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DENTSU DESIRE DESIGNが考える、「欲望理論」からのマーケティング再構築No.1

「欲望(Desire)」でつなぐ、多様化時代のマーケティング視点

2021/12/17

長期にわたって続く個人消費の低迷、予測困難な社会環境。さまざまな要因が絡み合い、企業がモノを売ることについて多くの困難がある時代が訪れています。

そんな中、電通は、ソリューション部門のメンバーを中心に集結した有志で、新しい消費者研究プロジェクト「DENTSU DESIRE DESIGN(電通デザイアデザイン:以下DDD)」を発足しました。

DDDは、企業から見えにくくなってきた現代の消費者像を、今一度「欲望(Desire)」を起点とした消費意識からひも解こうというプロジェクトです。本連載では、DDDが考える消費者インサイトへのアプローチ方法と今後の展開について紹介していきます。

第1回は電通第2統合ソリューション局の松本泰明が、現代の消費を考えるうえで消費者の「Desire」をどのような視点でとらえていけばよいかをお伝えします。

年収・所得は減少するも、8割以上が消費行動は“楽しい”と回答

SNSの普及やECの台頭、格差拡大、新型コロナウイルス感染症の流行、SDGsやサステナブルな消費への理解・関心、Z世代の台頭……、かつてない消費環境の激変の時代に私たちは生きています。

マーケティングの視点に立つと、消費者が買ったものや見聞きしたもの、行動したことをデータとして蓄積し、最適な場所で最適なものを提供する「デマンドベースド」のマーケティング手法が、多くの企業で採用されています。いわば現代は、「多くの情報がさまざまなタイミングで、消費者に供給され続けている時代」です。

こうした状況の中、個人の消費への意識はどうなっているのでしょうか。ここからは、DDDが2021年9月に実施した電通「心が動く消費調査」(調査概要はこちら)の調査データの結果を引用しながら読み解いていきます。

本調査で全国の20~74歳男女計3000人に、1年前と比べて収入や家計のゆとり、可処分所得はどのようになったかを尋ねたところ、個人年収、世帯年収、可処分所得、家計のゆとり、いずれについても「減った」と答える人が「増えた」人を大きく上回りました。

DDD連載第1回_図表01

その一方で、消費の楽しさや期待をいまだに多くの消費者は持ち続けているという結果も出ています。

「今を楽しむことにお金をかけたい」
「将来のことにお金をかけたい」
「他のひとや家族を喜ばすためにお金を使いたい」
といった項目で、いずれも約7割の人が「そう思う」と回答しています。

また「買い物は楽しい」という気持ちは、実に82%もの人々が持ち続けています。

DDD連載第1回_図表02

さらに、「この1か月間に購入した商品やサービスで、心が動いたものはありましたか」という質問に約6割の人が「あった」と回答しています。

調査を実施した2021年9月は東京を中心に緊急事態宣言下にあり、思うような消費活動ができなかった時期です。にもかかわらず、多くの消費者に何らかの「心を動かす消費」があったことが見て取れます。

DDD連載第1回_図表03

消費者が消費環境、経済環境によって、やむを得ず「消費したい気持ち」を押しとどめられているのであれば、消費者の本当の「ほしい/したい気持ち」をどのようにすくいあげ、どのように消費につなげていくかを考えることが、日本社会の個人消費低迷の解決の糸口となるでしょう。

新たな消費者インサイトの視点は、AI「D」MAを振り返ることから見えてくる

これからの消費者インサイトを検討するにあたって、過去の購買行動モデルの変遷を見てみましょう。

下図のとおり、消費の購買行動モデルは、「AIDMA」→「AISAS」→「SIPS」といった形で、常に更新され続けてきました。しかし、消費者の購買行動モデルの基礎となった「AIDMA」以降は、「D(Desire)」が消え、現代の消費者行動モデルに至るまで、Desireは消費の前提でありながら、表に現れてこないファクトとなりました。

DDD連載第1回_図表04

現代の消費を考えるうえで、このDesireをどのようにとらえたらよいのでしょうか。消費環境が複雑化する中で、「デマンドベースド」のマーケティングに見られる、「消費者の行動から顕在化した意識」の追求だけでは、その根底にある「気持ち」はとらえきれなくなってきています。

