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2022年の宇宙ビジネス入門No.1

広がる宇宙産業プレーヤー。アップデートされるJAXAの役割

2022/08/05

新しいソリューションづくりを担う、電通のソリューションクリエーションセンターでは、宇宙という場を活用したソリューション開発に取り組んでいます。

今回は、同部署センター長の鈴木 裕之氏が、国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)新事業促進部長の伊達木 香子氏にインタビュー。宇宙ビジネスの現状とこれからの可能性について話を聞きました。

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<目次>

近年の宇宙開発概況について

宇宙生活の課題から、地上の暮らしをより良くする「THINK SPACE LIFE」

4つの宇宙事業カテゴリーの進展

宇宙ビジネス5カテゴリー。日本の得意分野とは?


近年の宇宙開発概況について

鈴木:私たち電通では、クライアント、あるいは社会全体の課題解決に向けて、統合的なソリューションを提供する電通の姿勢を「Integrated Growth Partner」として全社で掲げています。

私たちの部署では、新しいソリューションを創造していますが、宇宙も着目すべき領域です。電通全体で20年ほど前から宇宙の広告利用の実績があり、現在もソリューション開発中です。

伊達木さんがJAXAの新事業促進部長に就任されてから1年半がたちます。この間にも、さまざまな企業が宇宙の領域に関わったり、新しい事業が生まれたりしています。今日はまず、宇宙を取り巻くビジネス状況について、どう捉えていらっしゃるかを聞かせてください。

伊達木:宇宙開発は、1950~60年代の米ソの開発競争から加速しました。当時の宇宙開発は、国家の威信をかけて、国がいかに宇宙事業をつくり出すかということに軸足が置かれていました。日本では旧NASDA(宇宙開発事業団)をはじめ、宇宙航空関係のいくつかの研究機関が設立されました。

ロケットや宇宙ステーションの開発も活発に進みましたが、関わる企業も、日本では大手企業が中心でした。

その後、日本でも3つの宇宙航空に関連する研究開発機関が統合されて2003年にJAXAが誕生しました。

一方で2000年に入ると、アメリカで宇宙ベンチャーがどんどん生まれ、第二次、第三次宇宙ブームが起こりました。(詳細はこちら

2010年以降、その流れが日本にもやってきます。日本でも多くの宇宙ベンチャーが生まれたり、それまで宇宙と関わりのなかった企業が次々と宇宙ビジネスに入ってきたりしました。このようにプレーヤーが増えているのが大きな変化です。

現在は、いろいろな技術、アイデア、ビジネス手法を持つ企業が参入し、宇宙利用や宇宙を使った事業が加速しています。宇宙だけでなく、われわれの一般的な社会生活にも影響が及ぶ形での宇宙ビジネスが増えているのを実感しています。

伊達木氏
鈴木:参入企業が増えて、宇宙ビジネスが多く生まれていく中、ビジネス環境の変化にJAXAはどう関わってきたのでしょうか?

伊達木:JAXAには2000人弱の職員がいます。研究開発の基礎的な部分をはじめ、開発したものを企業に渡して、そこから一緒に開発していくというプロセスにも取り組んでいます。後押しというよりも連携。私の新事業促進部を中心に、共に開発することに重きを置き、開発成果を企業と共有し新たな事業を推進する役割を担っています。

鈴木:まさに今、JAXAは、民間の事業を促進するという立場なのですね。

伊達木:民間企業と事業を進めるときには、まずは、どうしたらJAXAの技術を使ってもらえるかを考えます。企業と一緒に行うことで、「技術や研究開発力をJAXAとしてもより高めていけるか」もしくは、「共に得た新たな知見をJAXAの宇宙開発にフィードバックできるか」など、連携からの広がりが見えるかが、新事業促進部の大切にしているポイントです。

鈴木:JAXAの事業から生まれた技術や知見を、民間の方と一緒に使えるという、大きな変化が生まれているのですね。具体的な取り組みとして、J-SPARC(※)についてご紹介いただけますでしょうか。

※J-SPARC(JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ)
民間事業者等とJAXAの共同で新たな発想の宇宙関連事業の創出を目指す共創型研究開発プログラム


伊達木:新事業促進部では、J-SPARC(宇宙イノベーションパートナーシップ)の活動を2018年から始めて、4年たったところです。これまで36のプロジェクトを手掛けました。すでに終わったものや段階が変わったものを整理すると、現在は19のプロジェクト(*2022年8月現在)が動いている状況です。その中で、製品・サービスとしてビジネス化できたものが4件でています。

