二兎を追って三兎も得る!?「デジタルサービス開発×業務効率化」の話
2023/04/14
「モノ売り」から「コト売り」へ事業をシフトしていくため、デジタルサービスの開発に挑戦する企業が増えています。
デジタルサービス開発には、当然リソースが必要です。ここで多くの企業は、
既存業務の効率化→余剰リソースを確保→余剰リソースでデジタルサービスを開発
というやり方で進めようとしますが、狙い通りに進まないケースもあるのではないでしょうか?
本稿では、企業のDX支援を “外なる当事者”として行っている電通コンサルティングの秋枝克実が、「デジタルサービス開発」と「業務効率化」にまつわる一つのアプローチをご紹介します。
デジタルサービス開発は、一般的に既存事業の効率化から始まる
今やあらゆる企業がデジタルサービスの開発に取り組む時代になりつつあります。当然のことながら、新サービスの立ち上げにはヒト・カネ・モノといったリソースが必要となります。
このとき経営者の視点から考えてみると、投入するのは単純な「追加リソース」ではなく、既存業務の効率化を図り、そこから生まれる「余剰リソース」を活用する方が望ましいもの。実際に筆者が見てきた中では、このアプローチを採用する企業が多いと感じます。
経済産業省の「DXレポート2.2」という資料からも、まずは既存事業の効率化から取り組んでいる企業の実態が推測できます。
このレポートには、サービスの創造・革新の必要性を理解している企業は約7割であること。そして企業のデジタル投資が主に既存ビジネスの効率化を中心に振り向けられており、DX推進に投入されるリソースが企業の成長につながっていないことが指摘されています。
デジタルサービス実現に必要な「5つの能力」とは?
次に、デジタルサービス実現に必要な能力について考えてみます。
デジタルサービスがターゲット顧客に受け入れられ、使い続けてもらうためには、サービスに対する「顧客からのフィードバック」を常に収集し、継続的に改善していかなければなりません。
つまり、企業としてそのような業務プロセスを実施できている状態(=組織としてデジタルサービスを提供する能力がある状態)であることが求められます。
海外のデジタルトランスフォーメーション(DX)の事例研究から導き出されたフレームワークを提示し、日本語にも翻訳されている書籍「Designed for Digital: How to Architect Your Business for Sustained Success」によると、デジタルサービスを提供する企業に必要な能力として、次の5つが挙げられています。
1. Shared Customer Insights
顧客のニーズを知る能力
2.Operational Backbone
事業活動を効率的に実施するために標準化されたプロセス、データ、シームレスなシステム連携を実現する能力
3.Digital Platform
デジタルサービスを実現するためのソフトウエア開発能力
4.Accountability Framework
サービスを迅速に開発・改善するための組織構築能力
5.External Developer Platform
エコシステムとして外部パートナーと連携する能力
これらの能力を獲得する順番に正解はなく、またどの能力をどの程度備えておくべきかの基準があるわけではありません。同書内では、あくまでも各企業が自社の状況に合わせて能力を備え、発揮することが必要だと指摘されています。
さて、前述の「DXレポート2.2」を踏まえると、多くの企業が必要条件である「 2. Operational Backbone」に注力し、デジタルサービスを提供するために必要な能力の向上を図っている段階にとどまっている状態と考えられます。
業務効率化から取り組む場合の3つの問題点
既存業務の効率化から取り組むアプローチは、なぜうまくいかないのでしょうか?いくつかの現場を経験した私から見ると、主に3つの問題があると感じます。
問題1:効率化に時間を要し、デジタルサービス開発に着手できない
業務の効率化を達成するために、それなりの時間が必要です。ツールの導入なども絡む場合は、新たな業務フローが定着するまで、1年以上時間を要することもまれではありません。これでは本来の目的であるデジタルサービスの開発に着手できないでしょう。
問題2:期待したような成果が得られない可能性がある
効率化を進めるにあたって、大小問わず、「現在の業務」に影響が発生します。影響を受ける関係者に効率化の目的を具体的に説明できなければ、現場を納得させることができません。その結果、効率化が進まず、期待した効果を十分に得られない可能性があります。
問題3:業務を効率化するためにもリソースが必要
社内の人員だけで効率化に取り組む場合でも、人的リソースを割くことになります。もちろん外部に委託する場合はコストが発生します。例えば、効率化を実現するためにSaaSを利用すれば、効果の大小を問わず一定の費用が発生し続けます。
これらの問題を解消するために多くの時間と費用を割いて、今まさに取り組んでいる企業が多いでしょう。
企業の実態を示す情報として、「DXレポート2.2」に掲載されている「JUAS 企業IT動向調査報告書2022」のDX 推進の取組実施状況(図表 2-1-18 DX 推進の取組実施状況)によると「ビジネスプロセスの標準化や刷新」に対して、“具体的に取り組んでいるが成果はこれから”“具体的な取組を検討している”という回答を合わせると70.1%になり、現在進行形の企業が多いことがわかります。
