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キャッシュレス・ジャパン・サーベイ2021:キャッシュレスが牽引するDXNo.1

進む日本のキャッシュレス〜それでも現金利用が多い謎

2022/05/19

「コロナパンデミックで、生活者のキャッシュレス利用は拡大し、店舗のキャッシュレス受付も進んだにちがいない。特に衛生的に安全な非接触決済は、めざましい進展があるはずだ」
そうした仮説のもと、2021年12月、「電通キャッシュレス・プロジェクト」は、第2回「コロナ禍における生活者のキャッシュレス意識調査」(調査概要はこちら)を実施しました。

本調査の目的は、新型コロナウイルスによりライフスタイルが大きく変化する中、生活者の決済手段がどのように変化し、今後どのような決済手段が主流になっていくかを明らかにすることにあり、今回は2020年12月の第1回に次ぐ2回目の調査です。

結果は、楽観的な想定を見事に覆すものでした。確かに、生活者のキャッシュレス利用は増えています。しかしその一方で、キャッシュレス推進をはばむ頑固な障壁がみえてきました。今回の連載では、それらを解き明かしていきます。

キャッシュレス連載2022_イメージ画像

<目次>
キャッシュレスを利用者していない成人は、わずか6.7%

緊急事態宣言以降、6割がキャッシュレス決済比率を増加

日常生活と関係が深い場所でキャッシュレス利用が増えている

キャッシュレスが使えなくて困っている場所は、病院・診療所

なぜ使わない?キャッシュレスを増やした場所でも現金利用が多い

少額のキャッシュレス決済が今後の“のびしろ”

現金への衛生的抵抗意識が低い日本人

生活者のキャッシュレス推進に欠かせない2つのこと

キャッシュレスを利用していない成人は、わずか6.7%

日本の成人のうち、キャッシュレス利用者の比率はどれくらいになるのでしょうか。20 歳以上69 歳までの男女500人を対象に、インターネットで尋ねてみました。

結果は、93.3% がキャッシュレス利用者でした。前回(2020年12月)の調査では、88.6%。この1年で4.7% 増えたことになります。未利用者、つまり現金だけを使っている人は11.4%から6.7%に減りました。

93.3%がキャッシュレス利用者という数字をみると、日本もキャッシュレスが進んだものだなあ、と感慨にふける人もいるでしょう。
確かに、キャッシュレス利用の中でも、「よく利用している」人がこの1 年で増えています。2020年は43.5%でしたが、2021年には56.2% と12.7%増加しました。キャッシュレス推進派にとっては、うれしい変化です。

しかし、依然として「少しだけ利用」と回答した人が14.4%います。この人たちの決済利用の過半はいまだに現金です。「利用している」と回答した人は22.7%いますが、この人たちもキャッシュレスと現金の両方を利用していると推測されます。ひょっとすると現金の比率の方が高いかもしれません。

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出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「コロナ禍における生活者のキャッシュレス意識調査 2021年12月」【SA サンプル数:500】

緊急事態宣言以降、6割がキャッシュレス決済比率を増加

キャッシュレス連載2022_図版02
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「コロナ禍における生活者のキャッシュレス意識調査 2021年12月」【SA サンプル数:500】

キャッシュレス推進派にとって、もうひとつうれしいニュースがありました。2020 年4 月の緊急事態宣言以降、キャッシュレス決済の比率が増えたという人が60.9%に上りました。結果として、3人に2人が緊急事態宣言前よりも、キャッシュレス決済を増やしたことになり、キャッシュレスのトレンドをパンデミックが加速させたとも言えるでしょう。

その内訳をみると、「これまでほとんどキャッシュレス決済を使っていたが、さらにキャッシュレス比率が増えた」人は19.2%。「これまで現金よりキャッシュレス決済がやや多い程度だったが、キャッシュレス比率が増えた」人は20.0%でした。

両者を合わせて39.2%。キャッシュレスが増えた人の64.0%がこれまでキャッシュレスをメインに使っていた人ということになります。すでにキャッシュレス決済を利用している人は、その利便性を理解しています。習慣化しているものは、頻度をあげやすいということでしょう。

一方、「これまで現金がキャッシュレス決済より多かったが、キャッシュレス比率が増えた」人は14.0%。「これまで現金しか使わなかったが、キャッシュレス決済の比率が増えた」人は7.7% でした。両者を合わせて21.7%の人が、現金主義からキャッシュレス派に少しずつ移行しています。わずか2年で現金利用にこだわりのあった人たちをキャッシュレス利用に変えたというのは、パンデミックのポジティブインパクトと言えるでしょう。

