月刊CXNo.9
「ENEOS 新車のサブスク」から見る、オンラインとオフラインを統合したCXの実現
2022/10/25
日々進化し続けるCX(カスタマーエクスペリエンス=顧客体験)。
今やあらゆるシーンで求められるCX領域に対し、電通のクリエイティブはどのように貢献できるのか?
その可能性を解き明かすべく、電通のCX専門部署「CXCC」(カスタマーエクスペリエンス・クリエーティブ・センター)メンバーがCXとクリエイティブについて情報発信する連載。それが「月刊CX」です(月刊CXに関してはコチラ)。
今回は、「ENEOS 新車のサブスク」のリニューアルプロジェクトを担当した電通デジタルの外山 遊己氏と小島 瑞生氏に、CXクリエイティブ(※1)で大切にしたポイントや実践までのプロセスについてお話を聞きました。
全国に多くのサービスステーション(ガソリンスタンド)をもつENEOS。新しく始まったサービス「ENEOS 新車のサブスク」をお客さまに届けるために、オフラインの店舗とオンラインのウェブでどのような工夫をしたのでしょうか。
※1=CXクリエイティブとは……クリエイティブの力を使って、価値ある新しい顧客体験を生み出すこと。また、その取り組み。
【外山 遊己氏プロフィール】
電通デジタル
ビジネストランスフォーメーション部門 サービスイノベーション事業部 事業部長
マーケティング/アカウント、二つの部門で清涼飲料、IT・AV・家電、娯楽サービス・コンテンツ、金融など幅広い業界のプランニング業務に従事。商品・ブランドの開発から戦略立案、コミュニケーション施策までのトータルなコンサルティングを行う。現在、電通デジタルで、流通や金融などを中心に、デジタルシフトによる事業のサービス化や新規事業・サービスの開発・グロース支援を行っている。
【小島 瑞生氏プロフィール】
電通デジタル
CXトランスフォーメーション部門 CXクリエイティブ事業部
アートディレクター
広告制作会社を経て現職。大手企業のウェブデザインからアプリなどのUIデザインやプリントメディアまで、幅広いデザイン経験を持つ。
戦略パートから参画し、オンライン/オフラインで一貫したUXを提供する、クロスメディアのアートディレクションで、ブランディングと体験価値を創造している。
エンドユーザーと深く関わる挑戦。ブランド戦略やポジショニングから共に考える
月刊CX:「ENEOS 新車のサブスク」について、簡単に教えてください。
外山:ENEOSのサービスステーションを販売拠点とするサブスクリプション型カーリース事業です。ウェブサイトで乗りたい車を選択して、近所のカーリース取り扱いサービスステーションで契約するだけで、新車に乗ることができます。
また、フルサポートパックを契約することで、自動車税の支払い、車の点検や車検に加え、タイヤやオイルなどの交換、ロードサービスといった手厚いサービスを受けられます。
「ENEOS 新車のサブスク」のターゲットは、車が暮らしに欠かせない人です。ですが、その人たちは必ずしも車に詳しく、車が好きな人たちばかりではありません。そういう人たちにとっては、従来の「カーディーラーや中古車販売店に行って車を選ぶ」という車の買い方は、ハードルの高い行動だと思います。
普段使っているサービスステーションで、サブスクという形で手厚いサービスを受けられるのであれば、これほど楽で便利なことはないですよね。この手軽さを伝えることがプロジェクトには欠かせない、と当初からチーム全体で共有していました。
月刊CX:電通デジタルはこのプロジェクトで何を担当したのでしょうか。
外山:電通デジタルは、「ENEOS 新車のサブスク」の立ち上げから運用における業務開発、マーケティング業務、およびチャネル開発支援を行っています。その中でも、主にCXクリエイティブチームと共に取り組んだ領域は、ウェブサイト・店頭における情報設計とスタイルガイドライン作成、改善運用の支援ですね。「ENEOS 新車のサブスク」をENEOSのサービスステーションで初めて知る人も多いです。店頭でも認知獲得・興味喚起をできるよう、サイネージやパンフレットの制作も丁寧に行っていきました。
月刊CX:プロジェクトを始めた当初はどのような課題がありましたか。
外山:本プロジェクトのご担当者は、「新車のサブスク」のような直接エンドユーザーとコミュニケーションを取ってサービス提供するB2Cビジネスの立ち上げに取り組まれるのは今回が初めてでした。そのため、ブランド戦略やポジショニングの必要性などをクライアントに伴走しながら啓発し、設計していく必要がありました。
月刊CX:その課題をどのように解決していったのでしょうか。
外山:今回のプロジェクトで、私の主な業務はクライアントとの調整やコミュニケーションでした。参画してから1カ月ほどで、マーケティング調査やカスタマージャーニーを作成して方向性や戦略を定めましたが、意見が食い違うこともあり、なかなか議論が前に進まなかったんです。
月刊CX:議論をしていくなかで、どのようにクライアントとの関係性を深めていったのでしょうか。
外山:とにかくクライアントとコミュニケーションを重ね、考え方や社内事情、クライアントが大切にしているポイントを理解・把握することに力を尽くしました。広告会社やコンサルが普段使っている言葉ではなく、クライアントに納得いただける言葉で何度も説明する、クライアントの立場に立って、いつ何をやるべきかTo Doを整理して調整をするなど、長年取り組んできた営業やマーケティングの経験が大きく役立ったと感じています。
そういったことの繰り返しで関係を構築でき、信頼関係を築けた結果、ウェブサイトや店頭販促物の改修をご依頼いただけました。
「カーリース」から「新車のサブスク」へ。オンオフ統合した新しいサービスの認知を獲得
