【グローバル】加速するサステナビリティ&サーキュラーエコノミーNo.13
サステナビリティのために日本人は、「安くていいもの」を手放せるか?
2022/02/21
─16カ国サステナブル・ライフスタイル意識調査からのトレンド①─
2021年7月、電通グローバル・ビジネス・センターと電通総研は共同で、12カ国(日本、ドイツ、イギリス、アメリカ、中国、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)を対象に「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」を実施。さらに10月には、4カ国(ブラジル、オーストラリア、韓国、スウェーデン)を対象に追加調査を行いました。
今回は、合計16カ国の調査結果から、「サステナビリティへの当事者意識」と「どれだけ行動に移せていのるか?」に焦点を当てて紹介します。
<目次>
▼国の成熟度が高まると、当事者意識が弱くなる?
▼日本は、環境への意識は高いのに、行動は“時々レベル”なのはなぜ?
国の成熟度が高まると、当事者意識が弱くなる?
まずは、16カ国を俯瞰(ふかん)して「サステナビリティに関する消費意欲×社会活動」の構成比を見ていきます。
下のマトリックの縦軸は消費意欲で、「価格が高くても環境に良い日用品を選ぶ」と、「環境に良いものより価格が安い日用品を選ぶ」のどちらを選ぶか。横軸は寄付や署名や情報拡散などの社会活動の参加・支援をしているかどうかです。
消費で環境保全に関するコストを受け入れることを本稿では「環境プレミアム消費」とし、寄付・署名・情報拡散などの行動を「社会活動支援」と表記します。
この4つのグループのうち、16カ国を分ける明確な指標になったのは、実は「どちらも無関心」という人の割合がどの程度いるかでした。
16カ国のうち一番下に位置する日本は無関心の割合が、4割と突出して高く、グラフのグリーン・ピンクで示した社会活動支援の割合が合計28.0%で3割以下と低いのが特徴です。
反対に上位グループにあるASEANとインド・中国は無関心層の割合が低く、社会活動の支援の割合が過半数です。
中位グループのヨーロッパ・アメリカなどは、無関心の割合が3割程度で、社会活動の支援者が3~5割程度となります。
その中には、SDGsランキングで長年トップ3に入っている北欧の国、スウェーデンもあります。スウェーデンは人々のサステナビリティに関する用語の理解度など知識は突出して高く、不用品の回収などの行動もトップレベルでした。しかし、このグラフではスウェーデンも他の経済先進国と同じ傾向で、サステナビリティに関する消費意識や社会活動の割合が高いとはいえません。
多くのアジアの国々は人口構成の若年比率が高いことに加え、国が経済成長していることもあり、変化することに前向きです。より良い世界を目指す社会活動支援にポジティブで、環境プレミアム消費についてもネガティブな感情は少ないという結果でした。
反対に、ヨーロッパや日本、韓国では社会活動支援をするより、消費者として環境プレミアム消費で貢献する傾向が高くなっています。
社会・経済基盤が高い水準で維持され、環境保全の取り組みが進んでいても、ここ数年の経済成長が鈍化している国々では、「もっと良い方に変化する」というイメージを持ちにくいのかもしれません。
なお、本調査では、全ての国で、世帯年収の高さと環境プレミアム消費への意欲には、相関関係はありませんでした。今より、これからどうなるか(今後の経済成長への不安)が、環境保全のためにお金や時間を使うことを躊躇(ちゅうちょ)させてしまうのでしょう。
日本は、環境への意識は高いのに、行動は“時々レベル”なのはなぜ?
