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キャッシュレス・インファレンス~調査からひもとく国内キャッシュレスの今と未来No.4

キャッシュレス利用が「増えた」店舗の現実、課題とニーズ

2023/09/14

電通で決済領域のマーケティング戦略支援を行うプロジェクトチーム「電通キャッシュレス・プロジェクト」は、2022年12月、直近1年間の日常生活において、どのようにキャッシュレスを利用したかについて、インターネットによる「生活者のキャッシュレス意識調査」を実施しました。(調査概要はこちら

本連載では、同調査結果を通じて、日本でキャッシュレスを推進するためのヒントを探っていきます。

前回は、小売店や飲食店など、キャッシュレス決済を受け付ける側(以下、「マーチャント」)の特徴や導入状況についてお伝えしました。今回は、マーチャント側のキャッシュレス導入後の効果と、実際の利用状況の様子を探ると共に、未導入店が抱える課題などについて考えていきます。

参考連載キャッシュレス・ジャパン・サーベイ2021:キャッシュレスが牽引するDX
<目次>

導入効果のトップは、「つり銭を用意する手間が減った」

非接触決済で伸びているのは、カードよりモバイル

非接触決済の清潔さ、安全性もメリットの上位に

直近1年間で、キャッシュレス決済利用は増えた

マーチャントが支持するキャッシュレス推進策とは

中小の未導入店舗のコスト課題に向き合うことが、
キャッシュレス促進には不可欠


 

導入効果のトップは、「つり銭を用意する手間が減った」

キャッシュレス決済導入済みのマーチャントに対し、キャッシュレス決済の効果について聞いてみました。

キャッシュレス連載2023#4_図版01

1 位になったのは、「つり銭を用意する手間が減った」(25.8%)でした。小売業(30.7%)のほうが、飲食業(21.9%)より多く、業種では、コンビニ、喫茶店、衣類・身の回り品販売が平均より多いという結果になりました。

マーチャントにとって、つり銭、特に小銭の用意は、手間と時間がかかります。加えて、かつては紙幣から小銭への両替、あるいは小銭から紙幣への両替は無料でしたが、今では多くの金融機関において手数料を負担しなくてはならない状況になっていることもあって、効果と感じる結果になったのかもしれません。

2位は、「レジ作業の時間を短縮できた」(20.1%)でした。これを実感している業種として、コンビニでは76.0%という高い回答率となりました。キャッシュレスによりレジのスピードを上げることで、レジ待ち時間を短縮、顧客満足度を高め、結果として売上がアップするというような好循環のポテンシャルもあるようです。

3位は、「衛生的に支払いを受け付けられるようになった」(16.4%)、4位は、「スタッフのつり銭ミスが減った」(15.9%)、5位は、「客層が広がった」(12.9%)という結果でした。

非接触決済で伸びているのは、カードよりモバイル

キャッシュレス連載2023#4_図版02

近年、店舗側の非接触決済を受け付ける環境は整いつつありますが、実際にはどのくらい使われているのでしょうか。調査期間の直近3カ月で、3種類の非接触決済の頻度が増えたかどうかを聞いてみました。

3種類のうち、「とても増えている」に「やや増えている」という回答を加え、利用が増えたという回答が最も多かったのはモバイルQRコード決済(34.8%)、次いでモバイル非接触決済(23.3%)、非接触クレジットカード決済(19.1%)の順でした。

この結果から、決済行動もカードという顧客インターフェ―スから、モバイルへシフトしていることがうかがえます。
消費者は、常に携帯しているモバイルのほうが使いやすいと感じているのでしょう。

非接触決済の清潔さ、安全性もメリットの上位に

マーチャントは、非接触決済の導入効果について、どう考えているのでしょうか。コロナパンデミック以降、世界では非接触決済の利用が急伸しました。その一番の理由として、ウイルス感染のリスクがないということが挙げられました。

日本の中小事業者は、非接触決済のメリットをどう感じているのでしょうか。非接触決済を導入しているマーチャントに聞いてみました。

キャッシュレス連載2023#4_図版03

トップとなったのは、「おつりの用意が少なくなる」(50.2%)でした。これは、キャッシュレス全般に言えるメリットのため、非接触決済に限ったことではありません。

ただし、回答者の半数が、「非接触決済の導入効果」としてこの回答を選んだということは、実際に、現金ではおつりが必要になる決済が、非接触決済に代わることにより、おつりの用意が少なくて済むようになったことの効果を実感しているのでしょう。

2位は、「お客様の清潔さ、安全性が上がる」(28.2%)でした。日本の中小事業者も、世界と同様、非接触決済による顧客の安全性の向上に関心を寄せていると言えそうです。加えて、第4位には、「従業員の清潔さ、安全性があがる」(23.4%)が選ばれています。コロナ禍を経て、非接触決済は、顧客と従業員の両方にとって、清潔で安全な決済方法だという認識をもつようになっているという証拠ではないでしょうか。

3位は、「決済処理が早いので、レジ作業時間の短縮に繋がる」(26.4%)でした。また、「レジの待ち時間を短縮したり、密を避けられたりする」(19.2%)も5位に選ばれています。店舗にとっても消費者にとっても、レジの作業時間=レジの待ち時間の短縮は大きなメリットになるということでしょう。