日常生活と関係が深い場所でキャッシュレス利用が増えている

では具体的に、どこでキャッシュレス決済を増やしたのでしょうか。利用が増えた場所を特定するため、キャッシュレス決済を利用している467 人に複数回答で聞いてみました。

利用回数を増やした人が一番多かった場所は、コンビニエンスストアでした。全国で約5万7000 店舗があるコンビニエンスストアは、生活に密着した存在です。1回あたりの平均単価は約500円と言われています。単価の低い商品購入時のキャッシュレス利用を、40.6%の人が増やしているということになります。

2位はスーパー・ショッピングモールで38.5%でした。スーパーは暮らしに欠かせない食料品や日用品を扱っています。食料品や日用品の購入でも抵抗なく、キャッシュレスの利用回数を増やしているようです。

3位はドラッグストアでした。日本全国でドラッグストアは約2万2000店。平均単価は1000 円前後といわれています。コンビニエンスストアと同様、日常生活に溶け込む存在になっています。ドラッグストアでの利用回数が増えた人は32.6%でした。

4位はインターネット通販で23.6%。コロナパンデミックの影響で、大幅に増加しているのではと仮定していましたが、もともとがキャッシュレス利用なので回数が増えたという実感はないのでしょう。キャッシュレス利用回数が増えたトップ3 は、総じて日常生活と関係が深い場所といえます。

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出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「コロナ禍における生活者のキャッシュレス意識調査 2021年12月」【MA サンプル数(キャッシュレス利用者):467】

キャッシュレスが使えなくて困っている場所は、病院・診療所

「キャッシュレスが進まないのは、使えない店があるからだ」、という声をよく聞きます。であれば、キャッシュレスを使おうと思っても使えない場所を特定しようと今回の調査でも尋ねてみました。

使えなくて困ったという声が最も多かったのは、病院・診療所でした。33.3%のキャッシュレス利用者が、そう回答しています。大手の病院はキャッシュレスを受け付けているものの、中小のところではまだ利用できるところが多くありません。
コロナパンデミックで、病院や診療所の決済はできるだけキャッシュレスにしたいと思うはずです。しかし、キャッシュレスを受け付けてくれない。これは欧米と比べて日本が遅れているところ、と言えるでしょう。

2 位は中小店舗で14.3%、3 位は商店街で13.9%でした。この2者は、以前から使えないところが多いといわれていた場所です。4位は理美容室・ネイルサロンで11.6%。衛生上のことを考えれば、キャッシュレスの推進が望ましいところと言えるかもしれません。

キャッシュレス連載2022_図版04
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「コロナ禍における生活者のキャッシュレス意識調査 2021年12月」【MA サンプル数(キャッシュレス利用者):467】

なぜ使わない?キャッシュレスを増やした場所でも現金利用が多い謎

キャッシュレス連載2022_図版05
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「コロナ禍における生活者のキャッシュレス意識調査 2021年12月」【MA サンプル数:500】

キャッシュレス回数が増えた場所のトップ3 は、コンビニエンスストア(40.6%)、スーパー・ショッピングモール(38.5%)、ドラッグストア(32.6%)でした。これらの場所では、現金決済はほとんどなく、大半がキャッシュレス決済になっているにちがいない。そう思っていたのですが、調査結果は想定外なものでした。

コンビニエンスストアで最もよく使われている決済手段は、モバイル決済(51.7%)でした。では2位はなんでしょうか。
実は、カード(25.9%)でも、電子マネー(27.9%)でもなく、現金(46.9%)だったのです。

スーパー・ショッピングモールでは、トップがカード(56.4%)で、2 位が現金(54.7%)。ドラッグストアでは、驚くことにトップが現金(49.2%)になっています。
93.3% の人がキャッシュレス決済手段を持っていると回答し、しかも緊急事態宣言以降、キャッシュレス回数が増えた場所のトップ3で、いまだに現金がこれほど多く使われているのです。

これらの場所で、キャッシュレス決済ができないところはほとんどありません。にもかかわらず、なぜ現金を使うのでしょうか。

少額のキャッシュレス決済が今後の“のびしろ”

キャッシュレス連載2022_図版06
出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「コロナ禍における生活者のキャッシュレス意識調査 2021年12月」【MA サンプル数(キャッシュレス利用者):467】

