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SXSW 2023リポート/まだ名もなき新しい感覚No.3

Hugtics/自分で自分を抱きしめる

2023/05/31

さまざまな業界から企業やクリエイターが集う世界最大級のテクノロジーと音楽・映画の祭典「SXSW 2023」(サウス・バイ・サウスウエスト 2023)が、3月、米テキサス州で開催されました。電通と電通クリエーティブXは、インタラクティブ部門「Creative Industries Expo」(クリエイティブ・インダストリーズ・エキスポ)に参加。「Unnamed Sensations」(まだ名もなき新しい感覚)をコンセプトに創造した最先端の体験を、3つのプロトタイプ作品として出展しました。最先端テクノロジーとクリエイティビティの融合が可能にした「触覚」「食感」「嗅覚」といった感覚の拡張について、3回にわたりリポートします。

第3回は、ベスト型ハグ体験テクノロジー「Hugtics」(ハグティクス)。「自分で自分を抱きしめる」感覚とは? プロジェクトチームを代表して、電通の大瀧篤氏に聞きました。

ベスト型ハグ体験テクノロジー「Hugtics」(ハグティクス)
 

より幸せに生きていくための新しい提案

──Hugtics(ハグティクス)とは?

「Hug」(ハグ:抱きしめる)+「Haptics」(︎ハプティクス:触覚を擬似的に再現する技術)の造語です。ハグに特化した新しい触覚を提案していく姿勢を込めました。人間の幸福度を高める行為であるハグを、テクノロジーの力で再発明し、メンタルヘルス領域をはじめ多様な社会課題解決に貢献することを目指しています。SXSW 2023では、その第一歩として “自分で自分を抱きしめる”新しいハグ体験や他者のハグを転送する体験型デモンストレーションを行いました。

世界的にみて医療の発達により人類の平均寿命は伸びています。その一方で、精神面での課題を抱える人も増加の一途をたどっている状況でもあります。その社会課題に対して、私たちができることはないだろうか。より幸せに生きていくための新しい提案を考える中で生まれたのがHugticsです。

 

──どのようなチーム編成でSXSWに挑みましたか?

全体の企画・プロデュースを、電通「Motion Data Lab」のプロジェクトメンバーが担いました。Motion Data Labは、世の中のあらゆるモーションデータを集約し、伝統文化の継承やスポーツ領域、予防医学など、多様な領域での課題解決に応用していくプロジェクトです。また、Hugticsを実現するためのコア・テクノロジー面をご担当いただくパートナーとして、研究者の髙橋 宣裕さんにご参加いただきました。さらに、映像、ウェブ、インナーベスト制作などをピラミッドフィルムクアドラが、脳波測定を電通サイエンスジャムが、それぞれ担いました。

体験型デモンストレーションなので、企画書上の議論にとどまりすぎると絵に描いた餅になってしまいます。私たちは早々に実験をしては課題を見つけ、改善し続けることを大事にプロジェクトを推進してきました。

ハグを計測して、人工筋肉にフィードバック

──新しいハグ体験を、どのようなテクノロジーで実現しましたか?

鍵となるのは、人工筋肉が編み込まれたウエア型デバイスです。先ほど述べたように髙橋さんの研究・技術を用いたもので、このウエアを着ながら圧力センサーを付けたトルソー(胴体部分のディスプレーツール)を抱きしめると、ハグのデータが計測され、人工筋肉にフィードバックされることで、自分で自分を抱きしめるという未知の体験を実現しています。

さらに、電通サイエンスジャムの「感性アナライザ」を用いて脳波をセンシングし、ハグ時の幸福度に関連する複数の感情変化を計測。その効果を独自のアルゴリズムで可視化し、ベスト型ウエアに内蔵したLEDの色に反映し、直感的に効果がわかる仕様です。

また、ベストと人工筋肉をセットにすることで人工筋肉からのフィードバックをより面の圧力に変え、ハグの感覚に近づけました。人工筋肉のみだとひも状の締め付け感が強いことが課題だと思っていましたので、いろいろな素材やその厚さなどを検証のうえ、ベストを精査していきました。

人工筋肉を編み込んだベストを着用して人型センサーをハグす ると、自分のハグの感触がリアルタイムで自分の身体へフィードバックされる
人工筋肉を編み込んだベストを着用して人型センサーをハグすると、自分のハグの感触がリアルタイムで自分の体へフィードバックされる

──現地での反響はいかがでしたか?

