【グローバル】加速するサステナビリティ&サーキュラーエコノミーNo.17
ダボス2023 なぜ人々は再び雪山で対面するのか
2023/02/16
<目次>
▼3年ぶりの1月リアル開催
▼グローバル化、進展か後退か
▼欧州委員長、米の「グリーン補助金」に対抗
▼締めくくりは「世界経済の見通し」
▼バッテリーパスポート実証実験開始に注目
▼会員企業が企画する「アフィリエイトセッション 」が拡大のきざし
▼ショーケースは相変わらず活況。ビジネス会談は加速
▼“ダボス会議”の価値は
3年ぶりの1月リアル開催
2023年1月16日から20日まで、世界経済フォーラムの年次総会・通称“ダボス会議”が行われました。前回の年次総会は2022年5月に対面で行われましたが、1月に開催されるのは新型コロナウィルス感染症拡大前の2020年以来3年ぶりのことです。
今年は47人の元首と、90カ国から350人超の閣僚が集まり、全部で130カ国2700人あまりが参加し「分断された世界における協力の姿」をテーマに議論が交わされました。
前回の年次総会に続き、ロシアからの参加はありませんでした。50年を超える“ダボス会議”の歴史の中では、対話による世界の課題解決を目指し、南アや中東問題など、当事者同士が対話したこともありました。しかし、今回、ダボスでウクライナとロシアが顔を合わせることはありませんでした。
会期中のセッション数は5日間で480を超えました。自分の中でのテーマ設定がないとさまざまな情報に触れるだけで終わってしまうため、参加者は事前に「ここで何を得たいか」アジェンダを組んでいます。
今年のセッションは5つのサブテーマをもとに構成されており、参加者は自身の関心によって選択をします。
今回は、ダボス2023から見る世界の潮流と注目のトピックスを紹介します。
グローバル化、進展か後退か
グローバライゼーションの終焉かといわれるなか、「グローバル化、進展か後退か」と題したセッションには、国際政治学者のイアン・ブレマー氏が登壇。構造的な変化として、国際機関の機能不全による地政学的な状況の悪化を挙げました。国家資本主義を掲げる中国や内政優先姿勢を強める米、ロシアの振る舞いといった国々の対立にも言及しました。
また物価の高騰を受け、企業が低コストの地域に生産拠点を移しても、収益を拡大するのが難しくなったこともグローバル化の後退を引き起こしていると指摘しました。
歴史学者のファーガソン氏はPolycrisis(ポリクライシス/複合的な危機) というテーマに「私はポリクライシスという言葉は好きじゃない、ポリエステルじゃないんだ!」とかみつき、さらに「geopolitical recession (地政学的な状況の悪化)ではなくこれは歴史が動いているに過ぎない」とブレマー氏に反論。2007年に米中の密接な関係をチャイメリカ(Chimerica)と呼んだことに触れ、「いまは新たな冷戦下にあり、アメリカ主導の世界秩序と中国主導の世界秩序に分かれる」と述べました。最後にブレマー氏が「グローバル化は軌道修正しているものの、なくなりはしない」と話し、議論を締めくくりました。
欧州委員長、米の「グリーン補助金」に対抗
欧州連合(EU)のフォンデアライエン欧州委員長は、「EUには、EU域外で現在得られる政策支援やインセンティブに対抗できる競争力が必要だ」と演説で発言。加盟国の国家補助規制を一時的に緩和し、環境に優しい技術やサービスを提供する事業に資金を投入する方針を明らかにしました。補助金にかかる規制を緩和し、気候変動対策の事業への投資を促します。
米バイデン政権がグローバル化の旗振り役から自国優先に転じ、インフレ抑制法に盛り込んだ再エネ分野への補助金に対抗する狙いです。
締めくくりは「世界経済の見通し」
最終日に行われる世界経済についてのパネル討論は、世界経済の動向を知るために外せません。毎年登壇している日銀の黒田東彦総裁は、今年が最後の登壇になる可能性があります。アジア開発銀行総裁時代から含めると、10回以上参加するこのセッションの常連です。今年の議論はインフレの緩和などについて一様に楽観的な見方でした。黒田氏は欧州中央銀行総裁のラガルド氏の発言の後に手を指しのべて笑いかけるなど、壇上からは長年の良好な関係がうかがえました。
バッテリーパスポート実証実験開始に注目
130を超える国際機関や企業などでつくるグローバル バッテリー アライアンス(GBA)は、1月18日に世界初のバッテリーパスポート(※)の実証の開始を発表しました。電池は持続可能な未来へのエネルギー転換の原動力ですが、重要な鉱物を必要とし、その採掘には児童労働を含む環境と人権へのリスクが伴います。
