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事業グロース実践ウェビナー2022 by電通 People Driven MarketingNo.2

4つのAIが、デジタル広告のクリエイティブを無限に改善し続ける!

2023/07/20

電通の「事業グロース実践ウェビナー」では、日々進化するビジネスの最新の知見を発信しています。本連載では、事業グロース実践ウェビナー2022 by 電通People Driven Marketingから、注目のセッションをピックアップ!登壇者に改めてお話を伺います。

今回のテーマは、デジタル広告におけるAI活用について。従来のAI活用は、広告効果予測に重点が置かれていました。しかし、これからは
①「訴求軸発見」
②「クリエイティブ(CR)生成」
③「効果予測」
④「改善サジェスト」
という、いわば「すべての制作プロセス」にAIの力を使う時代です。

∞ AI
デジタル広告のすべての制作プロセスをAIで最適化する「∞AI(ムゲンエーアイ)」

今回はデジタル広告のクリエイティブ領域に長年携わってきた、電通デジタルの和田純一氏と、AIを活用したマーケティングソリューションを数多く手掛けてきた山本覚氏のお2人に、クリエイティブ×AIの現在地と、電通デジタルのソリューション「∞AI(ムゲンエーアイ)」について伺いました。

和田氏 山本氏
<目次>
質、量、スピード。デジタルクリエイティブでのAI活用はもはや不可欠に!

ターゲットを深く知る。「訴求軸発見AI」と「クリエイティブ生成AI」

改善対象を自動検知し、改善案を出力する!「効果予測AI」「改善サジェストAI」

生成AIと広告クリエイティブの関係は始まったばかり!



 

質、量、スピード。デジタルクリエイティブでのAI活用はもはや不可欠に!

──電通グループの「∞AI」とはどんなものでしょうか?

山本:「∞AI」は、デジタル広告の運用における4つのプロセスに対応した4つのAIを活用し、広告の訴求軸を見定め、クリエイティブを自動で生成し、さらにその効果予測と、効果改善までをサポートするソリューションです。

和田:デジタル広告では、適切な訴求軸を発見し、プラットフォームごとの特徴を踏まえたクリエイティブを用意し、さらに配信結果を見て改善していくことが不可欠ですが、これらを人の力だけでやるのは限界があります。

AIの力を借りて、企業のデジタルマーケティングを「無限」にグロースさせたいという思いから「∞AI」と名付けています。電通グループではこれまでもさまざまなAIソリューションを開発してきましたが、その総力を結集したソリューションです。

ウェブ電通報AI関連記事:
https://dentsu-ho.com/keywords/AI


──ありがとうございます。4つのAIについては後ほど詳しく伺いますが、前段として、現在のデジタル広告におけるAI活用についてお聞かせください。

和田:今、全ての広告費の中でもっとも主流である「運用型広告」は、検索エンジンやソーシャルメディアといったプラットフォーム(媒体)上での1インプレッションを得るために、オークションに勝つ必要があります。そこでの広告運用は、ユーザーの反応を見ながら「入札」「ターゲット」「クリエイティブ」という3つの運用レバーが重要でした。

従来との比較図

このうち「入札」と「ターゲット」は、プラットフォーム側で自動化(AI化)が進み、競合他社との差別化が難しくなってきたため、「クリエイティブ」という運用レバーが重要性を増しています。

参考記事:「2022年インターネット広告媒体費」解説。記録を更新する3兆912億円の内訳は?
 

──運用型広告におけるクリエイティブの効果改善で、ポイントとなるのはどんな要素でしょうか。

和田:ユーザーの反応を見ながらPDCAを回していくことになりますが、そこでは「質」「量」「スピード」が重要になります。それぞれ見ていきましょう。

①クリエイティブの質……適切な訴求軸を発見する

少し前の運用型広告では、ターゲットを分類する「広告グループ(アドグループ)」をかなり細かく分類していました。しかし、プラットフォーム側のAI化が進んだ現在は、ターゲットをニーズごとに大きく捉え、プラットフォームの最適化を最大限に生かす考え方になっています。そのためには、ターゲットのニーズに刺さる適切な「訴求軸」の開発が重要です。

