話そうよ、ジェンダーのことNo.1
ジェンダーのこと、教えてください!
2021/06/29
企業にとっても、生活者にとっても、ジェンダーの視点が不可欠な時代になりました。
ジェンダーを扱ったコミュニケーションが称賛される一方、誤った対応をすれば、問題視されることも増えています。
ジェンダーに向き合い、その可能性を広げるために、クリエイティブには何ができるのか。
それを探るために、電通のコミュニケーションプランナー・権すよん(以下:スー)とコピーライター・岩田泰河(以下:岩田)は「ジェンダークリエイティブユニット」を立ち上げました。
若手クリエイターの2人が、なぜジェンダーが気になるのか、クリエイターとしてジェンダーとどう向き合っていきたいのか、その思いを等身大で語ります。
今だから話したい、ジェンダーのこと
スー:「ジェンダー」って言葉、本当によく聞くようになったね。
岩田:メディアで取り上げられることも増えてるし、クライアント含めてジェンダーに対する意識がすごく高まっているよね。ただ、コミュニケーションとしては、問題が起きることも多くて、課題もあるなと感じてます。
スー:最近、特に「ジェンダーとコミュニケーション」周辺でいろんな問題が起きているけど、実際どういうふうに企画を考えたり、物事を捉えたりすればいいのか、誰も答えやヒントを持ってない気がしてる。それを見つけたいなと思って、岩田くんに声をかけたのがこのユニット結成の始まりだったね。
岩田:そうそう。炎上している事例を見ても、批判される理由が分かるものもあるし、「なんでだろう?」と思うものもあった。「答えがない」という感覚は、本当にその通りだなって思う。僕はジェンダーの専門家じゃないし、コミュニケーションの作り手としても、普通に暮らしている個人としても、悩むことが多いです。スーはどう?
男も女も超えて、みんなの話だから
スー:私は当事者としての悩みが多いかな。実際、自分も性別によって不当な待遇を受けているのでは?と感じたことが何度もある。例えば、SNSでも話題になってたけど、一部のタクシーの運転手の方から失礼な態度を取られたり。不動産会社で自分の名義で契約しようとしたら「夫の名義にしたほうがいいのでは?」と当たり前のように言われたり。最初は気に留めなかったんだけど、徐々に、あれ?これってもしかして私が女性だから……?と気付いて。
まあ、それでジェンダーというテーマに興味を持っていろいろ勉強し始めたの。
最近は、コミュニケーション周りでジェンダー問題が取り沙汰されることがすごく多いと感じていて、当事者としてだけでなく、作り手としても、この状況をなんとかできないかなと思ったんです。
岩田:ジェンダーっていうと、「女性だから……」とか「LGBTQ+が……」みたいに、特定の「性」の問題として取り上げられがちだけど、男性としても「変だな」と思うことは多い。結局、ジェンダーによって何かを決めつけられる社会って、誰にとっても窮屈だと思います。
スー:最初の頃は、自分が女性だから「女性」のことばかりで悩んでいたんだけど。実際は、男性だっていろんな「男性らしさ」を無理強いされてたりするじゃないですか。この前、とある女性お笑い芸人が「男性の生きづらさ」について語っているYouTubeを見たんだけど、男性からの共感がすごく多かったんです。
これは、女性だけの話ではなく、みんなが関わるもっと大きな話だと思ったんだよね。
岩田:確かに、ジェンダーの問題で違和感を表明している人って、SNSを見ても、女性だけではないですよね。だから「ジェンダーって女性の問題でしょ」みたいなことじゃなくて、もっと大きいテーマだと感じて欲しい。その意識がないと、これからのコミュニケーションは、全くうまくいかないと思う。
ジェンダーから逃げずに向き合い続けたい
スー:私としては、世の中に「いいね!」って思ってもらう企画を通して、みんながより生きやすい社会にしたいという想いが大前提にあります。そういう社会は、自分が生きやすい社会でもあるので。その上で、ジェンダーの問題が、いま世の中でものすごくホットな話題だからこそ、私たちが頑張って勉強してクライアントのサポートや一緒に伴走していけるパートナーになれるといいなあと思っています。
岩田:そのためには、本気で勉強しなければいけないと思う。実は僕は、自分としては結構勉強してきたつもりだったのに、つくった広告が炎上した経験があります。クライアントとも何度も協議した上でのコミュニケーションだったので、とてもショックでした。一方で、ジェンダーと向き合ったからこそ、うまくいった経験もあります。いろんな層の人たちに共感してもらえてうれしかった。だからこそ、もっと良い事例をつくっていきたいと思ったんだよね。
スー:炎上したとき、岩田くんものすごい落ち込んでたよね...…。
コミュニケーション領域で炎上が増えるのを見ていると、もう「女性」や「ジェンダー」というテーマを企業コミュニケーションがそもそも扱わない、という方向に世の中が走りそうで、私はそれがとても心配です。
岩田:そうそう。「ジェンダー=炎上」というイメージが付きすぎて、過剰にリスクを避ける場面も、すでに出てきています。このままだとジェンダーについて建設的な議論をするのも難しくなる。でも、本気でより良い社会をつくるためには、ジェンダーのこともオープンに議論し続ける必要があると思うんです。
スー:だから、この連載のタイトルは「話そうよ、ジェンダーのこと。」にしています。一方的に語るのでもなく、話を聴き続けるのでもなく、話し合いたい。逃げずにちゃんと向き合って、お互いに理解し合いたい。そして、コミュニケーションの受け手側にとっても、新しい気付きを与えられたり、背中を押してあげたり、勇気がもらえたりするものをつくりたいです。
岩田:諦めずに対話することが大事。批判されるものだけじゃなくて、いい事例は何が良いのか、そこからどんな学びを得られるかも対話のヒントにしていきたいです。
ジェンダーって、バトるものですか?
