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電通×クリエイティブ×テクノロジー。dentsu prototyping hubの挑戦!No.7

AIの真価は安い・速いではなく「不可能を可能にする」こと

2024/10/04

電通のクリエーティブ・テクノロジストたちが主催する、電通グループ向けワークショップ「dentsu prototyping hub」、第5回のテーマは「生成AI」。

デジタルハリウッド大学大学院/AICU Inc.の白井暁彦先生を講師に招き、高度な画像生成を学ぶ全4回のワークショップを実施しました。

ワークショップ概要はこちら
 

白井先生と共にワークショップを振り返りつつ、生成AIの未来と可能性について語り合います。(dentsu prototyping hub 斧 涼之介)

<目次>
運や勘に頼らない。人の意思を込めた「クリエイティブAI」

「つくる人をつくる」を新たなミッションにした理由

生成AIは広告クリエイティブに何をもたらすのか?

クリエイターや権利者が幸せになる仕組みづくりを

運や勘に頼らない。人の意思を込めた「クリエイティブAI」

左から斧 涼之介氏、白井暁彦氏。対談取材はリモートで実施した
左から斧 涼之介氏、白井暁彦氏。対談取材はリモートで実施した

斧:4日間のワークショップを終えて、率直な感想をお聞かせください。

白井:「やったぜ」というのと「すごい!」っていう、2つですね。私は今回実施したような、生成AIを用いたクリエイティブを「クリエイティブAI」と呼んでいます。クラウドやリモートを活用しつつ、175人という人数のプロフェッショナルに対して、同時にクリエイティブAIを教えたというのは、もしかしたら世界でも類を見ない難度の仕事だったと思うんですよ。

私は大学で講義をやっていますし、いろいろな講演もしているので、大勢を相手にお話をすることはあるんですが、今回のように、いろんなレベルの人に実際に手を動かしてもらい、クリエイティブなことをしてもらう取り組みは初めてでした。

斧:今回は「生成AIにちょっと触ってみましょう」というレベルを超えて、ちゃんと上級者レベルになりましょうという難度設定にしました。有料サービスの登録が必要となるなど、参加条件が厳しかったにも関わらず、想定をはるかに超える参加者数で驚きました。

白井:ほとんどの参加者が、途中脱落せず最後まで参加し、作品をつくったというのが本当に良かったですね。出来上がった作品も面白いものばかりです。4日間、かなり濃縮してやったつもりですが、このスピード感でついてこられた方々はすごいと思いますね。

もちろん、サポートも入念に設計しました。当社のティーチングアシスタントもチャット上で待機し、ツールの使い方を丁寧に教えました。

斧:        電通では、クライアントに企画を提案したり、プランナーの頭の中のイメージをチーム内に共有するためのプロトタイピングに生成AIを使うシーンは増えてきたんですが、アウトプットを自分の思い通りに細かく調整したりといった、「その先」のレベルを知らない人が多いのは課題でした。だから、誰も取り残さないワークショップにできて良かったです。 

白井:今回は「運や勘に頼らない」ということはかなり意識的に教えました。ジェネレイティブAI(生成AI)ではなくクリエイティブAIという言い方をしていて、つくり手が意図した通りにディレクションできないと、永遠に終わらない作業になってしまうんですよね。

そのために、今回重視したのが、いわゆる「Image to Image」という手法です。一般的な画像生成では、「男性と女性がビールで乾杯しています」などという言葉を入力する「Text to Image」が用いられます。これを1次元レベルとすると、画像で指示を出して画像を出力する「Image to Image」は2次元レベルで、レイアウトや人物のポーズ、服の色、手の指などをより精密に指示できます。

斧:もともと、プロトタイピングの手段として、プロンプト(テキストによる指示)で画像を生成していた人は多かったんです。それが今回、「画像から画像をつくる」「細かい部分を修正して思い通りの絵をつくる」といったことに挑戦できたので、大変好評でした。ツールは有償なので、参加のハードルが高いかなと思ったのですが、皆さん前のめりで、「この料金を払うだけでこんなに面白いことができるのか!」という反応が大半でしたね。

白井:今回は動画生成までは教えられませんでしたが、動画広告のプロトタイピングはニーズがあるところだと思います。例えば同じシーンで、人物だけ入れ替えたり、服装だけ変えたりといったことも可能になるでしょう。もし次回ワークショップをやるなら、このあたりもやっていきたいですね。

