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性の話をもっと当たり前に。By Femtech and BEYOND.No.2

鉄職人とつくる!女性の鉄分不足を解消する新発想のフェムテック

2024/01/29

フェムテックを、女性のみならず社会全体に関係するものとして捉え、さまざまな取り組みを推進する電通の社内横断組織「Femtech and BEYOND.」(フェムテックアンドビヨンド)。

この連載では、本組織の取り組みを通して、フェムテックの潮流の変化やそこに関わる意義などを多彩な企業・メディアなどと意見を交わしながら考えていきます。

第2回は、女性の鉄分不足問題を起点に、Femtech and BEYOND.チームと鉄フライパンなどの製造販売を手掛ける藤田金属がタッグを組み、プロダクト開発を実現させた「Fe:プロジェクト」をクローズアップ。

このプロジェクトから誕生したプロダクトの、第一弾の「元気じゃない日の、フライパン」、第二弾の「今日を元気にするお味噌汁パン」ともに、藤田金属が主体となってクラウドファンディングを利用して購入者を募ると、目標額を大幅に超える結果に。大きな反響を呼びました。

「元気じゃない日の、フライパン」
第一弾の「元気じゃない日の、フライパン」。5/31(31ぶんの5)という数字は、女性のライフサイクルと、元気じゃない日を象徴的に表したプロダクトネーム
「今日を元気にするお味噌汁パン」
第二弾の「今日を元気にするお味噌汁パン」

なぜ、女性の鉄分不足に着目し、どのような経緯で商品開発に至ったのか……。プロダクト開発を担当した藤田金属 代表取締役の藤田盛一郎氏と、「Femtech and BEYOND.」チームからプロデューサーとして携わった電通関西の青山真也氏、アートディレクターの古川純也氏が、発想の原点や取り組みの背景を振り返ります。

藤田氏、青山氏、古川氏
<目次>
多くの現代女性は、慢性的な鉄分不足に悩まされている!?

試作を繰り返して、鉄のフライパンなのに“軽い”を実現!

エビデンスとともに鉄分摂取量を明記したことで、大きな反響に!

暮らしにフィットするプロダクトで女性の毎日をサポート

多くの現代女性は、慢性的な鉄分不足に悩まされている!?

青山:そもそもFe:プロジェクトが誕生したきっかけは、Femtech and BEYOND.チームのチャットの会話の中で、あるメンバーが女性の鉄分不足についてぽろっとつぶやいたことが発端でした。

鉄分は健康を維持する上で欠かせない栄養素ですが、月経がある女性は、男性に比べて慢性的な鉄分不足に陥りやすいといわれています。女性の鉄分不足は日本のみならず世界的に見ても深刻な問題ではあるのですが、他国では小麦粉などの食品に鉄を添加するなど、国レベルでさまざまな対策が取られているようです。それに比べて、日本では鉄分不足に対する問題意識が低く、あまり対策が取られていないのが現状です。

古川:とくに、現代の女性は昔の女性に比べて、出産の有無や回数の減少など、ライフプランも大きく変化し、生涯生理回数が増加しています。そういったことも踏まえ、国の発表などでも月経期間に鉄分を積極的に取ることを推奨しているのですが、ただ、その取り方にはあまり言及されていないんですよね。必要なのはわかっていても、その摂取の仕方がわからない。そういったところから、私たちでこの課題を解決できるものを作れないかと議論が始まりました。

ヒントになったのが、日本の伝統工芸品でもある鉄瓶です。鉄瓶でお湯を沸かすと鉄分が溶け出すため、さゆやこの湯で入れたお茶を飲むことで鉄分摂取ができます。これはエビデンスもあります。そこから、鉄のフライパンや鍋を使うことで、日頃から手軽に鉄が摂取できるのが、やはりいいのではないかと改めて考え始めたのです。

青山:ただ、鉄の鍋やフライパンというと、重くて、扱いが難しいというイメージがあり、日常的に使うにはハードルが高いという課題がありました。そこで、お手入れも簡単で使いやすい鉄のフライパンや鍋があればいいのではないかと。実際にそういう商品を作れるメーカーを探し、名前が挙がったのが大阪・八尾(やお)市にある藤田金属さんでした。

