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オーディエンス研究から見つける新たなアプローチNo.3

シニアはスマホをどれだけ使いこなしている?~シニアの最新メディア事情~

2021/12/02

能登氏と長尾氏

ビジネスへのヒントや気づきを提供したり、新しいマーケティングへの知見を開発したりすることを目的に、電通メディアイノベーションラボでは、オーディエンス(メディアや情報の受け手)の研究プロジェクトを推進し、オーディエンスにまつわるさまざまな関心に応える情報を発信しています。

今回は、マーケティングの重要なターゲットの一つ、「シニア層」について、長年にわたり高齢者へのデジタルリテラシー拡大に努めてきたNPO法人PCTOOL代表理事の能登貴史さんにインタビュー。最新のシニア事情やコミュニケーションのポイントなどを聞きました。

シニアとスマホの関係は?

長尾:本日は、富山県でNPO法人PCTOOL(ピーシーツール)代表理事としてご活躍されている能登さんをゲストにお迎えしています。能登さんには以前、シニア層に関する共同プロジェクトで大変お世話になりましたが、その後はどのような活動をされていますか?

能登:PCTOOLは、地域のIT化推進を目的に設立したNPOです。目に見える形として高齢者のためのパソコン教室を運営し、立ち上げて20年以上になります。最近では「市民活動サポートセンターとやま」の代表理事として、ネットワーク化の支援、セミナーでの啓発など、地域の社会課題のサポートにも取り組んでいます。

長尾:そういえば、PCTOOLの「PC」はパソコンのことではなくPersonal Communication の略、ということを前に伺いました。私どものテーマは、まさにコミュニケーション。本日はいろいろとお話を聞かせてください。

はじめに、シニアのネット利用、中でも「スマホでのネット利用」について伺います。【図表1】は年齢層ごとのスマホでのネット利用率のデータです。例えば、70代も約7割がスマホ経由でネットを利用しています。

【図表1】

インターネット利用率
ビデオリサーチ社「シニア+調査」(2020年、東京エリア)を基に電通が作成

続いて、【図表2】は1日のネット利用時間のグラフです。55-74歳をシニアと定義して行われた調査の結果です。ご覧のように、PCネットは上昇基調で、スマホネットはもっと急速に右肩上がりで伸びており、2020年にPCネットをスマホネットが超えています。

【図表2】

デバイス別ネット利用時間
ビデオリサーチ社「シニア+調査」(2020年、東京エリア)を基に電通が作成

シニア向けの雑誌(例えば「ハルメク」など)でも、シニアがスマホへスムーズに入っていけるような特集がよく組まれていますね。以上のようなデータをご覧になって、富山での実感値としてはいかがでしょうか?

能登:はい、スマホが間違いなくメインとなっています。携帯ショップでも、従来型のケータイはもうほとんど販売しなくなりましたね。

長尾:地方でもスマホが当たり前の状況ですね。皆さん、バリバリ使いこなしていますか? 

能登:私がふだん触れ合う65歳から78歳くらいの方々を念頭に話しますと、「持っているのと使いこなしているのは大違い」という点があります。

例えば、アプリのダウンロードすらできない人も多く見かけます。PCTOOLの教室でも、初心者のためのスマホ講座を始めていますが、「アプリを入れる」ということが思いのほか難しいようです。さらに、IDとパスワードの入力をしてアプリへログインするところも大きなハードルです。

長尾:そういった課題もあるのですね。逆に、スマホをすいすい使いこなしている人は、スマホでどんなことをしていますか?

能登:できる人はかなりアクティブですよ!女性は、お料理動画ですね!(笑)。あと、写真系アプリ。山歩き、花見、小旅行などに行って、撮った写真をコラージュしたり。

長尾:楽しそうですね!では、コミュニティ系の行動に関してはどうですか?

能登:私たちの教室では、Facebookを利用したコミュニケーションを勧めています。特に最近は、「オンラインサロン」が生徒さんたちの楽しみにつながっています。

自宅でラップトップ

長尾:オンラインサロン!皆さん、積極的に参加されますか?何か、モチベーションアップの企画とか、行われてるのでしょうか?

能登:本日同席の能登智子事務局長(能登代表の奥さま)が先生を務める教室でやっている企画ですが、毎日、早朝オンラインサロンで「クイズ」を出すんですね。このクイズを朝一番の楽しみとして、皆さんイキイキと参加されています。

長尾:面白いですね!ちなみにどんなクイズですか?

能登:例えば、四字熟語の2カ所を当てる穴あき問題です。日によっては、聞いたこともないような難しい熟語のときもある(笑)。皆さん、一番に解答したくてわれこそは、とスマホで書き込んできます。クイズとともにその日の体調などもコメントで伺ったりしていますので、地域の見守り的な役割にもつながっていると思います。

長尾:次に、シニア層の動画視聴行動についてはいかがでしょう?

能登:多くの方が見ているのは、実生活に役立つものでしょうか。松の木の剪定(せんてい)の仕方とか。主婦の方だと、ネジの緩め方に困ったときに方法が分かる動画とか。また、教室では「YouTubeを活用して調べものをしよう!」という授業も行っています。

伝統的なマスメディアへの意識 

長尾:スマホを中心に伺ってきましたが、テレビやラジオなどの伝統的メディアについて、シニアの皆さんの向き合い方はいかがでしょう?

