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dentsu × Riot Games conference 2023レポートNo.1

なぜ、Z世代はeスポーツに熱狂するのか

2023/10/04

今、eスポーツは世界的な盛り上がりをみせています。市場規模、オーディエンス数は右肩上がりに増えており、日本においてもその盛り上がりは顕著です。2023年6月にはeスポーツの代表的なゲームである「VALORANT」の世界大会が日本で初めて開催され、大盛況を収めました。

その熱狂の中心となっているのはZ世代。

本記事では、日本におけるeスポーツの現況から、Z世代はなぜeスポーツに熱狂するのか、Z世代に向けた企業マーケティングの活用にいたるまで、eスポーツのリーディングカンパニーであるライアットゲームズの日本法人 社長/CEO 藤本恭史氏とゲーム・eスポーツなどのデジタルコンテンツ関連事業を数多く手掛けるLunaTone Inc.のCEO Baro Hyun(ヒョン・バロ)氏が、徹底解説します。

※この記事は6月8日に行われたdentsu×Riot Games conferenceで行われたセッションをもとに編集し、記事化しています。
 
ライアットゲームズとは……
世界でもっともプレーヤーに焦点を当てたゲームの開発、パブリッシング、プレーヤーサポートの提供を目指し、2006年にアメリカで創業。世界中でもっとも多くプレーされているPCゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」をはじめ、対戦型の「VALORANT」などのeスポーツを代表するゲームの開発・運営をする。世界大会の開催なども行っており、eスポーツの爆発的な成長の主要なけん引役となっている。

 


世界で成長を続けるeスポーツ市場

ヒョン・バロ:eスポーツがどれだけ拡大しているか、その現況から簡単に説明させてください。

世界のeスポーツ市場は2022年で13.8億ドル。21年は11.4億ドルで、この5年間は平均で13.4%もの成長率で拡大しています。2025年にはさらに拡大し18.7億ドルの市場となることが予想されています。オーディエンス数も同様に拡大しており、2020年時点で4億人を突破。2025年には7億人目前まで成長する見込みです。

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藤本:ライアットゲームズが開催した「リーグ・オブ・レジェンド」の2021年世界大会では、最高同時視聴者数が全世界で7390万人でした。個別のディスプレーベースなので、パブリックビューイングのように観戦している人を合わせると、1億人は超えていると予想されます。

また、この大会ではルイ・ヴィトン、マスターカード、レッドブルといった大手企業がスポンサーとしてサポートしてくださいました。スポンサーシップは     単純にロゴを露出するだけではありません。例えば、ルイ・ヴィトンでは優勝カップの箱をモノグラムのオリジナルのものを制作したり、ゲームのキャラクタースキン     にモノグラムデザインのものを入れ込んだりと、eスポーツの特性を生かして、ファンとエンゲージメントを深められるような、一歩踏み込んだスポンサーシップを行っています。

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「世界最高峰のスキルと知識を持ったプロプレーヤーのプレーによって生まれる感動やエンターテインメントを体感していただきたい、プレーヤー還元の意味を込めて開催している」と語る藤本氏。(写真は2019 Worlds Championship)

日本は「eスポーツ2.0」へ。エンターテインメント化する転換期

藤本:日本に目を向けてみるとどうでしょうか。

日本におけるeスポーツは今まさに進化の時を迎えており、「eスポーツ2.0」のはじまりと言えると思います。

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「日本のeスポーツはこの2年で大きく変わっていて、今が日本のeスポーツシーンにおけるターニングポイントと言えます」と語る藤本氏。

藤本:世界的にeスポーツが注目されはじめたのは1990年代ですが、日本で注目を浴びたのはそこから遅れ、2018年に流行語大賞に選ばれた時ではないでしょうか。当時は、日本にプロプレーヤーがいること、世界ではこんな大きな大会が開催されていて、何千万という賞金が出ている、というような話題がほとんどだったと思います。

これらは言うならば主催者側の視点だと思います。当時の日本で語られる文脈は、観客を楽しませるエンターテインメントとして確立していた世界の文脈と大きなギャップがありました。