藤田:正直、最初にご提案をいただいた時は驚きましたね。それまで私は「フェムテック」という言葉すら知りませんでしたから。

青山:そうですよね。ちょうどご提案に伺った2021年頃は、女性誌などでフェムテックの特集が組まれたりすることはあったかもしれませんが、一般的にはまだ浸透していなかったと思います。そんな中で突然、フェムテックを切り口に女性の健康課題を解決するフライパンや鍋を作りたいって言われても驚きますよね(笑)。私も、その時の藤田さんの驚きの反応はとても印象に残っています。

藤田:そんな切り口があるんだと、本当にビックリしたんです。従来、鉄のフライパンや鍋のうたい文句は耐久性を語るのが一般的で、調理に関しては、高温で焼いたり、炒めたりすることができるため、シャキシャキの野菜炒めができるとか、チャーハンがパラパラに仕上がるといった言葉でアピールすることがほとんどでした。なので、私たちのような職人では、思いつかない発想で面白いなと感じたんです。

また、私たちにとっても、これまでとは違うジャンルのお客さまに鉄のフライパンや鍋の魅力を知ってもらえるチャンスになると感じ、「すぐに進めましょう」と開発に着手しました。

試作を繰り返して、鉄のフライパンなのに“軽い”を実現!

青山:まずは第一弾の鉄のフライパンの制作からスタートしましたが、最初に古川が完成形に近いスケッチを描いてくれたこともあり、プロジェクトメンバーの中でも「こういうものが作りたい」とゴールが明確になった気がします。

古川:フェムテックのプロダクトというと、一般的にどうしても女性らしさを意識した色やデザインになりがちです。しかし、今回に関しては、もちろん女性に使ってほしいというのは第一にありつつ、料理を作るのは、女性だけではないという思いがありました。旦那さんやパートナーさんにも料理を作ってほしいなと。なので、女性向けや男性向けというように限定したデザインにならないように、誰が使っても魅力的だと感じられるようなプロダクトを目指しました。

そのため、藤田さんにいろいろな型を見せてもらいながら、使いやすさはもちろん、持ち手の素材やデザインなど細部にもこだわり、試行錯誤して作っていきましたね。

スケッチ

藤田:そうですね。フライパンの開発の部分でいうと、まずこだわったのは重さです。従来の鉄のフライパンは重いというデメリットがあったので、極限まで鉄板を薄くしていきました。ただ、薄くし過ぎると耐久性が落ちるため、火にかけた時に変形の原因にもなります。何度もテストを繰り返し、極限まで薄くしながらも、耐久性も担保できるところを探っていきました。その結果、ベストの厚さは1mmに決定。鉄製なのに694gと、一般的なアルミのフライパンと同じくらいの重さまで減らしていくことができました。鉄製ならではのお手入れの大変さという部分は、当社オリジナルの加工技術を施し、さびにくさやこびりつきにくさを実現しています。

また、古川さんもおっしゃるように持ち手もこだわった部分です。六角形にしたことで、手になじみやすくなり、持ちやすさも追求できたと思います。

持ち手

青山:あと、私たちのプロダクト開発にかける想いを体現する言葉として「元気じゃない日の、フライパン」というコピーが生まれたのも面白かったですね。これはチームのメンバーから出てきた言葉でしたが、そのまま商品のネーミングにもなっています。

古川:そうですね。疲れていて元気がない時でも、重さやお手入れのことを気にせずに気軽に鉄製のフライパンを使えて、しかも鉄分も補給できる、そういったコンセプトをわかりやすく伝えられたと思います。

エビデンスとともに鉄分摂取量を明記したことで、大きな反響に!