ここからは、2021年12月に、アメリカ・イギリス・韓国・日本の4カ国を対象に行った追加調査の結果をもとに、環境への意識と行動に関して考察します。
「環境に良い行動をしたい」という意欲そのものに国ごとの差があるのか、「どのくらい環境に良い行動ができているのか」に差があるのか。この2点にギャップがあるとしたら、「なぜ行動に移していないのか」を比較します。
結論からお伝えすると、「環境に良いことをしたい」という意欲はどの国でも高く、「実際にしている行動」には国ごとの違いがあり、「行動に移せない阻害要因」の上位はどの国も同じ、という結果になりました。
まず「環境に良いことをしたい」という意欲は、各国で多少の差はあるものの、どの国でも8~9割と高いことがわかります。
次に「実際に行動が取れているか」について、ごみの分別では、各国とも高い割合で7~8割の人が「毎日・だいたいする」と習慣にまで移せていました。一方で、家庭でのCO2削減は、イギリスの53.7%が最も高く、他の国は4割前後となっており、習慣化されていないことがわかります。
環境負荷を軽減するための消費行動に関わる項目では、習慣として根付いている人が韓国・アメリカ・イギリスでは5~6割になりますが、とくに日本に関しては習慣化している人の割合が3割台と低めで、「ときどき」が最も多くなります。
また、気候変動対応や動物保護の観点では、肉食を減らそうというトレンドの中に、一切の肉魚を食べなくなるのではなく、楽しみながらたまに意識して取り入れようというコンセプトで、「#時々ビーガン」「#パートタイムビーガン」という言葉があります。SNSに投稿され、賛同するセレブリティが出てきました。
このおしゃれさと一緒に環境にいいことを広めようとする動きは、10年前にさまざまなエコバッグがラグジュアリーブランドから登場したときに似ています。そのころからエコバッグは、みんなが持っているアイテムという多数派のムーブメントになりました。ただ毎日の使用としては、各国で罰金・有料化などの法制化があって初めて定着化したように、習慣にするためには、最後はなんらかの規制が必要かもしれません。今、植物由来の代替肉も多くのスーパーで販売されていますが、「毎日使う」が多数派になるまではハードルがありそうです。なお、2021年7月時点で日本における「代替肉」の利用経験者は18~29歳で29.0%でした。
最後に、「行動に移せない阻害要因」を見てみると、どの国でも3割を超えるのは下に示した4つに集中しました。
このうち「環境に配慮された商品が高価格すぎる」「本当に環境に配慮された商品かどうかの判断ができない」「環境に配慮した商品の種類と選択肢が限られる」は企業側の取り組みが期待されるものになります。
そして、日本だけ突出して高いのが「安く・便利なものを使わないで生活することは難しい」48.7%という生活者側の要因でした。
これまで日本では、品質の良い、便利なものを少しでも安く、広く普及させる企業努力が美徳とされ、「人一倍努力して経済的に成功する」ことが働く人々を動機づけてきました。消費者としても「なるべく安く、新しいものを買うのが賢く、楽しい生活」という感覚に慣れてきました。
しかし、違法労働を根絶し、グリーン電力を使い、環境や社会的弱者に負担をかけないサプライチェーンを維持すれば、商品価格が高くなってしまうため、「安い」だけを基準にした購買が多数派のままでは、環境や社会への配慮が行き届いた商品・サービスの普及が立ち遅れてしまう可能性もあります。
物価が上がることへの抵抗は根強いでしょうが、使用量を減らすことで高コストでも満足を得る形にシフトしていくことが求められています。経済成長とは切り離して、環境保全に取り組むべき(デカップリング)という考え方は、国・企業だけでなく、消費者一人一人のレベルにおいても、経済軸ではない豊かさを感じるために必要かもしれません。もちろん、人々の意識だけではなく、国や企業による生活基盤の保障も同様に重要です。
近年は、新型コロナウイルスの感染拡大で「行動も経済も制限される中で、生活を見直す」ことが受け入れられはじめています。経済的な損得の重視ではなく、生き方や美徳の重視にシフトできるかどうか。国・企業・人々が一体となって「安くていいもの」(しかし環境や社会にとって良いとはいえないもの)を手放せるか、が問われているのではないでしょうか。