「買う」の裏側には「3つの習性」が存在する!
2022/04/20
<目次>
▼「3つの習性」でひもとく「買う」のきっかけ
▼①補強習性=買うべき理由を仕入れる
▼②省略習性=無意識下での商品選択
▼③同調習性=みんなが言及していると欲しくなる
▼映画「鬼滅の刃 無限列車編」の大ヒットから見る3つの習性
▼商品のカテゴリごとに存在する習性の違い
「3つの習性」でひもとく「買う」のきっかけ
前回 、電通社内横断の「SNプロジェクトチーム(※)」で「人はどういうふうに物を買うのか」という行動経済学的視点で発見した新たな市場構造について紹介しました。
※=SNプロジェクトチーム
電通社内のマーケティング部門・データソリューション部門・メディア部門の専門家による社内横断研究チームです。「SN」は研究成果の要点である「広告のシグナル作用/ノイズ作用」にちなんでつけられました。
簡単におさらいすると、商品の売り上げから成り立つ市場構造は大きく以下の3つの領域があるというものです。
デュアルファネル
顧客が「商品に対して関心を高めてくれる」マーケティング活動の中核となる領域
アウトサイドファネル
商品やカテゴリに対しての関心は低いが商品を購入している層が含まれる領域
近接者集団
「口コミ」や「会話」などで話題が広まることで、商品が購入する候補に入る機会を作り、①デュアルファネル、②アウトサイドファネル両方に影響を与える集団
今回は、この市場を構成する3つの領域にいる人々は、「どのような心理・行動をきっかけに買い物をしているのか」をひもといていきます。
下記「SN理論のキーワード」では、2つ目のパート「購買の3つの習性」について紹介します。
「3つの習性」①補強習性=買うべき理由を仕入れる
1つ目の習性は「補強習性」です。これは自分にとって腹落ちする情報や、都合の良い情報を取り入れて、自身の購買理由を強化する習性のことを指します。言い換えると、買うべき理由を仕入れてから商品を購入するということです。
例えば、洋服店で自分の興味あるファッションやブランドの商品を選ぶ時、店頭で販売員から話を聞いたり、家族や友人、恋人などに意見を求めたりした経験があると思います。
これらの行為を、自分がある商品に関心・購買意向を持った時に、その理由を補強する行為であること、すなわち「補強習性」と捉えました。
他には、商品に対するレビューを検索したり、複数の商品と比較したりする行為も補強習性に該当します。この補強習性は主にデュアルファネルのマーケティングを効率化する作用として働くと考えています。
「3つの習性」②省略習性=無意識下での商品選択
続いては「省略習性」です。これは「買ってもよいもの」を無意識のうちに設定して、判断の労力を省略している習性のことを指します。
例えば、水を買うためにコンビニの商品棚の前に立った時のことを思い出してください。どのブランドの水を買おうかと数秒は検討すると思いますが、恐らく棚に並んでいるすべての商品に目を向け、認知し、吟味することはないと思います。
「飲んだことがあるもの」や「見たことがあるもの」「安心できるブランドの商品」などを優先的に認識して手に取っているでしょう。このような無意識のうちに選択する商品を絞った上で購入する習性のことをわれわれは「省略習性」と捉えました。
カテゴリごとに購買理由を調査した結果でも、商品をなんとなく購入した人の割合は初回購入時よりも継続購入時の方が高くなっています。この省略習性は継続購買者ほど強まると考えられます。
「商品購買のタイミングで視野に入るもの」があらかじめ記憶の中に設定されており、商品の選択コストを省略しています。この習性は、特にアウトサイドファネルにいる生活者への行動喚起・購買機会の創出に大きく作用すると考えています。
「3つの習性」③同調習性=みんなが言及していると欲しくなる
最後は「同調習性」です。これは自身に近接する集団(家族や友達、もしくはSNSでのフォロワーなど)で共有される情報によって、商品購入時のハードルを下げたり、活性化を促したりする習性のことを指します。
この近接者集団によって共有される情報には大きく2つの機能があります。
1つ目は、「商品を購入する際に必要となるコミュニケーションコストが下げられる」という機能です。
例えば、最新のゲーム機が欲しい子どもは、自分自身に商品の購買力はないため、保護者にお願いすると思います。
その際、ただお願いするのではなく、「テレビCMで見たあの商品」や「お店で一緒に見たあの商品」という共通の認識をきっかけに会話を始めることで、その商品に対しての情報を、新たに仕入れる作業の必要がなくなるため、購入してもらいやすくなる場合などが当てはまります。
