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日本発、宇宙ベンチャーの挑戦No.9

ホリエモンは語る。宇宙はIT産業を超える!!それも近い将来。

2022/02/08

日本の宇宙ベンチャーによる「SAR衛星」は何がすごいのか?

全世界における宇宙ビジネスの市場規模は、2019年が約40兆円でした。そして、2040年代には何と100兆円に到達するそうです(「宙畑」より)。

この規模は、IT産業を超えるインパクトをもたらすかもしれません。とはいえ、現在の日本は、宇宙ビジネスと聞いても単に「夢ありますね(趣味?)」というのが大方の反応。

そこで本稿では、小型ロケット打ち上げ事業に挑む宇宙ベンチャー「インターステラテクノロジズ」の創業者、ご存じ堀江貴文さんのお話から、宇宙ビジネスの成長性、日本のポテンシャルを考察します。

宇宙へのイメージが書き換えられること請け合いです。

なお、堀江氏の発言は、2021年10月17日に福岡市内で開催された「FUKUOKA SPACE EXPO 2021」(主催:福岡青年会議所)でのトークセッションがもとになっています。(文:電通九州 山本圭)

<目次>
アメリカの情報公開がきっかけ?「あれで宇宙ビジネスに参入しやすくなった」
“東と南が抜けている”地の利。「こんなに恵まれた条件は、先進国では日本だけ」
“不真面目な用途”が市場を大きくする。「インターネット産業と同じ方程式です」
宇宙は産業の総合格闘技。「日本には産業の集積があるから、断然優位です」
「まず国内、次に海外」ではなく、ロケットはいきなりグローバル。そんなところで働きませんか?
 

アメリカの情報公開がきっかけ?「あれで宇宙ビジネスに参入しやすくなった」

スペシャルトークセッションに登壇したインターステラテクノロジズ 堀江貴文氏
スペシャルトークセッションに登壇したインターステラテクノロジズ 堀江貴文氏

──民間企業の宇宙ビジネスが盛んになったわけとは?

堀江:アメリカの宇宙開発の停滞が遠因です。ずっと政府が先導してきたわけですが、税金でやる以上は国民の関心が高くないと続けられないわけです。国民はアポロ計画で月に行って、宇宙はもう十分じゃないかと。スペースシャトル・チャレンジャーの事故もありました。政府としても負担が重いので、なるべく民間に移行したかったのですが、ロケット技術は安全保障の問題があって許可を下せなかった。ロケットもミサイルも原理は同じですから。

でも今の時代、ロケット開発も秘匿技術ではなくなった。だったら、民間に開放してしまえと。ここがアメリカのすごいところです。インターネットで使われている暗号化技術も同じですが、世界中に広まったので、だったら早く商売に変えて税収を増やそうと。アメリカとはそういう国です。それで、宇宙も開放政策にかじを切った。あれで世界中の企業が宇宙ビジネスに参入しやすくなった。

日本ではまだ宇宙がビジネスになると思われていませんが、インターネットも最初は「何それ?」だった。あと1~2年たつと「宇宙ってもうかるらしいね!」となるはずです。

2021年7月、「ねじのロケット(MOMO7号機)」     に続いて打ち上げに成功した観測ロケット「TENGAロケット(MOMO6号機)」     (写真提供:インターステラテクノロジズ)
2021年7月、「ねじのロケット(MOMO7号機)」    に続いて打ち上げに成功した観測ロケット「TENGAロケット(MOMO6号機)」    (写真提供:インターステラテクノロジズ)

“東と南が抜けている”地の利。「こんなに恵まれた条件は、先進国では日本だけ」

──なぜロケット打ち上げ事業を始めたか?

堀江:例えば東南アジアの国の多くは、自前の観測衛星が欲しい。でもそれを運ぶロケットを作れない。それで日本に頼もうとなる。受注はたくさん取れます。

日本が他国より優れている点は、“地の利”です。ロケットは東か南に打ち上げます。静止軌道は南なので、特に赤道近くが有利。低軌道は東で、ある程度の高緯度が有利です。

アメリカは、「静止軌道はカリフォルニア州」「低軌道はフロリダ州・テキサス州」など場所を変えます。その点、インターステラテクノロジズがある北海道・十勝には地の利がある。東も南も、空がキレイに空いている。“東と南が抜けている”アドバンテージ。これは先進国で、日本しかない。

“不真面目な用途”が市場を大きくする。「インターネット産業と同じ方程式です」

──ロケットに加えて、衛星にも参入。

堀江:スマホって、ほとんど人工衛星なのです。違いは姿勢制御だけ。スマホにリアクションホイールと太陽電池パネルを付けたら、立派な人工衛星です。

つまり、ほんの数年先には、“いますでにある技術”を使って衛星を大量に飛ばせるようになる。数万、数十万個の衛星が上がれば何が変わるか。防犯や防災も大事ですが、市場を大きくするのは、娯楽など“不真面目な用途”です。ネット産業と同じです。

そうした“不真面目”な使い方は、アプリの開発者が考えます。例えば、「ポケモン GO」。あのゲームを可能にしたのは、宇宙から正確な座標を測位しているGPS技術です。衛星が身近になったから、できた。

これからは打ち上げられる衛星の増加に伴って、指数関数的に衛星を使ったサービスが増えます。産業としてインターネットのように、いやそれ以上になるでしょう。

堀江氏と共に登壇したインターステラテクノロジズ代表取締役社長・稲川貴大氏(左)、進行役をつとめたタレントの中島浩二氏(右)
堀江氏と共に登壇したインターステラテクノロジズ代表取締役社長・稲川貴大氏(左)、進行役をつとめたタレントの中島浩二氏(右)

宇宙は産業の総合格闘技。「日本には産業の集積があるから、断然優位です」

──とはいえ、日本の宇宙産業に競争力はあるの?

