loading...

電通報ビジネスにもっとアイデアを。

「MITテクノロジーレビュー」と考える、Under 35とテクノロジーの今No.2

若きイノベーターを見いだすアワード、今年も開催。初年度受賞者の思いを聞く

2021/08/23

若かりし頃のGoogle、Facebook創業者も受賞した、知る人ぞ知るテックメディアのアワード

マサチューセッツ工科大学の会報誌から始まり、100年以上の歴史を持つテックメディア、「MITテクノロジーレビュー」。

同誌の日本版が、これからの未来をつくる35歳未満の若きイノベーターを発掘するべく、アワード「Innovators Under 35 Japan」を今年も開催します。

MITテクノロジーレビューが日本の若きイノベーターに期待することとは?

このアワードが応募者、受賞者にもたらす効果とは?

昨年もご登場いただいた、同誌を運営する角川アスキー総合研究所の小林久編集長と、第1回となる2020年度アワード受賞者の一人・FullDepth(フルデプス)の伊藤昌平CEOにお話をうかがいました。

(聞き手:電通ソリューションクリエーションセンター 笹川真)

アワード「Innovators Under 35」とは?

・これからの未来をつくる「35歳未満の若いイノベーター」を発掘する、歴史あるアワード

・本家(アメリカ)では若き日のセルゲイ・ブリン(Google共同創業者)、マーク・ザッカーバーグ(Facebook創業者)ら、後に大きく羽ばたくことになるイノベーターが多数輩出

・2020年から始まった日本版では、今回のゲストである伊藤昌平氏ら13人の若きイノベーターが選出された


若き日のグーグル、フェイスブック、ツイッター創業者らも受賞!歴史あるアワード

What's IU35?
笹川:昨年に引き続き、この仕事でご一緒できてうれしいです。MITテクノロジーレビュー[日本版]の小林編集長に2年目の本アワードについて伺います。そして今日は、記念すべき日本版第1号受賞者のお一人で、「水中ドローン」のスタートアップ“FullDepth(フルデプス)”を創業した伊藤CEOにもご参加いただきました。

伊藤:本日は貴重な機会をいただき、ありがとうございます。

笹川:まずは小林編集長、アワードの概要を改めてご説明いただけますか?

小林:「Innovators Under 35」は、テクノロジーによって社会の変革に貢献する35歳未満のイノベーターを、毎年表彰している世界的なアワードです。

過去にはGoogle共同創業者のセルゲイ・ブリン、Facebookのマーク・ザッカーバーグ、Twitterのジャック・ドーシーなど、今や世界を代表するようなイノベーターをいち早く発掘してきました。

これまでも世界の各国、各地域でローカル版が開催されてきましたが、2020年に初めて日本版を開催することができ、本日来ていただいたフルデプスの伊藤さんを含め、13人の方が受賞しました。なお、2020年受賞者は、この夏に実施されるグローバル版のアワードにもノミネートされることになります。

笹川:第2回となる2021年のアワードが、まもなく応募を締め切ります。第1回からの大きな変更点はありますか?

小林:はい、今回から募集分野のカテゴリに「エネルギー/持続可能性」と「通信」の2分野を新設しました。

グローバルではもともと9分野を設けているのですが、日本版は昨年の5分野のスモールスタートで始めて、今年は7分野と、徐々に拡充していく方針です。

数ある分野の中から、私たちから見て、日本が取り組むべき課題として優先度が高いもの、かつ日本がグローバルで存在感を高められる可能性が高い分野として、今年は「エネルギー/持続可能性」と「通信」を選びました。

笹川:アワードの募集・審査は本家のアメリカをはじめ世界各地で行われますが、審査基準は全て同じなのでしょうか?

小林:基本的には同じです。全世界共通の審査基準に基づく、かなり客観的で明確な評価制度になっています。詳細は開示できないのですが、ポイントとしては技術そのものよりも、「技術が与える社会的インパクト」の大きさや、課題解決の方法をいかに分かりやすく伝えられるかを重視しています。

「MITテクノロジーレビュー」自体も、単にテック好きが読むメディアというより、「技術が社会にどのようなインパクトを与えるのか」を追求するメディアなんです。アワードも「その技術や取り組みが、具体的に社会にどういうインパクトを与えるのか、どんな課題を解決するのか」が重要な評価軸になります。

※ アワードの概要は前回の記事もご参照ください。


「海のストリートビューをつくる」。壮大な夢に向かう“水中ドローン”とは?