月刊CX:オンラインのウェブサイト、オフラインの店頭販促物。それぞれの制作・ディレクションを行うなかで、特に意識した点はありましたか。
小島:今回は「暮らしに車は欠かせない、だけど車にはさほど詳しくない方」をターゲットとしていました。特に、いつものENEOSで簡単に車が手に入る手軽さを強調したかったので、できる限りお客さまが目にする文言は、わかりやすく端的になるように努め、トーン&マナーも親しみやすさを感じていただけるようなデザインにしました。
参画当初、このサービスでは「ENEOSカーリース」というサービス名とセットで「あたらしい新車選び」というコピーが使われていました。ですが、「カーリース」という旧来のワードにより、ターゲットに「自分たち向けの新しいサービス」として認知されにくいと感じたため、本来の「ENEOS カーリース」のサービス名の位置付けを控えめにし、前面に打ち出すサービス名称を「ENEOS 新車のサブスク」に変更しました。
月刊CX:サービス名の変更は、大きな取り組みだと感じるのですが、スムーズに進みましたか。
外山:ENEOSにとっても簡単ではなかったです。実は「ENEOSカーリース」から「ENEOS 新車のサブスク」になるまで、何度か細かなサービスのネーミングやそのロゴの改訂を行いました。サービス名称の変更には管理部門の許可が必要だったり、デザイン会社にロゴの使用依頼をしたり開発依頼の許可を取ったりという調整もあって、数カ月を要しました。
月刊CX:今回、アートディレクターの小島さんが担当された制作物について教えてください。
小島:私たちがプロジェクトに参画したときにはすでに、PoC(※2)で作ったポスターやチラシなどの販促物、ウェブサイトが存在していました。ですが「ENEOS 新車のサブスク」のターゲットとなるお客さまを考えると、PoCのデザインでは難しそう、かつ、新しく登場するサービスには見えない印象を受けました。そこで、フレッシュな印象とともに、よりわかりやすく、易しいものに見えるようデザインの改修を進めました。
※2=Proof of Conceptの略。新しいアイデアやビジネスの実証を目的とした検証やデモンストレーションのこと。
リーフレットなどの改修にあわせ、ウェブサイトの改修も行いました。オフラインとオンラインのデザインを統一し、新しいサービスブランドのイメージがぶれないようにしました。また、どちらも親しみやすく明るいデザインにすることで、カーリース契約のもつ難しい印象やハードルの高さを下げられたのではと思っています。
ENEOSはコンタクトポイントとなるサービスステーションの数が非常に多いため、店頭ツールやバナーなど制作物は多岐にわたります。そのため、電通デジタル以外の方がクリエイティブを制作してもデザインのルールを統一していただけるように、「スタイルガイドライン」も作成しました。
クライアントとエンドユーザー、双方の課題解決を果たすものが、真のCXクリエイティブ
月刊CX:お二人の考えるCXクリエイティブはどのようなものですか。
外山:CXは直訳すると顧客体験となりますよね。ですが、われわれが行うCXは純粋に生活者の生活上の課題を解決するのではなく、あくまでクライアントの事業やニーズに沿ったうえで、最適な体験やデザインに落とし込むことだと思っています。カスタマーサクセスに非常に近いものだと考えてもいいかもしれません。
小島:デザインはあらゆる体験の入り口に必ずあるものです。そのデザインと価値ある体験がぶれずに一つの軸でつながっていることが、CXクリエイティブの本質だと思います。クライアントが大切にするポイントを表現することに加えて、商品やサービス、クリエイティブに触れた時に心の琴線に触れるワクワク感や、ハッとできる瞬間をつくることを大切にしたいです。
月刊CX:最後に、CX領域で取り組みたいことがあれば教えてください。
外山:このプロジェクトは電通デジタルでご支援させていただいた大型サービスとして、代表的な事例と言えます。今後も本件のようなオフラインとオンラインの接点を統合して、最適なOMO(Online Merges with Offline)のCX設計をするような取り組みやプロジェクトを増やしていけるように頑張りたいです。
小島:オフラインもオンラインも一気通貫で体験できるサービスに携われたのは私にとっても良い経験でした。これまでは、課題解決型の案件が多かったのですが、CXやクリエイティブとしても、今までにない体験をつくる案件にどんどんチャレンジしていきたいですね。
(編集後記)
月刊CX 第9回では、「ENEOS 新車のサブスク」の事例を紹介しました。ポスターやチラシ、リーフレット、タッチディスプレー、デジタルサイネージ、ウェブサイトなどオフライン・オンラインの制作物に、一気通貫で関わった本プロジェクト。抜本的なリニューアルには、CXやマーケティングの価値をクライアントに理解してもらうことが欠かせません。何度もコミュニケーションをして相互理解を深めることは非常にシンプルで基本的なことですが、CXクリエイティブにおいても重要なアプローチといえるのではないでしょうか。
今回のインタビューは、「CX Creative Studio note」(CX Creative Studio noteに関してはコチラ)とも協力しながら行っています。電通CXCCチームだけでなく電通デジタルのCXクリエイティブチームとも連携した、より幅広い事例の収集や紹介等も行っていますので、興味がおありならそちらも併せてご覧ください。
また今後こういう事例やテーマを取り上げてほしいなどのご要望がありましたら、下記のお問い合わせページから月刊CX編集部にメッセージをお送りください。ご愛読いつもありがとうございます。