来場者は好奇心旺盛な方が多く、体験するだけではなく、コメントをくれたり、質問をしてくれたり、ディスカッションに発展することが多かったです。多様な反応がありましたが、全てポジティブな反応でした。「It’s cool!」だったり、良い意味で「So crazy!」と満面の笑みで言っていただいたり。さらに、「この技術で、お母さんのハグを記録に残したい」「亡くなった父とのハグを思い出して幸せな気持ちになった」「身寄りのない子どもたちに、ハグを届けてあげたい」といったコメントも寄せられました。自分を抱きしめるという行為が、そのように発展していくことが興味深く、今後のヒントになりそうに思いました。

私たちは現場のオペレーションで精一杯だったため、周りを見る余裕がなかったのですが、他社の方やお客さまからは、「電通ブースが展示会場内で最も多くの人が集まっていた」「電通はアイデアが良いうえに、見せ方も上手だった」と言っていただき、素直にうれしく思いました。電通としてのSXSW出展の経験値に加えて、コミュニケーションを生業(なりわい)にしている私たちだからこその強みが出せたのではないでしょうか。

時間と空間を超え、大切な人とのハグを再現

──今後の展望やHugitcsの可能性について教えてください。

技術面では、よりハグのクオリティや体験の新しさを追求していきたいと思っています。より人間を感じる温かみあるハグにしていく方向性もありますし、人間にはあり得ないようなハグをエンターテインメントの方向性として開発することも考えています。前者はよりメンタルヘルスの効果を高めることにつながると思いますし、後者はエンタメ利用の可能性が広がると思います。

ビジネス面では、企業とコラボレーションすることで、Hugitcs体験者の母数を増やしていきたいですね。体験型デモンストレーションの宿命として、プロモーション動画だけではなかなか良さを伝えきれないですから。まずは現状のプロトタイプを用いることでコラボレーションの初速を上げつつ、中長期的にはニーズに合わせてHugticsをオーダーメードで発展させ、より広く社会実装していくことを考えています。

Hugticsの可能性は、時間と空間を超えて広がります。Hugticsはハグのデータを常に保管しておけるので、ハグの「データプラットフォーム」を作ることができます。アイドルやスポーツ選手など著名人のハグもあれば、家族やパートナーなど大切な人のハグなど。それらを時間や場所を超えて残しておき、いつでも再現することができます。ハグのデータで医療、孤独対策、メタバースなど、さまざまな分野の課題に挑戦し、アップデートしていきたいと思っています。

Hugticsのブース
Hugticsのブース。米テキサス州・オースティンコンベンションセンター、3月12〜15日(現地時間)

──今後SXSWに参加する人や見に行く人に一言お願いします。

現地での多様なディスカッションとフィードバックが一番の財産になったと感じています。出展者同士のつながりもできました。新しい出会いと発見があるので、興味がある方は、ぜひトライしていただけたらと思います。

また、プロジェクトメーキングという観点でも良いベンチマークになります。SXSW出展を目標に据えることで、チームに推進力が生まれます。世界中の人々が訪れる場所に恥ずかしいものを持っていくわけにはいきませんから。社内コンペに勝ち抜くことで、自分たちのアイデアのクオリティに自信を持てますし、その過程で多様なアドバイスをいただけるので、アイデアとプロジェクトが磨かれる良さもあると感じました。

アイデアと熱量があれば、思いを形にしたり、目標を実現できると思います。出展を検討されている方は、ぜひチャンスをつかんでいただけたらと思います。


スタッフリスト:

〈企画/ディレクション:電通〉
本多 集:Creative Director/Art Director
大瀧 篤:Creative Director/Creative Technologist/Project leader 
吉岡 謙一:Planner/Creative Producer
重政 直人:Planner/Copywriter
藤 大夢:Creative Technologist
 
〈開発 / Hugtics スーパーバイザー〉
髙橋 宣裕:Researcher

〈制作:ピラミッドフィルムクアドラ〉
阿部達也(ピラミッドフィルムクアドラ):Planner/Film Director
林宏介(ピラミッドフィルムクアドラ): Producer  
渡辺慎也:Stylist
鵜飼陽平(ピラミッドフィルムクアドラ):Engineer
清水龍輝、朝倉圭(ピラミッドフィルムクアドラ):Project Manager
 
〈脳波測定:電通サイエンスジャム〉
荻野 幹人(電通サイエンスジャム):Chief Scientist

 

ウェブサイト:
https://motiondatalab.com/hugtics/

 

 

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