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エシカル消費 意識調査 2020No.4

日本のエシカル消費推進のヒントは、メルボルンにあり!

2021/09/22

先日、電通は「エシカル消費 意識調査2020」(以降、本調査)の結果を発表しました(リリースはこちら)。これまでの連載では、エシカル消費とは何か、そして国内でのエシカル消費に対する消費者の意識と傾向、企業が取り組む際のポイントについて紹介しました。

最終回は、本調査から見えた、消費者のエシカル消費意向にどのように応えていくべきか、エシカル消費の先進都市・メルボルンの事例を交えながら考察します。

<目次>
カーボンニュートラルを実現したメルボルン
異業種が連携したポイントサービスで、再生可能エネルギーの選択を後押し
自治体、企業、チャリティ団体が連携して、「食品ロス防止」「地産地消」に取り組む
「価格」と「商品メリット」への納得感を出すためには?

 


カーボンニュートラルを実現したメルボルン

私は現在、オーストラリア・メルボルンに在住し、この地の大学院で、文化産業における社会課題や社会起業について研究しています。緑に囲まれ、芸術色豊かなメルボルン。世界で最も住みやすい都市として有名ですが、2020年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにするという野心的な目標を2003年に掲げるなど、気候変動の原因となる排出物への対策を早くから始めた都市の一つです。

そして、2012年以降、メルボルン市が運営する建物や関連事業、季節ごとのイベントなどを、再生可能エネルギーでまかなう取り組みを進め、削減できなかった二酸化炭素排出量をオフセットすることで、毎年、カーボンニュートラル認証を取得しています(※1)。

街中を走るトラムはまもなく再生可能エネルギーのみで動くようになり、企業もより環境に優しい建物や100%再生可能エネルギーを選択するよう取り組んでいます。2016年に政府機関(Sustainability Victoria)が市民に行った調査では、80%の人が気候変動に対して行動することを望んでおり、87%の人が地方自治体は行動を起こすべきだと考えているなど、市民のエシカル意識は高い傾向にあります(※2)。

このように、自治体、企業、消費者がそれぞれの立場でそれぞれエシカルな消費に取り組むメルボルンには、日本がエシカル消費に取り組む上で役立つ、さまざまなヒントがあります。

エシカル消費
メルボルンのランドマーク、セントポール大聖堂。



 

異業種が連携したポイントサービスで、再生可能エネルギーの選択を後押し

本調査から、産業ごとのエシカル消費への取り組み度合いは、消費者の現状認識と期待値に差があることがわかりました。日本市場において今後の取り組みへの期待が最も大きいのは、電力・火力・水道などのエネルギー/インフラ業界という結果が出ました。中でも、再生可能エネルギーの消費意向が高くなっています。

エシカル消費


また、意向はあるものの購入経験のない消費者が多く、エシカル消費へシフトするきっかけや理由が求められる業界としても、エネルギー/インフラ業界が挙げられています。

エシカル消費

一方で、オーストラリアでの引っ越し時に、電力・火力会社を選んだ際、再生可能エネルギーの選択肢が非常に身近であることに気がつきました。オーストラリアは、化石燃料から水素への移行に国を挙げて取り組んでいる最中ですが、民間エネルギー会社や私の通う大学も研究事業への多額の投資を行っています(※3)。

例えば、エネルギー業界のリーディングカンパニーであるオリジン・エナジー(Origin Energy)は、再生可能エネルギーを積極的に取り入れており、サービスの質が高いために人気が高く、2032年までに石炭火力発電から撤退することを約束しています(※4)。

企業側の工夫として、オリジン・エナジーは、大手スーパーマーケットのウールワース(Woolworths)のポイントシステム「everyday rewards」に参入しており、月々の支払いがポイントに加算され、また、オリジン・エナジーに契約した際、ポイントがもらえるなどのキャンペーンで連携しています。

ためたポイントは、同ポイントシステムのパートナー企業である、カンタス航空や、Big W(大手日用品ブランド)、BWS(飲料ブランド)など10社以上で使用できます。ウールワースはオーストラリアの主要スーパーの中でも地域社会への貢献やフードロスへの取り組みに積極的で、さまざまな企業とも提携しており、エシカル意識の高い消費者がエネルギー会社を選ぶときに再生可能エネルギーを選択しやすい、と感じました。
 

自治体、企業、チャリティ団体が連携して、「食品ロス防止」「地産地消」に取り組む

本調査で、人々の認知・共感・実施意向が特に高かったのは「再生可能エネルギー」に加えて、「食品ロス防止」「地産地消」という結果になりました。

エシカル消費

オーストラリアでも食品ロス問題は深刻で、自治体に加えて企業が地域のチャリティ団体などと共に取り組む事例がみられます。
 
●コンポスト用に食品・植物を回収
自治体ごとにルールは異なりますが、私が住むエリアではLandfill(燃えるゴミ)、リサイクルに加えて、各家庭にコンポスト(肥料)用のボックスが配布され、食品と植物を回収しています。他にも、コミュニティごとに公園にコンポスト用ボックスが設置され、肥料がコミュニティガーデンで使用されるなど環境が整っています。

日本でも、コロナ禍で自炊が増えたことにより、自宅用コンポストボックスに注目が集まった印象を受けます。しかし、肥料の使い道に困るという声も聞くため、「食品ロス防止」については自治体がリーダーシップをとってシステムを整えることで、より多くの人が参加しやすくなるのではないでしょうか。

