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右脳と左脳で考える、広告会社とコンサル会社の未来No.4

日本のB2B企業成長の鍵は「企業ブランディング×事業戦略」にある!

2023/01/26

B2Bビジネスにおける「企業ブランディング」が重要性を増しています。

B2Bビジネスは、B2Cビジネスと比べて、ブランディングが重視されてきませんでした。購買意思決定においては「機能的価値」が重視され、「情緒的価値」は重視されてこなかったのです。

ここでいう機能的価値、情緒的価値とは以下のようなものです。

  • 「機能的価値」=製品・サービスの機能、性能
  • 「情緒的価値」=サービスの裏にあるストーリーから生じる興奮・感動、企業への親近感・安心感

しかし、VUCA(先行きが見通せず、予測が困難)の時代となり、ビジネス環境は変わりました。これからは、購買意思決定に関わる全てのステークホルダーに「情緒的価値」を伝えて共感を得る、「企業ブランディング」が不可欠です。なおかつ、企業ブランディングは必ず事業戦略と結びつけて会社全体で取り組んでいかなければ、事業成長につながりません。

本稿では、多くのB2B企業のビジネスに社内(事業会社)と社外(コンサルティング)の両面から関わってきた電通コンサルティングの田中寛が、企業ブランディングにおける重要な2つの指針を解説します。

<目次>
「情緒的価値」は日本のB2Bビジネスにとって遠い存在だった

企業ブランディングがB2Bビジネスの成長に繋がる素地が整ってきた

企業組織一体でブランドイメージの「一貫性」を追求するべし

「統合諸表」でパーパスと事業を結びつけてみませんか?

 

 

「情緒的価値」は日本のB2Bビジネスにとって遠い存在だった

B2Bビジネスでは通常、製品・サービス購入の意思決定関与者が1人ではなく、複数に分かれています。

複数の意思決定者が、対話を繰り返しながら合理的な意思決定を行うため、B2Bビジネスにおける意思決定は時間を要します。

売り手の販売担当者は、「目の前の顧客」である購買担当者との合意形成を目指します。しかし、それだけで購入意思決定に至るケースは稀であり、

「決裁者である上司を通さないと…」
「専門家の意見を聞かないと…」

など、さまざまなハードルを越えて、ようやく購入が決まっていきます。つまり、買い手側は、直接の意思決定者だけでなく、間接の意思決定者も含めて購入の意思決定を行います。

これまでの日本のB2Bビジネスでは、「機能的価値」が重視されてきました。決裁者たる上司のような間接の意思決定者に対する価値訴求も、直接の意思決定者同様に「機能的価値」が大きく占めていたということです。

なぜなら、「機能・性能が良いものは売れる」という考え方に基づき、数字や言葉による説明で納得を得られやすかったからです。

一方、海外のB2B企業には、ブランディングも行って強い競争力を発揮しているケースも多く見られます。

ここで、技術力を活かして製品の「機能的価値」を提供する素材メーカーを例に、対照的なケースを挙げたいと思います。

「機能的価値+情緒的価値」を訴求する事で競合他社に差を付けた2つの企業

まず、3Mとデュポンという2つの海外メーカーを見てみましょう。この2社は、それぞれ革新的な素材を数多く世に送り出して、いわば「機能的価値」を提供してきました。

  • 3M……剥がしやすい接着剤マイクロスフィアを活用し、ポスト・イットを商品化
  • デュポン……ナイロン、テフロンを開発

その上で、機能的価値に留まらず、

  • 3Mは“Science. Applied to life.”(科学を生活に応用する)
  • デュポンは“The miracles of science”(科学の奇跡)

というスローガンを掲げることで、「先進的・革新的で、技術力を生かして新しい用途を次々と世の中に生み出しそう」という企業イメージを作ってきました。つまり、「情緒的価値」を伝えるブランディングも重視してきたのです。

その結果、高い技術を要求される分野で新規用途開発が行われる際には、まずこれらの企業に声が掛かるようになりました。声が掛からない企業よりも多くの開発を手掛けることになり、その分多くのビジネスに繋がっていったのです。

■高度な「機能的価値」を持っていても「情緒的価値」をアピールできない日本企業

一方、たとえ同業他社と比べて技術力が遜色なくても、先進的・革新的なイメージがなく、営業担当の真面目さが生む「信頼」のイメージだけが強い企業もあります。特に日本のB2B企業に多く見られます。

こうした企業は、既存顧客とのビジネスを伸ばすことは得意です。しかし、新規顧客獲得には苦労しがちです。3Mやデュポンといった先進的・革新的なイメージを持つ企業が、新規顧客獲得を次々と果たしていくのとは対照的と言えます。