FullDepth(フルデプス)の伊藤昌平CEO。水中ドローンでさまざまな社会課題解決に挑む“発明家”。
FullDepth(フルデプス)の伊藤昌平CEO。水中ドローンでさまざまな社会課題解決に挑む“発明家”。

笹川:ここからは、第1回受賞者の一人、フルデプスの伊藤CEOに話をお聞きします。まず、フルデプスがどんな会社なのか教えてください。

伊藤:フルデプスは産業用水中ドローン等の企画・開発および製造、販売を手がけ、「日常的に水中にアクセスできる環境」の実現を目指すスタートアップです。

現在の水中ドローンの主な用途としては、橋梁、ダム、港湾、洋上風力発電などの水中インフラ、水中構造物の点検です。こうした構造物を長く使い続けるためには定期的な点検が欠かせませんが、潜水は危険な仕事で専門性が高く、潜水士の人手不足も年々問題になっています。そこで私たちは軽量で深く潜れる水中ドローンを提供し、水中インフラの維持・管理をサポートしています。

他には、長期の気候変動や海の生物多様性の研究、海底資源の開発などにも、水中ドローンを活用いただいています。

2020年授賞式

小林:昨年アワードに応募・受賞したことで、何かご自身や会社に変化はありましたか?

伊藤:まず応募を決めた時点で、「なぜ自分たちがこのビジネスをやっているのか」「今後どこに向かっていくべきなのか」を改めて整理できたので、非常に良い機会になったと思います。

笹川:伊藤さんはもともと学生時代に、「ロボットで深海魚を見たい」という個人的な思いから、趣味で水中探査ロボットを作り始めたんですよね。

それが事業化を進めていく中で「水中インフラの老朽化」といった社会課題を発見し、今や「こんな重大な社会課題を、1社のスタートアップに任せきりで良いのか?」というスケールの社会課題に挑んでいますよね。

伊藤:フルデプスの取り組みに対して「そんなところに市場があるの?」と言われることもあった中で、MITテクノロジーレビューから評価を頂けたことで、「認めてもらえた!」という喜びが大きかったです。

水中ドローンは“信頼性”が求められる分野なので、こうした世界的な賞を頂けたことで、周囲からの信頼も高まり、私たちも自信を持って自社のドローンをレコメンドしやすくなりました。

あともう一つ。受賞時の肩書を「発明家」としてもらえたこと。実は小学校の卒業文集で将来の夢に「発明家」って書いていたのですが、MITテクノロジーレビューに認定してもらえたのは思いがけない喜びでした。

いずれにしても、賞を頂けるなんて思っていなかったので、びっくりしました。どういったところを評価いただけたのでしょうか。

小林:「海洋」は温暖化や海洋資源の保護、生物多様性の保全などいろいろな社会課題と密接な関係にあります。地球規模で関心が高い「海洋」「水中」という領域にチャレンジされているのが、高評価につながったのではないでしょうか。

個人的にも、カメラで海中を見るUIの面白さも含めて、「テクノロジーを用いた社会課題に対する新しい解」を今後さらに見せてくれる予感がしました。海は人間にとって身近な存在なのに、実際に海の中で何が起きているのかは分からないことだらけなんですよね。自然破壊と生態系との相関関係を発見し、そこから解決の糸口を見いだすなど、もっと高頻度で水中ドローンで潜れるようになることで、新しい発見を得られる大きな可能性を秘めていますよね。

伊藤:例えば、海のマイクロプラスチック汚染もどこまでが許容範囲で、どこからが本当に危険なのか、実際には誰も把握できていないのが現状です。水中の情報を把握できないことは、「これから人間が地球に住み続ける上でのボトルネック」になると確信しています。

先ほど、笹川さんが「スタートアップ1社に任せきりで良いのか?」と仰ってくださいましたが、まさにその通りで。私たちスタートアップはどうしても足元の課題や、今すぐ役に立てるところから始めるしかないのですが、「長期的な地球全体の課題」にも、みんなで取り組んでいく必要があります。今回のアワード受賞を契機に、そのような発信や啓発活動も、皆さんと一緒にやっていきたいですね。