エシカル消費
コンポストボックスには何が受け入れ可能かイラストで表示。料理時には、それを見ながらゴミを分別します。


●チャリティ団体や農家と企業の連携
前述した、大手スーパー・ウールワースは、3つの飢餓救済チャリティ団体と提携し、数百の店舗からまだ食べられる余剰食品を回収。年間2000万食以上の栄養価の高い食事を、ホームレスの方々や難民、パンデミックの影響によって仕事を失ったビザ保有者らに無料で提供することで、食品ロスへの対策を実施(※5)。他にも、地元の農家と協力して、余った食品を動物の飼料や農場の堆肥として利用しています。こうした組織同士の提携を促進することで、消費者が間接的に食品ロスや飢餓といった社会課題に貢献できる機会が広がるでしょう。

エシカル消費
オーストラリア最大のチャリティキッチン、フェアシェア(FareShare)。冷蔵機能付きのバン(写真左)で食材の救済を行い、ボランティアが栄養価の高い食事をキッチン(写真右)で調理。フェアシェアが所有する畑でとれた野菜も加えることでより栄養価を高め、さまざまな理由で食の貧困に陥っている人々へ無料で提供しています(※6)。


●地産地消への高い意識
メルボルンでは、3つの大きなマーケットで常に地元の野菜や肉、魚介類を購入できる環境にあり、生活の中で地産地消を意識する機会が多いように感じます。大手スーパーでもオーストラリア産と書かれた食材が並び、自治体によってはコミュニティガーデンがあり、街中ではよく、“SUPPORT LOCAL(地元産業を支援しよう)”というサインを目にします。消費者が食品、日用品、あらゆる産業において地元のものを選択することや地産地消を意識することで、環境面・社会面・文化面のいずれにおいても良い影響を与えることができます。

エシカル消費
(左)地元の野菜や果物がお得に買える詰め合わせ。Prahranマーケットにて。(右)地域に根ざした店舗や道端で見かける看板。




 

「価格」と「商品メリット」への納得感を出すためには?

本調査から、消費者のエシカルな商品の購入には「価格」と「商品メリット」への納得感が大切であることがわかりました。感じ方には個人差があるため、ここでは、筆者が双方の面で納得したエネルギー会社の具体例をピックアップしてご紹介します。

エシカル消費


●「価格」での工夫
エネルギー会社を選択する際、前述のエネルギー会社オリジン・エナジーのベーシックプラン(使用電力のうち25%が再生可能エネルギー、使用ガスは100%天然ガスエネルギーのプラン)は、再生可能エネルギーを使用していない他社のプランとは、1人暮らし世帯で年間20~30豪ドル(約2000円)の価格差となりました。

他にも、再生可能エネルギーを50%や100%にすると、どの程度金額が上がるかの説明が表示してあり、ソーラー発電設備を住居に設置することなど、細かく設定することも可能でした。予算に合わせて少しずつ再生可能エネルギーを取り入れられるシステムや、前述のポイント制度は価格面での納得感につながりました。

●「商品メリット」での工夫
環境面での商品メリットを感じて再生可能エネルギーを選択している消費者にとって、納得感が高いと感じられるサービスを2つご紹介します。まず、オリジン・エナジーではエネルギー使用量がアプリ上に2時間おきに反映され、それに連動した請求額の変動もリアルタイムで見ることができます。

次に、電力需要が高い「SpikeHours」と呼ばれるピーク時に省エネ目標を達成したユーザーに報酬を与える「Origin Spikeプログラム」を実施しています。ユーザーは、想定を上回る結果を出すことでポイントを獲得し、PayPalキャッシュやギフトカードに交換することができます(※7)。

「SpikeHours」の時刻通知メールでは、再生可能エネルギーへの移行が進む中で、電力網の負荷を減らすために協力し合いましょう、と呼びかけています。企業側がエシカル意識の高い消費者にきちんとサービスを届けることと、消費者側も企業の提供するサービスに積極的に参加すること、双方の行動によって、経済的にも許容可能で環境面への負荷の少ないエネルギー源を確保していくことにつながると思いました。

今回は、本調査をもとに一部の業界の海外事例を紹介しました。これまでの連載でお伝えした通り、エシカルな商品とサービスに対する消費者の需要は国内外で拡大しており、あらゆる企業の活動は、SDGsの達成や持続可能な社会の実現に大きく貢献することができます。地方自治体や企業、チャリティ団体、消費者がそれぞれの立場で取り組む課題は異なりますが、志を共有する組織同士が垣根や国を超えて協力し合うことが必要です。

<参照元>
※1 Climate Change  Mitigation Strategy to 2050, Melbourne together for 1.5℃[Government Report]
https://www.melbourne.vic.gov.au/sitecollectiondocuments/climate-change-mitigation-strategy-2050.pdf
 
※2 Sustainability Victoria [Government Website]
https://www.sustainability.vic.gov.au/
 
※3 JETRO (2020) オーストラリアにおける水素産業に関する調査https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Reports/01/82b3276826014c69/20200042_02.pdf

※4 Origin Energy sustainability and renewables [Company Website]
https://www.originenergy.com.au/about/sustainability.html

※5 Woolworths Sustainability [Company Report]
https://www.woolworthsgroup.com.au/icms_docs/195782_2020-sustainability-report.pdf

※6 FareShare [Company Website]
https://www.fareshare.net.au/what-we-do/

※7 The Origin Spike program  [Company Website]
https://www.originenergy.com.au/spike/



【エシカル消費 意識調査2020の概要】 
・対象エリア:日本全国
・対象者条件:10~70代の男女
・サンプル数:性年代別に各125人ずつ、計1000人を人口構成比でウエイトバック集計
・調査手法:インターネット調査
・調査期間:2020年11月18日~25日
・調査機関:電通マクロミルインサイト
※構成比(%)は小数点以下第2位で四捨五入しているため、合計しても必ずしも100%にならない場合があります。

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