4年間で4件が、多いか少ないかは判断が難しいですが、宇宙ビジネスは開発に時間がかかり、本当に社会で使えるようになるまで長期化してしまうことも多い中での4件です。

J-SPARCの公式YouTube

J-SPARC共創活動発のビジネス化案件事例(出典:JAXA)
J-SPARC共創活動発のビジネス化案件事例(出典:JAXA)

鈴木:J-SPARCは、民間の力も活用しながら、ビジネスの場として、ある意味、ハブとして機能することを目指しているということでしょうか?

伊達木:そうですね。JAXAが民間企業といろいろな形でつながっていくことが理想です。

宇宙生活の課題から、地上の暮らしをより良くする「THINK SPACE LIFE」

「THINK SPACE LIFE」HP
「THINK SPACE LIFE」HP

鈴木:J-SPARCのプロジェクトの一つである、THINK SPACE LIFEについても聞かせてください。こちらは宇宙そのものというよりは、宇宙における生活課題を起点に宇宙/地上双方のビジネスを民間企業と検討されているとのことですが、進捗はいかがですか?

伊達木:THINK SPACE LIFEについては、2020年7月に開始して、これまで200社を超える企業が参加されています。2021年には6社と共にアクセラレーションプログラムも始め、より多くの企業に参加いただけるようになりました。

今まで「宇宙なんて関係ない」「どう関わるか分からない」と思っていた企業と私たちが一緒になって、どうしたら地上の技術を宇宙に持ち込めるか検討しています。

地上の製品を使って宇宙ではどんなことができるのか、みんなで論議し、アイデアを出し合うことで製品を作っていく。それが地上でもより高付加価値のものになっていく。そういう活動として、皆さまにご認識いただいています。

鈴木:企業とそこに所属する人の力を引き出しながら、宇宙から与えられるさまざまなシーズ(ビジネスの種)を、地上のビジネスに持ち込めないか、ということですね。

伊達木:はい。宇宙というと、どうしても企業や製品は限定されがちですが、地上をベースにすることでより広がりが持てます。宇宙で利用していただくための準備という形での広がりができて、より多くの方々が参加できるようになります。

4つの宇宙事業カテゴリーの進展

鈴木:私たちも、これまでさまざまな宇宙ビジネスに関わってきました。例えばispaceの事業(詳細はこちら)。その黎明(れいめい)期からこれまで、どういうふうにビジネスを育てていけばいいのかを、協賛社を得る手法を宇宙ビジネスに応用して、微力ながらお手伝いさせていただいています。

ispaceは、「月惑星探査」ですね。その他に、2021年末の前澤友作さんの国際宇宙ステーション滞在で大きな話題にもなりましたが、有人分野の「宇宙旅行」があり、それから「小型衛星により宇宙から得られるビッグデータの活用」、加えて「まだインフラが行き届いていない地域へのインターネット事業」、大きくこの4つのカテゴリーに弊社で整理していました。(詳細はこちら

この4つに、堀江貴文さんが創設したインターステラテクノロジズなどの「小型ロケット」も追加して、4+1(ロケットor宇宙輸送)という整理で見たとき、2022年段階の宇宙ビジネスの進捗について、伊達木さんのご意見をお聞かせいただけますか。

宇宙ビジネスイラスト

伊達木:最近大きな成果が出ているのは宇宙ビッグデータだと思います。つまり人工衛星を中心として、宇宙から来るデータ、宇宙で撮れた情報を、地上での活動に使っていく。昨今の国際情勢の中でも、衛星からの画像が活用されています。また、例えば衛星からのデータを使って農業や経済活動の意思決定、もしくは災害発生時の様子や、環境の状況を知るために役立てることもできます。

鈴木:ビッグデータの分野にJAXAはどう関わっているのでしょうか。

伊達木:民間の企業は、衛星の機能に加え、その衛星からのデータをどのように地上の人たちが社会の中で使っていくか、逆にどんな情報があればビジネスとして回っていくのかを考えます。

JAXAは、その企業の目的のためには、どういう情報が宇宙で取れるといいのか、これまでの宇宙での知見、開発経験を踏まえて、技術的な開発ルートを見つけるためのアドバイスを行っています。また、データの処理や加工について技術面での協力も実施しています。

