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dentsu × Riot Games conference 2023レポートNo.2

eスポーツを活用した企業マーケティング、キーワードは“界隈”

2023/10/11

日本におけるeスポーツの現況や可能性について語る本連載。2回目は、eスポーツを活用した企業マーケティングを中心にお届けします。

eスポーツのコンサルティングを数多く手掛けるLunaTone Inc.のCEO、Baro Hyun(ヒョン・バロ)氏をMCに、パネルゲストとして、eスポーツのリーディングカンパニーであるライアットゲームズのDerek Winder氏、電通でeスポーツマーケティングに携わる中野義将氏、eスポーツのゲームキャスターである岸大河氏も交えながら、意見が交わされました。

※この記事は6月8日に行われたdentsu×Riot Games conferenceのパネルディスカッションをもとに編集し、記事化しています。
 
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グローバルでは進んでいる、eスポーツを活用した企業マーケティング

ヒョン・バロ:今日はよろしくお願いします。まずは、自己紹介とご自身のミッションを教えてください。

Derek Winder(以下、デレック):ライアットゲームズAPACにおけるDirector of Commercial Partnershipsを務めています。私たちのミッションは、ファンに素晴らしいものを提供し続けることです。そして、ファン・プレーヤー・チームなどeスポーツを取り巻くコミュニティを一番に考え、さらに、そのコミュニティと企業やブランドを結び付けていくこと。それを“Authenticity”と表現しています。それが、私たちライアットゲームズのミッションです。

中野:電通のコンテンツビジネス・デザイン・センターに所属しています。この部署はeスポーツの推進、広告主のeスポーツ領域のマーケティング展開のサポート、電通グループのグローバルネットワークにおけるゲーム領域の事例の共有など、ゲーム業界の貢献につながることをミッションにしています。

ヒョン・バロ:ありがとうございます。議題によっては、今回のカンファレンスの司会進行をされている、eスポーツの元トッププレーヤーで、現在はゲームキャスターである岸 大河さんにもコメントをいただきながら、パネルディスカッションを進めていきたいと思います。

まずは、eスポーツのスポンサーアクティベーションについてです。グローバルではどのような事例があるか、教えてください。

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デレック:あるラグジュアリージュエリーブランドでは、eスポーツにおいて欠かせないトロフィを、オリジナルで制作いただきました。さらに、そのトロフィをブランドのニューヨークにあるフラッグシップストアにて飾っていただき、ファンが直接トロフィを見る機会をつくってくださいました。これは、eスポーツのファンにとっても、とてもうれしいことだったと思います。

また、ある別のラグジュアリーファッションブランドは、トロフィを入れるトロフィボックスをオリジナルで制作したり、われわれとの相互コラボレーションの中でゲームの中のキャラクターに、ブランドにインスパイアを受けたオリジナルのスキン(服や装備)を実装させたり、逆に、ゲームにインスパイアを受けたブランドがラグジュアリーアパレルやバッグをつくって販売したりもしました。いずれのアイテムも希少性の高い、なかなかお目にかかれないレアアイテムになっています。

他のブランドとも、さまざまなコラボレーションを実施させていただいており、eスポーツ世界大会のチャンピオンシップのステージの制作や、パートナー商品のパッケージ上でIPコラボレーションを施したものを店頭販売する、といった展開なども行われています。

ヒョン・バロ:ありがとうございます。eスポーツファンとして、非常にワクワクする事例がたくさんありますね。日本企業がスポンサーになる場合、「VALORANT」が対象になってくると思います。「VALORANT」はスポンサーにとってどのような魅力があるかを教えてください。

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「VALORANT」は日本を中心に大きな盛り上がりをみせているeスポーツを代表するタイトルのひとつ。5対5のチーム対戦型のシューティングゲームで本格的な銃撃戦が特徴。2022年に行われた国際大会では、日本国内での同時接続者数が過去最多の41万人を記録。決勝戦の同時接続者数は世界で推定100万人以上に上った。同年6月に行われた国内大会の決勝戦はさいたまスーパーアリーナで開催。総来場者数が2日間で2万6000人を突破し、日本国内のeスポーツ史上最多動員記録を達成した。