小林:それから、伊藤さんは「海のストリートビューをつくる」という壮大な夢を掲げていますよね。目の前の社会課題解決だけでなく、10年後、20年後にこれがどう結実していくのかという、「ワクワクするような未来」を提示してくれたことも選出の理由にあると思います。

伊藤:海のストリートビューは私が生きている間になんとか実現したいと思っています。海のストリートビューを今の人類が持っている技術でやろうとすると、「300年かかる」と言われているんです。この300年を、どれだけ短縮できるかですね。

目の前の社会課題や中長期的な社会課題を解決していきながらも、最終的にはフルデプスの水中ドローンで、誰もが海の中すべてを見渡せる“ストリートビュー”をつくりたいです。

持続可能な未来の創造に欠かせない、「Under 35」の視界には何が映る?

IU35 2020受賞者

笹川:小林さんは編集長としてこれまでいろんな世代のイノベーターや研究者を見てこられたと思います。去年から本アワードを通じて「35歳未満」に区切ることで見えたことはありますか?

小林:この世代の方々は、物質的な満足感よりも、「社会への貢献度」や「社会へのインパクト」に価値基準を置き、実際にその文脈で活躍されている方が多い印象です。

しかも、ただ理想を語るだけでなく、自らベンチャーを立ち上げて理想を社会実装するために動いている点に、改めて感動しました。世界を変えるのは彼らなのだなあと、おじさんになってから感じる毎日です(笑)。

伊藤さんは、Under 35というくくりの中では比較的年長者(2020年応募時点で33歳)ですが、「35歳未満」の世代的な印象はどうですか?

伊藤:少なくとも「起業」に対する障壁はないかなと思います。私自身、何の躊躇もなく起業できたので、私より若い世代になればもっとその傾向は顕著になるのではないでしょうか。

それと同時に、近年は企業側も社員の副業や兼業、独立などを応援するところが増えつつありますよね。日本社会が挑戦しやすい環境に変化しているのは、本当に良いことだと思います。

小林:アワードには「受賞者同士の出会いによる化学反応」も狙いの一つにあるのですが、同世代の受賞者と交流は生まれましたか?

伊藤:はい、今回、個人的には、「こんなにすごい人たちと同じステージに立っているんだ」という事実が一番刺激的でしたね(笑)。スカイドライブの福澤知浩さんやギタイの中ノ瀬翔さんとは以前から面識はあったのですが、同じハードウェアを作るビジネスとして共通点があるので、情報交換ができたことは有意義でした。

小林:コロナ禍もあって、もともとの予定よりも交流の機会が少なくなってしまいましたが、そう言っていただけるとうれしいです。2020年はかなり広範なバックグラウンドを持った方々が受賞されました。多様性もこのアワードでは非常に大切なポイントなので、必ずしもグローバルな課題でなくとも、「世の中の特定の事柄に対して違和感や課題認識を抱え、技術を用いて解決に取り組んでいる方」にも、積極的に応募していただきたいと考えています。

私たちは、このアワードを主催することで、「持続可能な未来の世界をつくるための若きイノベーター」を探しています。強いマインドや思いが集うと世の中が活性化していくと思うので、単に技術が優れているかどうかという観点ではなく、幅広くご参加いただけたらうれしいです。

伊藤:それはとても大事なことですね、私たちも「それって何か意味あるの?」と言われながら、少しずつ積み上げてきました。今回のアワードで、MITテクノロジーレビューから評価していただけたことで社員一同大きな自信になり、自分たちの取り組みを世の中に発信するための活力になりました。

あまり偉そうなことを言える立場ではありませんが、自分が信じているものがある方はぜひアワードに応募してみてほしいです。応募するだけでも、大きなチャレンジになると思います。

笹川:今年も日本の若いイノベーターたちの取り組みを知ることが、今から楽しみです。本日はありがとうございました!


「Innovators Under 35 Japan 2021」の応募締切は2021年8月31日。持続可能な未来創造にチャレンジする皆さまのご応募をお待ちしています。募集要項、応募フォームなど詳細は公式ウェブサイトをご覧ください!

Innovators Under 35 Japan 2021
(イノベーターズ・アンダー35ジャパン2021)
https://events.technologyreview.jp/iu35/2021/

twitter