「まずデジタルサービスの開発から始める」アプローチが有効
業務効率化から始めるアプローチが抱える課題に対する1つの解決策は、「最初」にデジタルサービス開発にある程度のリソースを投入することだと考えます。つまり、考え方の順番を逆にするということです。
作ったデジタルサービスの強化を旗印にすることで、業務の標準化・効率化が進み、コスト圧縮も可能になり、そこで初めて余剰リソースを得ることができるのです。
業務の標準化・効率化は、業務で生成されるデータの質を高めます。当然そのデータを用いるデジタルサービスが改善され、トップラインを伸ばすことにつながります。結果として良いサイクルが生まれ、企業全体として売上向上、業務効率化、コスト圧縮が進み、コト売りへのシフトを加速することができます。
仮にデジタルサービス開発から着手した場合、どのような問題が発生するか検討してみましょう。
問題1:追加コストがそのまま収益を圧迫する
業務効率化を図る場合でもリソースは必要ですが、このアプローチでは効率化による費用圧縮効果がないため、「新たに発生するコスト」がそのまま企業の収益を圧迫することになります。
問題2:既存事業の業務負荷が高まる
デジタルサービスの開発では試行錯誤を繰り返すため、その都度既存システムや業務に新たな依頼が発生することが考えられます。業務が効率化されていない状況では、各業務が複雑に絡んでおり、1つの業務見直しが関連する業務に波及し影響が大きくなります。
問題3:既存業務から得られるデータの質が低く、サービスの質に影響する
競争優位性を生み出す「企業固有のデータ」は、実際の業務から生み出されます。しかし、業務効率化(標準化)されていない場合、デジタルサービスに利用したいデータがそろわず、提供するサービスの質を高めることができません。
この3つの問題は業務改善により解決可能です。ただし、同じ業務改善であっても、「業務改善から始めるアプローチ」とは、改善対象に対する解像度が異なります。
「デジタルサービス開発から始めるアプローチ」の場合、デジタルサービスの“ありたき姿”から、バックキャスティングで改善対象を絞り込むことができるのです。これが、2つのアプローチの最大の差です。
“ありたき姿”が明確になっていることで、改善対象が絞り込まれ、かつ具体的な改善箇所に注力できます。
業務システムに対する改修が必要な場合においても同様です。業務システムの改修案件は先々までスケジュールが決まっていることが多く、要件や期待効果の検討が粗い状態では優先順位の調整は容易ではありません。
しかし、デジタルサービスの“ありたき姿”を実現するためであれば、業務システムに対する具体的な改修要望と、改修した場合の期待効果が明確に提示できます。結果、優先順位を調整でき、早期に業務システムが改修できます。
このように「デジタルサービス開発から始めるアプローチ」はデジタルサービス開発に早期に着手できるだけではなく、業務改善を促進することにつながります。
さらにデジタルサービス実現に必要な能力の1つであり、デジタルサービスを提供する企業の必要条件である「Operational Backbone」の能力を高めることにも寄与するのです。
「5つの能力」は、具体的なサービスが動いている方が伸びやすい!
デジタルサービス開発に着手する前後で、能力向上に対する取り組みやすさに差があるか考えてみましょう。先程の5つの能力に対して整理すると、以下のようにまとめることができます。
「Operational Backbone」以外の4つの能力についても、「具体的なサービス」を基点にすることで検討が進み、必要な能力の向上が実現しやすくなると言えます。
デジタルサービス開発を始めるためには何から着手すればいいか?
今回ご提案した「デジタルサービス開発から始めるアプローチ」。
最初にデジタルサービス自体を立ち上げることにより、業務の標準化・効率化も進んで余剰リソースを生み出し、さらにデジタルサービス実現に必要な能力も向上するという、まさに一兎を追って二兎ならぬ、二兎を追って三兎を得るアプローチだと考えます。
企業が実際にこのアプローチを採用するとして、何から着手すればいいのでしょうか。
まずはデジタルサービスの企画・立案をするために、顧客のどんな課題を解決するのか、その課題自体の探索から始める必要があります。そして自社がその課題に取り組むべき理由や、事業として成立させるためのマネタイズの方法など、戦略を立て企画書に落とし込みます。
ただし、企画・立案を実施できる人材・スキルが不足している企業が多いことも報告されています。「企業IT動向調査報告書2022」の情報では、55%以上の企業が人材・スキル・戦略の不足を課題として挙げています。
また、“DXやデジタルビジネスの企画・立案・推進”のナレッジやスキルが重要だと回答しながらも習得済みは17.4%であり、多くの企業が課題と認識している状況が把握できます。
われわれ電通コンサルティングは、デジタルサービスの立ち上げを検討したい企業に、探索フェーズから一緒に取り組み、事業構想書を作成することはもちろん、実際にサービスをリリースし、グロースさせるところまで伴走いたします。もしご興味が湧きましたらぜひお声がけください。
電通コンサルティング
https://www.dentsuconsulting.com/