日本のeスポーツを変化させるターニングポイントとなったのは2022年。eスポーツを代表するタイトルのひとつ、「VALORANT」というFPS(※1)のチーム対戦型eスポーツの世界大会で、ZETA DIVISIONという日本チームが世界3位になるという偉業を達成したことです。世界3位になるというのは、サッカーでいうとワールドカップで決勝リーグに進み、さらに勝ち進んだのと同じくらいの偉業だ、と言ったら伝わりやすいでしょうか。

※1= FPSファーストパーソン・シューティングゲーム。シューティングゲームの分類の一つで、操作するキャラクター本人の視点でゲーム中の世界・空間を移動し、武器や素手などを用いて戦うことを特徴とする。


この時に何が起こったかというと、メディアよりもSNSでの盛り上がりがすごく、ZETA DIVISIONがTwitter(編集注:当時の名称)のグローバルトレンドで1位になりました。世間に認識されているよりも多くのオーディエンスが応援していて、この偉業に盛り上がり、世界で1位になるほどのムーブメントをつくったということだと思います。

ヒョン・バロ:日本の盛り上がりは視聴数字にも表れていて、私たちが調べたところでは、日本の配信は午前5時の開始だったにもかかわらず、全世界の同時視聴者数の約4割が日本でした。

藤本:この盛り上がりを受けて、われわれ提供側としてもできることを考え、「VALORANT」の国内大会の決勝戦を、さいたまスーパーアリーナで実施しました。2日間で来場者は2万6千人以上にのぼりました。これは音楽ライブや他のスポーツイベントと比較しても遜色のない動員数だと思います。会場にはタイトルをプレーしていない人も見に来るまでになっており、このイベントの成功は、日本のeスポーツ市場の歴史を塗り替えたと思っています。

そして、2023年の6月に「VALORANT」の世界大会が、初めて日本で開催されます。これは本当に、天変地異が起こったぐらいのすごいことです。大勢のファンの方にとっても、待ち望んだことで、まさに歴史が変わる瞬間だと思います。(編集部追記:「VALORANT」の世界大会、「VCT 2023 Masters Tokyo」は12日間で総来場者数3万7000人超を記録した)

日本のeスポーツは、主催者側の視点で語られていた2018年ごろと比べ、2022~2023年の2年間で大きく変わりました。プレーヤーは世界を舞台に活躍し、そして世界と同じように、多くのオーディエンスが楽しむエンターテインメントとして花開きはじめていると言えるでしょう。

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Z世代が熱狂する鍵は、“界隈”が一つになる「体験の共感と共有」

藤本:では、そのオーディエンスは誰なのか。実に70%以上の方がZ世代です。eスポーツは、なぜ、Z世代に支持されているのでしょうか。

プレーヤー視点のお話からまずすると、プレーヤー自身がZ世代の方が主体です。そのため、Z世代からみて親近感がわきやすく、応援しやすいというのがあります。ちなみに、プレーヤーは男性が多いのですが、会場に足を運んでくださる観客は女性の方も多くいらっしゃいます。うちわを作成したり、いわゆる“推し”文化がeスポーツにも生まれています。これは海外のeスポーツにはない、日本独自の応援文化と言えると思います。

そして、Z世代の特徴からみても、eスポーツは親和性が高いと言えます。Z世代の一般的な特徴の一つが、情報収集はSNSや動画共有サービスで行うこと。ゲームととても親和性の高いコミュニケーションチャンネルを通じて、情報にアクセスしています。YouTubeで一番みられている動画はゲームチャンネルと言われていることからも、その親和性がうかがえます。

また、興味があるかないかで、対象へのエンゲージメントのレベルに段違いの差があると言われています。先ほど申し上げた“推し”文化からも、興味があることへのエンゲージメントの深さがわかります。彼らが「自分はここが好きだ」という所属意識をもった領域は、よく“界隈”と表現されます。この“界隈”という捉え方は非常に重要で、Z世代は“界隈”にはとても深く関心を持ち、コミュニケーションを積極的に取りますし、そこにいる“推し”には時間もお金も投資を惜しみません。最近では“界隈消費”(※2)という言葉も生まれています。

