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「Beyond カンファレンス」レポートNo.1

社会を変える「コレクティブインパクト」の担い手は誰か?~予算とノウハウで勝る大企業、目的とビジョンに集う草の根運動の差~

2023/07/07

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社会課題解決をその方針に高々と掲げ、本業さながらその領域に取り組む企業が増えている。そもそも企業はCSRやCSVといった社会貢献的な活動にいそしんできたが、それはある種の“強者からの施し”と受け止められることもしばしばあっただろう。しかしその在り方は大きく変わってきており、最近はそれらの組織がCSO(Chief Sustainability Officer)の下に置かれ、とても重視されるケースも増えている。

企業が社会課題に本気で踏み込んでいけば、状況は劇的に変わるのだろうか?そんな疑問に解を見いだせそうな、少し変わったカンファレンスに参加したので紹介してみたい。

<目次>
社会課題解決にリアルに挑む参加者の熱気
プロセスよりも成果、目的を遂げるための「コレクティブインパクト」
▼「次世代はマイノリティー」の衝撃
企業と草の根、インパクトを創り出すのはどっち?

社会課題解決にリアルに挑む参加者の熱気

今回参加したのは2023年5月下旬に開催された「第2回Beyond カンファレンス2023」。場所はなんと京都駅からバスで80分ほどかかる、小学校の跡地に建てられた京都里山SDGsラボ「ことす」という施設だ。対面形式で100人ほどの参加者募集だったが、最終的には2日間で延べ180人超が参加するという盛況なものとなった。主催はand Beyond(アンド ビヨンド)カンパニー(事務局 NPO法人ETIC.)で、共催に京都市、リコーなど約20団体で構成する「京都超SDGsコンソーシアム」が名を連ねた。このカンファレンスは、企業や大学、NPOが業界や事業規模の違いを超えて連携・協働し、社会課題解決への取り組みを加速するため、その出会いの場となるよう設定され、2022年4月に鎌倉にて第1回が開催された。

自然豊かな里山エリアの元小学校を改築した施設で開催されたカンファレンス
自然豊かな里山エリアの元小学校を改築した施設で開催されたカンファレンス

多くの参加者を募ろうというカンファレンスではなく、まさにディープな思いを相互に伝え合い、そこに共鳴したり、スキルを発見するためのネットワーキングパーティーというのが実態に近いだろう。今回は第2回ということで、既に第1回の集まりを起点に多様な社会課題解決に取り組む複数のチームが成立しており、幾つかの具体的な活動がここでも経過報告された。

イベントのサブタイトルである「舞台に上がって、ええじゃないか!」は、まさに学園祭をコンセプトとして計画されたというが、参加者同士の触れ合いは和気あいあいとしており、その柔らかな雰囲気の半面、話していることが“異様にガチ”という感覚がとても不思議なものだった。社会課題を語るにはとかく眉間にしわ寄せて、けんけんごうごうのやりとりになりがち。時に恐怖感も抱きそうなものだが、こんなに笑顔で活発に話していることが、自分にとってはとても新鮮だった。しかし、この“緩やかなつながり感”がこのカンファレンスの最大の特徴なのだということを、この後の各セッションを聴き、また参加者と会話する中で発見することになる。

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京都駅からバスで80分という距離をいとわず、多くの人が参加した


プロセスよりも成果、目的を遂げるための「コレクティブインパクト」

まずオープニングセッションに登壇したのは、スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー日本版編集長で同志社大学大学院客員教授の中嶋愛氏。コラボレーションのリテラシーを高めていくことが自身のミッションだと語った。確かにこれは大事なことである。先にカンファレンスの目的にネットワーク強化もあると述べたが、「つながりを創る」「仲間を見つける」というのは活動を一人の思いから実行レベルに高めていく上で極めて重要なポイントであるが、そこに踏み出せない心理的ハードルが存在する。誰でも思い立ってから、すぐに関連のNPOの門をたたいてみよう、と行動に移すのは勇気がいるはずだ。

