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SDGs達成のヒントを探るNo.12

多様な価値観を受け入れる「インクルーシブな未来」のために、メディアが今できること

2021/12/10

メディアやイベントを通して、さまざまな視点で社会やビジネスを考える機会や、多様な人々と対話できる場をつくるプロジェクト「MASHING UP」。今回は、同メディアの編集長・遠藤祐子さんにインタビュー。SDGs達成や社会課題解決のためにメディアができることや、遠藤さんがイベントを通して感じたことなどをお聞きしました。

遠藤祐子
遠藤祐子氏:MASHING UP編集長。メディアジーン メディア編集部門執行役員。女性誌のライターを経て、2005年にカフェグローブ・ドット・コムに入社。 Cafeglobeの副編集長、編集長を務める。その後、2012年8月よりメディアジーンで、Cafeglobe編集長、MYLOHAS編集長を務め、2015年7月からは女性メディア統括プロデューサーに。同年よりメディアジーン執行役員、2019年よりMASHING UP編集長としてプロジェクトを統括している。(写真/撮影:中山実華)

 

SDGs達成の推進役は、企業が中心になりつつある

──MASHING UPは“混ぜ合わせる”といった意味だと思いますが、遠藤さんが編集長を務めている「MASHING UP」について教えてください。

遠藤:「MASHING UP」は、インクルーシブな社会づくりに貢献するメディア&コミュニティです。ダイバーシティの中でも、特に「ジェンダーイクオリティ」というイシューに重きを置き、記事やイベントを通して、多様な視点で社会課題やこれからのビジネスについて考えています。

「MASHING UP」で注力していることの一つは、多彩な価値観を持つ人々と対話を深める“場づくり”。女性が参加しやすいビジネスカンファレンスがあまりないと感じたことが、カンファレンスなどのイベントを始めたきっかけでした。2018年からスタートし、現在も定期的に開催しています。カンファレンスでは、海外から女性起業家を招いてグローバルビジネスについて話をしたり、メンタリングコーナーを設けて女性のもやもやについて考えたり、ダイバーシティを推進する企業が取り入れている制度を具体的に紹介したりと、毎回さまざまなセッションを実施。最近では男性の読者も増えていて、男性の「生きづらさ」にフォーカスしたセッションなども行っています。

「MASHING UP」のカンファレンスには、一般の参加者はもちろん、企業研修の一環として参加する方も多くいるのが特徴です。SDGsやダイバーシティに関する取り組みをしたいけど、何から始めていいのかわからない。形だけで終わってしまっている。このような悩みを抱える企業の方たちにとって、アクションを起こすきっかけや価値観のアップデートにつながる機会になればと考えています。

──これまで開催したカンファレンスで特に印象に残っているものを教えてください。

遠藤:今年開催したカンファレンス「MASHING UP SUMMIT 2021」です。現在、ビジネスにおいて避けては通れない「SDGs」をテーマに、持続可能でイノベーティブな事業や、人と社会を幸福にする組織はどのようなものか、「未来のビジネス」についてディスカッションを行いました。

中でも、自分がモデレーターを務めたこともあって印象に残っているのが、「未来年表:分岐点は今。2030年の日本社会を考える」と題したセッション。このセッションでは、小田急電鉄のサーキュラーエコノミー実現に向けた取り組みが紹介されました。座間駅前にあった築約50年の社宅を「ホシノタニ団地」としてリノベーションしたり、家庭ごみの収集業務を効率化する事業を行ったりと、鉄道会社がここまで積極的にサステナブルなまちづくりを推進していることに驚きました。そのほか、社内で同性パートナーとの子どもを家族として認める制度を導入したKDDIのセッションや、ESG投資の現在地について語るセッションなども実施。日本の企業が本気でSDGsの達成や持続可能な社会の実現のために動き始めている、良い方向に変わってきている、と感じられたカンファレンスでした。

