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コロナ下の生活者意識から考えるサステナビリティとパーパスNo.3

“同志”型ブランディングに欠かせない、「小さな効力感」を持つ生活者とは?

2021/04/28

過去2回の連載では、コロナ禍をきっかけに人々の意識が“サステナビリティ”へとシフトし、「コロナ以前に戻るのではなくこれを機により良い世の中になってほしい」という意識が高まっていること、また、そのような生活者の想いを企業が“いかに自社のパーパスに反映し、社会を変革していけるか”が、その企業の評価やブランド力に影響することを紹介しました。加えて、コロナ禍によって「企業と生活者が“同志”として共創する環境が整っていく」ことについても述べました。

第1回:よりサステナブルな世の中へ。コロナ禍がもたらした生活者意識の「5つのシフト」

第2回:“志す力”がアフターコロナの企業を強くする。社会変革のパーパス・デザイン

では、企業は自社のパーパスに基づき、どのように生活者と共創すれば、“社会変革”を実現していくことができるのでしょうか。

第3回は、企業にとって重要な共創パートナーとはどのような人々か、そして、より多くの生活者に参加してもらい、ブランディングにもつなげるヒントについて考えます。

「人々」の力が世界を変え始めている。消費も「社会変革消費」の時代へ

世界中で「より良い世の中」を求めて声を上げる人々の動きが後を絶ちません。環境問題への取り組みを訴える欧米の若者たちの動き、Black Lives Matterを合言葉にした人種差別撤廃への動き、性的マイノリティの人々が社会の偏見をなくし、平等な権利を訴える動き、などなど。

どの社会課題も複雑で深い問題であるだけに表層的な議論だけで解決することはできず、当然それぞれの活動には賛否両論があります。が、いずれにせよ、自らの意思で立ち上がった人々の動きが、結果的に規制や社会システムの再考を促し、世の中の変革を加速させていく様子には目を見張るものがあります。

この潮流は、街に出て実際に社会的な活動を起こすことだけにとどまりません。日々の消費生活や購買行動においても、意思が問われる時代になりつつあります。「商品を選ぶたび、私たちは、ありたき世の中に投票している」とは、欧米のある著名な企業が唱えている言葉です。今後、そのように、商品選択が社会変革のアクションの一つとなる、「社会変革消費」とでも言えるような現象が増えていくかもしれません。

生活者の「小さな効力感」が大きなうねりに

この時代の流れは、少しずつ日本にも浸透し始めています。それを踏まえて、今回実施した調査では次のような設問を入れました。

「一人一人の力は小さくても、想いがあれば世の中を良い方向に変えていくことができると思う」

私たちはこの意識を、生活者の社会に対する「小さな効力感」と名付けました。塵も積もれば山となるように、この「小さな効力感」こそが先述したような世界を動かす大きなうねりを生んでいる源であり、これからの購買行動を左右するものになり得ると考えたからです。

調査結果を見ると、この問いに対し、日本の生活者全体の64.5%が「そう思う」もしくは「ややそう思う」と回答したことが分かりました(「そう思う」19.9%、「ややそう思う」44.6%)。

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(図1)

「小さな効力感」を持つ人々とはどんな人?

「小さな効力感」を抱く生活者のうち、「そう思う」と回答したTop1層(全体の約20%)について、以下の傾向があることが分かりました。

傾向その1:社会・環境問題への関心が高く、特に環境問題で、全体との差が大きい

「社会全体が本気になって取り組む必要があると思う社会問題や環境問題」で見ると、全体に比べて概ねどの項目でも反応が高く、特に「地球環境(自然環境保全・地球温暖化)」で関心が高い。

傾向その2:企業のサステナビリティへの対応への期待が高く、取り組みを行っている企業に対しては高く評価する

「企業に期待すること」では、サステナビリティに関連する項目で全般的に高い傾向にある。

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(図2)

ちなみに、サステナビリティへの期待に応えられれば、企業は高く評価される傾向にあります。実際に、企業各社に対する評価を見ると、環境・社会課題解決の取り組みに熱心との定評がある企業に対しては、全体に比べてより高く評価している結果も出ているのです。