よくスタートアップ企業のトップの思いが周囲に波及し共感し、それを実現するために集い、仲間となり、といったステップを成功事例として耳にする。しかし、実際にはそれぞれの意思はそう簡単には融和せず、「この指止まれ」で集った人が多ければ多いほど、それらの思いが平行線をたどることもままある。各所でソーシャルイノベーションの取り組みが立ち上がりはするものの、その実行性が低いのは、そのような正しいコラボレーションができていないことが課題だと中嶋氏は言う。

同じく登壇した本間奏氏はNPO法人フローレンスに所属しつつ、一般社団法人こども宅食応援団を立ち上げた当事者だ。三菱商事出身で、自身の子育て経験から親子に関する社会課題解決に取り組みたいと2019年に転職したという。これまでに全国50カ所以上のこども宅食の立ち上げや運営相談、また厚労省と連携した全国勉強会などを実施している。

本間氏はこの事業の取り組みにおいて、三つのポイントを示した。まず一つ目は、活動の最終目的として「『こども宅食』が不要になる未来を目指す」ということ。ついつい「日々の食事の提供を欠かさぬようにするにはどうすればいいのか」というところばかりに気持ちが行き、現状の活動を維持することだけに注力してしまうと、そもそもの課題解決にはたどり着かず、その状況を継続、助長してしまうことになりかねないと本間氏は指摘する。

宅食の仕組み自体は、現在は有用だが、本来的にはこれらのサービスそのものが不要になることが問題解決なのだということを常に頭の片隅に置きつつ、まるで異なる角度からのアプローチがないものかを模索しているという。目先の手段の維持自体が、いつの間にか目的にすり替わってしまっているというのはどの取り組みでもあり得るようだ。活動をリードする存在としては必ずや俯瞰(ふかん)した現状評価を、常日頃から留意すべきという指摘がなされた。

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左:スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー日本版編集長で同志社大学大学院客員教授の中嶋愛氏。
右:NPO法人フローレンス/一般社団法人こども宅食応援団の本間奏氏。

二つ目のポイントとして挙げられたのが、「助けてくれる人がワラワラいる状態」にするということ。これも先のコラボレーションの拡大、仲間づくりの重要性にひも付いた話だが、命綱が1本ではあまりに心もとないというところか。

直接関連することではないかもしれないが、今回のネットワーキングにおいて印象深かった言葉が「集まれば、必ずやその人には役割が見つかるはず。自分にはなにもできることがないと考えないでほしい」というもの。参画するからには自分なりの役割を見つけて、というのが普通の感覚で、実際に自身、自社の強みをここに充当して役立てたい、という具体的なもくろみを持って参加している人も多い。しかし具体的な目標・テーマが見つからずとも「なにか社会に役立つ活動に参加したい」「まずは関わっていきたい」という意思を持つ人々も多いはずだ。その受け皿として、このBeyondカンファレンスはまさに最適だし、新たな出会いで「そんな参画の仕方があったのか!」という化学反応も期待できると感じられた。

「助けてくれる人がワラワラいる状態」というのも、一つの役割を果たす人が多数控えているということだけでなく、取り組みの最中でなにか困ったことが発生すれば、そこを手当てしてくれる何者かがまたサポートを申し出てくれるということではなかろうか。

パッチを当てる、というと後手後手でつぎはぎだらけのものに聞こえてしまうかもしれないが、得てして新領域でのサービス提供などは次から次へと問題発生するものだろう。そこを誰かしらがタイムリーにシームレスにパッチを当ててくれるのだとしたら、それはある意味理想ではなかろうか。そんな多彩な人々が同じ目的で伴走してくれているとすれば、こんなに心強いことはないだろう。まさにこれが今回のカンファレンスの裏テーマでもある「コレクティブインパクト」の理想と言えるのかもしれない。

