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【グローバル】加速するサステナビリティ&サーキュラーエコノミーNo.16

フランス市民の間で、サステナブルなライフスタイルが広がる理由

2022/08/01

パリ庁舎
パリ市庁舎:世界で初めて気候問題に積極的に貢献するオリンピックおよびパラリンピック大会となるパリ2024では、CO2排出量を過去大会の50%に削減することを目指す。(撮影:永田公彦)

欧州とフランスのサステナビリティに詳しい永田公彦氏へのインタビューを通じて、これからの日本におけるサステナビリティのヒントを探ります。

※こちらの連載記事は電通総研ウェブ掲載インタビューのスピンアウト版となります。聞き手は、電通グローバル・ビジネス・センターの田中理絵です。
<目次>

フランス人の環境リテラシーの高さはどこから?

自然観についてのヨーロッパと日本の違い

フランスは2010年から株主至上主義から脱却しようとしている

世代間連携は、事業成長のカギ

世界から注目される日本の伝統的ライフスタイル

フランス人の環境リテラシーの高さはどこから?

フランスの直販市場
フランスの直販市場(撮影:永田公彦)

──日本でSDGsは言葉として浸透してきましたが、まだ消費行動はエコバッグ持参程度の印象です。フランスではどのくらいサステナビリティを意識した消費行動が見られるのでしょうか?

永田:「フランス人は10着しか服を持たない」(ジェニファー・L・スコット 著)という本が象徴的ですが、GreenFlexとADEME(フランス環境エネルギー管理庁)の調査「Baromètre GreenFlex-ADEME 2019」によると、「もっと消費を少なくしたい」と86%が言っています。

同じ調査で「外国産のオーガニック食材より地元でとれた旬の食材を買う」が84%もあり、個人商店や生産者から直接買う流通カットも進んでいます。スーパーには冬でもバナナがありますが、アフリカや南米などから運ぶと燃料を使うから環境に良くないという考え方が主流です。季節にとれるもの、地元か、せいぜいヨーロッパでとれるものを食べましょうという動きが活発になっています。量り売り専門店がはやっている理由も、包装をなるべくなくそうという意識があるためです。

畜産についても、法律で飼育条件が厳しくなっています。また、牧場をつくると木を切ったり、農薬を使ったりと環境に良くないので、肉の消費をなるべく減らそうという動きもあります。ビーガンも増えていますし、そこまでいかなくても肉を食べる量を週に5回から3回に減らすなどの動きが進んでいます。

スーパーの量り売りコーナー
スーパーの量り売りコーナー(撮影:永田公彦)

オーガニック製品は大量生産している製品に比べると価格が平均1.7倍か1.8倍ぐらい高いので、経済的に厳しい人たちはなかなか手が届きません。またガソリン税増税の動きがありますが、ぎりぎりで生活していて毎日車を使う必要がある人には重荷になります。

そのため、市場経済の見直しは環境問題の面からも注目を集めています。前述の「Baromètre GreenFlex-ADEME 2019」で、「経済成長を根本から見直す必要がある」は95%、そして80%が「経済格差がある限り、環境問題対策の進展に限界がある」と答えています。

──すごくリテラシーが高いですね。実際にこの経済格差を縮める取り組みはなされているのでしょうか。

永田:政策としてはずっと格差を縮めようとしています。もともと最低賃金もそれなりに高く、例えばインフレ率が3%になると、最低賃金も必ず3%上がる法律になっています。経済的に困っている層を政策で底上げし、かつ、高所得者から税金も取っています。高所得者のほうが専有スペースも移動も多く、エネルギー消費量が大きいから、高い税金を払うのが当たり前という感覚です。

産地直売ロッカー
産地直売ロッカー(撮影:永田公彦)

──なぜフランスでは環境について因果関係や実践方法まで浸透できているのでしょうか。

永田:パリ協定を結んだからにはやり遂げようという自負もありますし、政府広報だけでなく環境問題に関するいろんなイベント、セミナー、展示会の宣伝が地下鉄にも貼ってあります。ほかにもメディアを通して専門家が話すなど、いろんな露出があります。街のあちこちで、こういう行動はこれだけ環境負荷がかかります、CO2が増えますとわかりやすく見せているので、消費行動もその方向に向かっています。パソコン、テレビ、冷蔵庫でも、10年の製品寿命ではだめで、30年使えるようなものをつくりなさいという、メーカーに対するプレッシャーもあります。

──脱プラについてはいかがですか。

永田:中古のリユースが増えて、おもちゃへの影響が顕著に出ています。おもちゃはせいぜい1、2年しか使わないので、クリスマスシーズンに毎年廃棄物が増えることが問題視され、これをリユースしていこうという動きがこの数年で高まりました。その結果、クリスマス商戦の売り上げがガーンと落ちています。ブラックフライデーも大量消費をあおるとして反発があり、いっそグリーンフライデーにしてしまおうという動きもあります。

自然観についてのヨーロッパと日本の違い

エコサート認証を受ける県立公園
エコサート認証を受ける県立公園(撮影:永田公彦)

──サステナビリティの実践は、フランスが日本より数年進んでいる印象です。日本でなかなか進まないのは、何が要因でしょうか?