これまで定期的に行ってきたカンファレンスですが、コロナが一つのターニングポイントになりました。売りにしていたリアルな会場でのインタラクティブなコミュニケーションが取りづらくなってしまったのです。今年の11月19日に開催した「MASHING UP conference vol.5」も、会場とアーカイブ配信の両方で実施。昨年からこの形で行うようになったことで、制作コストがかさむようになったり、協賛企業の商品を来場者に紹介するタッチ&トライスペースを設けられなかったり、これまで通りのやり方で開催することが厳しくなっています。それでも「MASHING UP」では、慈善事業ではなく、あくまでも多くのスポンサーとともに「ビジネス」として活動を継続していくことが重要だと考えています。

──ビジネスとして成り立つことを重視しているのはなぜですか?

遠藤:これまで、SDGsや社会課題に取り組んでいたのは、公的機関だったり、社会活動系の団体が中心、という印象でした。しかし最近は、企業が推進役の中心になりつつあると感じています。持続可能な社会のために本質的な取り組みをしなければ投資が受けられないなど、世の中の流れも変化していますよね。そのため、SDGsに取り組む企業を招いてビジネスカンファレンスを行ったり、社会課題について議論したりしている私たちが、収益を気にせずのんびり活動することはできないと感じています。どれだけ良いコンテンツを発信していても、ファンがついてくれても、事業がうまく行っていないようでは格好がつかないと思うんです。だからこそ、継続していくためには、持続可能なビジネスモデルをつくることが重要だと痛感しています。それに収益性を実現できていないということは、皆さんからあまり支持されていない、ということでもありますよね。 

大切なのは、適切なギブアンドテイクがきれいに循環するエコシステムで運営していくことだと考えています。必要な人に価値あるコンテンツを届けて、それが社会課題の解決や皆さんの気づきにつながる。さらに、収益が出て活動を少しでも長く続けていくことができれば、メディア制作者としてこれほどうれしいことはありません。きれいごとだけではなく、ビジネスとして成り立つかどうかは、これからもシビアに考えていきます。

MarshingUp
2021年6月26日に開催されたオンラインカンファレンス「Women's Well-being Updates 2021」(写真/撮影:中山実華)

「オープン&ポジティブ」な姿勢で、メディア業界の連携を目指す

──多様な価値観を持つ人を“MASHING UP”させるために、遠藤さんが意識していることはありますか?

遠藤:「対話」をすることはとても重要だと感じています。オープンに話をすることや相手の話に耳を傾けることは、いわば、民主的な社会の基本でもあり、とても大事なことですよね。私自身100%できているとは言えないのですが、自分とは価値観が違う人に対しても、まずは相手の考えを理解しようとすることは必要だと考えています。

「MASHING UP」でも「オープン&ポジティブ」をバリューとして掲げていて、他のメディアの編集長などを積極的に呼ぶようにしています。競合他社の方を招くことに対して反対意見もありましたが、メディアビジネスを変えていくためには、他の業界で行われているようなオープンイノベーションのようなものも必要だと感じているんです。そのために、競合を排除するのではなく、さまざまなメディアの人たちの話に耳を傾けて、一緒に何かできないかを考えていきたい。オープンでポジティブな姿勢で相手と向き合い、対話することを心掛けています。

──SDGs達成やインクルーシブな社会をつくっていくために、メディアは今後どのようなことをやっていくべきでしょうか?

