始まっています。詳細は次回に譲りますが、アイドルをブランドのコミュニケーションに活用することで、ブランドも、生活者も、アイドルも、それぞれにメリットのある好循環が生まれているのです。生活者が応援するアイドルを起用することで、ブランドがアイドルを応援する文脈で受け入れられ、単なるタイアップを超えたファンコミュニティーへのアクセスとなり、ブランドにとってのソリューションとなるのです。

また、その「推し活」の熱量が集まる場所がSNSであることもよく分かるでしょう。だからこそブランド側は、コミュニケーションに起用したいアイドル、またはコンテンツにどんなファンがいるのかを知るためにSNS分析を行うことが必要となっています。「推し活」の熱量でブランド、アイドル、ファンがSNSという場でつながる事例が今後さらに増えてくるに違いありません。


出典・参照
(※1)「実用日本語表現辞典」
http://www.practical-japanese.com/
(※2)『「推し活女子」って何?ノンノが 読者層のリアルに迫る』SHUEISHA ADNAVI 
https://adnavi.shueisha.co.jp/news/7591/
(※3)『10代女子は“推し活(おしかつ)費”に使いたい!?Simejiランキング10代女子が選んだ「もらったお年玉の使い道TOP10」』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000375.000006410.html
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