【グローバル】加速するサステナビリティ&サーキュラーエコノミーNo.15
韓国のサステナビリティ潮流「多様性への高い注目度」と「楽しみながら身に付けるZ世代」
2022/04/14
─16カ国サステナブル・ライフスタイル意識調査からのトレンド③─
2021年7月、電通グローバル・ビジネス・センターと電通総研は共同で、12カ国(日本、ドイツ、イギリス、アメリカ、中国、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム)を対象に「サステナブル・ライフスタイル意識調査2021」を実施。さらに10月には、4カ国(ブラジル、オーストラリア、韓国、スウェーデン)を対象に追加調査を行いました。
前回に続き、合計16カ国のサステナブル・ライフスタイル意識調査から、今回は、韓国のサステナビリティトレンドの後編として、多様性やジェンダーに関する議論の現状を紹介します。
<目次>
▼韓国社会では多様性や男女格差に関する話題が注目の的に
▼多様性を楽しみながら身に付けるZ世代
韓国社会では多様性や男女格差に関する話題が注目の的に
近年の韓国では、毎日のように「多様性や男女格差」に関する話題がマスコミやSNSで取り上げられています。
韓国の「ダイバーシティ&インクルージョン」に関する認知率は84.0%、「ジェンダーギャップ」に関する認知率も83.6%と高い中、「LGBTQ+」の認知率は16カ国の中で一番低い29.8%でした。これは、おそらく、韓国のマスコミでは「LGBTQ+」ではなく、「性的少数者」という表現が主に使われているからでしょう。
関心のある社会課題でも、Z世代では「大気汚染」(50.8%)に続いて「自然災害」(49.2%)、「人種差別」(42.9%)、「男女格差」(38.1%)の順となり、「男女格差」が4割近くと、他世代よりも高い結果になりました。
2021年に韓国の女性家族部が実施した「青年の生涯過程についての性認知的分析と未来展望研究(※)」によると、「19~34歳の女性の70%以上は女性の方が社会で差別されていると認識」し、「同じ年齢の男性の50%以上が男性の方が社会で差別されていると認識」しているという結果となり、目線の違いが明らかになりました。
近年の男女格差は、昔のような投票権や教育などの法的、物理的な権利ではなく、社会慣習によるものです。そのため、「競争社会になった今も女性が男性と同等の権利を実質的には得られていない」ということが社会的に認識されにくい状況です。
男性からも「性別による固定観念を差別に感じる」という声があり、オンラインでのジェンダー論争は過敏な反応になることから、韓国では「女性差別」ではなく「両性平等」と表記するなど、細心の注意が求められています。
※参考:韓国 女性家族部「青年の生涯過程についての性認知的分析と未来展望研究」
http://www.mogef.go.kr/kor/skin/doc.html?fn=3d144f8d4b6d445bbb97f4e3f9b66d7f.hwp&rs=/rsfiles/202203/
なお、最近では、「韓国人と結婚した外国籍配偶者の異文化の壁」や「外国人労働者への差別的な認識を乗り越え、どう韓国社会に包容できるか」が社会問題として取り上げられています。
国・社会制度に対する評価では、「多文化への寛容度」は62.6%、「ジェンダーの不平等・貧困問題の是正」は53.2%と、過半数が進展していると評価する半面、「自分の周辺に存在するか?」という問いについては、「LGBTQ+」 6.3%、「貧困世帯」16%、「性別・人種・国籍・宗教による機会不平等を感じる人」は16%と低い結果でした。
これは韓国も日本も同様の傾向ですが、知識はあっても自分との関連は薄い、遠くにある課題と感じられている領域なのかもしれません。
多様性を楽しみながら身に付けるZ世代
しかしZ世代は、遠くにある課題と感じられる傾向のある「ダイバーシティ&インクルージョン」と自分との距離感を縮めています。
毎年夏にソウル市で開催される「ソウル・クィア・カルチャー・フェスティバル(SQCF)」は、「性的少数者だけでなく、さまざまなアイデンティティを持つすべての人が平等に交ざって場をつくること」をビジョンとする複合イベントです。
2000年に「クィア文化祭 -レインボー2000」という名称で初回を開催した後、20年以上継続し、今ではアジア最大規模のフェスティバルに成長しました。パレードや屋台、映画祭、支援グッズ販売もあり、お祭りとして楽しめる形で、LGBTQ+に関心がなかった人たちとの距離を縮めています。
しかし今なお、フェスティバルの参加者たちと反対勢力が衝突し、ソウル市からフェスティバル組織委員会への開催許可が取り消されたのち、ソウル特別市人権委員会が「合理的な理由なく性的少数者を差別して彼らの自由を侵害した処分」であるとして、不許可をさらに取り消す、などの混乱も起こっています。それでも、タブー視されていた昔に比べると、LGBTQ+に関するいろんな声をオープンに見せることで、韓国社会は良い方向に変化していると感じます。
SEOUL QUEER CULTURE FESTIVAL ORGANIZING COMMITTEE (https://www.sqcf.org/)
韓国のインフルエンサー、ジョナサンも注目を集めています。ジョナサンは7歳の時にコンゴ民主共和国からの難民として韓国に住み始め、韓国の公立学校で教育を受け、大学へ進学しました。
そして偶然、地上波テレビのバラエティ番組へ出演したことをきっかけにブレークしました。彼はバラエティ番組でも特有のウィットに富んだ表現を見せてくれていますが、自身のYouTubeチャンネルを通じて韓国に住む外国人のリアルエピソードを伝えてくれます。
例えば、「韓国に住む黒人はどう化粧するのか」「外見で英語が上手だと誤解されるつらさ」「黒人だと歌が上手だという一方的な期待」など、私たちが無意識に持つ偏見をユーモラスに打ち破っていく内容です。なまりのある流ちょうな韓国語によって、よりリアルに面白く感じられます。若い人たちはジョナサンのYouTubeを見て笑いながら自然に何がダメなのか、どんな偏見を持っていたのかに気づくことができ、異文化への正しい態度を自然と身に付けることが可能になると思いました。
このように、議論になることを恐れず、ウィットに富んだ表現で見せてくれるジョナサンから、私たちは多くを学ぶことができます。
また、若い世代ほど社会活動に積極的であることが「社会活動への参加率」から分かりました。寄付や署名などの社会活動に積極的に取り組む層(リーダー+メンバーの合計)が、ベビーブーマー(本調査では57~69歳として集計)は19.1%、X世代(同41~56歳)は20.9%、ミレニアルズ(同25~40歳)は26.2%、Z世代(同18~24歳)は33.3%でした。
「社会的不平等の是正はビジネスにならない話」ではなく、より良い世界をつくるために必要な消費者たちの声と捉えて耳を傾け、目線を合わせれば、Z世代に支持されるブランドになることもできるでしょう。
知識や関心があっても、目の前にはない遠くの問題と感じられている社会的不平等の問題は、韓国でいろいろな立場からオープンに、活発に議論することで、共感が生まれ、身近に感じられはじめています。「議論を恐れないこと」がサステナブル・ライフスタイルの推進には必要かもしれません。