直近1年間で、キャッシュレス決済利用は増えた

キャッシュレス決済を導入している中小事業者に対し、直近1年間に、売上に占めるキャッシュレス決済比率が実際に増えたかどうかを聞いてみました。

キャッシュレス連載2023#4_図版04

「かなり増えた」というマーチャントは、9.5%でした。業種では、コンビニ、飲食店、居酒屋・レストランが平均より高い結果となりました。「増えた」と回答したマーチャントは、43.7%。「かなり増えた」を加えると、53.2% が「増加した」と感じていることになります。

では、直近1カ月前の売上に占めるキャッシュレスの比率は、実際にどれくらいの割合になっているのでしょうか。キャッシュレス決済比率は、ぐんと伸びて、現金を凌駕(りょうが)しているという結果なのでしょうか。

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結果は、予想とは異なっていました。実際の売上に占めるキャッシュレス決済比率は、30.4%。前回(2021年12月実施)の調査では、26.7%だったため、この1 年で、わずか3.7%のみの増加ということになります。

キャッシュレス決済の利用が「増えた」感じると回答したマーチャントは53.2%もいたにもかかわらず、実際の売上に占めるキャッシュレス比率は3.7%の増加にとどまるというギャップが存在しています。

ここまでの調査結果を振り返ると、マーチャントは「つり銭の用意が少なくなる」「顧客や従業員の清潔さと安全性確保」「レジの生産性向上」などキャッシュレスのメリットを実感しつつあります。ただし、いまだ「キャッシュレスによる売上向上」というところまでは進展できていない、というのが実情だということかもしれません。

マーチャントが支持するキャッシュレス推進策とは

その解決策を探るため、売上に占めるキャッシュレス決済比率を増やすには、どうすればいいかを聞いてみました。

キャッシュレス連載2023#4_図版06

一番多かったのは、「ポスターやアナウンスでキャッシュレスを推奨する」(34.0%)という回答でした。この施策に賛同した業種は、コンビニ、各種食料・飲料品販売、喫茶店、ドラッグストア、酒類販売、書籍・文具販売、鮮魚・食肉・野菜・果実販売です。

次いで、「店員が積極的に声がけをし、キャッシュレスを推奨する」(32.1%)でした。チェックアウトのタイミングで、キャッシュレス決済を促そうという施策です。この施策を推したのは、百貨店・スーパー、コンビニ、喫茶店、鮮魚・食肉・野菜・果実販売でした。

3位は、「キャッシュレス客はステータスがあるというイメージを訴求」(13.8%)でした。第2回で、「キャッシュレスリッチ」(キャッシュレスを頻繁に使う人々)は所得もリッチであることが分かりました。金融サービスの利用もスマートです。キャッシュレス利用時に何かしら特別な待遇を用意することができれば、キャッシュレス決済を利用する可能性があります。

4位は、「キャッシュレス専用の支払いの列を設置する」(10.2%)でした。「決済処理が早いので、レジ作業時間の短縮に繋がる」「レジの待ち時間を短縮したり、密を避けられたりする」といったキャッシュレス導入メリットが挙げられていたように、このような施策でレジ時間を短縮させ、客席の回転率や店舗の稼働率を高め、売上向上に成功している事例もあるようです。

中小の未導入店舗のコスト課題に向き合うことが、キャッシュレス促進には不可欠

最後に、キャッシュレス決済の未導入店に対し、どのようなことがキャッシュレス決済によって解決されれば、導入するか聞いた結果を見ていきたいと思います。

キャッシュレス連載2023#4_図版07

群を抜いて多かったのは、「決済手数料が安く(無料に)なる」で、51.0%でした。手数料を安くすれば、半数は導入する可能性がある、ということです。

2番目に多かったのは、「初期投資(端末やシステムなど)が安く(無料に)なる」(27.4%)でした。モバイルQRコード決済のマーチャント提示型決済方式は、QRコードをレジ横に貼るだけで済みます。つまり初期投資はゼロです。モバイルQRコード決済事業者であれば、すぐ応えられるニーズのため、実現率は高いと言えそうです。

3位にはユニークな回答があがりました。「キャッシュレスを導入すると税金が安くなる」(25.8%)です。韓国でキャッシュレスが進んだのは、政府の税金施策の影響も大きく、その効果は実証済みです。国が税率を優遇したとしても、取扱高が増えれば税収は増えます。このように、上位3位までは、コスト要因の課題が占めました。なお4位は、「お客様のニーズが高まる」(21.6%)、5位は、「売上向上が見込める」(20.0%)でした。

キャッシュレスを受け付ける中小事業者の店舗では、まずはコスト要因における課題が切実であるということが、今回の結果でもあらためてわかりました。コスト削減、顧客志向、トップライン(売上高)向上という、日本の中小店舗の課題解決に向き合うことが、日本のキャッシュレスのさらなる促進には不可欠であると言えます。

【調査概要】
タイトル :「生活者のキャッシュレス意識調査」
調査手法 :インターネット調査
調査時期 :2022年12月12日~15日
調査エリア:全国
調査対象 :20~79歳 男女 店舗経営者 610名
調査主体 :電通 電通キャッシュレス・プロジェクト
調査会社 :電通マクロミルインサイト

 

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