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電通×クリエイティブ×テクノロジー。dentsu prototyping hubの挑戦!No.6

生成AI時代の電通。最重要スキルは「心を動かす力」

2024/06/26

「dentsu prototyping hub」は、電通のクリエーティブ・テクノロジストたちが主催するワークショップです。

これまでTouchDesigner、Blender、UnrealEngineと、さまざまなデジタルクリエイティブツールの勉強会を実施してきましたが、第5回目のテーマとしてついに「生成AI」を取り上げます。

デジタルハリウッド大学大学院/AICU Inc.の白井暁彦先生を講師に招き、画像生成の基礎から応用に挑戦するという、全4回のワークショップです。

が、ワークショップに先立ち、電通グループのAI関連事業を統括する児玉拓也氏から「電通は生成AIとどう向き合うのか?」について、スクール初日に講義をしていただきました。今回は導入として、児玉氏のスピーチをダイジェストでお届けします。
(dentsu prototyping hub 斧 涼之介)

※本記事は、dentsu prototyping hub「Generative AI School」DAY1において、児玉拓也が参加者向けに行ったスピーチを元に編集したものです。

<目次>
生成AIと関わらない世界線はもはや「ない」

すでに電通は生成AI活用の最先端を走っている

「人の心を動かす」ヒューマンスキルはますます重要に

むしろ生成AIを武器に、新しいクリエイティブに挑戦しよう

生成AIと関わらない世界線はもはや「ない」

私が電通でAIのR&Dを始めて、7年ぐらいになります。その中で見えてきた現在地や、一人一人がどんな気持ちで生成AIを使っていけばいいのかといったこともお話できればと思います。

電通グループの生成AIの取り組みについて紹介したいのですが、まずは、生成AIの登場がわれわれにどういうインパクトを与えているかについて整理しましょう。一言で言えば、生成AIの登場は、マーケティング領域におけるプレーヤー勢力図を激変させつつあります。

国内外のエージェンシーはもちろん、コンサルティング会社もテクノロジーに投資し、マーケティング領域に入ってきています。そしてさまざまなテクノロジーを持ったスタートアップ、さらにはビッグテックも、もっというとクライアント企業も、生成AIのようなテクノロジーを用いた積極的な取り組みを始めています。

今挙げたプレーヤーの多くは、もう本気で生成AIに取り組み始めています。例えば、マイクロソフトがバナー広告生成ツールを提供したり、さらにはパッケージデザインや広告デザインのツールも増えてきていて、Adobe Fireflyでいろんなクリエイティブもつくれてしまう。広告会社を入れずに、バーチャルヒューマンを広告に起用したりするケースも急増しています。

こうなると、そもそも広告やマーケティングを外注する必要がないと考える企業も出てきます。生成AIの発展は、従来は外注していたマーケティング活動を内製化する良いタイミングになっています。これは未来の話ではなく、今、実際に起きていることです。

こうした状況の中で、私たち広告会社は、どう生成AIに向き合うのか?という話なんです。

いまや、「生成AIを使って競争力をつけよう」とか、「生成AIで新しいサービスをつくって収益を生もう」とか、そんな生やさしいレベルではないということです。生成AIの時代に適合し、進化していかない企業は、生き残っていけないところまで来ています。

「生成AIと関わらない」という世界線は、もう消えてしまったと思ってください。

すでに電通グループは生成AI活用の最先端を走っている

では、電通グループは出遅れているのかというと、全くそんなことはありません。電通グループのAI活用は歴史が長く、例えば2016年にリリースした電通のAIコピーライターは何度もバージョンアップを重ね、進化しています。

関連記事:
AIコピーライター、AICOだよ。

 

電通グループのAI活用の歴史

ここでは、電通グループで生成AIに取り組むチームやグループ内組織、現在持っているソリューションをご紹介します。

電通と電通デジタルでは東京大学AIセンターとも共同研究を進めており、「Creative Intelligence」というプロジェクトを推進しています。電通デジタル内に国際的なAIコンペティションで金メダルを受賞した社員がいるなど、AI人材が豊富に所属しています。

また、多数のAIエンジニアが在籍するDENTSU DATA ARTIST MONGOLは、AIに特化した開発組織です。電通総研にはAIトランスフォーメーションセンター(AITC)という、AI製品開発から人材育成までを請け負う全社横断組織があります。セプテーニグループやイグニション・ポイントにもAIのチームやプロジェクトがあり、クライアント案件を手掛けています。

そしてDentsu Lab Tokyo、Think & Craftなど既存のクリエイティブチームでも、生成AIをはじめとするあらゆる先端テクノロジーを積極的に活用し、いくつものクライアント案件でソリューションを実現しています。

電通グループ内だけでもこうした多くのチームがあり、また、外部技術のキャッチアップのために生成AIに特化した定例会を毎週実施しています。単にトレンド情報を共有するだけではなく、DENTSU DATA ARTIST MONGOLなど各国のチームと連携しながら、実際に新しいテクノロジーをハンズオンでリサーチしています。

