【グローバル】加速するサステナビリティ&サーキュラーエコノミーNo.10
最新調査から読み解く!12カ国のサステナブル・ライフスタイルって?①
2021/10/07
電通グローバル・ビジネス・センターと電通総研は、2021年7月、12カ国(日本、ドイツ、イギリス、アメリカ、中国、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)を対象に「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」を共同で実施しました。この調査結果について3回に分けて考察します。
今回は、代表的な調査結果を紹介しながら全体を概観します。今後は調査結果をベースに、サステナブル消費行動や、Z世代とカーボンニュートラルなど、テーマを絞って深掘りしていく予定です。
<目次>
▼各国でこんなに違う!関心のある社会課題
▼中国では“食べ残し”禁止
▼イギリスのチャリティ文化はエコでもある
▼地球環境か?個人の幸福か?「サステナビリティ」のイメージ
▼「2030年」に循環型社会の到来をイメージできる国は少数?
▼未来志向のASEAN
各国でこんなに違う!関心のある社会課題
日本で「社会課題は?」と聞くと、「少子化・高齢化」を思い浮かべる人も多いでしょう。12カ国の結果を見ると、関心を寄せる社会課題には大きな地域差があることが分かります。特筆すべきはドイツ、イギリス、シンガポールで「海洋プラスチックごみ」への関心が最も高いことです。
欧州では、海洋プラスチックごみ問題が社会的に取り組むべき課題として注目を集めており、複数のプロサッカーチームが海洋プラスチックごみを素材に使用したユニフォームを着用するなど、海洋汚染問題の認知向上や解決を目指す事例が増えています。
また、国による皆保険制度が存在しないアメリカで「医療制度・設備」が上位に入っていることや、ASEAN諸国で「公衆衛生」が上位に入っていることから、新型コロナウイルス感染症が人々の生活に大きな影響を与えている様子がうかがえます。
さらに、中国、インド、ベトナムにおいては、「大気汚染」「水質汚染・水不足」といった環境問題への関心が高くなっています。これらの国の主要都市では、大気汚染指数が高い値を記録しており、実際に人々が生活の中でその影響を体感していることが考えられます。
また、アメリカのみ「人種差別」が上位に入っています。2020年から2021年にかけて全米的なデモへと発展した、「Black Lives Matter」や「Stop Asian Hate」といった人種差別抗議運動のモメンタムが反映された結果といえそうです。
中国では“食べ残し”禁止
中国とフィリピンでは、「レストランで余った食べ物を持ち帰る」が6~7割に浸透しています。中国ではもともと、余った食べ物を持ち帰ることを見込んで、飲食店では多めに注文することが一般的でした。それに加え、2021年4月末、フードロスを禁止する「反食品浪費法」が施行され、さまざまな罰則が定められました。
例えば、飲食店の店員は客が適量を注文するよう促す義務があるため、客が過剰に注文してしまった場合は、飲食店側に最大で1万元(約17万円)の罰金が科されます。逆に、飲食店側は食べ残しの処分にかかる費用を客に請求することもできます。このように、中国では客側も飲食店側も、フードロス削減を意識せざるを得ない状況になりました。
イギリスのチャリティ文化はエコでもある
「不用品・本を寄付や中古買取してもらう」ではイギリスがトップとなりました。イギリスでは、小売店の約4%がチャリティ・ショップ(※1)というデータもあるほど、チャリティ・ショップが定着しています。チャリティ・ショップは、貧困撲滅や、高齢者、子ども、心臓病や癌の研究など、支援対象を明確にした慈善団体によって運営されており、そこで売られる品物のほとんどが市民からの寄付です。
※1
イギリスのCharity Retail Association(チャリティ小売業協会)ウェブサイトより
多くの家庭では、大掃除や衣替え時に「チャリティ行きバッグ」を用意し、小さくなった子ども服、行き場のないお土産、模様替えで不要になったカーテンなども捨てることなく、チャリティ・ショップに寄付しています。日本でも、フリマアプリなどの普及により不用品の売買が手軽になりましたが、イギリスのような国と比較すると、不用品を手放す際の受け皿がまだまだ限定的であり、寄付という行為も定着していないのが実情です。
地球環境か?個人の幸福か?「サステナビリティ」のイメージ
「サステナビリティ」という言葉も、国によって連想されるイメージはさまざまです。日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、中国、インド、シンガポールの7カ国では、上位に「地球環境」「循環型社会・サーキュラーエコノミー」の両方が入る結果となり、主として地球環境の「サステナビリティ」がイメージされています。イギリスとドイツでは「責任・義務」も上位に入っているのが特徴的です。
一方、アジアでは、「発展」「技術的進歩」など産業成長を示す要素も多く、経済を含めた「サステナビリティ」のイメージが想起されています。また、タイとマレーシアでは、上位に「ウェルビーイング」や「ハーモニー」が入っており、個人の幸福や社会としての「サステナビリティ」に関連したイメージが強いようです。
「2030年」に循環型社会の到来をイメージできる国は少数?