衛星のイメージ

鈴木:民間企業に積極的に知見を提供されて、かなり具体的なコンサルティングをしているのですね。

伊達木:はい。もちろん企業自身に技術はありますし、われわれの技術がどう役立つかは、さまざまです。JAXAとして、これまでの開発経験、培ったものを、より素早く、企業の方々に使っていただける大変良い機会をいただいています。

鈴木:宇宙ビッグデータの活況は、前回、ウェブ電通報で掲載した2016年(詳細はこちら)段階では想像できないことも起こっていると思うのですが、6年前と比べて、何が進化して、それが可能になったのでしょうか。

伊達木:この6年ということであれば、やっぱりコンステレーション(多数の衛星を統合して一つのシステムとして運用すること)を目指す小型衛星の開発が進んだのは大きいと思います。先ほどのデータビジネスやデータソリューションが、そういうコンステレーションで小型衛星をどんどん打ち上げて、画像を撮り、データを得ていく。

この分野は、日本でも多くのプレーヤーが生まれていて、どんどんビジネス化しています。皆さん衛星を打ち上げ、画像データの取得に成功しており、それを分析してどう使うのかという段階にきています。具体的に使える衛星ができているところが大きな進歩ですね。

民間の、それも1社でなく、複数の会社がそれぞれの良さを出しながら、衛星の打ち上げ、運用をされています。

宇宙ビジネス5カテゴリー。日本の得意分野とは?

鈴木:宇宙ビッグデータ領域の成果をここまで伺いました。伊達木さんから見て、この5領域で日本の得意領域はどれだと思いますか。

鈴木氏

伊達木:それでは、今は衛星データ関連でしょうか。得られたデータを使って、何をどうつくってビジネスにしていくかは、日本の技術やビジネスセンスが生きる部分です。

例えば、日本は自然災害が多いため、先読みする能力やどんな情報が求められているのかを知る能力に長(た)けています。それが、良いものをつくり出すことにつながると思います。

まだこれからの領域ですが、惑星探査は日本も頭角を現しています。アメリカもヨーロッパも力を入れていますが、JAXAが開発した「はやぶさ」がよく知られているように、世界に冠たる技術があります。日本としてぜひ先行して開発していきたい領域です。

宇宙旅行は、今はアメリカに先を取られてしまっているところもあるかもしれません。しかし、日本は日本なりの開発が進んでいくと思います。これから期待が持てる分野が、宇宙旅行や、ispaceでも取り組まれている月探査ミッションなどです。

宇宙インターネットと表現されている通信も今は、海外企業が先行していますが、日本としてどうするかというところはまだこれからでしょう。それでもやはり日本の通信技術など世界に誇れる技術は多数あるので、宇宙を掛け合わせて、新しいビジネスが生まれていくと考えています。

鈴木:私たちがご一緒しているispaceは、まさに月面探査。2022年、いよいよ打ち上げも近づいてきています。

伊達木:今年は月へのチャレンジが目白押しですね。

鈴木:今日のお話を通じて、JAXA自身が大きく変わって、JAXAという主語だけではなく、みんな一緒にという形で宇宙を捉えられていることを理解しました。

伊達木:ありがとうございます。宇宙を使いたいという機運が高まっている中で、JAXAとしても、これまでの技術、知見の蓄積をぜひ皆さんと一緒に使い、世界でも活用され、それが日本の力になることを目指していきます。

鈴木:この領域をけん引されてきたJAXAの力を、クライアントの課題と近いところにいる私たちは、ぜひ積極的に活用させていただければと思います。これからもよろしくお願いいたします。

伊達木:よろしくお願いいたします。

鈴木:最後に、皆さまに伝えたいことはありますか。

伊達木:われわれJ-SPARCの、キャッチフレーズの中に、「共創しよう」という言葉があります。キョウソウというと、昔は競う方の競争が多く使われてきましたが、今は「共に創る」の共創が重視されている実感があります。争うのではなくて、共に創ることで、より高みを、より良いものを目指す。宇宙からの技術を使って社会を変えていけることがきっとまだまだあると思いますので、新しい世界へ向けてぜひ皆さんと一緒に進んで行きたいですね。

鈴木:ありがとうございました。多くのクライアントと共創できるよう、われわれも微力ながら尽力していきたいと思います。

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