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最後の三つ目のポイントが「ある日突然『自分が当事者になる』」ということを肝に銘じたいということ。誰でも一瞬で不幸な境遇に陥ってしまうことがある。その可能性を理解しつつ、誰かのためにやっている、ではなく、自分を含めて「誰一人、取り残さない」社会を創っていくという思いでやらねば、「与える側と与えられる側」といった変なヒエラルキーが残ってしまう。そもそもが、皆が平等に生きられる環境を整えることを目指すのならば、その環境を整備するのは個々人含めて社会全体の責務なのだということを再認識すべきなのだと感じた。

「次世代はマイノリティー」の衝撃

先の中嶋氏は、これらのポイントをしっかりと共有していくことが重要だとした。特に三つ目のキーワードは世界のソーシャルイノベーションの現場で問われていることとまるで同じだという。誰もがいつでもその状態に陥るということを理解することが問題解決には重要であり、そのときに自身がなにを求めるのかを想像し、それに取り組むことが本来の課題解決に近づく道である。貧困家庭の救済というテーマにおいて、困窮世帯に物資を届けることが目的ではダメで、それを無くすにはなにが必要かも同時に考えていくべきだと中嶋氏は述べる。そして、このような貧困家庭の問題に象徴されるように、隠れた、あるいは見ないふりをされている社会課題は数多くある。まさに日本にそんな貧困なんて存在しないだろう、という誤解が彼らの存在を曖昧にしてしまっていると指摘する。

本間氏の紹介によると、日本でも7人に1人の子どもが貧困状態にあり、経済困窮だけでなく、支援がきちんと届かず社会的に孤立した状態にあるのだとか。行政支援のみならず、周辺の人との関わり自体が少なくなることで、そういったサポートとつながる機会さえもが減ってしまう。世の中全般で「ソーシャルキャピタル(=社会や地域における人々の信頼関係、社会との結びつき)」が弱まってしまっており、それは親子関係だけではなく引きこもりや単身世帯、地域共同体の減少などさまざまなレイヤーで問題となっているそうだ。

困窮世帯100万のうち、3割がSOSを発信できない状況であればそれは相当の数と言える。ならばこちらから出張って(アウトリーチ)いかねば、と始めたのが、本間氏が従事する宅食支援なのだという。これはシステムの構築・提供のみならず、全国の地域の子ども・親子が当たり前に「支えつつ・支えられる」状態を「文化」として定着させたいという思いでやっていると本間氏は述べる。

2020年のコロナ禍では、こども宅食応援団も宅食活動をなかなかできない状態になったというが、そんな中、厚労省などがここに注力しようということもあり、一気に展開できたのが幸運だったと本間氏。ここでもタイムリーに行政の大型参画があり、その後、各企業もマスクを提供するなどの「コレクティブインパクト」が生まれているのだ。5年目の現在は100団体とそのノウハウを共有し、1万世帯に伴走しているという。

そんな経験もあり、現在は各団体と行政などをつなぐ立場として活動するポジションが、その軸足として定着してきたようだ。各団体においても団体職員のみならず、さまざまなボランティアメンバーがチームに加わり、活動されており、ここでも仲間づくりは草の根的に広がっているようだ。また食事を届ける際、個宅訪問するとその家庭の中の事情もおのずと見えてくるため、それは見守りという視点でも非常に有効な情報ともなる。セッションの最後に紹介された「一番厳しい人を見捨てる社会は、誰もが見捨てられる社会につながっている」という言葉は、実に心に突き刺さるものだった。

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中嶋氏は、「次世代はまさにマイノリティー。世代の構成比率からすれば、その声は社会に届かない。それにより諦めムードがまん延する」と述べた。これからは世代を超え、組織を超え、利害を超えることが必要だし、時間軸を超えるとすれば先の行政のような関与も重要だという。

草の根で立ち上がる無数のインパクトがどんどんスケールしていくようなエコシステムが大切で、それをどう拡大再生産していけば良いのか。中嶋氏の調査によれば米国のNPOの成長が著しいのは、マネジメントの良さやビジョンがしっかりしていることもあるが、実は周囲に助けてくれる強力なパートナーが存在することがその一番の要因だという。中嶋氏自身は編集者だが、同様にエコシステムで動いているようなものだと自身を重ねた。世の中に役立つコンテンツを持っている人を集め、チームで本を作っているのは、ある種のコレクティブインパクト的な状況だと述べる。

企業と草の根、インパクトを創り出すのはどっち?