永田:自然に関しては、そもそも西欧と日本で考え方が違うことの影響もあります。

もともと、SDGsのSDの部分、サステナブル・デベロップメントの考え方は、14世紀にフランスで生まれました。「林業規定」という法律で、フィリップ6世という人がつくったものです。森の中の木を切って、それを家具にしたり、燃料にしたりしますが、すべての木を切ってしまうと、薪がなくなり人間にもしっぺ返しが来る。そこで、少しずつ切って、また植えていく。自然をコントロールしていくという考え方を「林業規定」に記したわけです。

このような自然観はフランスに限らずヨーロッパで共通するものです。歴史をひもとくと、大きく3ステージに分かれています。1つ目は古代ギリシャ時代のヘレニズム的な自然の捉え方で、2つ目は旧約聖書の中に登場します。旧約聖書では、神が天地を創造しますが、その天地の中に人も自然もあり、自然よりも人間が上位概念になります。そして、17世紀ぐらいに「近代的自然観」として、科学的に自然を理解して自然をコントロールできるはず、という考え方が出てきました。気候変動問題も科学として理解し、科学的にどう温度上昇を抑えていくかに取り組む。これが今でも続いているわけです。

ヨーロッパの自然観の変遷

一方、日本では、自然は人間より上位概念です。日本的な考え方は「八百万の神」で、もともと自然の中に神がたくさんいて、人も一つの生き物です。だから自然に対して、科学的にそれをコントロールしようという概念が根付いてないのです。

──ヨーロッパは自然もコントロールできるという前提で、果たすべき役割をルール化し、守らせるという考え方なのですね。日本人は困った時に備える、助け合うなど、自然に対して受け身の対処になるのは前提が違うためだということがよくわかりました。

フランスは2010年から株主至上主義から脱却しようとしている

職場での世代間ギャップ

──企業活動に目を向けると、フランスの企業では2000年からウェルビーイングとコーチングが経営に導入されはじめています。なぜフランス企業はこれらの採用が日本企業より早いのでしょう。

永田:マネジメントスタイルは、世界共通で時代と連動して変わっていきます。昔は家父長型で、主人は面倒見がよく、厳しく引っ張っていくスタイルでした。これは日本も同じです。これが1940年代には工業の時代になり、ボスは指揮官になりました。そして1950年代に入って第三次産業に転換し始め、ホワイトカラーが出てきて、1970年代には官僚型が多くなりました。オフィスに階層があり、縦割りで、マニュアル化した規定があり、それを管理するマネージャーが出てきます。80年代からリーダーシップがでてきて、90年代に増えたのは戦略的な経営、MBAの世界です。その後ウェルビーイングに注目が集まり、個人が自主的に責任をとる共同責任型となり、リーダーはファシリテーターになっていきます。ただ、すべての企業がそうなるのではなく、構成比として増えるという形ですので、まだウェルビーイング型が多数派というわけではありません。

同じ時期に、経済体制の見直しもあります。フランスはバブルが弾けたのも1930年ですから、日本が弾けるより60年前に経験済みです。このバブル崩壊からなかなか立ち直れなくて、ヨーロッパが再編されたわけです。そして90年代にはアメリカ型の株主至上主義の波が来ましたが、ヨーロッパの社会主義的な経済体制には合わず、2010年くらいから見直されました。

──フランスはもう、株主至上主義から脱却しているのですか?

永田:もともと市場優先、市場に任せるという新自由主義的な感覚がないので「合わなかった」んです。経済も市場も、国・自治体などの、人間がコントロールするものだという、社会主義的な資本主義で、自由にさせたら絶対に変になるという考え方です。フランスの人は特に、軍隊的な社会や組織というのもだめで、体育会系な統率の仕方にアレルギーがあるようです。階級や年齢に従うのではなく、もともと「人権」が大事という考え方なので。

日本では周りの空気に従いがちですが、フランスは法律だけに従います。雇用契約に書かれていないことは、上司に命令されてもやりません。マイクロマネジメントはせず、プロとして契約し、やり方は任せるという形です。

──経済も、自然も、雇用も、法律でコントロールするのですね。ウェルビーイング経営の導入が早いのも、科学的に効果が実証されていて、かつ一人一人の人権を大事にするので、フランスの社会主義的な資本主義と相性が良さそうです。

世代間連携は、事業成長のカギ

パリ市内の学校
パリ市内の学校(撮影:永田公彦)

──日本だと既存の仕組みがうまくいかないと、突然若い人に期待するところがありますが、フランスではZ世代への注目や、世代間の価値観ギャップは話題になりませんか?

