日本発!小さくても逆境に勝つ「小さな大企業」スモール・ジャイアンツNo.4
内発的発展で尖った企業を輩出する「スモール・ジャイアンツの街」
2021/04/13
大阪に「スモール・ジャイアンツの街」と呼ばれる街があります。
いや、正確には、市役所の一部と街の経営者たちがそう言い始めたもの。この「スモール・ジャイアンツの街」はいかにして生まれたのか。そこには世界共通の「発展モデル」に磨きをかけた背景がありました。
スモール・ジャイアンツとは、全国各地の未来ある中小企業を発掘すべく、Forbes JAPANと電通が全国各地の未来ある中小企業を発掘すべく発足させたプロジェクト、「スモール・ジャイアンツアワード」に由来します。
この連載では、2020年の地方大会に始まり、2021年の全国大会でグランプリを決めた同プロジェクトとタイアップし、Forbes JAPAN編集長の藤吉雅春氏、同Web編集部の督あかり氏、そしてスモール・ジャイアンツの共同発起人である電通ソリューションクリエーションセンターの笹川真氏によるコラムをお届けします。第1回は、督氏による寄稿です。
企画=笹川真(電通)
地域内の連携によるオープンイノベーションの事例
そんな時代に注目したいのが、内発的発展による地域づくりだ。1社の覇者ではなく、各企業や行政がゆるくつながることで共存共栄を目指す。
まず、海外の成功事例を紹介しよう。ランボルギーニやマセラティを生み出したイタリア北部の工業都市、ボローニャに学びを得たい。世界的なブランド力から自動車産業に目が行きがちだが、実は自動ラッピングマシーンの技術で世界最高峰を誇る。チョコレートの自動包装機械を製造する1社からのれん分けするように、ティーバッグ製造の機械を手がける子会社ができ、自動包装機械の関連企業はいまや数百社に発展。たばこの包装、薬の包装といった具合に各社が業務を細分化し、地域内でニッチな棲み分けが成立しているのだ。
ボローニャのあるエミリア・ロマーニャ州は、こうした産業集積により内発的発展を遂げ、その手法は「エミリアモデル」と称されるようになった。産官学の垣根を越えて人々が情報交換する「サロン文化」があることも、オープン・イノベーションの促進を後押ししたといえるだろう。
地域経済を潤すために企業誘致などで発展しようとする外来型開発に対して、地域資源を有効活用する内発的発展の事例は、国内でも広がりつつある。例えば福井県は繊維、メガネ、漆器などの地場産業を技術革新し、世界での信頼も厚い。岩手県は産学官連携のインキュベーションシステムをいち早く導入し、ライフサイエンス産業の工業団地を造成して発展してきた。
新たな発展モデルを築き始めているのは、大阪府の八尾市だ。ゴム・土木・福祉の3事業を展開する錦城護謨、EC販売でヒット商品を生み出す木村石鹸工業といった製造業の雄を多数輩出する八尾は、地域内で企業同士がつながり、アイデア商品を共同開発する事例で注目されている。
だが八尾の場合、イタリアのように自然なかたちで共存共栄関係が構築されたわけではない。戦後の高度経済成長期に人口が急増すると、八尾駅周辺を中心に商業が栄えた。それにともない、古くから行われてきた鋳物や金属加工などの工業も発展し、日本有数のものづくりの集積地となった。
八尾にはもともと一匹狼タイプの社長や企業が多く、それぞれがわが道を歩んでいたという。そんな「我関せず」の空気を変えたのは、1人の市役所職員だった。
大阪のものづくりはエンタメだ!