②クリエイティブの量……媒体ごとに、またターゲットごとにクリエイティブを用意する

次にクリエイティブの「量」です。ソーシャルメディア、検索エンジン、ECモールなど、デジタル広告を出稿できるプラットフォームは増え続けており、それぞれの媒体の特性を生かしたクリエイティブを用意する必要があります。さらに、先ほどの訴求軸によってもクリエイティブをつくり分ける必要があるので、媒体×訴求軸の数だけクリエイティブを制作するとなると、かなりの量になります。

③クリエイティブのスピード……数字を見てすぐに改善するPDCAサイクル

高速PDCA

最後にクリエイティブの「スピード」です。リアルタイムに数字が出る運用型広告では、数字を見てすぐに改善していくスピードが重要です。制作、入稿、配信レポート、改善というサイクルを早めるほどに、広告効果が最適化されます。

これらを1人のクリエイター、1人の運用者で効果改善し続けるには限界があるため、AIの出番となるのです。

──効果改善のために、AIはどのように活用されているのでしょうか?

和田:これまでの広告の世界では、AI活用はほとんど「効果予測」にフォーカスしていました。今回の「∞AI」は、クリエイティブ制作全体のプロセスに着目しているのが特徴です。訴求軸の発見から、クリエイティブの生成、どこを重点的に改善するかの具体的なサジェストまで、一つのソリューションの中で一貫して行うことができます。

山本:「∞AI」の開発に当たっては、世界的AIコンペで金メダルを獲得した電通デジタルのAIスペシャリストが監修しています。電通グループでは、東京大学AIセンター(次世代知能科学研究センター)との共同研究も行っており、非常に強力なチームで開発しています。

ムゲンエーアイの図
 

ターゲットを深く知る。「訴求軸発見AI」と「クリエイティブ生成AI」

──∞AIは4つのAIから構成されています。それぞれどんなことができるのか教えてください。

山本:開発を担当した私から紹介します。まず、「訴求軸発見AI」と「クリエイティブ生成AI」です。

①「訴求軸発見AI」……訴求軸ごとに、「表現の切り口」を自動検出

「∞AI」では、クリエイティブを生成したい商品名やURLを入力するだけで、「市場データ」「競合データ」「自社データ」といった多様なデータソースから、広告生成に必要な情報をAIが自動で収集・整理してくれます。

そして「機能」「価格」「ライフスタイル」といった訴求軸に合わせて、ユーザーの琴線にふれるような「表現の切り口」となるキーワードが自動でマッピングされます。さらに気に入ったキーワードをAIに学習させることで、どんどんクリエイターの知見を反映し、システム自体が進化していきます。

──具体的に、AIはどのように訴求軸を「発見」してくれるのでしょうか?

山本:さまざまなテキストの中からAIがキーワードを自動抽出し、それらのキーワードを「訴求軸」に割り振ってくれるという仕組みです。ここでは仮に「DDダイエット」という、架空のダイエットのサービスを例に取ります。まず以下のような文章を用意します。

“「DDダイエット」は、専門医の指導のもと、お客様に寄り添ったカスタムプランをご用意しています。分割払いが可能、今なら初回無料キャンペーン中なので、まずはお気軽にお声がけください”

この文章に対して、AIが「専門医の指導」「カスタムプラン」「分割払い」「初回無料」といった訴求キーワードを抽出し、自動で「訴求軸」に割り振っていきます。

訴求ワードから訴求軸
「専門医の指導」であれば、訴求軸は「信頼」に割り振られる。「分割払い」であれば訴求軸は「価格」に割り振られる。このキーワードの抽出と割り振りは、いずれも90%を超える精度をマークしている。

②「クリエイティブ生成AI」……キャッチコピー案の自動生成

キャッチコピーを瞬時に自動生成
「訴求軸発見AI」で自動抽出した訴求ワードを元に、キャッチコピーを瞬時に自動生成。1パターンだけでなく、バリエーションも瞬時に量産できる。