一方、「2030年」という言葉から連想することについては、「デジタル」や「技術進歩」が国を問わず上位に入る結果となりました。多くの国で「発展」「成長」「変革」といった動的でポジティブなイメージが連想されていますが、日本は10年前と同様に「不安」が上位に入っています。また、「循環型社会・サーキュラーエコノミー」が上位に入ったのは、イギリスのみとなりました。
2030年は、国連で2015年に採択されたSDGsの達成期限として設定されている年です。しかし多くの人にとって、2030年といえば、「デジタル技術が進んでいる」というイメージのままであり、SDGs策定前の、2010年からほぼ変わっていません。経済成長一辺倒ではなくサステナブルな未来を、という機運はありながらも、循環型でバランスのとれた未来まで想像しきれている国はまだ多くはないというのが現状のようです。
未来志向のASEAN
ベトナム、インドネシア、中国は、「環境税などのコスト負担を許容できる」が7~8割と高く、さらに「今の生活を守ることに精いっぱいだ」よりも、「次世代につなぐためにできることをしている」の割合が高い結果となっています。
インドネシアは、12カ国で最も多い66.3%が「次世代につなぐためにできることをしている」と回答し、「サステナビリティ」という言葉から連想するイメージでも「子ども・次世代」が上位に入っています。ASEANの中でも比較的出生率が高い(※2)こともあり、子どもの存在が身近で、日常生活の中でも次世代のことを考えることが多いのかもしれません。
一方、経済先進国(※3)では、環境税などのコスト負担に消極的で、かつ次世代につなぐよりも今の生活を守りたいと回答する傾向がありました。気候変動は地球規模の問題であり、経済先進国が率先してコスト負担を受け入れるべきという潮流の中で、個人の意識は反対の結果を示しているのが本調査の興味深い点です。
人は自分の暮らしに余裕があるかどうかを、その国における文化水準や生活水準を鑑みて相対的に評価します。所得格差が広がる経済先進国では、環境保護よりも自分の生活を維持することに意識が向かう人が多いのかもしれません。
※2
国連のデータベース「World Population Prospects 2019」のCrude birth rate (births per 1,000 population)を参照。今回の調査対象であるASEAN6カ国の2015年以降の出生率は、フィリピンが最も高く、次いでインドネシア。
※3
本調査での「経済先進国」の定義は国際通貨基金(IMF)が2017年に発表した「経済先進国」に準じ、日本、ドイツ、イギリス、アメリカ、シンガポールが該当する。
各国ごとのさまざまな特徴はありながらも、調査全体からは、将来世代を思いサステナブルな生き方に積極的なASEANの姿が浮き彫りになりました。
新型コロナウイルス感染症による停滞ムードも長引き、先行きが不透明な漠然とした不安が続いています。小さな行動を丁寧に積み重ねることでより良い変化をもたらそう、という希望ある呼びかけがこれまで以上に必要とされているのかもしれません。想像すること、そして希望を持つことがサステナブル・ライフスタイル浸透の鍵となっていくのではないでしょうか。