キャッシュレス・ジャパン・サーベイ2021:キャッシュレスが牽引するDXNo.3
中小店舗のキャッシュレスが進まない理由は手数料にあらず
2022/08/16
電通キャッシュレス・プロジェクト(※)が実施した、第2回「キャッシュレスに関する意識調査」(調査概要はこちら)。本調査の目的は、新型コロナウイルスによりライフスタイルが大きく変化する中、生活者の決済手段がどのように変化し、今後どのような決済手段が主流になっていくかを明らかにすること。そして本連載では、調査結果をベースに、日本のキャッシュレス利用者増加の現状と、それでもなお推進を阻む障壁について解き明かしていきます。
※ = 電通キャッシュレス・プロジェクト
キャッシュレスを中心とした、決済領域のマーケティング戦略支援を行うプロジェクトチーム
今回は、いまだ進まぬ中小企業のキャッシュレス導入状況と、その理由についてお伝えします。
<目次>
▼進まない中小店舗のキャッシュレス決済導入
▼中小店舗の悩みはキャッシュフローの改善
▼キャッシュレスを導入しても、依然として高いのは現金での決済比率
▼なぜキャッシュレスは現金より決済完了までの時間がかかるのか?
▼中小店舗へのキャッシュレス浸透に欠かせないのは、ニーズを捉えたデジタルサービスの充実
進まない中小店舗のキャッシュレス決済導入
今回の調査から、中小店舗においても、キャッシュレスを推進するうえでの障壁があることが見えてきました。上図は小売業250 件、飲食業350 件、合計600 件の中小店舗を対象に、キャッシュレス決済の導入状況を調査した結果です。キャッシュレス決済を導入している中小店舗は、52.3%にとどまりました。
内訳は、2019 年10 月より前から導入しているところが39.4%。2019年10月、日本政府のキャッシュレスキャンペーン以降に導入したところが12.9%となっています。この12.9% のうち、2020年4月の緊急事態宣言以降にキャッシュレスを導入したところは5.8%のみでした。
この結果から、政府が2019年に実施したキャッシュレスキャンペーンは効果をあげているものの、その後の進展ははかばかしくない状況がみえてきました。いまだに47.7% の中小店舗がキャッシュレスを受け付けていないということになります。さらに詳しくお伝えすると、小売業では44.0%、飲食業では50.0%が未導入という結果でした。
次に、キャッシュレスを導入している中小店舗に、導入効果を聞いてみました。最も多かったのは、「釣り銭を用意する手間が減った」(26.7%)でした。次いで、「客層が広がった」(19.4%)、「レジ作業の時間が短縮できた」(19.0%)となっています。
こうした生産性向上/コスト削減や売上向上につながる有効な導入効果があるにもかかわらず、約半数の店舗がキャッシュレスの導入をためらってしまう。そのカベはどこにあるのでしょうか。
中小店舗の悩みはキャッシュフローの改善
では、キャッシュレス決済を導入していない中小店舗の導入意向はどうだったのでしょう。調査の結果、未導入店のうちキャッシュレス決済導入意向があるのは、全体の23.0%にとどまりました。77.0%は、キャッシュレス推進を願う側としては残念ながら、導入意向がない状況です。
キャッシュレス未導入店に何を解決すれば導入に踏み切れるかを聞いてみると、まず60.7% が、加盟店手数料が安く(無料に)なることをあげています。次いで、端末やシステムなどの初期投資が安く(無料に)なることが、37.1%でした。
では、キャッシュレス導入に向けたカベを崩すには、手数料や初期導入費を無料にするほかないのでしょうか。そのヒントを求めて、すでにキャッシュレス決済を導入している中小店舗に、決済サービス会社に期待することを聞いてみたところ、それだけが解決法ではなさそうな様子が見えてきました。
「決済サービス会社に期待すること」のトップは、「売上の早期入金」で46.6%でした。回答比率は、他の回答の約2倍以上に及んでいます。この結果から、中小店舗の悩みは、日々のキャッシュフローにあることがよく分かります。手数料や初期の導入費用が無料でなくても、中小店舗の悩みに対応した利点のアピールに、キャッシュレス浸透のヒントがありそうです。
キャッシュレスを導入しても、依然として高いのは現金での決済比率
キャッシュレス導入店の売上に占めるキャッシュレスの比率は、どれくらいあるのでしょうか。今回の調査で、「あなたのお店では、お客様の支払手段として『キャッシュレス決済』と『現金決済』の比率はどれくらいですか。それぞれ金額ベースの比率をお知らせください。」と聞いてみました。
その結果、キャッシュレス決済の平均比率は26.7%でした。キャッシュレスを導入している店舗でも、未だ現金決済比率が73.3%と高い状況です。店舗の実感としては、現金決済が売上全体の4分の3を占めている状況がうかがえます。
第1回の記事でお伝えしたとおり、今回の調査でキャッシュレス決済手段を持っている生活者であっても、現金を使う割合が高いことが分かりました。中小店舗においては63.6%、飲食店では63.1%、商店街では59.3% の生活者が現金を使っています。カードやモバイル決済も利用されているものの、現金の利用が依然として60%前後と高水準です。
そうした中、中小店舗がキャッシュレス決済を導入した理由のトップは、「お客さまの利便性が向上しそうだから」(59.1%)。次いで、「お客さまの要望があるため」(40.6%)でした。中小店舗が顧客ニーズへの対応としてキャッシュレスを導入した経緯がある一方で、やはり現金決済が多くを占める状況が見えてきます。 キャッシュレスの定着や浸透を進めていくためには、店舗から顧客に向けたキャッシュレスの推奨など、まだまだやるべきことがあるのかもしれません。
なぜキャッシュレスは現金より決済完了までの時間がかかるのか?