「つくる人をつくる」を新たなミッションにした理由

斧:白井先生は、アメリカでAICU Inc.を起業し、「つくる人をつくる」というモットーを掲げておられます。今回のワークショップもその一環かと思いますが、このコンセプトはどのように生まれたのでしょうか。

白井:私はもともとゲームエンジンを開発したり、グラフィックスについての研究開発をしていて、その後、VRやメタバースを中心に研究するようになりました。だけど、自分が楽しいものをたくさんつくっても世の中はそんなに変わらないという行き詰まり感を覚え、大学の先生になったんです。

このとき、「自分が面白いと思ったものをつくろう」から、「『自分が面白いと思ったものをつくる人』をつくろう」という、いわばメタな発想に可能性を感じまして、そこから10年、この活動を続けています。

デジタルハリウッド大学大学院ではクリエイティブAIラボというラボを運営していますが、そこのメンバーも皆「つくる人をつくる」魂を持っており、技術書を1人1冊書いています。

斧:電通のクリエイターも「つくる人」ですが、まさに最先端クリエイティブの技術的なことからマインドまで、インストールしていただいたわけですね。

白井:そうなんです。ただ、広告はまさにクリエイティブの代表的な場ですが、クリエイティブってもっと広くて、全ての人がクリエイターなんですよ。今までだとConsumer(消費者)と呼ばれていた人が、Creator(創造者)になる時代だなと。

例えば、街のプログラミング教室や絵画教室、シニア向け、あるいは神奈川県をクライアントにした障がい者向けクリエイティブワークショップ「ともいきメタバース」などでも僕らは活動しています。いずれは、「うちのおじいさん、最近一生懸命何かやってると思ったら、コンピュータで絵をつくっているんだね」「おかげで毎日生き生きしているみたいだね」というふうに、生成AIでものをつくる一人一人によって、生成AIへの見方もよりポジティブになっていくと思うんですよ。

でも、そこには「人間がものをつくる楽しさ」がないと、本来は人間のための道具であるはずのAIによって、人間は非常につまらない人生を送ることになってしまいますよね。だから僕は必ず、生成AIだけでは生み出せない付加価値を生み出す「つくる人」をつくっています。

僕の活動で「つくる人」が増えれば、例えばその人たちがChatGPTの有料サービスに月々3000円払ったとしても、3000円以上の価値が生まれるサービスがどんどんできます。ものをつくるのってすごく楽しいし、脳が刺激されますから、日本人が皆クリエイティブの才能を発揮できるようになれば、1億人で10億人分の価値を生むこともできると考えています。

斧:なるほど、「つくる人をつくる」の意味がよく分かりました!また、「クリエイターから見たときの、生成AIというものの捉え方」のお話も重要だったと思います。

白井:そう、生成AIについては、技術的にこんなすごいことができますというだけでなく、普及のためにはさまざまな課題がありますよね。そういう意味で、電通の生成AIに取り組む姿勢が非常に良いなと感じました。

斧:ありがとうございます!電通では、生成AI利用に当たっては、専門のガバナンス組織があり、法的な観点からも倫理的な観点からも非常に丁寧にセーフティネットを準備して取り組んでいます。

生成AIは広告クリエイティブに何をもたらすのか?

白井:斧さんは、広告クリエイティブという観点で、今回のワークショップがどういう意味を持つと考えていますか?

斧:従来のプロトタイピングは、1人のアートディレクターを中心に、フォトショップを使って既存のフリー素材を組み合わせたりしていました。そこに生成AIを活用することで、表情をちょっと変えてみる、被写体の人物の立ち位置を変えてみる、そういった検証みたいなものが、アートディレクターじゃなくても、どの職種でもできるようになるのはポイントかと思います。

また、これまではクリエイターが頭の中で想像したものを、皆でカンプとしてアウトプットするという流れでしたが、今後は生成AIを使って何十、何百パターンのアイデアを出力して検証し、その中から「これは面白いから、こう調整しよう」と、確かめながらディレクションができるようになっていくので、これも面白いなと。早い段階からトライアンドエラーを繰り返し、より良いアウトプットに近づけていくつくり方ですね。