スー:今の世の中って、ジェンダーにまつわる対立構造ができている気がする。
Aという主張をする側と、それに反対するB。そしてそれを傍観しているCたち。
その対立構造では、お互いの正義をロジックでぶつけ合っているんだけど、そもそも前提となる価値基準が違うので、話が噛み合わないし、バトルが収まることはないと思うの。
さらには、それを見ているCの人たちがジェンダーって「こわいもの」「争うもの」「関わりたくないもの」として見ちゃうことも大きな問題だと思うんだよね。
だから、戦い続けても、たぶん素敵な未来はなくて。結局はお互いに、ゆっくり対話をしながら、相手の話を聞いて、自分の話もして、さらには相手のことを想像して、理解すること。同じ世界に住んでいるんだから、しっかりお互いに理解できる流れがつくれたら、幸せな社会になると思う。めちゃくちゃ理想論ですが。
岩田:それ、すごく共感できるな。異なる正義が対立していて、世の中がまだ良い方向に向かっていない気がする。結局、一人一人の価値観が違う中で、一つの正解を決めることなんてできない。だからこそ、この対立を乗り越えるために、「良いコミュニケーション」が大切なんだと思います。
スー:その「良いコミュニケーション」をつくるヒントになるものを、私たちがこの連載で何かしら見つけたい!
「性別にとらわれない方が幸せな社会になる」を証明する
岩田:「ジェンダーは、グラデーション」ってよく言われるじゃないですか。男性と女性にシンプルに分けられる話じゃないから。そう考えると、ジェンダーって、一人一人に向きあって考えるものだと思ったほうがいいよね。
スー:人類を「男」か「女」かでシンプルに分類されたら、たまったもんじゃない。マーケティング的にも、そんな雑な二分法的分類と、「男だからこうだろう」「女だからこうだろう」な勝手な妄想でプランニングすると、ハズれてしまうのは当たり前かなと。多様化している社会だし。
岩田:「女性向けの新商品」とか、「男性が好きそうな表現のCM」とか、今まで当たり前にあったけど、それだとうまくいかない時代になっているよね。商品のコンセプトも男女だけで考えると、広すぎて誰にも刺さらなかったり、表現も時代遅れになったりする。
スー:だから私たちは、「性別にとらわれず、一人一人に向き合う方が社会は幸せになれる」ということを活動の中で証明したいなと思います。その前にまずはジェンダー についてもっと考えて勉強したいと思った。だから今回の連載は「教えてください!」な姿勢で挑もうと思ったのです。
岩田:僕はいわゆる「男らしい」ファッションが好きだったり、異性におごることも嫌じゃないし、ジェンダー的にすごくフラットな思想というわけでもなさそうで。「それって良くないのかな?」と、ふだんから悩んでます。
スー:いろんな考え方の人がいていいよね。ダメなのは、他人にそれを強要することだと思う。「男なんだからこうしなさい」とか「女なんだからこうしなさい」とか。
ただ、コミュニケーション(広告など)で、多くの人に向けて表現することは、また別問題。そこで「何がよくて、何がいけないのか」が、まだ誰も明確に分かってない気がする。私たちも毎週議論しても結論は出ないしね。難しい......。
岩田:難しい……。2人で話しても答えは出ないからこそ、この悩みを、他の人にも話してみたいね。
スー:そうだね!!
この連載では、さまざまな分野の方と「ジェンダーとコミュニケーション」をテーマに対話し、これからのコミュニケーションのヒントを探っていく予定です。
企業のコミュニケーションを、一人一人の人生を、この社会をより良くするために。
みなさんも、ジェンダーのこと、一緒に考えてみませんか?
イラストレーション : 萬田 翠