最後にその他のセッションにも参加して感じたことを記しつつ、自身の疑問でもある「大企業と個々人の草の根的活動の果たしてどちらがインパクト創出には有用なのか?」を考えてみたい。

再掲するが、「コレクティブインパクト」とは、特定の社会課題について、行政や企業、NPO、基金、市民などが組織を超えて協力し、解決に向けて取り組むこと。この概念をベースとすれば、先にも述べたように、その取り組みのそれぞれの役割に最適なスキル・ノウハウを提供できる存在が参画することが重要だ。そして、その参画への後押しになるのが“共感”であり、すなわち人はビジネスプランではなく思いやビジョンに対し集まるということを理解する必要がある。この思いやビジョンに人は引かれ、ついたぐり寄せられてしまう。

本カンファレンスで頻発するキーワードに「越境」というものがあったが、あらゆる垣根を超えた人の思いが、そしてつながりが、社会課題解決を促進する大きな原動力になるのは間違いない。そしてそれは個々の人の思いがつながることがベースであり、その意味でこれまで言われていたような「草の根運動」の実行力は、一昔前のそれとは桁違いに強くなっているのを感じた。一方で、初期段階から企業が参画するには微細な領域もあるようだ。そこをきちんと発見し、顕在化させ、社会に問うていく、そのスタンスは草の根だからこそできることでもあるだろう。

ただし、企業がそのスキル・ノウハウで大きなサポートを提供してくれることももちろん大歓迎なのだという話は各所で頻出した。先の宅食事業では、食事を個々の家庭に継続的に提供するという仕組みが重要で、それには膨大な人手が必要であり、大手運輸企業の西濃運輸がシステムサポートをしているという。単純に考えると多くの人工(にんく)がそろえばなんとかそれらは実現するのだが、そこに利用できる、より効率的なシステムやテクノロジーがあれば、それを当てはめれば良い。

大企業が参画すると、事業として成立するのかという指標が持ち込まれ、ビジョンと利益相反することも起きてくるだろう。しかし先の西濃運輸いわく、「自社の事業領域で、身の丈に合ったサポートをしっかり提供することが大切。背伸びをしても責任が果たせるとは限らない。無理せず、継続することが重要」とのことだった。事業としての発展を追い求めるのは別のフィールドでできる、しかし自社の持つアセットでこれからの社会になにができるのか、彼らはその可能性を見いだそうとしているのではないか。

これらの面から見ると、社会課題解決においては大企業の参画も有効である。それに引けを取らない個々人の草の根運動という双方の良さをたたえつつ、両側面からのアプローチに期待したいということになろうか。これからの「越境」による「コレクティブインパクト」で大きなうねりが巻き起こることに期待し、またそこに参加したいと思わせる集まりであった。

どのセッションも登壇者からの一方的な報告・提言でなく、参加者と意見を交わす双方向スタイル。また参加者同士が意見を交わす機会が度々設定され、その場での化学反応を楽しめる仕組みとなっている。
どのセッションも登壇者からの一方的な報告・提言でなく、参加者と意見を交わす双方向スタイル。また参加者同士が意見を交わす機会が度々設定され、その場での化学反応を楽しめる仕組みとなっている。
グループに分かれて実際のネットワーキングや、アイデアの発散を体験できる。所属企業の出自や属性などを超えたユニークなブレスト会議の発言はひとときも途切れない熱さだった。
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ゴミゼロイベントを目指したガイドラインに沿ってエコな運営が心掛けられた。
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