2つ目は、「共有された情報そのものが購入の判断基準になる」という機能です。
例えば周りの友達がみんな同じゲームの話をしているなど、共通の話題で盛り上がれば盛り上がるほど、当初はさして興味がなかったものに対しても、興味が湧いてくる、欲しい気持ちが強まってきて商品を購入してしまうというケースが当てはまります。
このように自身の近接者によって共有される情報により購買理由が定まってくる習性のことを「同調習性」と捉えました。これは実生活でつながりのある人だけでなく、SNSなど不特定多数の人とのつながりや情報共有によっても生まれる習性であると考えられます。
映画「鬼滅の刃 無限列車編」の大ヒットから見る3つの習性
デュアルファネルマーケティングの効率化を促す補強習性、アウトサイドファネルへの購買喚起・購買機会を創出する省略習性、近接者への情報伝達の場作り・活性化による同調習性、これら3つの習性を統合的に捉えたプランニングを行うことは非常に重要です。
記録的な大ヒットを生み出した映画「鬼滅の刃 無限列車編」はまさにこの3つの習性を統合的に捉えることのできた事例だと考えられます。
地上波でのアニメ本編放送によって、コアなアニメファン・漫画ファンが盛り上がり、補強習性が強化されました。
また映画の大ヒットの報道が複数流れることで、アニメ低関心層も選びやすくなる省略習性も作用しました。
さらに声優のテレビ露出・ファンのSNSでの盛り上がりによって普段の生活の場での会話も生まれ、同調習性も活発化。このようにメディアによる刺激と3つの習性の関係性によって、映画「鬼滅の刃」の国内興行収入約400億円を超える大ヒットにつながったと考えられます。
商品のカテゴリごとに存在する習性の違い
ここからはカテゴリごとに存在する習性の違いについて解説します。
下のグラフは電通の独自調査により商品カテゴリごとのユーザーの関心度の違いと、カテゴリ内でのブランド差の違いを、2軸でプロットしたものです。さらに購入時の選定理由を聴取した設問項目から、各カテゴリがどの習性に該当するのかを色分けしています。
ここでのブランド差というのは、ブランドによって商品の機能や味などに差があるのかを示した指標です。コーヒーであれば商品Aを購入しても商品Bを購入しても大差がないと思うかどうかというものです。差がある場合はブランド差「大」、差がない場合はブランド差「小」となります。
この結果を見ると、例えば「スマホ決済」では近年のキャッシュレスの波もありサービス自体の関心度は比較的高いです。一方でブランド差は大きくないことが確認できます。
「スマホ決済」を使用する場面としては店舗での支払いもありますが、友達間での送金のやり取りなどもあり、周りがどの決済サービスを使用しているかによってサービスの選択が変わってきます。そのためブランド差は小さいですし、購買習性としては近接者集団の影響を受けやすい「同調習性」に分類されたことが考えられます。
また、それぞれの習性ごとでグルーピングすると以下のような形になりました。
簡単に傾向をまとめると、下記のようになります。
補強習性
【関心度:低〜中程度、ブランド差:中〜大程度】
ブランド差が大きい分、事前に欲しい商品について調べたり、店舗で販売員の意見を聞いたりしながら自分にとって都合の良い情報を取り入れた上で購入する傾向があると捉えられます。
省略習性
【関心度:中〜高程度、ブランド差:中〜大程度】
関心度も高く、ブランド差も大きい分、ブランドの安心感やなじみがあるかどうかによって購入される傾向があります。
同調習性
【関心度:低〜中程度、ブランド差:小〜中程度】
ブランド差が小さい分、周りの人が選んでいるもの、使用しているものなど、近接者の影響を受けやすいという傾向があります。
このようにカテゴリ自体への関心度やブランドごとの違いなど、世の中でのカテゴリの立ち位置によって購入される際の習性は異なります。
また上記グルーピングの結果からも分かる通り、3つの習性はそれぞれ重なり合いながら購入に影響を及ぼしていると考えられます。
あなたの会社の商品を想定した時に、その商品はどの位置にプロットされるでしょうか。商品の特徴だけでなく、世の中全体で見たときの関心度など商品の立ち位置を整理した上で、商品の購買習性を捉えて次なる打ち手を考える必要があります。
では、次なる打ち手としての「広告」がユーザーにどのような影響を及ぼすのでしょうか。次回は、この疑問に「広告のシグナル作用・ノイズ作用」の視点からお答えします。