バッテリーパスポートは、人権保護、環境保護、消費者の意思決定にどのように貢献できるのか。世界のサーキュラーエコノミー(循環型経済)をリードするエレンマッカーサー財団のエレンマッカーサー氏も記者会見に登壇し、この取り組みを後押ししました。
※=バッテリーパスポート
バッテリーのバリューチェーン全体とライフサイクルの各段階の情報を、統一されたデジタルプラットフォームで記録することにより、実社会のデータをサーバ―上の仮想空間で再現。バリューチェーンの透明性を確保することを目指している。EUでは2026までに導入が義務づけられている。
https://www.globalbattery.org/battery-passport/
このほかリスキリングという言葉はセッションや参加者の会話でもよく耳にしました。またDEIをテーマにしたものも増え、多角的な視点でLGBTQ+について考えるもののほか、職場でのがんと闘いについてはイニシアティブが新たに立ち上がるなど「人的資本」を意識したものも増えていました。
会員企業が企画する「アフィリエイトセッション」が拡大のきざし
ダボスでのセッションにはいくつかの種類があります。主催者が企画する公式プログラムに登壇するのは、全体のテーマとの合致、専門性、そして英語での発信を行うための語学力などが必要なため、そう簡単でありません。
2020年の年次総会から、いくつかの会員企業が企画することができる「アフィリエイトセッション」というものが開催されています。2020年はひっそり行われていましたが、2023年はビジネスコンサル企業などを中心に規模を拡大して行われていました。1社だけではなく、異業種とコラボしてセッションを行っているものもありました。本会議場のセッションに比べて、より自社のビジネスや関心に近いテーマを選んでいる印象を受けました。
会場は本会議場から道を挟んだホッケー場にあるアイスドームです。いわゆるかまくらのようなもので、20人ぐらい入れるため、じっくり話すには丁度いい大きさ。今年セッションを行ったGAFA系の企業の担当者は、来年はこの枠を取る競争が加速するだろうと話していました。自社ビジネスを絡めた発信には最適な場所と言えそうです。
ショーケースは相変わらず活況。ビジネス会談は加速
公式プログラム以外についても紹介します。2018年に「国を、企業を売り込む“ダボス会議” 」でも書きましたが、コロナ禍を経てもその数は減ることはありませんでした。
ショーケースの顔ぶれもGAFA、保険、金融、コンサルティング会社、新興国と以前と同じでした。以前はロシアハウスだった建物を、G20の議長国インドが数年ぶりに奪還するといった変化はありました。
ただ、よく見てみるとどこも会談スペースを増やしていました。本会議場の会談スペースを確保するのはかなり困難なためです。日本企業も会場となった街の真ん中に自社スペースを設置していました。
「ビジネス」を主目的にしている企業にとって、世界の政財界のリーダーが一堂に会するこの場で面会をするのは、非常に効率がよいことです。コロナ禍を経て対面が制限されたからこそ、その熱はさらに加速しているように感じました。
“ダボス会議”の価値は
コロナ禍で1月の会議は2年間オンラインでの実施を余儀なくされ、「ダボスの価値はなくなったか」とも言われていました。今回は過去最大数の元首が参加したと発表されていますが、アメリカの閣僚の姿もなく、G7からもドイツ首相が参加したのみでした。
世界経済フォーラムのシュワブ会長は「協力不足が世界分断の背景にある。分断が進めば、短期的で利己的な政策決定がなされるようになる」と警鐘を鳴らしています。
会議の内容自体は主催者やメディアによるオンライン配信、SNS発信が盛んに行われており、機械翻訳の進化もあって日本にいてもほぼ時差なく知ることができます。日本のテレビ局も会期中を通じて積極的に発信していました。
テレ東Biz「フォーカス ダボス会議」https://txbiz.tv-tokyo.co.jp/specials?id=184
しかし、実際3年ぶりにこの場に来てみると、政界は参加者が多様化、ビジネス界は以前よりも会場でのビジネス構築が加速しているように感じました。経済界のリーダーたちがここで直接会う価値は、依然大きいことは確かです。経済界を中心に、1月のダボス通いはまだまだ続くでしょう。