遠藤:メディアにできることはいろいろあると思います。例えば今、フェイクニュースは特にウェブメディアにおける問題の一つです。人々に過度な不安や混乱を与えることのない、ファクトチェックされた正確な情報や、専門家による確かなキュレーションの重要性を実感しています。また、速報性が高い情報だけではなく、時間をかけて深く調査された情報へのニーズも高まっていくはず。ウェブだけでなく、テレビや新聞といった従来のメディアの力もまだまだ絶大です。例えば、「昔ほど見られていない」と言われるテレビですが、テレビで紹介された商品がすぐに完売するということは今でもよくありますよね。最近では、新しいメディアと従来のメディアの垣根を超えた動きも少しずつ増えているように感じていて、メディアにできることはまだまだあると私は思っています。

私が個人的に関心を持っているのは、メディアリテラシーを身に付けるための活動をメディア主導で行うこと。例えば子どもたちに対して、インターネット上の誹謗中傷にどう対応すればいいかを考える機会を作ってみるなど。「MASHING UP」でも、昨年はジャーナリストの伊藤詩織さんを招いてインターネット上の誹謗(ひぼう)中傷の問題について考えました。その他にもメディアに関するセッションは毎回実施していて、これからも大事にしたいテーマの一つとして考えています。

遠藤祐子
2019年11月7・8日に開催された「MASHING UP Vol.3」。キーノートスピーカーを務めた南アフリカ出身の理論物理学者・アドリアーナ・マレ博士とのトークセッション。(写真/撮影:今村拓馬)

性別に関係なく、「活躍」できる、より「幸福」になれる社会に

──「MASHING UP」は「ジェンダー」も重要なイシューの一つとしていますね。ジェンダー平等がなかなか進まない日本企業が、今すべきことは何でしょうか。

遠藤:ジェンダー平等が実現しているとはいえない半面、人々の認識は少しずつ変わってきていると感じています。例えば、女性に対する差別的な発言や軽視するようなふるまいが、メディアで取り上げられる機会は増えましたよね。これは20年くらい前だと、きっと明らかにならなかったことだと思います。メディアで報道されることによって、多少なりとも「誰に対してもリスペクトを持って接しなければならない」という認識は広がりつつあると感じています。

また、先日ある教育関係者の方にお会いしたときには、「今の中学校や高校では、女の子が生徒会長、男の子が副会長を務めることが増えている」という話を聞きました。保育園でも、性別で遊び方を決めないようにしようというムードがあるとも聞きました。教育の現場ではすでにジェンダーへの意識が変わってきています。子どもたちの世界ではもうジェンダーギャップのない世界への一歩目が始まっているといえるのではないでしょうか。

「MASHING UP」としては、性別に関係なく一人一人が「幸福であってほしい」と考えています。「幸福」の定義は人によってさまざま。例えば最近、「女性活躍」という言葉をよく耳にしますが、社会の中で「活躍すること」が幸福だと考えている人ばかりではないと思うんです。もちろん女性だけではなく男性も、活躍したい人はしたらいいし、したくない人はしなくてもいいと思います。一人一人が、“自分の靴”を履いて歩くことができる。そして同時に、他者をリスペクトしていけるような社会をつくっていけたらいいですよね。

──遠藤さんが「MASHING UP」で目指すことや、今後やりたいことを教えてください。

遠藤:「MASHING UP」の取り組みを、ぜひビジネスの中でも生かしてもらいたいと考えています。女性のエンパワーメントという、当初から大切にしているところも残しつつ、ビジネスパーソンたちが、会社の中でどのようにコミュニケーションを考えて、仕事をしていけばいいのか。そのヒントとなるようSDGsの達成やサステナブルな社会の実現に取り組んでいるさまざまな企業の事例を取り上げていきたいと思っています。さらに現在、SDGsやESG、ダイバーシティといった領域で学びを得てもらえるようなラーニングコンテンツの開発も計画中です。今後も皆さんの気づきのきっかけになるようなコンテンツを提供して、インクルーシブな未来につなげていきたいと考えています。

TeamSDGs
TeamSDGsは、SDGsに関わるさまざまなステークホルダーと連携し、SDGsに対する情報発信、ソリューションの企画・開発などを行っています。

Team SDGsのウェブサイトでは、「MASHING UP」立ち上げまでの経緯など、ウェブ電通報とは違う切り口で遠藤さんのインタビューを紹介。併せてご一読ください!

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