古川:第二弾に関しては、もともと、フライパンの次は鍋を作りたいというのは決めていたんですよね。鍋もフライパン同様に日常的に使ってほしいという思いがある中で、「日本人が毎日口にするものって何だろう?」とチーム内で議論した時に、たどり着いたのがお味噌汁でした。「やっぱり日本人はお味噌汁だよね」と。そういったいきさつを経て、お味噌汁パンの開発が始まりました。

藤田:お味噌汁パンに関しては、容量をどれくらいにするか、注ぎ口はつけるかなど、そういった部分も議論しましたね。

打ち合わせ

古川:そうですね。家族の健康も考えて、料理をしてもらうことを考えると4人分は作れる容量が必要だよねとか、鍋のふたは必要かなど、私たちも実際に使ってテストしながら、使いやすさを追求していきましたね。

藤田:そしてやっぱり第二弾のお味噌汁パンに関しては、鉄分摂取のエビデンスをしっかり取ることができたことも大きかったと思います。一般的なガラス鍋とお味噌汁パンで湯に味噌を溶いて加熱した時の鉄分量を比較したところ、ガラス鍋の場合は1.0mgだったのに対し、お味噌汁パンだと40mgもあることがわかりました。お味噌汁パンだと39mgも多く鉄分が摂取できるのです。これは、私も驚きの結果でした。

エビデンス

青山:専門的な調査機関で分析してもらって、科学的にも鉄分摂取ができると証明してもらったことは、プロモーションをする上で大きな強みになりました。

第一弾のフライパン、第二弾のお味噌汁パンともに、一般販売に先駆けて購入型クラウドファンディングのサイトであるMakuakeを利用して購入者を募られましたが、お味噌汁パンでは、プロモーション時にエビデンスを出したことで購入結果や反響にも大きな差が出たんですよね。

藤田:第一弾のフライパンも目標金額は達成したので成功ではあるのですが、第二弾のお味噌汁パンは、目標金額15万円だったのに対し、実際の購入金額は734万120円と目標達成率4893%という結果に。掲載期間が第二弾の方が長かったので、一概に比較はできない部分もありますが、第一弾のフライパンの応援購入者が104人で、第二弾のお味噌汁パンは1138人と大きく伸びています。

ここまで大きな差が出たのは、やっぱりエビデンスがあるかないかという部分は大きく関係していると思います。

暮らしにフィットするプロダクトで女性の毎日をサポート

青山:今回、フェムテックという新しい切り口でプロダクトの開発、販売を行ったわけですが、実際の購入者の反応などはいかがですか?

藤田:最初、このお話をいただいた時は、その斬新な発想に驚きつつ、少し半信半疑ではあったんです(笑)。でも、実際にMakuakeでの購入者のコメントでも「鉄欠乏性貧血だが鉄剤が合わず悩んでいたので、こういう商品はうれしい」「毎日の味噌汁で鉄分が取れるのはありがたい」といった声がたくさんありました。

また、2023年の6月にFemtech Japanという展示会があり、フライパンとお味噌汁パンを出展したのですが、その時も女性のお客さまから好評で、その場で購入してくださる方も多くいらっしゃいました。それだけ、女性は鉄分不足や貧血に悩んでいる方が多いんだなと実感しましたね。

実際に購入者データ(第二弾お味噌汁パン)を見ても、半数以上を40代、50代の女性が占めていました。

青山:この反響の大きさは、フェムテックという言葉が徐々に世の中に浸透してきたことも追い風になっているかもしれませんね。

藤田:今回、第一弾、第二弾ともに大きな反響があり、現在は各販売先からもお声がけをいただいている状態です。なので、今後さらにフライパン、お味噌汁パンに続くラインアップを開発して、シリーズ化したいと思っています。鉄製品でフェムテックという切り口の可能性をさらに広げていきたいですね。

また、当社では2024年1月にパリとドイツの展示会に参加します。ここでも、Fe:プロジェクトのフライパンとお味噌汁パンを展示する予定なので、海外の方々にどんな感じで受け入れられるのかその反響を楽しみにしています。

古川:日本よりも鉄分不足の問題意識が高い海外での反響はとても気になりますね。

Fe:プロジェクトとしては、日常で手軽に使えるものというコンセプトは変わらず、さゆ専用のものなど、女性のライフスタイルをサポートするプロダクト開発にいろいろ挑戦していけたらと考えています。

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