デレック:例えば、あるブランドでは会場でのプレイスメントだけでなく、学生向けの最大級の国際大会をブランド冠で実施しています。毎年、非常に盛り上がっており、プレーヤー・ファン・ブランドが共鳴するとても素晴らしい取り組みになっています。

他にも、ファッションブランドが実況者に上質なスーツやジャケットを仕立てて放送上で着てもらう取り組みをしたり、フードデリバリー企業などはファンとインフルエンサーを巻き込んで、「VALORANT」の国際大会に招待する取り組みを行ったりもしています。これはユーザー拡大を狙った面白い取り組みでした。

つまり、単にロゴの掲出や商品プレイスメントをするだけでなく、私たちがとても大切にしている“Authenticity=eスポーツを取り巻くコミュニティを一番に考える、そしてそのコミュニティと企業やブランドを結び付けていくこと”が行われています。そしてそれは、企業やブランドに合ったさまざまな形で行うことができており、柔軟性がある、ということです。

ヒョン・バロ:企業によって、課題やブランド特性が違うと思いますが、それに合わせてさまざまな手法でスポンサーアクティベーションを実施することができるということですね。

岸さんのご意見を伺いたいのですが、ゲームキャスターというお立場から、スポンサー企業やブランドはどのようなアクティベーションがされるとよいでしょうか。

岸:うまくeスポーツとマッチさせているブランドがたくさんあると思います。

観戦者や視聴者からすると大会には試合を見にきているので、はやく試合が見たいと思うんですね。だから、よくあるような試合前に時間をかけてスポンサー紹介をする、ということではないやり方がマッチすると思います。

そもそも、ゲームが好きな方が集まっているので、インターバル中にゲーミング要素をいれた面白い取り組みをしたり、先ほどデレックさんがお話しされたような、服を仕立てたファッションブランドのように、ファンに寄り添った、eスポーツらしい溶け込み方をしたほうが、より効果が出ると思います。

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日本はAPACの未来を担う市場となる

ヒョン・バロ:次の質問ですが、世界のいろいろな市場をみているデレックさんにとって、今の日本市場はどのようにみえていますでしょうか。

デレック:APACの中でも最も急成長しており、将来を担う市場だと思います。ライアットゲームズの藤本さんとヒョン・バロさんのお話にもありましたが、日本は今、急成長を遂げています。この成長をどうやって加速できるか、ライアットゲームズとしてパートナーの電通とともに挑戦していきたいと思っています。

ヒョン・バロ:特に、日本の「VALORANT」の盛り上がりは目を見張るものがありますよね。eスポーツのプロプレーヤーでもあった岸さんからみて、「VALORANT」の魅力はどのようなところでしょうか。

岸:たくさんの魅力があって、なかなかお伝えするのが難しいんですが……。まず、プレーヤー視点でいうと敵を倒した時のサウンドが武器やレベルによって変わる設計となっている点です。プレイしていても非常に高揚しますし、キャスターとしても視聴者を沸かせる実況がしやすいです。また、リーグ戦など試合数が多く、プレイしていけば将来こんなプレーヤーになっていきたいと思える、先の見えるシステムになっているのも魅力です。

さらに、「VALORANT」はキャラクターの作りこみがすごく凝っていると思います。国や地域に合わせた、Z世代が共感しやすいストーリーやキャラクター設定に作りこまれていて、そこがZ世代の方に支持される一因になっていると思います。例えば、同じ英語でも地域によって訛(なま)りが全然違ったりするんですよね。そういう、丁寧に作りこまれているところは「VALORANT」らしいなと思います。

ヒョン・バロ:なるほど、「VALORANT」そのものにZ世代に響きやすい特徴があるんですね。

企業マーケティングのキーワードは“界隈”と、“Authenticity”

ヒョン・バロ:では次に、中野さんに伺います。eスポーツのマーケティングに携わっている中野さんからみて、eスポーツマーケティングにおいて、最も大事だと思うことを教えてください。