堀江:日本の宇宙産業の成長には、自動車のサプライチェーンが非常に役立ちます。ロケットの強度を担保しながら、部品点数を少なくして軽量化してくれる。それが日本の自動車製造の技術です。

自動車はEV(Electric Vehicle、電気自動車)の時代といわれていますが、EVはバッテリー、モーター、コンピュータを買ってくれば、誰でも作れちゃう。HV(Hybrid Vehicle、ハイブリッド車)や水素よりも、ずっと簡単です。いま、技術でかなわないEUや中国が、日本車をつぶしにきているのではないかとさえ思います。そうなったら、日本の自動車産業が持っていた貴重なサプライチェーンが破壊されてしまう。

それでも僕は、宇宙産業でかなりの程度、日本のサプライチェーンを吸収できると考えています。日本は各地に、自動車、造船、鉄鋼などの集積がある。これ全部、宇宙産業につながります。ロケットや衛星は国家安全保障、経済安全保障につながるものなので、国内で製造し、部品も国内で調達する必要がある。オールジャパンでやるしかない。

宇宙は「産業の総合格闘技」です。例えば特殊鋼の技術。そもそも特殊鋼が作れる国は世界に数えるほどしかない。日本は百年の鉄の歴史があり、資本市場も充実している素晴らしい国です。ロケット産業を育成することが、価値の継承につながります。

技術の継承の大事さは、例えていうと     航空機を見ると分かります。アメリカは航空機に関して、製造技術から型式認定まで分厚いノウハウの継承がある。日本はYS11(日本航空機製造が製造した旅客機)以降、航空機製造の歴史が約半世紀途絶えました。僕たちはどんどん新しいロケットを造って、日本の産業から技術を継承していくつもりです。

2020年12月、北海道大樹(たいき)町に新たに竣工したインターステラテクノロジズの新社屋・工場(写真提供:インターステラテクノロジズ)
2020年12月、北海道大樹(たいき)町に新たに竣工したインターステラテクノロジズの新社屋・工場(写真提供:インターステラテクノロジズ)

「まず国内、次に海外」ではなく、ロケットはいきなりグローバル。そんなところで働きませんか?

──日本の宇宙産業の課題は?

堀江:人材不足ですね。よく「宇宙は、夢があっていいですね」と言われるけど、それは「趣味であって、ビジネスではないのでしょう?」、そんなニュアンスが含まれている。成長産業の根幹になっていくことは知られていません。その認識不足が、そのまま採用の難しさにつながっています。

インターネットも最初はそう思われていました。むかし会社を作って東大生のアルバイトを雇っていました。その一人が「面白いのでずっとやりたい。学校もやめてすぐここで働きたい!」と。「おー、いいよ!」と言っていたら、1週間後にお母さんが会社に怒鳴り込んできて、こんな変な仕事をさせるために東大に入れたわけじゃない!と(苦笑)。宇宙もあの当時のインターネットと同じ。

それで例えばIT業界だったら、言語の壁があるから、日本で起業するなら普通は国内市場に目が向く。まず国内にサービスインして、うまくいけば海外とか。でもロケットのお客さんは、どこから打ち上げてもらってもいいし、言語も関係ない。いきなり市場はグローバル。そんなところで働きたくないですか?と。

ベンチャーで働くことでよいのは、“全体”が見られることです。ロケットエンジンをイチから作れる、俯瞰(ふかん)する経験は大企業ではできないです。宇宙って、専門知識を学んでいないとダメだという先入観がありますが、全然そんなことはない。例えば、ウチで飛行制御システムを作っている人はiPhoneのアプリを作っていた人です。他にも無線好きな人とか、元ラーメン屋さんとかがいます。製造リーダーは、牛乳工場で機械操作をしていた人です。

30年前はネットの世界もスマホやアプリも何もないから、いかにすごいかを想像で語るしかなかった。宇宙も同じです。これはもう信じてもらうしかないです。社員を40人から今年70人に増やしましたが、全然足りません!資金も足りない!でも何かひとつの縁が強いつながりをもつかもしれない。そう思って縁を常に探しています。

登壇後、多くの取材陣に囲まれ、質問に答える堀江氏
登壇後、多くの取材陣に囲まれ、質問に答える堀江氏

《セミナーを終えて》
堀江さんは有名人で、読者の皆さまも人それぞれいろいろなイメージを持っていると思います。私がお話を伺って感じるのは、バックキャストの視点と、愛国心の強さです。「日本の伝統産業」と「宇宙という成長分野」をクロスオーバーさせて新たな産業を創り、技術を継承していくという素晴らしいパーパス。

人は未知の分野に保守的ですが、出来上がってから参入しようと思っても遅いので、わたしは宇宙産業の可能性を信じます。皆さまはいかがでしょうか。(山本)

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