実際のところ、コンビニエンスストアやスーパー、ドラッグストア、そして百貨店のレジでは、財布にカードを入れているにもかかわらず、現金で支払っている人が多いように思います。「カードが使えますよ」と、つい声をかけたくなってしまいます。

なぜ現金を使うのでしょうか。理由のひとつは上図にあります。小額決済でのキャッシュレス利用が低いのです。300円超~500円以下のキャッシュレス利用は4人に1人以下。100円以下では、10 人に1人もいません。コンビニエンスストアの1回あたりの客単価は約500円。それ以下でのキャッシュレス利用がぐっと減っています。

世界では、生活に密着した3業態のキャッシュレス決済はもはや当たり前です。スウェーデンでは現金を出すとイヤな顔をされます。ショップにはキャッシュレスでレジの処理スピードをあげたいという思いがあります。小銭のやりとりで間違いがあることを嫌います。
日本でも同様に、これら3業態では店舗側でもキャッシュレスの合理性を求めているはずです。ところが、こうした結果が出る背景には何があるのでしょうか。

小額支払いにキャッシュレスを使うと、「使えません」と断られてしまうのではないかという不安があるのでしょうか。あるいは、小額決済で加盟店手数料を取られるのは「申し訳ない」と気をつかっているのでしょうか。交通機関では、小額決済でも気兼ねなくキャッシュレスを使っているのに。「購買金額にかかわらず、気軽にキャッシュレスで支払って良い」。そういった生活者への周知がまだたりないのかもしれません。

現金への衛生的抵抗が低い日本人

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出典:電通キャッシュレス・プロジェクト「コロナ禍における生活者のキャッシュレス意識調査 2021年12月」【SA サンプル数:500】

キャッシュレス化が進まないもうひとつの理由は、日本人の現金に対する衛生的抵抗意識が低いことです。コロナパンデミックで、これまで以上に清潔であることが重要になっています。決済においても衛生面の懸念が浮上しています。この状況をふまえ、どの決済手段を使うことに、衛生的な抵抗があるかを尋ねてみました。「とても抵抗がある」のトップは現金で9.5%でした。しかしこれは生活者の1割にも満たない水準です。質問項目にあえて、「新型コロナウイルスによって清潔であることが重要になっている」と、前置きがあったにもかかわらずです。

「やや抵抗がある」を加えると、現金への衛生的抵抗を感じている人は36.2% になりますが、それでも3人に1人程度にとどまっています。吊り革を持つのをためらう人は多いですが、現金現金にはその抵抗を感じる人が少ないという状況です。欧米では、生活者と従業員の安全を考え、現金を使わず、キャッシュレスを使うことが、すでに一般的になりつつあります。キャッシュレスの効用や安全性について、生活者への周知が追いついていない。これは大きな課題です。

生活者のキャッシュレス推進に欠かせない2つのこと

キャッシュレス連載2022_図版08

今回の生活者を対象にしたキャッシュレス意識調査では、キャッシュレスを推進するために越えるべきハードルがみつかりました。それは、少額決済での低いキャッシュレス比率とキャッシュレス決済の効用に対する意識の低さです。

今やキャッシュレス利用者は93.3%もいます。緊急事態宣言後にキャッシュレス利用が増えた人は60.9%にも上りました。キャッシュレス利用が増えた場所のトップ3 は、コンビニエンスストア、スーパー・ショッピングモール、そしてドラッグストア。しかし、これらの場所での現金利用率は依然として高い水準でした。この背景に、500 円以下の少額決済のキャッシュレス化が進まないという障壁が見えてきました。

店舗への気兼ねはまったく不要です。店舗がキャッシュレスでの支払いを望んでいるのですから。そして、さらなる問題は、キャッシュレスの効用に対する意識の低さです。清潔好きな日本人であるにもかかわらず、現金への抵抗が低いこと。生活者に対してキャッシュレスの効用について、もっと繰り返し訴求することが必要だということがよくわかりました。

次回は、日本のキャッシュレスを牽引する非接触決済についてふれていき、今後のキャッシュレス決済推進におけるポテンシャルを解き明かしていきます。

【調査概要】
タイトル :第2回「コロナ禍における生活者のキャッシュレス意識調査」
調査手法 :インターネット調査
調査時期 :2021年12月16日~17日
調査エリア:全国
調査対象 :20~69歳男女500名(人口構成に基づきウェイトバック集計を実施)
調査主体 :株式会社電通 電通キャッシュレス・プロジェクト
調査会社 :株式会社電通マクロミルインサイト

 

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