今、マーケティング戦略に求められている消費者インサイトとは、デマンドやニーズの手前にあり、人々の心理の奥底にある“本当の「ほしい/したい気持ち」”です。この本当の「ほしい/したい気持ち」=欲望(Desire)を可視化・構造化して、定量・定性的に把握することで消費者インサイトの新たな道筋を照らし出す。これがDDDの考える「欲望」視点の消費者インサイトです。

DDD連載第1回_図表05

多様で複雑な時代だからこそ欲望視点の消費者インサイト把握を

ここで、既存の「デマンドベースド」のマーケティングとDDDが考えるマーケティングインサイトを比較してみましょう。
「心が動く消費調査」では「あなたがこの1カ月に購入した心が動いた商品やサービスは、どのようなものでしたか」という質問をしています。

調査結果から、60代男性の回答をいくつかピックアップすると、
「スマートウォッチ」
「スリムスラックス」
「オーディオコンポ」
といった商品があがりました。一見するとあまり関連性を見つけられない回答です。

DDD連載第1回_図表06

それぞれの購入者に対して、現状のインターネット通販のリコメンデーション(顧客の好みを分析して、各自に適すると思われる情報を提供するサービス)だと、どういった商品が提案されるか考えてみましょう。

スマートウォッチを買った人には、運動用とみなして「トレーニングウェア」や「シューズ」をリコメンドするのではないでしょうか。

そしてスリムスラックスの場合、コーディネートでお勧めできる「ジャケット」や「シャツ」を案内し、オーディオコンポを買った人には接続できる「プレーヤー」や「サラウンドシステム」をお勧めするパターンが多く見られます。

しかし、こうしたマーケティングは常に消費者の心に届くものでしょうか?

こうした商品の購入者の「Desire」を探る本調査では、それぞれを買った人に「その商品を買ってどのような気持ちや自分になりたくて、買ったかを自由に答えてください」と尋ねました。すると、

  • スマートウォッチ購入者⇒「元気でいるためには睡眠状況を可視化して、生活の質を上げたい」
  • スリムスラックス購入者⇒「スリムタイプのスラックスをはくと若々しく見える」
  • オーディオコンポ購入者⇒「しばらく遠ざかっていたが、いい音で聴く音楽は、若いころの自分に戻れる」

といった回答が得られたのです。

つまり、いずれの商品も「いつまでも健康で若々しい自分でありたい」という欲望(Desire)のもとに購入されたものであることが見えてきます。

DDD連載第1回_図表07

そうしたインサイトを踏まえると、スマートウォッチを買った人には「リラックスして眠れる枕」を、スリムスラックスを買った人には「若々しく見えるスタイリング剤」を、オーディオコンポを買った人には「若いころにたしなんでいたエレキギター」をリコメンドすることもできるのです。

このように欲望視点からの消費者インサイトを分析すると、「デマンドベースド」のマーケティングではとらえきれない消費者像を可視化できます。

そして企業は、
「自社の商品やサービスを利用してくれている人の姿を明確に把握し、新たな商品開発につなげる」
「今まで開拓していなかったターゲットの可能性を把握する」
「今まで打ち出してこなかったコミュニケーション戦略を検討する」
といったことが可能となります。

DDDは、今回紹介したような継続的な定点調査の積み重ねやケーススタディ、文献調査などを通じて、現代の消費者の欲望像を明らかにします。そして、「欲望」視点からの戦略立案、戦術開発、新商品開発などのマーケティング支援を実施していきます。

次回は、本稿でも引用した「心が動く消費調査」を起点に“現代の欲望理論”をひも解いていきたいと思います。

【お問い合わせ先】
DENTSU DESIRE DESIGN ddd-project@dentsu.co.jp

【調査概要】
タイトル:電通「心が動く消費調査」
調査目的:変化し続ける社会環境により、可視化されにくくなりつつある消費者意識を消費者の欲望視点から分析し、今後の日本の消費社会を読み解く 
対象エリア:日本全国 
対象者条件:20~74歳 
サンプル数:3000サンプル(20〜70代の6区分、男女2区分の人口構成比に応じて割り付け)
調査手法:インターネット調査
調査期間:第1回調査 2021年9月3日(金)~6日(月) 
調査機関:株式会社電通マクロミルインサイト

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