※2=界隈消費とはZ世代の消費行動のこと。画一的なトレンドではなく、「〇〇の界隈でははやっている」のような、自分が所属するコミュニティで共有できる、もしくはそのコミュニティで強烈に支持されるものを好み、価値を見いだすような消費行動のこと。


eスポーツはプレーヤーやチームだけでなく、eスポーツの配信者、キャスターも“推し”として応援されています。日本におけるeスポーツの盛り上がりは、ファン、プレーヤー、チーム、配信者、キャスターなども、一つの“界隈”となってつくりあげられたと言えます。その“界隈”で大会を通して、リアル・バーチャルにかかわらず「体験の共感と共有」をすることで、Z世代からの熱狂を得たのではないでしょうか。

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企業はZ世代の“界隈”に入れるか

藤本:マーケティング上では、Z世代はリーチしづらく、捉えどころのない世代だと言われることがあります。確かに、Z世代にはステレオタイプな単一の共通価値を提供しても響きません。それよりも、その企業が “界隈”に存在しているのかが重要です。企業が自分の興味のある“界隈”にいる企業として捉えられれば、自分の仲間としてエンゲージメントが深まっていくと考えます。

一つ例をあげると、昨年のクリスマスに行ったオフラインイベント「Riot Games ONE」で、ユナイテッドアローズとコラボレーションし、オリジナルのアパレル製品をつくりました。ユナイテッドアローズは客層が高齢化しており、Z世代へのアプローチが難しいという課題をお持ちでしたが、いざ、オリジナルのアパレル製品を物販したところ、ほぼ全ての商品が即完売となりました。自分たちがいる“界隈”の中にあるものと判断されて、行動につながったのだと思います。

ヒョン・バロ:調査データでもその傾向をみることができます。eスポーツを観戦したZ世代の中で、約8割の方が「スポンサー商品に向けてアクションを取る」という結果がでています。もう一つ面白い特徴として、Z世代は「スポンサー商品を周囲に推奨する」傾向が他の世代よりも高いという結果もでています。自分の好きな“界隈”のものだと判断されると、他者への推奨という行動にもつながるということがわかります。

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eスポーツはコンテンツ産業として成長する

ヒョン・バロ:eスポーツは企業のマーケティング活動としての有用性だけでなく、一つのコンテンツ産業として国からも注目されています。

経済産業省が発表しているレポート(※3)によると、チケットやグッズといったスポーツの中心となる側面はもちろん、地域と連携した大会など地域活性の側面や、プレーヤー育成といった育成面、クールジャパンの国際展開といった社会的な意義など、多面的な掛け算で成長する可能性が語られています。冒頭にあった世界的な市場拡大だけでなく、日本においても、今後の市場の拡大が見込まれると思います。

※3=経済産業省のレポート「日本のeスポーツの発展にむけて~更なる市場成長、社会的意義の観点から~」https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/030486.pdf


また、多くのオーディエンスが楽しむエンターテインメントとなりつつある今、世界と同じように、さまざまなスポンサー企業が関わっていくことで、eスポーツはさらに成長していくと考えます。

藤本:そして、何より、Z世代を中心としたファンの皆さんのパワーです。世界大会を日本で開催することを発表した瞬間の会場の一体感、盛り上がりがとても印象に残っています。ファン、配信者、キャスター、“界隈”の全ての人が一つになって日本のeスポーツを応援するナショナリズムみたいなものが見えた瞬間だったと思います。このような体験や価値の共有が強い、強い原動力になって、日本のeスポーツを次のステージへと押し上げていくのだと思います。

画像をクリックすると動画をご覧いただけます。
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2022年12月に「VALORANT」の世界大会が2023年に日本で行われることをサプライズ発表した時の会場の様子。プレーヤー・配信者・オーディエンスが一体となってeスポーツを盛り上げていることが伝わってくる。https://www.youtube.com/watch?v=MepKV7DRdNM

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