八尾市経済環境部産業政策課の係長であった松尾泰貴は、公務員らしからぬ行動力から「変態行政マン」の異名をもつ(2021年4月から友安製作所新規事業兼広報部リーダー)。
かねてから八尾の企業間のネットワーク作りに尽力してきた松尾は、18年に市内の中小企業経営者たちが交流し、アイデアを共有する「みせるばやお」(魅せる場、八尾)という拠点を駅近に設けて、子ども向けにものづくり体験のワークショップなども開いている。任意団体から始まった「みせるばやお」は、20年8月に法人化、木村石鹸工業社長の木村祥一郎が代表を務める。当初の賛同企業は35社に過ぎなかったが、現在は127社が会員となっている。
20年12月には、この拠点から生まれたアイデアで、近隣の東大阪市や堺市も巻き込んだ5市合同オープンファクトリー「FactorISM(ファクトリズム)2020 アトツギたちの文化祭」を開催。地域の“アトツギ社長”たちが中心となり、五感で体感できるような工場見学をメインに据えたイベントを企画したところ、累計来場者は約3,000人、オンラインでの工場見学参加者は1,116人を数える盛況となった。
地域ぐるみのオープンファクトリー自体は、新潟県三条市・燕市を中心とした「燕三条 工場の祭典」(13年〜、20年は中止)など、全国各地に先行事例がある。そこで八尾では、他の地域の事例を徹底研究した上で、ものづくりをエンターテインメントとする「モノタメ」という切り口で、大阪らしさを打ち出すことにした。
実行委員長を務めた錦城護謨社長の太田泰造は、意外なことを口にした。
「八尾はBtoBの製造業が多く、一般市民を工場に入れることに対して『面倒くさい、危ない、ノウハウが盗られる』といったネガティブな声もありました」
確かにリスクはゼロではない。だが、ものづくりの現場を公開することで従業員がやりがいを感じ、仕事にプライドを持てるという側面もある。「実は社内向けのメリットも大きい」と太田は言う。
ファクトリズムを5市の広域連携で開催したことにも狙いがある。2025年大阪・関西万博を見据え、海外に大阪のものづくり、ひいてはモノタメの魅力を発信し、産業ツーリズムの誘客につなげたいとの思いからだ。まさに共存共栄の地域連携であり、「点だけでなく面で広げていく」考えだ。
平場の文化で究極のシェアリング目指す
「みせるばやお」という拠点ができたことで、八尾の企業間で、知識や情報、アイデアのシェアが生まれた。だが、太田にはさらに一歩進んだ構想もある。
コロナ禍で企業のDX化、テレワークが一気に広まり、製造業の現場は厳しい選択を迫られている。従来どおり工場に従業員を出勤させるべきか? 過剰設備、過剰雇用になっていないか? 労働環境は変化の波に対応しているか? こうした課題を解決するために、太田は、企業間で人とモノ、すなわち従業員と設備のシェアもできないかと考えている。
「『みせるばやお』は、各社の情報をオープンにして共有することで、企業間の信頼関係を醸成する場になってきました。いま製造業が直面する難局を地域で乗り越えるためにも、今後は究極的なシェアリングの場となることを目指します」
その企業間の「信頼関係」を感じる一幕があった。業務用家具メーカー、オーツーの工場見学に訪れたときのことだ。初めて一般の見学客を受け入れるにあたり、昔ながらの鉄工所の作業を安全に見学できるように、工場内は透明なフィルムで仕切られていた。「この透明フィルムは、友安さんのところで買わせていただきました」と代表の梶原弘隆が言う。梶原は「みせるばやお」での交流をきっかけに、インテリア・DIY商品を販売する友安製作所の社長・友安啓則と意気投合し、商品開発などで連携するようになったのだという。
八尾では、企業間のフラットな関係性にも驚かされる。例えば、ガラスや鏡の販売施工を手がけるコダマガラス。自社のYouTubeチャンネルで社長の児玉雄司が解説するのは、近所にある木村石鹸の「鏡の鱗状痕クリーナー」についてだ。一方、藤田金属では、リニューアルした社屋に他社商材を積極的に取り入れている。社長の藤田盛一郎は「ゆくゆくは八尾のショールームにしたい」と夢を語る。ボローニャのサロン文化に通じる八尾の「平場の文化」が、人と情報を横につないでいく。
地域に眠る資源や社内の経営資源を、地域内でシェアすることで横連携が生まれ、異業種が手を組みやすくなる。行政サポート型の「八尾モデル」は、他地域も取り入れやすい内発的発展の好例だろう。