──2つ目のAIは「クリエイティブ生成AI」ですね。

山本:「訴求軸発見AI」で抽出した「分割払い」などの訴求キーワードをもとに、サブ情報として業種などを入力することで、自動でキャッチコピーを生成します。

自然言語処理により、商品名と訴求キーワードを使った非常に滑らかなコピーを自動生成できます。裏側でAIに与えている指示は、例えば以下のようなものです。

【指示】
「DDカード」という商品について、「お金が急に必要」と考えている人向けにキャッチコピーを書いてください。

【AIが生成したコピー】
「お金が急に必要になったらDDカード。最短1時間で現金をお届けします」

※「DDカード」は架空のカードです。


ここでは「お金が急に必要と考えているユーザー」を対象にしたので、「最短1時間」という訴求キーワードが使われましたが、例えば「医療費について考えているユーザー」や「旅行費用について考えているユーザー」などに向けたコピーでは、別の適切な訴求キーワードが選ばれます。

──生成されるコピーの方向性には、人間はどのくらい関与できるのでしょうか?

山本:「もっとフォーマルに」「もっとカジュアルに」といった“書き味”の指示を出せます。また、元のデータベースにあたって情報を確認する「正誤判定」の機能も入れています。

──自然言語処理については、OpenAIの「ChatGPT」などが大きな話題を呼んでいますね。

山本:「∞AI」のリリース当初は、OpenAIによるGPT-3という言語モデルを用いていました。現在は最新版のGPT-4を試験導入し、さらなる精度と柔軟性の向上が実現しつつあります。

少し前までは、広告コピー生成AIを作るといった場合、学習するのに20万件というデータが必要でした。今のAIは、学習データが小規模なものであっても、そのデータから「コツ」をつかめるレベルにあります。GPT-3以降は、数百件のコピーを学習させるだけで、十分実用的なクリエイティブのノウハウを獲得できます。そして「∞AI」には、電通グループの長年にわたる洗練されたノウハウを学習させています。

関連記事:
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改善対象を自動検知し、改善案を出力する!「効果予測AI」「改善サジェストAI」

──次に、「効果予測AI」と「改善サジェストAI」について伺います。デジタル広告では、数字として見える広告効果が大事ですよね。

山本:もともとAIが得意だった領域ですね。効果予測AIは、各種プラットフォームの出稿データを日々学習しており、「こういうクリエイティブ要素を持ったバナーは、こういうKPIに良い効果がある」という判断を、過去データに基づいて行うことができます。

③「効果予測AI」……クリエイティブの広告効果を予測する

CRとKPIの関係を学習

「効果予測AI」は、まずそのバナーをいくつもの「クリエイティブの要素」に分解します。例えば、そのバナーにはロゴが入っているのか?製品画像はあるのか?ランディングページ(LP)に誘導するボタンはあるのか?キャッチコピーの内容は?また、人物がいる場合は性別、年代、人数も「要素」になります。さらに、バナー全体の色味や、レイアウトもAIが自動で分解・抽出します。その上で、広告の効果を予測します。

運用方法としては、例えば「クリエイティブAが、クリエイティブBに勝つ確率」の予測が出力されます。この予測の精度ですが、過去の広告の実際の勝率と、AIの予測結果を比較したとき、相関係数が0.9以上という、非常に高い比例関係にありました。

──デジタル広告でいうところの、いわゆる「勝ちパターン」ですね。従来はABテストなどによって効果を測定していたかと思います。

山本:そして、クリエイティブはプラットフォームごとに最適化する必要があります。この点についても、AIが過去の出稿データに基づいて、「このプラットフォームだったら、こっちのバナーの方が良い」ということを学習していきます。また、単に勝ち負けパターンを判定するだけでなく、「インプレッションは出やすいが、クリックは出づらい」といったKPIごとの学習もしています。

──最後に、「改善サジェストAI」について教えてください。

山本:これは「効果予測AI」と完全に連携して動きます。「効果予測AI」によって、広告効果が低いクリエイティブ、広告グループ、キャンペーンを特定したら、「改善サジェストAI」で具体的な改善案を知ることができるというものです。

④「改善サジェストAI」……改善すべきクリエイティブを抽出し、具体的改善案も提示

改善発見

改善発見2
改善すべきキャンペーン、広告グループ、クリエイティブを、AIが自動抽出。プラットフォームやKPIに応じた具体的な改善案を提示してくれる。

「クリエイティブ生成AI」のときに出てきたクリエイティブの要素を分解して、その中から「改善幅が広く、改善優先度が高いもの」をピックアップしてくれます。そして効果の高い改善案を具体的に表示してくれます。例えば「背景色を明度の高い暖色にしましょう」といった提案です。