傾向その3:情報感度や発信力が高い

「良いと思った情報はできるだけ多くの人と共有することが多い」「自分がいいと思ったものは他人にすすめる」といった項目でも全体を20ポイント程度上回る。

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(図3)

以上のことから分かるのは、「小さな効力感」を持つ人々は、まさに企業と同じ志を持つ“同志”として、社会変革を共に推し進める共創パートナーとなり得る人々だということです。情報発信力が高い人々なので、応援したい活動であれば、周囲にも協力を呼び掛けてくれる可能性もありますし、その企業のファンになってもらえれば、力強いブランド推奨者になってくれるかもしれません。

「“同志”型ブランディング」に向けて。人々の心のスイッチをどう入れる?

ここからは、より多くの生活者に参加してもらい、ブランディングにもつなげるヒントについて考えてみたいと思います。パーパス・ブランディングには数多くのアプローチがありますが、その一つを、私たちは「“同志”型ブランディング」と名付けています。

これは企業と生活者が、同じ志の実現を目指し、共に一つのことを成し遂げる体験を共有する(=共創する)ことで、結果的に両者の絆も深めていく、という考え方です。今回紹介した「小さな効力感」を抱く人々との共創は、まさにこのブランディングの第一歩であるともいえるでしょう。

とはいえ、より大きな社会的インパクトの創出を目指す上で、現在「小さな効力感」を持つ人々を巻き込むだけでは決して十分ではありません。それらの人々に味方になってもらいつつ、ムーブメントを共に、さらに広げていく視点が重要です。では、より多くの人々を社会変革に向けた共創に誘うためにはどうしたら良いでしょうか。

今回の調査結果を電通独自の生活者データベース(PDM Tunes 2020)のデータと掛け合わせて分析した結果、「小さな効力感」を持つ人々の心のよりどころとなっている時間として、「感動する時」「気の合った友人や仲間と過ごす時」「何かを達成する、実現する時」「人から愛されている時」「ワクワクしている時」などの項目が、全体に比べて特に高いことが分かりました。

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(図4)

注目すべきポイントは、「感動する時」を心のよりどころとする人に、「小さな効力感」を持つ人が多いという事実。私たちは、ここに“同志”型ブランディングを実現するための大きなヒントがあると考えています。

例えば、外から与えられた知識や頭で考えた「べき論」を超えて、一人の人間として純粋に感動したときこそ、「小さな効力感」を駆動する目的意識が芽生える。小さなことであっても、何かを成し遂げられたという達成感が新たな感動を生み、次の「小さな効力感」につながっていく。そして、「仲間」の存在や「ワクワク」「知識・教養を高める喜び」といった好奇心を満たす要素、「愛情(心のふれあい)」などが、この循環をさらに加速させる。このような仮説が考えられます。

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生活者の心の中でこのような良い循環が生まれる体験を設計することができれば、より多くの人々に参加してもらい、さらに持続可能な取り組みへと進化させていくことができるのではないでしょうか。

これは、通常私たちマーケターが考えるカスタマージャーニーと少し異なる「心のジャーニー」です。生活者を顧客ではなく、「社会の中で生きる一人の人間」として捉え直すと、自然にその企画は顧客層以外の人々の共感にもつながり、社会に対してもより大きなうねりを生み出していけるものになる、と考えられます。

社会変革、そしてパーパス・ブランディングを行う際に必要なのは、「CX(顧客体験)」ならぬ、「HX」。つまり、一人の人間としての体験=「Human Experience」とも呼べるような事柄に対する感性と視点なのかもしれません。


調査概要 

“サスティナビリティ”や企業/ブランドの“パーパス(社会に対する志・社会的存在意義)”に関する意識調査

  • 調査手法:インターネット調査
  • 調査時期:2020年10月26~28日
  • 調査エリア/対象:全国20~74歳男女2000人
  • 調査機関:株式会社電通マクロミルインサイト