同じ業種内でもこうした違いが見られることは、少なくとも10年以上前から認識されていたと思います。それでも、日本においては「機能的価値の訴求が何よりも大切だ」という考え方が、根強く今日まで続いています。

それは、

「機能的価値において競合優位性を示し続けることにより、顧客からの信頼を獲得できれば、新しいビジネスも継続的に獲得できる」

という考え方でしょう。ここでの「顧客からの信頼」は情緒的価値ですが、機能的価値の訴求結果であり、ブランディングの結果ではないのです。

企業ブランディングがB2Bビジネスの成長に繋がる素地が整ってきた

最初に述べたように、市場環境の変化を受けて、B2Bビジネスでも、事業成長のためにブランディングを行うことがますます必要になってきました。

ここでいうブランディングとは、「情緒的価値を訴求しながら、良い評判・イメージづくりを行う」という意味です。B2Bビジネスでブランディングが重要になった理由を、3つに整理しました。

①機能的価値の訴求だけでは差別化が難しくなった

1つ目は、「機能的価値の訴求」だけでは競合他社との差別化が難しくなってきたことです。世の中の変化は加速度を増し、新製品・サービスの機能・性能で競合他社と差を付けようとしても、たちまち真似をされてその優位性は失われてしまいます。

そこで、「その製品・サービスを利用すると、どのように心を揺さぶられるのか、どのように感動できるのか」という情緒的価値を示すことが、差別化の打開策となっているのです。

②購入検討者がインターネットで情報収集できるようになった

2つ目は、B2Bビジネスにおいても、購入検討に向けた情報入手の手段として、インターネットが当たり前のように使われるようになってきたことです。

購入検討者は、「認知」「関心」「検索」「比較検討」「情報提供依頼」「企画提案依頼」「交渉」「購入」までの購買検討プロセスのなかで、全体の57%に当たる「比較検討」まではインターネットを使って自分で情報入手しているという調査結果があります(※)。

※アメリカのシンクタンクCorporate Executive Boardが2012年に調査。→関連記事

 

バイヤーズジャーニーの変化

かつては、購入検討に際し、自社に訪問してくる営業スタッフのイメージがもっとも大きく影響していたと思います。しかし、上の調査結果を踏まえれば、今や「インターネット上での企業イメージ」が、購入検討者が候補企業を絞り込む中で大きく影響するようになってきているのです。

③企業の社会への貢献についてより関心を持たれるようになった

3つ目は、SDGsとの企業の関わりや、企業がどんなパーパスを持っているのかといった点に人々の関心が高まってきたことです。

直接の顧客だけでなく、広く一般層などに対し、企業としての存在意義や社会貢献の在り方、商品・サービスの裏にあるストーリーを示すことは、もはや主流の考え方です。それらを通じて「社会の役に立っている企業」「安心できる企業」といった情緒的価値を提供することで、B2B企業は共感を得る必要があります。

人々から企業に対する良いイメージや共感が増していくと、多くの購入意思決定者、特に間接的な意思決定者に影響を与えます。「この企業から買うのが良い」と意思決定に前向きになり、合意形成の確度が上がります。

また、従来は「モノを買う」という、いわば購買側が供給側からモノ・サービスを受け取る一方通行でした。しかし、現在では多くの企業がモノ・サービスを「共に創る」機会が増えています。そこで広く協力を得る手段としても、企業ブランディングによる「共感」は有効でしょう。

共創のパートナーとなる企業も、「自社のことばかり考える企業」よりも、「社会に良いことを手掛けている企業」と協力して新たなビジネスを手掛けたいと考えるのです。

企業組織一体でブランドイメージの「一貫性」を追求するべし

では、B2Bビジネスにおいて、どのようにブランディングすればいいのでしょうか。ポイントは、提供する「情緒的価値」が、同じく提供する「機能的価値」や事業の方向性と合っていることです。両者が合致しているほど購入確率は高まり、事業成長に繋がると考えられます。

具体的には、どのような考え方が必要なのでしょうか。筆者は次の2点が重要だと考えます。

  1. 発信する内容と表現の一貫性追求
  2. 企業組織全体での一体化

なお、ここでのブランディングは、「間接の購買意思決定者」である購買側の会社の上長や専門家といった人々に加え、潜在顧客や投資家、一般層の中でも潜在社員である若年層などが主なターゲットとなります。

それぞれ、詳しく見ていきましょう。

1.発信する内容と表現の一貫性追求

【発信する情緒的価値につき、事業の方向性と一貫させた内容と、一貫した顧客体験に繋がる表現方針を追求することで、より強い共感を得る】

情緒的価値を発信して共感を得るにはどうしたら良いでしょうか。筆者は、「発信する内容と表現の一貫性」を、事業に関連付けて追求することが大切と考えます。

企業広告であれ広報活動であれ、一貫性をもって発信するために、まず複数の事業間で「共通した提供価値」を洗い出します。その共通項を元に、企業としての“らしさ”をイメージさせられる表現をつくっていくのです。