白井:生成AIは同一条件で大量のバリエーションを出力するのが得意で、ボタン一つで100でも200でも出力してくれるんですね。従来のクリエイティブに例えると、写真をたくさん撮っておいて、その中から選ぶという制作方法に似ています。非常に広告クリエイティブには向いている使い方だと思います。

斧:一方で、電通がずっと培ってきたコミュニケーションの力や、人の心ってどういう瞬間に動くんだっけ、という部分がAIに代替されることはないと思っていて。人間の「選ぶ力」「ディレクションする力」は、生成AI時代でより加速していくのではないかと考えています。

白井:同感です。よくある誤解なんですが、「生成AIによって労力が下がるから、広告が安くなる」みたいな話ははっきり言うと、間違っているんですね。僕の本の中でも明言しています。たくさんのアウトプットの中から最高のものを選び、さらに修正を重ねるという作業は、何より人の情熱と知見がないとできません。生成AIは、あくまでも短時間でたくさんの案を出すことで、最終的なアウトプットのクオリティを高めたいから使っているんです。

それこそ、もともと漫画を描いていた人や、イラストを描いていた人の方が、生成AIに早く習熟できるし、より良く活用できるでしょうね。

斧:「生成AIをどう捉えて向き合うべきか」というお話も、丁寧にしていただきましたね。

白井:生成AIのリスクについては、アリかナシかのゼロイチではなくて、法務なり事業的な判断をして、解決してくださいというお話をさせていただきました。ちょっと整理すると、法律、商慣習、何よりお客さんたちの感情、それらを混ぜて考えず、ちゃんと整理して、分析する必要があるんですね。つくり手側が「いいねいいね」でつくっちゃうのではなく、不安や懸念に対してリスペクトの姿勢を持たなければなりません。

そして生成AIのクリエイティブにおいて、運や勘に頼らないという話をしました。いわゆる「ガチャを回す」のを繰り返しているだけでは永遠に終わりませんし、クリエイティブとも言えません。生成した画像からパラメータを出して調整したり、実験や仮説を繰り返すための手法も解説させてもらいました。 

斧:そうですね、電通のクリエイターはテクノロジーへの興味が強く、僕のところにも、とにかく楽しかった、面白かった、もっと知りたいという反響はたくさん届いています。

白井:皆さんすごく楽しんでいらっしゃいましたよね。生成AIを単なる「安くて楽になるもの」と捉えていたら、「できる」と分かった瞬間に、「適当な絵が出りゃ終わりでしょ」と興味をなくすと思うんですよ。でも、電通の皆さんはそこからがぜん目の色が変わって、「自分の表現に使いたい」「もっと面白いものをつくるために使いこなしたい」という姿勢でした。

最終日のハッカソンで私が表彰した作品に、ギターを弾いている絵があります。ギターを弾くなんていうのは画像生成の中でも高難度なんですが、それをなんとかしようとジタバタしている姿を見て、「ああ、これはつくる人だ」と、僕は感動していました。「つくる人をつくる検定」でいえば、「上級つくる人認定」をあげたいです(笑)。

クリエイターや権利者が幸せになる仕組みづくりを

斧:電通に限らず、社会が生成AIを実装していくに当たってのポイントはどこにありますか?

白井:世界中から生成AIのサービスが大量に出てきていますが、それが大きなビジネスにつながっていくのかというと、まだそうではありません。でも、生成AIをただテクノロジーとして消費するのではなく、例えば知的財産権とひもづけていくなど、1個1個積み重ねていくことだと思います。

斧:知財の保護と生成AIの組み合わせには、良い可能性がありそうですね。

白井:生成AIの話は難しいと思われがちなんですが、本当は子どもでも理解できるように説明できないといけないと思うんですよね。例えば「この人気キャラクターの絵を生成できますか?」みたいな話でいうと、技術的には出せます。だけど、それによって迷惑を被る人はいませんか?責任を持つのは誰ですか?という話を常にセットでやっています。

AICU Inc.で今取り組んでいるのが、まさにそういう仕組みづくりです。例えば子どもたちが好きなキャラクターの画像を生成できて、1回100円だとして、半分の50円は権利者に還元されます、といったことができるようになるべきだと思います。クリエイターにちゃんと利益が入り、誰もが納得できる仕組みがつくれるかもしれません。