そして、電通グループはMicrosoftやGoogle、AWSなどの、世界的なプラットフォーマー各社とグローバルで連携しています。先端テクノロジーに、電通の強みである「課題把握力」や「実装力」を融合させることで、独自のソリューションを提供したり、クライアントの課題にあわせてAI活用を進めています。会社としての標準ツールも、自社開発するのではなく、Microsoft Copilotを全社員の標準環境としています。

実際に電通グループが提供しているソリューション、サービスをいくつか見てみましょう。

■∞AI シリーズ

現在、電通グループのAIソリューションでもっとも知られているのは、電通デジタルの∞AI(ムゲンエーアイ)シリーズです。3つのソリューションについて紹介します。

①∞AI Ads(ムゲンエーアイ アズ)

2022年末にリリースし、これまでに数多くのご利用をいただいているのが、生成AIを活用したデジタル広告のワントップソリューション「∞AI Ads」です。

「訴求軸発見AI」「自動CR生成AI」「効果予測AI」「改善サジェストAI」という4つのAIにより、デジタル広告のクリエイティブを常に改善していき、その効果を最大化するというものです。

∞ AI Ads

関連記事:
4つのAIが、デジタル広告のクリエイティブを無限に改善し続ける!

※上記の記事で紹介している「∞AI」は、現在の「∞AI Ads」に該当します。

②「∞AI Chat」(ムゲンエーアイ チャット)

「∞AI Chat」では、チャットボットの「目的」や「しゃべり方」などを日本語で指示するだけで、誰でも簡単にチャットボットをつくることができます。このチャットボットを、製品のウェブサイトやLINEなど、各種UIに接続できます。

∞AI Chat
そしてPDF、CSV(Excelなど)、PPTX(PowerPointなど)といった形式のファイルを読み込ませることで、そのファイル内の内容に基づいてしゃべらせることができます。例えばクライアントの商品カタログを読み込ませることで、「このカタログについてのQ&Aに答えてください」みたいなこともできてしまいます。

③「∞AI Contents」(ムゲンエーアイ コンテンツ)

ユーザーエンゲージメントを高めるコンテンツを、AIを活用して提供します。その一つが、次世代AIオウンドメディア「Owned Human」というソリューションです。バーチャルヒューマンやキャラクターによる、顧客とのリアルタイムでの音声対話を通し、次世代のオウンドメディアを実現します。

 
 
※「∞AI」シリーズでは、この他に営業担当者向けソリューション「∞AI Chat for Sales」(ムゲンエーアイ チャット for セールス)も新たに展開しています。詳しくは∞AI(ムゲンエーアイ)ページをご覧ください。

 


事業開発領域にも、AIソリューションがあります。

■「AIQQQ STUDIO(アイキュースタジオ)」

ニュースリリース


AI×クリエイティブで新事業を開発する、コンサル型のソリューションです。電通のビジネストランスフォーメーション・クリエーティブ・センターが主幹となってつくっているものです。

例えばAIにペルソナになってもらって、新しい事業の重要性についてインタビューしたりすることも可能です。ポイントは、人間のデザイナーもがっつりコミットすることです。これは電通のAI関連ソリューション全般に言えることですが、人間だけでもAIだけでもできないような、素早いプロトタイピングができます。

ここで挙げたものは一部であり、他にも電通のグループ会社による生成AI関連のソリューションはたくさんあります。もちろん、クライアント事例もたくさんあります。主に画像生成AIを用いた広告クリエイティブを、クライアントと共にいち早く世に出しています。

広告だけでなく、ゴルフ場や練習場の検索サービスに、「∞AI Chat」で開発したチャットボットを乗せ、コンシェルジュ的にユーザーと対話を行うといった事例もあります。

以上、長々とお話ししましたが、言いたいことは一つで、「電通グループってけっこう頑張ってるから、これからも頑張ろうぜ」という話ですね。

「人の心を動かす」ヒューマンスキルはますます重要に

次に、生成AI時代にわれわれはどう変わるべきか?というお話をします。

これからはビジネスに生成AIを使うということが、どんどん当たり前になっていきます。つまり、ただ単に既存のAIサービスを使ってるだけだと、言ってしまえば誰でも同じことができてしまうわけです。

そこで大事なことは、「生成AIを自分なりにカスタマイズして、それを使い倒していく」ということだと思います。

いわば自分専用の「使い魔」のようなAIアシスタントやAIエージェントを、自分で育てて使いこなすということです。すでにMyGPT(GPT Builder※)を使っている方もいらっしゃるでしょう。

※MyGPT=OpenAI社が提供するサービス。ユーザー個々人が自分だけのChatGPTをカスタマイズしてつくれる。旧名は「ChatGPTs」。

 