永田:もちろん世代による価値観の傾向やZ世代については話題になります。ただ、もともと皆さん年齢を気にしませんし、家庭教育でも親が自分たちの価値観を子どもに押しつけません。多くの家庭では親も子も、それぞれ自分の人生を持つ個人で、干渉し合わない個人主義社会です。

──それはフランスの中でも、ある程度教育レベルが高い家庭だけではなく、一般的に広がっている考え方ですか。

永田:はい、親も年齢を気にせず好きなことをやりたいし、子どもが自分とは価値観が違うことをやっていてもしょうがないという感覚です。しかし干渉しない一方で、例えば職場における世代間共存は、法的に促すという動きもあります。

世代間協力を促す法的枠組み

──いろんな人を束ねていくために、いろんな法律を制定しているのですね。

永田:企業もいろんな実験を行っています。例えば、世代間ダイバーシティ(※1)を推進する目的でダノン(食品)は2012年から「Octave」という年1回のワークショップを複数の企業と共同で行っています。オレンジ(通信)、ソシエテ・ジェネラル(銀行)、ロレアル(化粧品)などのビッググループと共同で、世代間ギャップをどう解決するかといったコンベンションを行っています。世代間の会話がある企業は収益が出ているというエビデンスに基づいて、世代間の連携を取り入れようとする姿勢があります。

※1=世代間ダイバーシティ
30歳以下・50歳以上を含み、世代間で学習し助け合い、人的ネットワークの構築、組織を縦割り文化から水平文化に変える取り組み
 

世界から注目される日本の伝統的ライフスタイル

沖縄大宜味村
沖縄大宜味村(撮影:永田公彦)

──サステナビリティの実践について、日本がフランスから学べることはありますか?

永田:日本は「観覧車社会」です。世代間交代がスローに、ゆっくりと回っていきます。ジェットコースターではありません。60歳になっても社長を辞めないし、世代交代が起きにくく、起きたとしてもスローで、価値観の多様化が広がりにくい。いい学校、いい大学、いい職業という価値観が、基本的に変わらないのです。もちろん変化は少しずつ確かにしていますが、時間がかかります。そこに背景が違うフランスのサステナビリティを、ただ表面的に取り入れたとしても、根付きにくいでしょう。

むしろ、日本の歴史と文化に根差したサステナビリティに目を向けると良いのではないでしょうか。金継ぎも有名ですが、「混植の宮脇メソッド」(※2)や「木を抱きしめる森林セラピー」(2003年に人類学者・宮崎良文氏が命名)など、日本人は知らないけどフランス人には知られていて、日本発の尊敬されている文化がまだまだあります。

※2=混植の宮脇メソッド
生態学者の宮脇昭氏が1970年代に生み出した森林再生のための植樹方式で、多種の植物同士を人工的に競争させると通常より早い速度で育ち、かつ生物多様性を持たせることができる


──日本発で、かつフランス人が取り入れたいと考えるライフスタイルは、どのようなものでしょうか。

永田:5月に、返還後50周年の沖縄北部、やんばる地区にある大宜味村(おおぎみそん)に行ってきました。2016年に発刊された「Ikigai:The Japanese secret to a long and happy life」で世界的に着目される長寿村です。なぜ、ここの人たちが、健康で長寿で幸せなのかというと、地域の自然と共に、地産地消で暮らすだけでなく、オープン・マインドでよく笑い、活動的なためです。地域コミュニティの中で「ありがとう」と感謝を伝え合っています。こういう先祖から引き継がれてきた郷土文化を大事にする、伝統的なライフスタイルが今世界から見直されています。

──世界のどの地域でもアウトドアのブームがあり、自国の歴史文化に根付いた新しいノスタルジーが、Z世代に支持されていますよね。

永田:そうです。農業や「自然の中で生きる」という生活へのあこがれから、田舎に住みたい人が増えてきています。多くの日本人にとっても、地域コミュニティに身を置く世界のほうが、サステナビリティに向かわなければと追い立てられるより抵抗感がなく、日本国内からも共感されやすい。

これまで日本では、変わらないことはネガティブに語られてきましたが、もう一度変わらないものを再発見するタイミングにきているのではないかと思います。日本の伝統的な生活文化は世界から注目されています。しかし、ただ伝えるだけでなく、実践可能でビジネス効果もあるものとして体系化していくことが大事なポイントになるでしょう。

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