多角化事業を行っている企業に、A~Cの3事業部があるとします。各事業部が、それぞれの戦略にそって、

  • A事業部が「高い機能性」
  • B事業部が「営業の提案力」
  • C事業部が「グローバルでの供給能力の高さ」

をうたっているとしましょう。これでは「共通した提供価値」がなく、バラバラです。しかし、

  • A事業部が「材料に価値を付けて圧倒的な機能性を実現する」
  • B事業部が「顧客の求めることに寄り添うため、材料に価値をつけて提案できる」
  • C事業部が「グローバル供給力を活かして、材料のコスト競争力という価値をつけられる」

とうたっていたらどうでしょうか?

全ての事業部は「材料を活かして価値を高める力がある」「平凡なものを輝かせることができる」という共通の特徴で括ることができ、企業の“らしさ”に繋がります。

そしてさらに、これらの共通項を、社会課題解決のような事業の将来の方向性に結びつけたイメージ形成が望ましいでしょう。この場合、「社会の役に立っている」というイメージが事業方向性の実態とも結びつき、より強い共感を得られるはずです。

各事業部が示す特徴は変わらないが、事業部間の「共通項」を見出だせないと、企業全体としての一貫したイメージ形成につながらない。
各事業部が示す特徴は変わらないが、事業部間の「共通項」を見出だせないと、企業全体としての一貫したイメージ形成につながらない。

また、発信する際の「表現」にも一貫性ある指針が求められます。この指針は顧客体験を設計する際に必要なもので、あらゆる顧客接点を通じて発信する言語的要素、視覚的要素が、全て同じ方針で形成されていることを意味します。

例えば、ダイキンは一貫性ある指針に基づく顧客体験を構築するため、ブランドコアとして次の4つのイメージを言葉とムービーで表現し、そのイメージに合致するデザイン表現を徹底しています。

  1. Profundity:深奥にある
  2. Consideration:心を配る
  3. Exploration:新を探求する
  4. Passion:熱意を持つ

このうち、前半の2つがこれまでのダイキンを想起させる堅実でまじめなイメージを表現している一方で、後半の2つが将来に向けたイメージを表現しているといいます。この4つのイメージの組み合わせにより、過去からの繋がりを大切にしながら成長し、世界を牽引していくブランドにしていきたいというダイキンの意志が表現されています。

そして、この表現の徹底により、ウェブ、展示会、直接の営業との対話など、あらゆる顧客体験の接点・局面において、企業としての一貫したイメージを与えることができます。

2.企業組織全体での一体化

【事業部も本社・コーポレートも含めた企業組織一体となって、事業戦略に結び付けたブランディングを行うことで、得られた共感を事業成長に繋げる】

企業ブランディングは「実施して終わり」ではなく、はっきりと事業成長に結びつかなければなりません。

「一貫性ある情緒的価値」を発信して共感を得た後、それを事業成長に繋げるにはどうすれば良いでしょうか。筆者は、「企業組織全体で一体化を図ること」が大切と考えます。

企業の中でも、事業部側で「事業の実態」をつくり、本社・コーポレート側で「評判」をつくっていく(=ブランディング)といったように、役割が分かれていることが多いでしょう。

ブランディングの中身としては、「社会の特定の課題を解決している会社」や、「未来に欠かせない技術を持っている会社」など、抽象的なイメージを訴求しているケースが多いと思います。

これがもう少し事業に踏み込むケースでは、「未来に欠かせない技術を、どのような事業で実現しているか」といったように、実際の関連事業の概要と結びつけることができます。「事業の実態づくり」と「ブランディング」を、企業一体となって訴求するということです。

企業一体となったアプローチ

このように、企業ブランディングを、実際の事業の実態と結びつけることで、抽象的なイメージが具体化し、その企業の“らしさ”として認識され、共感されます。

さらに、あらゆる顧客接点でその「企業らしさ」が体験できるようになっていると、より共感は強いものとなります。

抽象的ではない実態を伴った強いイメージとして、購買の意思決定の後押しにも繋がり、事業成長にも繋がります。

「統合諸表」でパーパスと事業を結びつけてみませんか?


最後に、電通グループの「統合諸表」 というフレームワークをご紹介します。

統合諸表

これはパーパスを事業戦略と結びつけて「行動」に落とし込むためのフレームワークです。B2Cビジネスだけでなく、B2Bビジネスにおいても既に活用され始めています。

B2Bビジネスでどんなブランディングを行えばいいのかお悩みの方は、ぜひ電通コンサルティングまでお問い合わせください。

※電通コンサルティング ウェブサイトはこちら

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