クリエイティブのワークフローでいうと、自分が育てた分身のようなAIアシスタントに、的確な指示を出し、大量に出力させて、その中から一番良いものを選んでいくということになるでしょう。まさにクリエイティブディレクションですね。言ってみれば、「1億総クリエイティブディレクター時代」になっていくということです。

そんな時代に、人間が持つべき重要なスキルは何でしょうか?上手にプロンプトを書くとか、生成AIを理解して最先端の技術を使いこなすとか、それも大事なのですが、それ以上に「何が人の心を動かすのか」という、よりヒューマンなスキルが重要になってくるはずです。

生成AIは大量かつ高速なアウトプットが得意です。「海辺の街を走っている車の画像」を、短時間で200枚でも300枚でも出力できます。でも、その200枚の中から「どれが一番クルマ好きに刺さるか」という判断をできるのは、やはり人間なんです。

AIをディレクションするのに重要なスキル

データ化されていない直感、経験、空気感、未来予測など、「非合理的な感覚」を持っていることが、これからは相対的にすごく重要になってくると思います。AIをカスタマイズしたり、使い分けたり「うまく生成させる」。その生成物をうまく使って、人間が「よりよいアウトプットを生む」。人間と生成AIがそれぞれ高め合うというビジョンですね。

人間と生成AIがそれぞれ高め合う

先日、THE GUILDの深津貴之さんと対談した際に、印象的だった言葉があります。それは「これからは、行動力が大切になる」ということです。

これまでは、イラスト、漫画、動画、小説、プログラミングなど、スキルのある人じゃないとアウトプットをつくれませんでした。でも、何かをつくることのハードルは、生成AIによって下がっていきます。CMのコンテだって、本当に簡単につくれるようになります。

「つくる」ことのハードルが低くなった時代には、「行動する人間」だけが抜きん出ることができます。その傾向がますます加速していくということですね。

それをつくりたいと強く思うこと、なおかつ最後までやりきること、ここが人間、特にクリエイターにとって重要になっていきます。

これまでは、あるドメインに詳しい人がスキルを身につけるよりも、スキルがある人がドメインに詳しくなる方が、まだコストがかかりませんでした。スキルのある人だけが、自分が好きなものも、そうじゃないものも、全部つくっていたんです。つまりスキルの価値が一番大きかったんですね。

でも、生成AIが登場したことで、高度なスキルなしにアウトプットを生成できるようになりました。そうなると、AIに大量にアウトプットさせた中から「選ぶ」という行為は、そのドメインが好きな人がやった方が良いものになります。クルマが好きな人がクルマの広告をつくり、アニメに詳しい人がアニメの広告をつくるという時代になるかもしれません。

生成AI時代においては、AIが持っていない「好き」ということに価値がある。そう考えると、生成AIが進化しても人間がいらなくなるどころか、むしろ人の心を動かすという、100年以上の歴史の中で培ってきた電通クリエイティブの強みはますます大事になってきます。人間とAIが共に高め合うという考え方を、ぜひしていただきたいと思います。

むしろ生成AIを武器に、新しいクリエイティブに挑戦しよう

最後に、生成AIを使う上でのリスクやガバナンスについて、基本的な考え方だけになりますが、お伝えします。

よく言われることが、「生成AIを使うのはリスキーではないか」という声です。最初に述べた通り、もはや生成AIと関わらない世界線はありません。もちろんリスクはありますし、どこまで行ってもリスクがゼロになることはあり得ません。

「リスクがあるのは当たり前だ」という前提の上で、ケースごとに慎重に、丁寧に、セーフティネットを何重にも張って向き合っていく必要があるということです。これまでの電通の生成AIへの取り組みも、全てそうやって実現しているのです。

例えば「著作権侵害のおそれがあるのではないか」といった懸念。それはAIじゃなくて人間がつくっても同じことです。生成AIだからルールが変わるわけではありません。「AIだからダメ」だったり、逆に「何をやってもいい」ということにはならないんです。

法律や、ツールの規約をすべて守り、権利問題をクリアにするという、いわば当たり前のことを、生成AIでも順守する。そしてもちろん「法的にクリアだから何をやってもいい」ということもありません。倫理に反することは、合法であってもやるべきではありません。これも、生成AIじゃなくても同じことですね。

法律を守り、倫理を守り、クライアント含め関係企業同士で事前にしっかり話し合い、「こういうリスクがある」と合意をした上で、新しい挑戦をしていく必要があります。Dentsu Japanでは、生成AI活用に関する包括的なガイドラインを運用していますし、専用の相談窓口も設置しています。

繰り返しになりますが、電通グループはすでに生成AI活用の最先端にいます。これまでに豊富な経験が蓄積されており、生成AI使用におけるリスクヘッジや、セーフティネットもしっかり整えられています。

生成AIは、クリエイターにとって脅威ではありません。人の心に向き合ってきた電通のクリエイティビティは、生成AI時代にこそ必要となるスキルです。ぜひ、これからも挑戦を続けていきましょう。

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