中野:前回、藤本社長がお話しされた“界隈 (かいわい)”という言葉がキーワードだと思います。“界隈”とは、Z世代の方が、自分の興味のある帰属意識を持った領域のことで、その領域に関わるさまざまな人も含めたひとつのコミュニティとして捉えた言葉です。eスポーツでいうと、プレーヤー・チーム・配信者・キャスター・ファン、全てが一つの“界隈”となって、今のeスポーツを盛り上げている、というお話がありました。

この“界隈”に対する理解が、とても重要だと考えます。すでにeスポーツには非常に多くのオーディエンスがいますので、ただ広告を行うだけで、リーチという意味では十分だと思います。ですが、ちゃんとオーディエンスにメッセージが伝わるか、というのはまた別の話です。“界隈”を理解して、正しくコミュニケーションをするということが一番大事だと思います。

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中野:もう一つ、非常に重要な考え方が“Authenticity”です。先ほどデレックさんがお話しされていたと思います。“界隈”を理解して、そのコミュニティを一番に考える。そして、企業自体が、コミュニティと一緒に成長していきたいという姿勢を伝えることが重要です。

彼らには、表面だけ繕っても見透かされてしまうんですよね。うそっぽいと思われてしまう。変に取り繕うことはせずに、“界隈”を理解し、“界隈”に対してベストなことをする姿勢をもって、スポンサー企業の取り組み方や見せ方を考えていくことが重要です。それが彼らにストレートに響くコミュニケーションだと思います。

ヒョン・バロ:もう少し深掘りして聞かせてください。 eスポーツマーケティングにおいて電通は、どのような貢献ができるのでしょうか?

中野:まさにその “界隈”と企業をブリッジする係だと思っています。電通グループには広告コミュニケーションのプロがたくさんいます。その中には、eスポーツの会場で涙を流し、グッズを着用して仕事をしているようなファンが実際にいます。そんな広告コミュニケーションのプロでもあり、同時に、eスポーツのファンでもある私たちが、“界隈”を理解し、企業のニーズとブリッジさせていく。そのために最適なチームを編成し、最も効果的・効率的なプランを描き、実行していく。それが、私たち電通グループが貢献できることだと思います。

こういったチームを、日本はもちろんのこと、グローバルにもつくることができます。日本においては、「ゲームプロジェクト」という組織があります。グループ会社横断で100人を超える、戦略に長(た)けた人材が集まった組織です。積み重ねてきたゲーム領域の知見をもったプランニングが可能です。

グローバルにおいては「電通ゲーミング」という組織があります。電通グループには世界で約6万人の社員が、約140カ国にいます。そのため日本はもちろん、アメリカ、イギリス、シンガポールなど、いろいろな国のコミュニケーションプランニングが可能です。そんな各国におけるコミュニケーションのプロで、かつ、ゲーム好きな人材が約700人集まっています。企業ニーズや“界隈”に合わせて最適なチームでサポートすることが可能です。

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ヒョン・バロ:ありがとうございます。最後に一言ずつお願いします。

デレック:皆さま、本日は本当にありがとうございました。eスポーツに興味がわいた方がたくさんいると思います。ぜひ、実際にその目でご覧になってみてください。

中野:本日のカンファレンスを通して、ファンにとって何がベストかを考える姿勢が、いかに重要かを改めて思いました。

ライアットゲームズが、「プレーヤーファーストであること、最高の体験をファンに届けること」をミッションにされていると改めて伺って、eスポーツをけん引されているリーディングカンパニーが、まず、そのような姿勢で取り組まれているんだな、と。eスポーツのマーケティングは難しいです。Z世代に届けることも一筋縄ではいきません。だからこそ、その姿勢が重要で、それがeスポーツなんだな、と改めて感じました。

本日はありがとうございました!


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株式会社電通 コンテンツビジネス・デザイン・センター eスポーツ事業部
        金原、松岡
        Email:e-sports@dentsu.co.jp

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