逆に、なんのリスペクトもなく奪い取っていくだけの海賊的・山賊的行為は、当然間違っています。例えばキャラクターを公序良俗に反する動画に使うとか、政治主張に使うとか、犯罪行為に使うというような、「やってはいけないこと・やってほしくないこと」を権利者が制御できるのが、正しい技術の使い方だと思います。

斧:同感です。慎重に、ちゃんとポジティブな形をつくっていきたいです。生成AIにはまだまだ未整備な領域や、課題も多くあり、手放しで推進するのではなく、何かを実施する際には一つ一つ丁寧に検討し、向き合っていく必要があります。そこで、電通では、法務や倫理の観点から、社内のAI関連の相談ができる窓口を用意し、生成AIのガイドラインも配布しています。こうした取り組みについてはどのようにお考えでしょうか。

白井:すごく良いことだと思いました。 AICU Inc.では世界のいろんな会社のコンサルティングをしていますが、ありがちなのが、経営陣やトップクリエイターなど、ゼロイチのことをやる人たちばかりがどんどん新しいテクノロジーに入り込んでしまい、他の大半の社員が置き去りになってしまうケースです。

まずはトップの人たちのやっていることをみんなにシェアし、会社のガバナンスや進む方向を示した上で、手を動かして学ぶための環境もつくる必要があります。その点、電通は単に流行している新しい技術を取り入れようというレベルではなく、組織レベルで生成AIへの理解度が高いと感じました。

斧:ありがとうございます!特に、クリエイターたちの権利を侵害しないかを、しっかり確認する姿勢が大事だと思っています。電通が生成AI専門のガバナンス組織を持って、慎重に取り組んでいることは、広く知られてほしいです。

白井:電通では法務やコンプライアンスを大事にしながら、なおかつ生成AIという技術に前向きに取り組んでいますよね。それに、生成AIへの不安な感情に耳を傾ける姿勢があること。僕もワークショップ内で「リスペクト」という言葉を使って説明しましたが、「テクノロジー的にできるんだから、やっちゃえばいいじゃん」ではなく、反対意見も大事な意見だと聞きながらやっていくことが重要です。その点、電通のクリエイティブの方々は、皆さん美大で学んだ方だったり、人間が手を動かすことの価値や意味を分かっているので、そういった人たちのリスペクトによって成立する話なんじゃないかなと思います。

実は、こういうワークショップの発展型として、いつか「画像生成AIのプロ向け検定試験」みたいなものをつくりたいんですよ。実務者検定レベルで、技術やコンプライアンスなどを保証するライセンス制度です。これができれば、免許を持った人たちが正しい仕事をして、逆に海賊的なことをやっている人たちは「無免許で商売をしている」と可視化されます。

斧:そうなれば、企業もより安心して生成AIに取り組めるようになりますね。それとやはり、生成AIがどれだけ進化しても、それで楽ができるというわけではなく、人間の持つクリエイティビティや、心の動かし方みたいなものがまずあって、それをもっと生かすために生成AIがあるんだと改めて感じました。本日は本当にありがとうございました!

※白井氏のご意見は、電通の公式見解ではありません。


Generative AI School概要

・DAY1「電通におけるAI活用について/活用事例の共有」
電通におけるAIストラテジー、AIガバナンス、リスク事例の共有を目的とした勉強会を実施。本格的に生成AIを触る前に、スクール参加者のAIリテラシーを高めた。
 
・DAY2「生成AI基礎 テキストを用いた生成AIの基礎」
プロンプトの正しい書き方やネガティブプロンプトの活用など、画像生成AIの基礎を習得した。
 
・DAY3「生成AI上級 意図通りの絵をつくる」
「画像から画像を作り出す」「姿勢や表情を制御する」といった技術を学び、トンマナの制御、ブランドや商品・サービスなどに抱く印象、雰囲気、感情を、顔の表情や指の演技に至るまで調整する手法を実習した。
 
・DAY4「生成AI実践 ハッカソン」
オンラインハッカソンとして、2時間という限られた時間での総合演習を実施。機能の復習をしつつ、モデル選択、同一衣装、同一人物、別シチュエーションといった要素をコントロールし、生成したいキービジュアルを完成させていった。

 

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