キャッシュレス導入店舗で、依然として現金利用が4分の3を占める原因には、オペレーションの課題もあるのではないか。そうした仮説から、キャッシュレス決済が増加することで感じる業務上のストレスについて質問してみました。
一番多かったのは、「決済が完了するスピードが現金より遅い」(26.6%)でした。プロジェクトメンバーにとってこの結果は、今回の調査結果の中でも、主なサプライズの1つでした。
そもそもキャッシュレス決済の提供価値は、「フリクションレス」(顧客体験上の摩擦や、抵抗が少ないこと)だといわれています。キャッシュレスは、これまで決済上の摩擦や抵抗をなくすことで、決済をスムーズに早くしてきたと認識されていました。それなのに、キャッシュレスの方が現金決済より遅いというのです。
その他の回答結果を見ると、その理由は、2位以下につづく回答にあるのではないかという状況もうかがえました。つまり、「レジ業務が複雑になった」(18.4%)、「お客さまのやりとりが増えた」(12.3%)、「端末機が増えてレジ周りが狭くなった」(12.2%)、そして「お客さまが使い方をわかっていない」(12.2%)という回答が「決済が完了するスピードが現金より遅い」要因なのではないかということです。
店舗側の問題点は、オペレーションの煩雑さや従業員がキャッシュレス受付に慣れるまでに時間がかかるという点にあるのでしょう。一方で、生活者もキャッシュレス決済の使い方について知らなかったり、かえって手間取ってしまったりする状況です。その結果、やりとりが増える。これは、店舗と決済サービス事業者が共同で解決に取り組むべき課題なのかもしれません。
中小店舗へのキャッシュス浸透に欠かせないのは、ニーズを捉えたデジタルサービスの充実
昨年暮れに、一部の大手モバイルQR決済事業者が、これまで無料だった加盟店手数料を値上げしました。もし自店舗に導入しているモバイルQR決済の手数料が値上げとなった場合、導入店舗にはどのような反応があるのでしょうか。
調査の中で、モバイルQR決済を導入している中小店舗は200件。これは、調査に回答した中小店舗全体の約3分の1にあたります。モバイルQR決済が本格的にスタートしたのは2018年頃でした。わずか3年で、中小店舗の3件に1件が導入しているという結果です。初期導入費用も、加盟店手数料も無料、という点がこの浸透力の大きなドライバーになったのは間違いないでしょう。
その200店舗に、値上げに対してどのような反応を取るのか聞いたところ「今後も継続したい」という回答が89.1%と多く、「今後解約したい」は9.9%、「すでに解約した」店舗はわずか1.0%という結果でした。この結果は、中小店舗のキャッシュレス導入の浸透にとって、加盟店手数料が、必ずしもハードルになっているわけではないということを示唆しています。
前述の「決済サービス会社に期待すること」のチャートをみると、中小店舗は、「決済アプリで特別特典提供」(23.4%)、「決済アプリで店舗紹介」(19.2%)、「決済データの分析機能」(9.6%)、「業務効率化サービスの提供」(9.2%)を期待しています。
モバイルQR決済事業者は、すでにこれらのうちいくつかを提供していますし、すでに導入している店舗は、たとえ手数料が高くなったとしても、こうしたニーズに応えてもらうことで、「今後も継続したい」という反応を示していることがわかりました。
今後も、中小店舗のキャッシュレス浸透を進めるにあたっては、こうしたキャッシュレスを起点にしたデジタルサービスのニーズをすばやく捉えてサービスに組み込むことが、より一層重要になってくるのではないでしょうか。
【調査概要】
タイトル :第2回「コロナ禍における生活者のキャッシュレス意識調査」
調査手法 :インターネット調査
調査時期 :2021年12月16日~17日
調査エリア:全国
調査対象 :20~69歳男女500名(人口構成に基づきウェイトバック集計を実施)
調査主体 :電通 電通キャッシュレス・プロジェクト
調査会社 :電通マクロミルインサイト