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AIチャットボットから考える、コミュニケーションのこれからNo.7

暇つぶし専用チャットボットが、ユーザーと企業を雑談でつないでみた

2022/02/03

AIチャットボットといえば“FAQを自動化する、企業の業務効率化ツール”をイメージする人が多いかもしれません。
しかし、今やAIチャットボットの役割は広がりを見せつつあります。

本記事では、電通がこれまでAIチャットボットを運用し、蓄積したノウハウから見いだした、AIの“雑談力”に着目。雑談AIチャットボットでおなじみの「りんな」と共に、生活者とのコミュニケーションの可能性を探りました。

その仮説と実証実験の内容をもとに電通事業共創局テクノロジー開発部の堀田高大がご紹介します

どんな AIチャットボットなら、自分のことを話したい?

これまでこの連載で、電通の手掛けたAIチャットボットの事例をいくつか紹介してきました。

AIチャットボットの事例に関する過去の記事はこちら
渋谷区に住む小学生AI、「渋谷みらい」のつくり方。
AIチャットボットに自動車販売店の仕事を教えてみた。

 

これらの取り組みを通じて、「キャラクター性のあるチャットボットに対しては、ユーザーが自分のことを話してくれやすい傾向がある」ことが分かってきました。

例えば、キャラクター性のあるAIチャットボットが質問を投げかけると、キャラクター性がないAIチャットボットよりも、しっかり反応してくれるユーザーがいます。

また、会話を続けてくれたユーザーの反応の中には

  • 晩酌相手として、今日あったことを話してくれる
  • 地震が起きたときなど、自分に不安なことがあったときに気持ちを吐露する

など、会話を通じて生活者のより深いインサイトが垣間見られるパターンもありました。

このような事例・ノウハウの蓄積から、キャラクターチャットボットを使えば、利用してくれているユーザーのことをさらに知ることができるのではないかと考えました。

そこで今回この仮説をベースに、実証実験的にタイトルにもある
「暇つぶし専用のチャットボット」
をトヨタ自動車、そして元AI女子高生“りんな” (※2019年3月に高校を卒業)で有名な「rinna」と共に開発してみました。

ひまつぶし専用AIチャットボット 「That’s Life」の誕生

ひまつぶし専用AIチャットボット開発のきっかけは、トヨタ自動車から「ディーラーにいらっしゃるお客さまの待ち時間を楽しんで過ごしていただきながら、お客さまのことをもっと知り、エンゲージメントを強化したい」という研究開発の相談があったことでした。

そこで、“ユーザーと仲良くなるためのAIチャットボット”と、“ユーザーのことを聞き取るAIチャットボット”、2種類を組み合わせて「ユーザーと雑談しながら、相手の情報を知る」新たなソリューションを考えました。

前者は、雑談が得意な「りんな」のAIチャットボット、後者は日本語の意味理解に特化した電通の「Kiku-Hana」というチャットボットです。

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2種類のAIチャットボットを組み合わせることで、トヨタのディーラーを訪れたお客さまの空き時間を楽しいものにしつつ、お客さまのことを知るための情報を会話の中で取得しにいくことにトライ。そして生まれたのが“暇つぶし専用AIチャットボット 「That’s Life」”です。

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「That’s Life」は、ちょいちょい雑なところがありながらも愛くるしく、おしゃべり大好きな落書き風のクマ「That’s」が、雑談や占い・ゲームをするチャットボットです。次の項では、具体的にどんな設計なのかを、ご説明します。

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「雑談AIチャットボット」に大切なキャラクター性とは

「雑談」をするAIチャットボット。その開発にあたっては実はとても難しい問題がありました。それは、そもそも話し言葉としての「日本語」が難しいという点です。

英語のチャットボットの場合は、単語間にスペースがあり、文法がしっかりしているので、精度の高い会話をつくることができます。
しかし、日本語の特に話し言葉となると、主語や述語が抜けたり、前後の文脈をしっかり追わないと理解の難しいコミュニケーションが多いため、AIでは対応しきれない部分が出てくるのです。

また、今回の「That’s Life」は、「すべてのユーザーのどんな発言に対しても反応して、会話にする」という、他のAIにはない「りんな」固有の特徴を用いてコミュニケーションをとります。

すべての発言に対応することで、ユーザーとの雑談が弾み、お客さまとの関係性をより良いものにすることを目的とした場合には、最適なソリューションです。
一方で、返答がしっかりハマれば面白い会話ができますが、全くかみ合わない答えを返してしまう可能性もあります。

