企業がメディアになる時代にNo.2
たくさんのコンテンツをハンドリングする
編集者の視点が求められる
2014/02/27
前回に続き、『~編集者のように考えよう~コンテンツマーケティング27の極意』(レベッカ・リーブ著、翔泳社)の翻訳者の一人である、電通郡司晶子さんにお話を聞いた。
ますます色濃くなる「企業がメディア化する」潮流
──コンテンツマーケティングとは、相手が求めている情報を提供すること、というお話がありました。これは、従来の広告とはどのような部分が異なるのでしょうか?
郡司:ターゲットのニーズを把握し、その人たちが受け入れやすい形で伝えること自体は、従来型の広告の分野でも行われてきました。ただ、メディア環境が大きく変化しているので、ソーシャルメディア上のナマの声など「リアルなニーズ」にきちんと応えていかないと相手に届かなくなってきています。企業はそれを踏まえてさらに精緻にマーケティングに取り組むことが求められています。その中で生まれたひとつの策が、コンテンツマーケティングだと理解しています。
例えば今、何か知りたいことがあったらまず検索しますよね。検索されたときにきちんと表示されなければそもそも、ニーズのある相手に情報は届きませんし、検索エンジンのアルゴリズムもユーザーに貢献するよう日々進化しているので、より人々にとって価値の高いコンテンツを用意して、検索上位を狙う必要があります。
情報を提供するチャネルにしても、単に情報を届けるだけでなく、キュレーションしてくれたりランキングで出してくれたり、どんどん賢く複雑なものに進化しています。そうした環境、しかもすごいスピードで変化する状況のなかで情報を届けていくには、もう、失敗を恐れずにどんどんチャレンジしていくしかないのです。
──人の行動が変わり、施策に使える選択肢も増えて、以前よりコミュニケーションが複雑化しているということですね。
郡司:ええ。でも一方で、今だからできることもたくさんあります。以前は主にアンケート調査などで顧客の声を把握していましたが、ソーシャルリスニングのような方法によって、よりリアルな実態を知ることができます。チャネルも種類が増えた点では、より適切なコミュニケーションの実現につながります。
中でも強い味方になるのが、自社サイトや自社運営SNSなどのオウンドメディアです。
企業発信のメディアとして広報誌などは以前からありましたが、ウェブサイトや様々なデジタルテクノロジーの出現によって、コンテンツを制作し広めるためのコストは下がりました。それを活用しない手はありません。数年前から起こっている「企業がメディアになる」という潮流は、どんどん強まっています。
オウンドメディアをいかに効果的に使うか、という課題に対するひとつの答えが、コンテンツを核としたマーケティングなのだと思います。
編集者のような視点で考える
──オウンドメディアの充実も、コンテンツマーケティングの広がりに大きく関係しているのですね。とはいえ、いったい何をコンテンツとして発信したらいいのか、迷うことも多いように思いますが。
郡司:そうですね、特にFacebookやTwitterなどは一度始めるとずっと、しかも常にニュースを発信し続けなければならなくなるので開設をためらう企業もあると思います。でも、ニュースは企業のまわりに実はたくさんあるのです。中にいると当たり前に思えることも、企業の外の人間が客観的に見ると意外と興味深かったりするものです。伝えたい相手に接触する工夫は必要ですが、商品やサービスに込めた思いを実直に表現するだけでも、それは十分に自社のファンを育てるコンテンツになります。
そのときに必要なのが、本書のタイトルにもなっている「編集者のように考える」ことです。
──編集者のように、コンテンツをつくるという意味ではないのですか?
郡司:その意味合いもありますが、もっと前の段階から編集者の視点が求められます。“何を”伝えるかだけでなく、“誰に”“どのチャネルで”“どのタイミングで”伝えるか、ということも踏まえての編集が、今後は不可欠になるということです。
しかも、オリジナルのコンテンツをつくるだけでなく、多様なコンテンツを集めてきて編集し直したり、あるいはユーザーにコンテンツをつくってもらったり。広告やPRと違って一度に多数のコンテンツを、ある一貫性を持ってハンドリングしなければならなくなります。それらを発信のタイミングも含めてマネジメントしていく仕事は、まさに編集的な仕事だと思います。
──最後に、本書をどのような人に読んでもらいたいですか?
郡司:具体的なコンテンツ制作の仕方、各チャネルの技術的な解説など、各論的な内容も含めて体系化されているので、広く言えばコミュニケーションにかかわるすべての人に役立てていただけると思っています。
まずは、コンテンツマーケティングとは何か、がまとめられているパート1を読んでいただき、あとはお悩みに合わせて辞書的に読んでいただくこともできると思います。Facebookを始めてみたのだけれどこれからどうしていったらいいのだろう、といったSNSでのコミュニケーションの悩みにもヒントがあると思います。
本書を現在のマーケティングコミュニケーション領域の混沌とした状況を見通すひとつのスコープとして捉えていただき、電通だけでなく企業も同業の皆様も一緒になって新しい領域開拓にチャレンジしていければと思っています。