能登:テレビはシニアにとって今でも最大のメディア、その点は不動です。一日の長い時間、地上波テレビを楽しんでいます。

ただし、高齢者という視点から見たときに、昨今のテレビについては少し思うところもありまして。地上波の番組では、見ている人の社会不安や恐怖といったものを必要以上にあおるものが見受けられます。教室での雑談で「殺人事件は増えていると思いますか?」といった質問をすると、「増えている」と答える人が多いんです、実際の統計ではそうではないのに。不安な気持ちが増すと、BS放送やラジオへ切り替えてしまう人もいます。

長尾:シニアは「楽しさ第一主義」であるという言葉を、以前、能登さんからお聞きしたのを思い出しました。ところで、ラジオという言葉が出ましたが、昔からラジオはシニアに強いメディアですね。

能登:お年寄りは、不安でないもの、安心・安全なものを好みますから、ラジオにはとても親しみが深いです。ご当地人気パーソナリティの番組のような「ほんわか」したものを、シニアは求めていると思います。

それでいうと、このデジタル時代に、「ラジコ(radiko.jp)」やNHKの「らじる★らじる」の役割も大きいですよ。ウオーキング中やお料理中に聞いているという人も多い。ニーズは高まっていると思いますし、私の周りでも楽しんでいる人が増えています。

長尾:ラジオ業界にとって元気が出る話ですね。実際、ラジコの利用経験者率がシニアで伸びている、というデータもあります(【図表3】)。そういえば、能登さんご自身も富山県のコミュニティFMの番組パーソナリティをされていましたね!

【図表3】

ラジコ利用経験者率
ビデオリサーチ社「シニア+調査」(2020年、東京エリア)を基に電通が作成

シニア層へのマーケティングやコミュニケーションのヒント

長尾:次に、シニアとお金の話になりますが、若い人よりシニアの方が「価格比較サイト」をよく利用し「特典の得られるサイト」も多用する、というデータがあります。一般に「シニア=裕福」などと語られることも多いですが、シニアは意外とコストコンシャスで消費の目は鋭いとも感じています。そのあたりについて、いかがでしょう?

能登:シニアは、お金にはシビアです。でも一方、必要と思うものには積極的に使う面も見られます。また、「商品は一度手に取らないと」という志向が強いと感じます。一度手に取ると納得感が出る。ネットで調べても、最後は売り場で直接商品を確認してから買う人が多いと思います。

長尾:そのような難しいターゲットへ向け、マーケティングで留意すべきことは何でしょうか?

能登:これからの時代は、どれだけ個へ寄り添えるかが大事だと思います。シニアも人により状況は千差万別。例えば、耳は少し遠いけれど目はよく見えるとか、目はよく見えるけれど体力がないとか、ふだんから文章を読む生活をする人とそうでない人とか。個によって状況はさまざまです。

長尾:そのような多様性へ、キメ細かく対応することが肝要なのですね。

能登:それと、もう一つの重要ポイントは、先ほども言いましたが「納得感」です。アプリの機能やメリットだけ述べても全然頭に入っていかないけれど、「このアプリでこう生活が変わるんだよ!」というふうに伝えるとよいということが、教室で教える中でよく分かりました。アプリ起点で語るのでなく、このアプリを使うとこんな楽しい生活が!という説明にすると、生徒さんたちはがぜん、顔が変わります。

長尾:能登さんが生徒さんへ、「孫との楽しい場面」を目標にお孫さんへ渡す「お年玉袋」を手作りする講座を教えられているのを、思い出しました。こういったことも、なぜパソコン教室に通うのか?ということへの納得感につながってますよね。

祖母とスマートフォン

最後に、広く「シニアとのコミュニケーション」という視点で、大事だと思うことをお伺いできますか?

能登:“距離感”が重要です。シニアの皆さんへの教室を展開してきましたが、常に生徒さんとの距離感には気をつけてきました。生徒さんたちに決して「お客さん」として接しないよう、気をつけています。おじいちゃんの生徒さんを、「田中さん」と呼ぶ代わりに「ケンちゃん」などと呼んで、親しく、できるだけ近い距離感で触れ合っています。

うちの教室では、物理的な“目の高さ”も合わせるようにしています。例えば、先生がしゃがみこんで説明するようにしたり。教える側が高い位置から教える「指導者」になってしまうとone wayの関係になってしまう。そうするとうまくいきません。僕らと楽しい環境で過ごす、というアプローチだとうまくいきます。

目線合わせがポイントです。一緒に楽しい時を持ち、声を聞きながら変化し続ける、という気持ち。そこから生まれるさまざまな新しいツールや世界は皆さんの幸せな生活に必ずつながりますよ、といった志が伝わることが鍵ではないでしょうか。

長尾:多くのシニアとの触れ合いを続けてこられた能登さんならではの貴重なお言葉を伺えました。いろいろとヒントが満載で、とても参考になりました。本日は本当にありがとうございました。


「シニアもスマホ」が当たり前の時代となり、スマホでのラジオ・動画・オンラインサロンなどコミュニケーションチャネルが拡大しており、マーケティングのチャンスはますます広がります。一方、不安をあおられるようなコンテンツやメッセージには気をつけ、いかに「楽しさ」へフォーカスし「納得感」を与えていけるかが、ポイントになりそうです。また、一人一人、千差万別な生活を送るシニアの「個」へ寄り添い、目線の高さを合わせたアプローチをすることが鍵になると考えます。

ご興味がありましたら電通メディアイノベーションラボの長尾までご連絡を(mediainnovation@dentsu.co.jp)お願いいたします。

【調査概要】
調査方法:訪問による調査対象者への依頼、電子調査票による調査
対象者抽出方法:エリア・ランダム・サンプリング
調査対象者:55-74歳男女
調査エリア:東京50km圏
調査時期:2020年4-6月
サンプル数:有効回収 1605s
調査実施:ビデオリサーチ
 
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