提案された要素を改善したあとは、改善したクリエイティブと元のクリエイティブを「効果予測AI」で比較し、改善効果の予測信頼度を算出します。

効果予測信頼度

──2つのAIで、「改善すべきクリエイティブ」の抽出、「改善すべきポイント」の示唆、そして「改善後の効果予測」を行えるのですね。

和田:2022年の9月に、電通デジタルでウェビナー集客用のバナーを出していたのですが、実際に「∞AI」を使って改善を実施してみました。

優先度の高い順に、

  • 「コピーの位置を下に」(改善信頼度A)
  • 「2番目に広い背景の彩度を上げる」(改善信頼度B)
  • 「人物を2人以上に」(改善信頼度C)

という提案をAIから提示され、それぞれの指示通りにクリエイティブをつくり、元のバナーと共に配信したところ、改善信頼度Aでは元のバナーを明らかに上回る効果が得られました。

バナー広告例
 

生成AIと広告クリエイティブの関係は始まったばかり!

──生成AIの進化が目覚ましいですが、先ほどお話にあったGPT-4の活用など、今後の展望を教えてください。

山本:2022年の「∞AI」のリリース時には、「訴求軸の抽出」「コピーの生成」において、自然言語処理にGPT-3というアルゴリズムを用いていました。

GPTという言葉は、OpenAIによるChat GPTや、同様のAIを搭載したMicrosoft Bingが非常に注目されていますが、Generative(生成)用の、事前学習(Pre-Trained)による、汎用言語処理AIの技術です。OpenAIから新バージョンとなるGPT-4が2023年3月に公開されており、∞AIでも試験導入しています。

GPT-4は、現時点ではまだテキストの認識・生成を行うAPI(※1)しか公開されていませんが、今後は画像、動画、音声の認識や生成が可能になると期待されています。それらのAPIを「∞AI」に導入できれば、バナーの効果予測精度が向上したり、画像生成によるバナーの自動生成といった機能も実現できる予定です。

※1=API(Application Programming Interface)
あるプログラムと、外部のアプリケーションの連携を可能にする仕組み。現在はOpenAIが公開するAPIを用いて、外部の企業や団体がGPT-4を生かしたサービスの開発を行っている。

関連連載:生成AIでマーケティングはどう変わる?


──電通グループはかなり早い段階から多くのAIソリューション開発に取り組んできましたが、優位性はどこにありますか?

和田:電通グループはコミュニケーションの会社として、長年にわたってクリエイティブを研究してきました。そのクリエイティブの知見と、AIをはじめとする最新のテクノロジーを高度にかけ合わせることで、電通グループならではのソリューションを提供できています。

電通デジタルには国際的なAIコンペティションで金メダルを受賞した社員もおり、東京大学AIセンターとも共同研究を進めるなど、常に最新のテクノロジーをキャッチアップしています。

──最後に、AIとクリエイティブの関係について、お考えをお聞かせください。

山本:私が起業したデータアーティスト(2023年に電通デジタルと合併)という会社では、「論理をシステム化し、ひらめきに集中する」という企業理念を掲げていました。AIは、いろんなものを一般化・量産化することに長けていますが、それで終わりにはなりません。

AIにできる領域をどんどん「一般化」することで、人間が人間にしかできない時間に集中できるようになる。AIが「一般化」したものの上にある、瞬間瞬間の研ぎ澄まされた「ひらめき」を、より追求していける。そういう人とAIが共存する世界を、これからも築いていければと思っています。

和田:AI時代におけるクリエイティビティとは何なのか?という問いは、電通グループでも日々考えています。∞AIのキャッチコピーは「全ての人に無限のアイデアとクリエイティビティを」というものです。もちろん「効果」や「成果」は大事ですが、クリエイティブの根本は人と人をつなぐものであり、人の感情を動かすものです。AIの力を借りて、より人の可能性を拡張していきたいですね。
 

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