何より重要なのは「お客さまに楽しんでいただけるか」ということです。お客さまが楽しいと思わなければ、雑談は成立しません。

では、どのようにすればその問題に対応できるのか。ここで重要なのが「キャラクター性」になります。

例えば、「That’s Life」と雑談をすると、ユーザーが「話が通じていない」と感じる場面がでてくることもあります。そんなとき、

「こういうキャラクターなら仕方がない」

と思ってもらえるような愛らしさや、多少の憎たらしさがキャラクター自体にあるとユーザーの受け取る印象が異なってきます。
楽しい雑談をしてもらうためには、会話の前にまず、キャラクターそのものに共感したり、面白さを感じてもらうことが重要になるからです。

「That’s Life」は、「お客さまに楽しんでもらうこと」に重きをおきながら、日本語の難しさに対して許容してもらえるようなキャラクター設計を行いました。そこで生まれたのが、誰かが“雑”に描いた落書きのキャラクター。雑に描かれた落書きなので、話題転換や話し方にも“ちょいちょい雑”な部分が出てしまうけど、なんだか憎めない、という設計です。

その「雑さ」を生かし、会話がつながらない部分が出てしまった場合でも、「ちょいちょい雑ですみません」とワンクッション入れることで、「話が通じない」ことに対する違和感を軽減させられるようにキャラクターづけをしました。

また、お客さま自身の話を引き出すロジックについてもこのキャラクター性を生かすようにしています。

お客さまへの問いかけ部分の会話に関しては、電通が開発した「Kiku-Hana」を使ってロジカルに質問やその回答への返事を組み込んでいますが、通常、会話の途中で急に「ところで最近の悩みは?」と聞かれても、ユーザーが答えない可能性が高いのは明白です。

そこで、今回お客さま自身のことにふれる会話の流れには、「ちょいちょい雑」というキャラクター性を生かして、チャットボットの方が先に「自分のこと」を話す場面を入れています。

さらに、突然の“雑な話題転換”(われわれはあさっての方向からの会話転換と呼んでいます)をあえて時々入れることで、ユーザーが自分のことを話しやすい空気感をつくれるようにしています。

一つ例を挙げますと、次の画面のように切り出し、「That’s」の悩みをユーザーに相談します。

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その後、「That’s」からお礼に

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とユーザーの悩みについて質問をするような流れです。

こういった冒頭の文章を挟むことで、AIチャットボットとの会話におけるユーザーの心理的なハードルが下がる効果があることは、過去の事例から見受けられています。

AIチャットボットが 「ユーザーのことを知る」きっかけに!?

今回開発した、「That’s Life」は、1月15日からネッツトヨタ帯広とネッツトヨタ富山の店舗で実証実験をスタートしました。

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ネッツトヨタ帯広の店内の様子。

この実証実験によって、AIチャットボットで「ユーザーのことを知り、それをそのお客さまのために生かす」コミュニケーションにつなげることができます。

まだまだ実証実験の途中ではありますが、実際に使っていただいている様子を見たトヨタの担当者である平越孝展氏からは、「販売店スタッフとAIチャットボットの相乗効果で、スタッフとお客さまのコミュニケーションをさらに深めて、お客さまにとってもっとすてきな体験やサービスを提供していきたいですね」という意欲的な言葉をいただきました。

AIチャットボットは、大勢に対して同時多発的に何かを伝えることはできません。しかし、1 to 1で向き合っている人のことを深く知り、その人に対して最適な情報やサービスを提供ができるようになる可能性を秘めています。

例えば、会話をしてくれたユーザーの回答の中で、「ある時間によく晩酌をする」ことが分かったとします。

この話を深掘りし、「おつまみは何なのか?」「1人で飲むのか?複数で飲んでいるのか?」「どういう飲み物を飲んでいるのか?」などその人独自の嗜好(しこう)が見え、例えば「水曜日は運動後に飲むからさっぱりしたお酒が好き」だったのであれば、その人のその時に最適なお酒をレコメンドすることができます。

これから先、お客さまが自社のサービスや製品を選んでくれる確率を上げるためには、一方的なコミュニケーションだけでなく、企業側からよりお客さまのことを理解していくアクションが必要になると考えられます。お客さまに寄り添い、自社のことをよりよく思ってもらうためには、お客さまの深い情報を知ることが重要なポイントの一つです。

そんな中で、AIチャットボットを「ユーザーのことを知る」ためのツールとして、活用できることが分かれば、企業が向き合っている一人一人に対して、より良いサービス提供につなげることができると勝手ながら想像しています。

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